魔法×科学の反逆者

伊達\\u3000虎浩

第1章 約束

 
 白い煙をあげながら、レイは戦闘態勢をとっている。流石に黙って見ている訳にもいかず、ジャンヌが一歩前に出た所で、レイが動いた。


「加勢されますか?」


「一瞬で背後に回りこむとは…な」


 姿が見えなくなったレイは、ジャンヌの背後からその白くて綺麗な喉仏に、クナイをあてて忠告する。


「よせ!レイ!」


 レオンはレイを止めるべく、大きな声をあげた。


「いいだろう。お前の望み、叶えてやる」


 本気で来いと言ったあの言葉、今の態度、レイが本気だという証拠だ…なら、俺に残された選択は一つしなない。


「…私の望み?」


 レオンの言葉にレイは一瞬考え、ポツリと呟いた。その言葉はとても小さかった為、ジャンヌにしか聞こえなかった。


「ジャンヌ様。失礼しました…しかし、加勢された場合は、容赦しませんので…」


 先ほどの殺気が嘘のような態度で、レイはジャンヌに対し、丁寧にお辞儀をする。


「気にするな」


 加勢するともしないとも言わず、ジャンヌは右手をヒラヒラと振って、レイに答えた。


「レイ。本気で行くぞ」


「勿論です。と言うより、手加減している余裕がありますか?」


「ふん。雷鳴よ」


 レイに右手をあげ、呪文を唱えるレオン。
 レオンの右手から電撃が放たれる。


「…本気で来てください」


 真っ直ぐ向かってくる電撃を、右手に持っているクナイで軽々と弾き返すレイ。


「チッ…何がお掃除万能型ロボだ。赤き雷鳴よ」


 再び呪文を唱えるレオン。
 レイの頭上から電撃が襲いかかる。
 その電撃を、華麗なステップでやり過ごすレイ。
 慌てた様子もなく、驚いた表情もせず、余裕といった感じであった。


「…レオン。貴方に〇〇がありますか?」


「黒き雷鳴よ」


 何を言われたのか分からない。
 聞き返す余裕すら、今のレオンにはなかった。
 地面に右手を叩きつけると、地面からレイに向かって電撃が襲いかかる。


 同じ学年の生徒の中では、ずば抜けて優秀な生徒であるレオン。
 レイナの為にと色々な知識を会得した為、今度の高校では、主席に選ばれたぐらいである。


「右から行きます」


「ふざ…チッ!?」


 何処から攻撃するかを宣言するレイに、怒りの声を出すレオンであったが、気づいた時には既に蹴り飛ばされていた。


 床を滑るレオンは右手を地面に叩きつけ、態勢を立て直し、急いで顔をあげるが…


「レオン!後ろだ!」


 ジャンヌが驚いた表情と共に、レオンに忠告する。後ろを振り返るレオンに、レイの足が振り落とされた。


「…どうされましたか?」


「……クソッ」


 レオンの頭からミシミシと音が鳴る。
 床と頭をくっつけさせられながら、苦痛の表情を浮かべるレオン。


 レイは所詮はロボットだ。
 魔法も使わず、簡単に自分やジャンヌの背後を取る技量…はっきりいって、レベルが違い過ぎる。


「ジャンヌ様。見ていて下さいませんか?」


 レオンがそんな事を考えていると、頭上からレイの忠告の声がした。


「しかし、今レオンを殺される訳には・・そうか。お前・・」


 何があったか見る事が出来ないレオン。
 しかし、二人の会話から、ジャンヌの加勢はあてに出来ないという事が分かった。


「レオン。そんな力で、レイナを救う事が出来ますか?非力な力は強大な力の前では無力です」


「…レイナ」


「立って下さい。そして貴方の全力を私にぶつけて下さい」


 スッと頭が軽くなるレオン。
 レイが足を退けたのだった。


「俺は…レイナを救う…その為にも」


 ゆっくりと立ち上がるレオン。
 隙だらけのレオンであったが、レイは何もせずにレオンを待っていた。


「赤き雷鳴よ、黒き雷鳴と混じりて…」


「待てレオン!殺す気か!レイはお前を…レイ?」


 レイは右手を挙げて、ジャンヌの言葉を遮った。


 今持っている手持ちのカード。
 最強カードを繰り出すレオン。
 右手で赤き雷鳴を唱え、左手で黒き雷鳴を唱える。両手を重ね、赤き雷鳴と黒き雷鳴を融合させ、重ねた手の右手を、ゆっくり上にあげていく。


 バチバチと音をたてながら、レオンのお腹の前に丸い球体が出来あがる。


「その若さで、同時に魔法を唱え、融合魔法を使えるのは尊敬に値します。相当な努力をしてきたのでしょう」


 喋りかけられるレオンであったが、言葉を返す余裕がなかった。


「撃って下さいレオン。貴方の本気を私に…」


 いつ撃たれてもいいようにと、警戒態勢をとるレイであったが、レオンは途中で術を解除した。


「…どういうつもりですか?」


「撃たない。俺はお前を撃たない」


 ゆっくりとレオンに向かって歩きながら、レイはレオンに喋りかけた。
 レオンは両手をぶら下げ、立ったままである。


「何故ですか?私がレイナを狙う人物だった場合…」


 レイはレオンを試すと言った。
 レイナを救える程の力を、レオンが持っているかを確かめたかった。


「そんな日は来ない」


 そもそもが間違えている。
 レオンはキッパリと断言した。


「何故そう思うのですか?もしも私が…」


「そんな仮定は無意味だ!!」


 レオンは真剣な眼差しで、レイを見つめた。


「お前にとってのレイナは姉だろう。レイナにとってのお前は妹だろう。ならば俺は、お前達姉妹の兄である」


 妹に本気で攻撃をする兄が何処にいる。
 力は向こうが上かもしれない。
 しかし、そんな事は関係ない。


「なぁレイ。一緒に、レイナを救わないか?」


 レオンは優しい表情で、そんな事を口にした。
 レイは怒っていたのだ。
 大切な姉の事を黙っていたレオンに。
 黙っていたクセに、ジャンヌとかいう赤の他人には、話しをしていたという事実に。


「…なぁ、レイ。しばらく稽古をしてくれ」


 何の為に?


 決まっている。


 レイナを救う力をつける為だ。


 レイは嬉しそうな表情を浮かべ、こう呟いた。


 喜んで、と。

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