魔法×科学の反逆者

伊達\\u3000虎浩

第1章レイの願い…⑨

 
 笑顔がとても可愛いと思った。


 いつもニコニコしていて、いつも兄にべったりなレイナを、私はそう評価していた。
 きっと、何不自由なく暮らせていて、黒い部分を知らない箱入り娘なのだろう、と。


「う〜ん。メイド服はとても可愛いらしいですけど…何かが違うような…そうだわ」


 両手を合わせ、レイナは何かに気付いたらしい。
 無言で見つめる私の前で、タンスをゴソゴソしだした。
 タンスといっても、小さな可愛いらしいタンスである。いや、三段ボックスというべきだろうか。
 そんな事を考えていると、レイナがくるっと振り向いた。


「レイ。そこに座って」


 ニコッと微笑みながら、そう言ってきたレイナの手には、可愛い裁縫セットがある。
 どうやら裁縫セットを使って、何かをしたいようだ。


「…かしこまりました」


 命令されたなら従うしかない。
 レイナが指さす方、ベッドの上に腰掛ける私。
 座ってから前を向くと、レイナは頬を膨らませていた。


「ダメですよ。そこは、分かった。で、いいんです」


 主従関係を大事にと考えていた私が、どんどん変わっていったのはレイナが原因だ。
 こうやって、少しずつ、少しずつ、言葉遣いが変わっていった。


「ふふ。レイのメイド服を、私がもっと可愛らしくして差し上げます」


 私の後ろに座り、レイナは裁縫セットを開ける。


「……しょ、少々お待ち下さい」


 しばらく経っても、何もおきないし、何も話しかけてこない。何かあったのかと思い、後ろを振り返ると、レイナは難しい顔をしながら、何かに集中しているようであった。


「…手伝いましょうか?」


「だ、駄目です。これは私が、一人でやらなくては…で、ですけど、これだけお願いします」


 そう言って、レイナは私に針と糸を手渡してきた。よく見ると、頬がほんのり赤くなっている。
 その事には触れず、針に糸を通してレイナに手渡した。


「ありがとうございます。少しだけ苦手なの」


 少し?と思ったが、言うのは失礼だろうと考え、無言のまま前を向く。


「それじゃぁ服を脱いで下さい」


「わかった」


 服を脱ぎ、全裸になる私。
 下着などは身につけていない。
 身につける必要がないからである。


「…ごめんなさい。レイ、まずは体を綺麗にしましょう」


 あの時のレイナの表情を、私は一生忘れない。


 悲しみや怒り、罪悪感を、たった一つの表情で表したレイナの、あの表情こそが、今の私に唯一罪悪感を与えるものである。


 その光景を、レオンとレイは並んで見守っていた。ふと、気になった私は、隣を見ると、レイナと同じような表情をしている事に気がついた。


『俺が下にいる時に、こんな事があったのか…すまない。俺がもう少し気をつけていれば』


『いいんです。今となってはいい思い出です。こうやって、たくさんの毎日を送っていく中で、私は貴方達兄妹と本当の兄妹になりたいと、いつからか思うようになっていきました。レオン。どうか、どうかレイナを…私の姉を救って下さい』


『ま、待てレイ!行くな』


 手を差し伸べるレオンであったが、レイの腕を掴む事は出来なかった。


 ーーーーーーーー


「…レイ!?」


 目を開けると、自分の両手にはレイの頭部が握られている。握られているレイは両目を閉じ、喋る事はなかった。


「…くっ」


 ジャンヌは吹き飛ばされてしまったのか、レオンの隣を滑ってきた。よく見ると、所々服が破けていて、ボロボロの状態である。


「ジャンヌ!?」


 慌ててジャンヌの元に行くレオン。


「どうやら、精神の扉から戻って来たようだな」


「精神の扉?」


 不思議そうに聞き返すレオンに、ジャンヌは小さく首を振りながら、レオンに返す。


「説明は後だ。すまないが、私ではアイツを止められない」


「はっははははははは。いい、いい、最高だぁ」


 両手をあげ、高笑いする男。


「お、お前…」


 その足元には、レイの身体が踏まれていた。


「あぁ?こんな人形がそんなに大切か?」


 ドンッと蹴飛ばされ、レオンの前まで転がってきたレイの身体を見て、レオンの身体が熱くなる。


 レイナが一生懸命作ったメイド服の装飾品が、転がった事によりほつれているのが分かった。
 その身体の片腕はない。


「ぐ…ぐぁ…あぁぁぁあ!!!」


 右目を左手で抑え、両膝をつくレオンは、突然苦しみ出した。


「レ、レオン!?」


 心配したジャンヌであったが、ダメージからか、立ち上がる事が出来ないでいた。


(くっ…までまだ時間がかかる…か。しかし、どうしたというのだ)


「何だなんだ?石っころでも目に入ったかぁ?あははは!そりゃぁ悪い事したなぁ」


 右手を額にあて、ケラケラ笑う男。


 そんな男の声を聞きながら、レオンはスッと立ち上がる。


「あぁ。石っころだったよ。俺にとってのお前はな」


「あぁ?何言ってやがる…って、な、なんだその目は」


 男は見た事もない瞳を目の当たりにし、思わずたじろいでしまった。


 それは、仕方がない事だったのだろう。


 なぜなら、彼が見たレオンの右目は、魔法陣が浮かびあがっていたのだから。

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