おうこく!

伊達\\u3000虎浩

第1章7 猿山連合国 下

『登場人物』
 水瀬 りの
 現役高校生アイドル。不運な事故にあって死んでしまったが、神さまが半分生き返らせてくれた。
 生き返る為には、何もない荒野に国を作る事である。
 アリア
 りのの手助けをする為、神さまからいただいた妖精。
 1日3回まで、お助けアイテムをだしてくれる。


【本編】


 ゴン太のおかげで、フルーツが食べられると思っていた、りのとアリアだったのだが、さる達の様子がおかしい事に気付いた。
 草でできた腕輪を両方の腕につけられ、その両手を何故か後ろにまわされたりの。
 そんなりのに、アリアが血相を変えて駆け寄るのだが。


 アリアの言葉に耳を疑うりの。
 さる達が騒いでいる、この異常事態だけで頭が痛いのに、その上、刃物を持ったさるがこっちに来ている・・これってかなりマズい・・よね?


 りのの顔が真っ青に変わる。
「ね、ねえアリア・・これってヤバいんじゃ・・どうしよう」
 りのに聞かれてアリアも焦る。
「や、やばいってレベルじゃないぞ!どうするのだ」
 どうすると聞かれても、今のりのは両腕を後ろの方で結ばれ、さる達がりのの周りを、ぐるぐる周り続けている為、逃走ルートがない。
「ご、ゴン太!」
 唯一何とかしてくれそうなゴン太を呼ぶが、目を合わせようとしない。
「ゴン太・・あなたまさか?」
 りのは先ほどの事を思い返す。


 ゴン太が、何かさる達と会話らしきことをしていると、急にさる達が泣きだし、さるはゴン太に、フルーツの盛り合わせを持ってきた。
 考えられるのは、ゴン太が私達を・・いや、そんな事ない。


 人を疑うのは簡単な事だ。


 最も難しいのは、人を信じる事である。


 りのは首を横に振り、違う事を考える。
 大事なのは、この状況を切り抜ける事だ。
「り、りの来るぞ」
 アリアがりのの胸元に隠れる為、飛んでくる。
 落ち着いて・・落ち着いて考えるのよ!りの。


 奥の方から、刃物らしき物を持ったさるが現れた。
 心臓の音が高鳴る。
 だけど、初めてステージに立ったあの時に比べたら、こんなのは怖くはない。
 りのが初めてステージに立った時、頭の中が弾けた。
 真っ白になったとか、真っ暗になったとかそういったレベルではない。
 本当に、本当に弾けたのだ。


 全ての景色がとまって見える。


 お客さんの歓声で心が踊る。


 あぁ。


 これだから。


 アイドルはやめられない。


 あの日の事を、思い出すだけの余裕があるのだから、大丈夫。
 刃物を持ったさるが近づいた時であった。
 りのは閃く。
「ア、アリア!!羽ヘビ!!羽ヘビを出して」
 急に呼ばれたアリアはびくっっと震えたが、緊急事態なのは解っているので、りのに大きな声をだすな!と注意せず、呪文を唱える。
 アリアの呪文で、でてきたのは・・一番最初に捕まえた羽ヘビであった。


 羽ヘビといってもこのヘビはアリアの手によって、調理されている。
 アリアは小さな声でりのにたずねた。
「な、なぁ?なんで羽ヘビなんじゃ?貢ぎ物のつもりか?さすがに食わんじゃろ」
 アリアにたずねられたりのは、一呼吸置いて解説する。
「さるにとってヘビは天敵なのよ。つまりここで羽ヘビを見せたらきっと・・!?」
 羽ヘビを見たさる達は、さっきより激しく鳴きだした。


 りのの言う、さるにとってヘビは天敵というのは少し違う。
 一説には猿の先祖が昔、ヘビやマムシに痛めつけられたことがあり、その怖さを子孫に教えてきたとされており、天敵ではなく、さるはヘビが嫌いなだけである。
 ちなみに、生まれたばかりの子猿を人間が育てると、ヘビを全く怖がらず、むしろ一緒に遊ぼうとするらしい。


 しかし、ここは野生のさる達だ。
 りののこの行為は、さる達にいい印象を与えたようだ。
 自分さる達の嫌いなやつを、やっつけてくれた。
 どうやらりののことを、味方だと思ってくれたようだ。


 刃物を持ったさるは、りのの後ろに周り両手を開放してくれた。
 激しく鳴いていたさる達は、急に静かになったかと思えば、りの達の元から離れていく。
 しばらくすると、フルーツの盛り合わせを持って来てりのの前に置いた。
 どうやら、激しく鳴いたのは、これを準備しろと言っていたみたいだ。


 りのとアリアは歓喜した。
 遂に、遂に食べ物にありつけたのである。
 バナナやリンゴ、ブドウなどたくさんある果物を、アリアと一緒に泣きながら食べるりの。
 果物は女の子にとって欠かせない食べ物である。
 ビタミンを豊富に含んでいる果物は、肌にいいのだ。


 あっという間に食べ終わり、両手を合わせてごちそうさまと告げると、さる達も同じように、両手を合わせていた。
 さるは人真似が得意な生き物である。
 その事を思い出したりのは、閃いた。
「ね、ねぇアリア?このお猿さん達にお願いして、りの帝国を作れないかしら?」
 りのに質問されたアリアは、膨らんだお腹をりのの頭の上でさすりながら質問する。
「どういう意味だ?」
「私が掘っていたアレは、1人では何ヶ月かかるかわからないわ。でもお猿さん達と一緒なら早くできるんじゃないかしら?」
 りのは、人真似が得意なさる達に、芸を仕込むように、穴掘りをしこもうと考えたのだ。


 りのはさる達に向き合って、声をかけるが、問題が発生する。
 言葉が通じないということだ。
 それでも、りのは諦めず身振り手振りで説明する。


「ウキ!ウキキキ、ウキ!」


「ウキキ?」


「ウキキ!ウキ!ウキキキ、ウキ!」


「・・・。」


「ウキキ?」


「ウキキ!ウキ!ウキキキ、ウキ!」




「なぁ?恥ずかしくないのか?」


「は、恥ずかしくない訳ないじゃない!!!」


 りのは、さるのように頭をかいたり、両手をダラ〜っとブラブラさせながら歩いたりと、さるのモノマネをしながら、何とか伝えようとしていたのだが、伝わっている気配が感じられない。
 それに加えて、アリアからこんな事を言われてしまっては、恥ずかしくて泣きそうだ。


 りのが肩を落としていると、ゴン太がやってきた。
「モー、モモモー!」
「ウキキ!」
 ゴン太が何やらさる達と会話をしてからしばらくすると、りのの制服と一緒に1匹のさるがやってきて、ゴン太の背中に飛び乗った。
 制服を受け取って、制服を着ながらアリアに質問する。
「もしかして、1匹だけ力をかしてくれるっていう事なのかな?」
「どうだろうな。それより、あまったやつは少し持って帰ろう」
 アリアは呪文を唱える。


 りのは猿山連合国を後にする。
 ウキキーというさる達の声を背に、手を振るりの。
 まるで、ファンからのお見送りを思い出して、微笑ましい気持ちでいっぱいになる。


 ファンの皆さん。


 水瀬りのは。


 今日も元気です!




 次回第1章8    畑を作ろう  上


 ※ここまで読んでいただきありがとうございます。
 さて、さるはヘビが苦手というのは本当らしいのですが、子猿に関してはわからないです。
 一応調べたらそうなっていたため書きましたが、らしい、ですのであしからず。
 ではこの辺で。
 次回もお楽しみに。

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