魔法×科学の反逆者
第1章 レイ
レイにワクドナリオの袋を渡し、手洗いうがいをしようと考えたレオンは、ジャンヌに声をかけた。
「おい、ジャンヌ!俺も手を洗ったりしたいんだが……おい!」
扉をノックしながらジャンヌを呼ぶも、ジャンヌからの返事は返ってこない。
まさかシャワーでも浴びているのかと思い、扉に耳をあてるレオン。
「……何をなされているのですか?」
「……い、嫌、待て!誤解だぞレイ」
「何を聞いていたのですか?」
「呼んでも返事がしないから、シャワーでも浴びているのかを確認してだな…ん?」
「3本にまけてあげます」
そう言いながら、チラシを手渡すレイ。
そこには"特売品"と書かれたチラシ、主に家電量販店でよく見るチラシであった。
チラシには、高級電池が載っている。
「……主人を脅迫するロボットなど聞いた事がないぞ」
「私の真の主人は、レイナですから」
「2本だ」
「承知致しました」
レイナの部分をわざとらしく強調するレイに、2本にしてくれとお願いするレオン。
レイナに言っても?という意味だと理解する。
レオンのお願い?命令?に、両端のスカートを軽くつまみ、左足を右足の後ろにまわしてクロスさせる仕草、舞踏会で良く見かけるあのシーンのように、レイは軽く頭を下げながら交渉成立の意味を込めた返事を返した。
「…手を洗ったりしたいから、ちょっとこの中を開けてジャンヌを呼んできてくれ」
「呼ぶのは構いませんが、シャワーだった場合はどうなさりますか?」
「…臨機応変に頼む」
本当に、人口知能とは厄介だ。
青い髪に青い瞳、メイド服を着ている彼女は、人間と見間違えてしまうぐらいだ。
レオンの為に言っておくが、メイド服は彼の趣味で着せている訳ではない。
動きやすいとか、可愛いとか、そういった意味で、レイナが着せている。
「な、何だ貴様は!?」
「…レイと申します。レオンが呼んでますよ?」
チラシを読んでいると、二人の会話が扉の向こうから聞こえてくる。
「レオンがか…しかしいいか?女とはいえ、いきなり風呂場を開けるのはよせ」
「承知致しました…コレをどうぞ」
ジャンヌのいい分は間違ってはいない。
レイとジャンヌは初対面である。
また、ジャンヌはレオンが呼んだ、客人のような存在でもある。
それに対し、いきなり風呂を覗くような行為は、メイドとしてはあるまじき行為である。
ジャンヌのいい分を認め、レイは記憶を更新した。メイドとして起動したのは今年からである。
まだまだダメだと思うレイであった。
「おい!レオン。何のようだ?」
「何って、手を洗ったりしたいから…ってお前な!」
声がかけられたので、チラシから目線を外し、ジャンヌを見たレオン。
「ん?何だ」
「服を着るか、扉を開けないで呼ぶかしろ!」
ジャンヌは、バスタオル1枚だけ巻いた格好であり、思わず背中を向けるレオン。
「ふふふ。裸を見られているわけでもあるまい」
確かにその通りなのだが、濡れた髪や火照った肌、バスタオルだからこそ分かるそのスタイル。
世の中の男性を魅了してしまう魔性の女というのは、彼女のような存在なのだろう。
「…まぁいい。レイ!」
「はい」
「ジャンヌがお風呂からあがったら、呼びに来てくれ」
「今、あがってますが?」
「……人前に出られる格好になったら呼びに来てくれ」
「待て。私はいつだって人前に出れるぞ」
本当に面倒くさい奴等だ。
他愛の無い会話、今となってはいい思い出なのだろう。
何気無い日常の1ページ。
今はもう二度と味わう事の無い1ページ。
面倒くさくても良い。
だから……。
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