魔法×科学の反逆者

伊達\\u3000虎浩

第1章 時間旅行者

 
 時間旅行者タイムトラベラー


 聞き覚えのない言葉に、拓斗は動揺を隠せなかった。


「い、妹は、伊波は助かるんですか?」


 妹である伊波が助かると言われた事も、拓斗が動揺してしまった理由にあった。


「助かるというより、助け出さない限りお前に明日はない」


「…どういう意味ですか?」


「なぁ拓斗。これまでで発見されていない魔法は何だ?」


 レオンにしたように、拓斗にも同じ質問をするジャンヌ。
 拓斗はレオンが答えたように、これまで見つかっていない魔法をジャンヌに告げた。


「まぁ他にも色々とあるが、大体はそんな所だろうな。拓斗。お前は時空魔法の使い手だな」


「・・・・いえ」


「ふふふ。誤魔化すな。妹を助けたいんだろ?」


 ジャンヌに軽くおでこをつつかれた拓斗は、仕方なく正体をあかす。
 世界を見渡してみても、時空魔法の使い手はほとんどいない。ある国では使い手はゼロだったりもする。
 そんな貴重な使い手である拓斗は、時空魔法が使えると知られる事を恐れていた。
 そういった貴重な存在は、研究対象になる可能性があったからだ。


「誰にも言わないから安心しろ。と言っても、お前が時間旅行をした場合、私は忘れているんだがな」


 ふふふと微笑むジャンヌ。
 ジャンヌは拓斗の目線に合わせるべく、その場で膝を着いた。


「今からお前を導いてやる。いいか?一度しか言わないから良く聞いておけ」


 無言のまま、こくりとうなずく拓斗。


「時間旅行とは、過去や未来に行ける魔法の事だ。しかし、それには色々と種類や制約がある。お前の場合は、その日をやり直す時間旅行のようだな」


「ま、待って下さい」


「まぁ聞け。妹が死んだからか、私と出会ったからか、お前がこれから死ぬからかは分からん。もしかしたら無意識に体験しているかもしれんが、その辺はどうでもいい。時間旅行は呪われた魔法だ。しかし、お前にとっては呪われた魔法に感謝する事になるだろう」


 時間旅行のおかげで妹が助かるのだから、恨むのは間違っている。


「お前が次に気がついた時、お前はまず日付けと時刻を確認しろ。きっと今日の日付けの朝が来る。後は、分かるな?」


 妹である伊波は車にひかれて死んだのだ。
 ならば、車にひかれない環境にしてやればいいだけの事である。


「お前は時間旅行にあう度に、明日を迎える為の鍵を探す事となるだろう。そして、その答えは誰にもわからない」


「…鍵…答え」


「そうだ。例えば私と出会う事が鍵なのかもしれないし、出会わない事が鍵なのかもしれない。何回、何十回、何百回も同じ日を繰り返す可能性だって考えられる」


 伊波が死んだ事により時間旅行にあうのであれば、伊波を死なせない事が鍵なのかもしれないという事だ。


「注意すべきなのは、お前以外の人間は記憶を共有していないということ。この事を決して他の者に知られてはならないということだ」


 誰かに知られてしまっては、病院に監禁されてしまう可能性が高い。ただしその日をやり直せば、知られなかった事にはなるが、やり直せる保証はない。また、昨日知られてしまっていた場合、今日を何千回とやり直した所で、昨日知られたという事実は消えない。


「お前は孤独だな」


「え?」


 色々と頭の中で整理をしていると、不意にそんな言葉をかけられた拓斗。


「誰にも明かすことの出来ない呪われた魔法。もしかしたらお前は、永遠に今日を生きる事になるかもしれない。だがお前は、たった一人で立ち向かう覚悟を持っている」


「どういう…意味ですか」


 不思議な事を言ってくるジャンヌ。


「妹が死ぬ事が鍵だった場合の話しさ」


「・・・そんな世界は、俺が認めない」


 拓斗の瞳に、時計の針が浮かびあがる。


「だから孤独だと言ったんだ」


 妹が死ぬ事を絶対に認めないであろう拓斗を見ながら、ジャンヌはそっと拓斗の頭に手を置いた。


完璧な時間パーフェクトタイムを持つお前なら…きっと大丈夫だろう)


「…ジャンヌさん?」


「長話しが過ぎたな。いいか拓斗。もし妹を助けだし明日を迎える事が出来たなら、ここには来るな」


「どうしてですか?」


「簡単な話しだ。妹が助かった場合、お前がここにくる理由がない。つまり、ここは鍵ではないという事さ」


 拓斗がこの病院に来たのは妹が車にひかれ、治療をする為であり、屋上にやって来たのは妹が死んでしまい、自殺しようと考えたからであった。
 妹が死ななかった場合、病院に来る事も自殺を考える事もない。


「いいか拓斗。さっきも言ったように、起きたらまずは日付けと時刻を確認しろ」


「忘れるも何も、記憶を共有できるのであれば、忘れないはず…」


「初めての時間旅行で、共有できるか分からん。完璧な時間を持っているお前なら、全てを共有できるかもしれないが保証はない。妹の事だけを考えろ」


「時間旅行…完璧な時間…伊波を救う」


 右手を真っ直ぐ伸ばすジャンヌ。
 十字架を胸元で描きながら、ジャンヌは告げる。


「お別れだ拓斗。お前に神のご加護がありますように」


「ま、待って下さい」


「また、いつか会えるさ」


「ジャ、ジャンヌさん!?どういう意味…で…すか」


 そこから先の事を俺は覚えていない。
 正確には、病院での出来事を全く覚えていなかった。
 覚えていたのは、時間旅行、完璧な時間、伊波を救う事の3つだけであった。


 何故、覚えていなかったのか。
 初めての時間旅行だからなのか、ジャンヌが記憶を消したのか、聞いてみない事には分からないだろう。


 しかし、拓斗はジャンヌの存在を覚えていないのだから聞く事などない。


 ならば今こうして語られている話しは何なのか。


 簡単な話しさ。


 ジャンヌが嘘をついていただけの事である。

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