魔法×科学の反逆者
第1章 時間旅行
ジャンヌを見上げる少年は、桐島拓斗と名乗った。名前を名乗られて、自分は名乗らないなどといった礼儀知らずではないジャンヌは、拓斗に自分の名前をあかす。
「そうか。私はジャンヌ。ジャンヌ・ダルクだ」
「…ジャンヌさん」
「お前は疑わないんだな」
「疑う理由がありませんから」
レオンとは違う対応を見せる拓斗。
拓斗からしたら、この美しい女性が偽名を使っていようがどうでもいい。
何故なら、今から自分は死ぬのだから。
「ジャンヌさんはここに花を置きに来たんですか?」
「そうだ。かつて私が導いてやれなかった1人の女性の為にな。それからジャンヌでいい」
どこか遠い目をするジャンヌはそう言うと、花束を地面にそっと置いた。
その花束は、どう見ても買ってきた花には見えなかった。
買ってきた花束ではないからか、そこには愛情が溢れているように感じられた拓斗は、ジャンヌに助言をする事にした。
「失礼ですが、花束は下に置いてあげた方がいいのではないですか?」
「ほぅ。何故そう思う?」
何故も何もない。
「亡くなられた方はここから飛び降りて、下で亡くなられたんですよね?なら、花束はここではなく下に置くべきなのでは?」
本来、亡くなられた人に花束を供える場合は、亡くなられた場所、つまり亡くなった場所に花を置くのが普通である。
崖から水面に身を投げ出した場合も同様だ。
その場合、崖ではなく海に花束を放り込む。
「…なぁ拓斗。飛び降り自殺をした場合、人はどうするだろうか」
拓斗の方を向かず、金網越しに夕日を見るジャンヌ。綺麗な銀髪が、赤く染まって見えた。
どう答えるか迷っている拓斗の方を見ようともせず、ジャンヌは続ける。
「飛び降りた場合、人は目を閉じるだろう。恐怖から目を背けているのか、目を開けていられない風圧に負けてか、あるいは」
「何かを思い出そうとして、ですか」
拓斗がそう言うと、ジャンヌは身体を拓斗に向けた。
「だからかな。アイツが最後に見たこの景色を、アイツが最後に何を思い願ったのか。私はアイツの最後の死に場所はここだと思っている」
返す言葉が見つからなかった。
「ふふふ。拓斗の言う通り、本当は下に置くのがいいのかもしれないな」
「…いえ。ここが一番いいと思います」
考え方は人それぞれである。
ジャンヌの考えが正しいとか、拓斗の方が正しいとか、そんな事はどうでもいいではないか。
ここまで思ってくれるその気持ちだけで、充分だと拓斗は思った。
「ジャンヌさんは何故、僕を止めないのですか?」
そんな優しいジャンヌが何故、自分の自殺を見過ごすのかが気になり、おかしな質問をする拓斗。
これではまるで、自殺を止めて欲しいと言っているように聞こえるだろう。
しかし、一度気になってしまった拓斗はあえて質問をした。
「何でって、拓斗は時間旅行者じゃないか」
「え?」
時間旅行者という聞きなれない言葉に、思わず聞き直す拓斗。
「ん?そうか…拓斗はまだ死んだ事がないんだな」
「…当たり前です。死んでいたらここには居ませんよ」
自分は、からかわれているのだろうか。
「ならば導いてやらねばなるまいな。なぁ拓斗。お前は何故死のうとしているんだ」
「それは…」
「死ぬ前に話してみろ」
金網に背中を預け、ジャンヌは拓斗にそう告げる。
「…15時過ぎに妹が車にはねられて亡くなりました」
「それだけではないだろ?」
「妹は…妹は俺を助ける為に、身代わりになって…クソ」
車にひかれそうになった自分を助けた為、妹が車にはねられてしまった。
自分なんかの所為で何より大切だった妹が、この世界から居なくなってしまったのだ。
「その事に耐えられず自殺か…」
「可笑しいですか?」
「可笑しいな。お前はアイツと違って可能性を求めていない。いや、正確にはさっきまでのアイツもか」
アイツ、アイツと言っているが、誰の事を言っているのか分からない拓斗。
「なぁ拓斗。死者を蘇らせる魔法を探そうとは考えなかったのか?」
レオンの時とは違う助言をするジャンヌ。
レイナは死の宣告を受けている。
死の宣告を受けたレイナに死者を蘇らせる魔法を使った所で、死の宣告を解かない限りまた死んでしまうからであった。
「それは…」
拓斗は考えてなどいなかった。
数百年経った今でも見つからない魔法なのだから、考えていないのは別に可笑しな話しではない。
「ふふふ。まぁお前には不要な魔法だから、探す必要など初めからないのだがな」
「どういう意味ですか?」
「お前は時間旅行者だ。時間旅行をする事によって、お前の妹は助かるというわけだよ」
不思議そうな顔をしている拓斗に対し、真面目な表情でそう告げるジャンヌであった。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
49989
-
-
55
-
-
337
-
-
107
-
-
314
-
-
127
-
-
440
-
-
104
-
-
26950
コメント