水瀬りのはアイドルであって異世界を救う者ではない

伊達\\u3000虎浩

第1章3 中二病は世界を救う

 
【5】中二病は世界を救う


 とある酒場で声をかけられたりのは、固まってしまっていた。
 知らない人からパンティーを組まないか?と、声をかけられたのだ。
 固まってしまうのも、当然といえるだろう。
 相手が可愛い女の子だから許せるが、一歩間違えればセクハラである。


「お、おぃりの。こやつ何を言うておる」


「た、多分言い間違えたのよ」


 アリアが鼻先で、慌てて声をかけてきた。
 りのもまた、慌てた様子で返事を返す。


「あっ!ご、ごめんなさい。私ったら・・」


 りのに声をかけてきた人物、神崎玲奈は、りのに向かって頭を下げた。
 どうやら、間違えに気づいてくれたようだ。
 ホッと、胸を撫で下ろすりの。


「組みませんか何て言われたら困りますよね?すいません訂正させていただきます。組んで頂けませんか?」


 深々と、丁寧なお辞儀をする玲奈。
 さっきと、何が違うというのだろうか。


「お、おぃ!組みませんか?から、組んでくれと言うておるぞ!」


 アリアの顔が青ざめているのを確認したりのは、玲奈に話しかける事にした。
 誤解を解かないと、アリアがマズイと考えた結果でもある。


「れ、玲奈さん。あ、あの・・。」


「は、はい。あっ!私の事は玲奈とお呼び下さい。歳は17ですので」


 ニッコリ微笑む玲奈。
 17歳だから呼び捨てでいいと言ってきたと言うことは、りのを年上だと思ったからだろう。
 玲奈の胸をチラ見しながら、17歳・・と、わりかし失礼な事を考えるりの。


「私は水瀬りの。この子はアリア。それと、私も17歳だから呼び捨てでかまわないわよ」


 りのは、なるべくフレンドリーに喋りかけた。
 なんだか玲奈が、緊張しているように見えたからである。


「それと、さっきの話し・・なんだけど。そ、その・・パンティーって言ったんだけど」


「パ、パンティーですか!?」


 りのの言葉を聞いた玲奈は、驚いた表情を見せた。
 玲奈の言葉を聞いたりのは、少し顔を赤くして、コクリとうなずく。
 初対面でいきなり、下着の話しをする事などまずないだろう。
 無論、下着の話しではく、言い間違えてますよ!と教えているのだが。
 りのが前を向くと、玲奈は困ったような顔をして、ブツブツ何か呟いていた。
 小さくて聞こえない。


「パ、パンティー・・ですか。これでパーティーに入れてくれるのであれば・・玲奈!ガンバ」


 何故か、両手をグッと握り締め、気合いを入れている玲奈を、不思議そうに見ていたりのだったのだが、玲奈が急に、スカートの中に両手を突っ込んだのを見て、慌てて止めに入った。


「ストップ!ストープ!れ、玲奈!ななな、何で脱ごうとしているのよ!」


「え?何でって、りのがパンティーをよこせば仲間にしてやるぜ!グヘヘへって言うから」


「・・見損なったぞりの」


「・・一言も言ってないでしょ。とにかく玲奈。脱ぎかけないで、キチンと履きなさい」


 おそらく半尻であろう玲奈に、りのは頬をひきつらせながらそう伝えた。
 _____________


 とりあえず、玲奈をカウンター席に座らせ、詳しい話しをする事にしたりのは、先ほどの話しをして、誤解を解く事から始めた。


「わわわ私が、パンティーを組みませんか?と言ってしまってたんですね?すいません」


「い、いいよいいよ。誰にだって、言い間違える事だってあるよ。気にしないで」


「・・パーティーとパンティーじゃぞ。言い間違えるのかのぉ」


 しぃー!っと口元に人差し指を立て、りのはアリアを黙らせる。
 そんな会話をしているとは知らずに、りの達の元へミヤがやってきた。


「フニャ?りのの友達ニャ?」


「あっミヤ。さっきはありがとう。この子は玲奈。玲奈、この可愛い子はミヤよ」


 りのはお礼をいいつつ、二人を紹介する。
 りのに紹介された二人は、無難なあいさつを済ませる。


「ところでニャにか食べていくのかニャ?」


「あっ!そうだった・・ミヤ実はね」


 りのは気まずい表情で、ミヤに状況を説明する。
 お金があまりない為、水と100Gで食べれる物がないかという事を伝えるりの。


「ニャるほどニャるほど。ニャら、先に水を持ってくるニャ」


 その間に、何か注文があれば呼んでくれと言い残し、厨房へとひっこむミヤにお礼を伝え、再度玲奈に話しかけた。


「ねぇ玲奈。私とアリアは、本当に魔王の討伐をしようと考えているのだけれど」


「はい。私も魔王を討伐しないといけない理由があります」


「え?それって・・どんな理由なの?あっ!答えづらければ答えなくていいのだけれど」


 もしかしたら、誰かの仇うちの為だったりした場合、この質問は嫌な質問になるかもしれないと考え、最後にそう付け加えるりの。
 りのの質問に、少し考え込んだ玲奈は、何かに納得したように首を縦に振って語り始めた。


「信じてもらえるかわかりませんが・・・」


 玲奈の話しを、黙って聞くりの。
 ________________


 私の名は神崎玲奈17歳です。
 私の事をどんな人かと一言で言い表すのであれば、そう!コスプレイヤーです。


「コ、コス・・プレイヤー?」


「な、なんですか!知らないのですか!」


 りのが聞き直すと、玲奈は前のめりになって、りのの顔を凝視する。
 あと数センチで、唇がくっついてしまいそうな位置であった。


「し、仕方がないですね。そこまで言うのであれば、教えて差し上げます」


 コスプレイヤーとは、漫画やアニメ、ラノベ等の架空の登場人物になりきる人の事です。
 コスプレイヤーとコスプレの違いは、そこにあると私は思います。
 例えばメイド服を着た人はコスプレであり、で、大人気のキャラクターである女の子のメイド服を着た場合もコスプレであります。
 では、コスプレイヤーとは?というと、それは本人になりきる事です。
 先ほどのキャラクターで例えるとした場合、喋り方や髪型、仕草などを、研究に研究を重ねた者だけがコスプレイヤーになれるのです。
 ではなく、と言うのが、この場合だと常識ですね。


「ちょっと待って。コスプレイヤーの話しは解ったから、先に進みましょう」


 りのは、興奮している玲奈に落ち着くようにと、言葉を遮る。
 りの自身オタクな為、こうなると話しが長くなると解っていた。
 オタク故に、玲奈が例えているキャラクターの名前や外見も想像がつく。うむ。マジ天使。


 りのにそう言われてしまった玲奈は、一つ咳払いをしてから、続きを語りだした。
 2月14日の日に私は、あるイベントに参加していました。


「2月14日・・・イベント・・?」


「な、何ですか!寂しい女め!とでも思ったのですか」


「ち、違うの。そ、その・・私もその日に・・その・・。」


 少し顔を赤くしてつっかかってきた玲奈に、りのは顔を青くして言葉を返した。
 コスプレイヤーとか、リゼロから始まったなどの情報からして玲奈はおそらく・・。
 青ざめた様子のりのを見た玲奈は、どういう事なのかを予想した。


「ま、待って下さい。それじゃぁりのさんもやはり・・」


 玲奈は震えているようだった。
 信じられない事が起きた事を、共感できる人物に出会ったとなれば、そうなるのが普通だろう。
 りのはそう考えた。
 りの自身、身体が震えている。
 こんな訳の分からない目にあっていたのは、自分だけではなかったのだ。
 二人は同時に、口を開いた。


「異世界に飛ばされたのね」「コスプレイヤーだったのですね」


「・・・・ハイ?」「・・・へ?」


 二人はしばらく固まってしまっていた。
 ______________


 固まっていた二人は、同時に再起動する。


「い、異世界って何ですか?」


「いやいや。ちょっと待って。魔王を討伐する目的って何?」


「そ、それがですね・・実は・・。」


 玲奈が再び語りだしたのを見て、今度は最後まで話しを、黙って聞く事にしたりの。


 私は秋葉原という街の、コスプレイヤー最強トーナメント!というイベントに参加しに来ていたのです。
 この神イベントには毎年、全国のコスプレイヤーが終結します。
 秋葉原の街は、消えてほしいカップルと神達で溢れかえるのです。


 私は着替える為に、早く来たのですが、早く来すぎたのか誰もいなかったのです。
 早く来た理由ですか?流石に家で、着替えてから出る勇気は私にはまだありませんし、電車に乗れない可能性も出てきますので、早く来て着替えようと考えたのです。
 それに初参加でしたので、どなたかと交流を深めようと考えていたのですが、先ほど言ったように、私以外誰もいなかったのです。


 仕方がないので、とりあえず着替えを済ませてから待つ事にした私は、とある部屋でアンケートを書いていたら、恥ずかしい話しなのですが、眠ってしまっていて、気付いた時にはここにいたのですが、ここはコスプレイヤーが集まっている居酒屋さんですよね?


 開いた口が塞がらないとは、この事を言うのだろうか。
 両目が点になるとは、この事を言うのだろうか。
 りのは呆然としながら、玲奈を見つめていた。


「れ、玲奈・・。落ち着いて聞いて」


「へ?な、何ですか?素人ドッキリなんて嫌ですよ」


 嫌などころか大喜びするから!と心の中で叫びながら、りのは今までの事を話した。


「ア、アイドルなんですか!す、すいません。私、そっち系にうとくて」


「いやいや待って。驚くポイントが違うから」


「だ、だって、いきなり異世界だなんてそんな話し・・噓ですよね?」


「・・・本当の事よ」


「じゃ、じゃぁ。魔王を討伐したら貰えるって聞いてた、サタンマントは手に入らないと?」


「魔王を討伐したら手に入るハズじゃ。あやつはマントを羽織っておったからの」


「・・解りました。魔王を討伐しましょう」


 りのの両手を強く握りしめ、何故か闘志を燃やす玲奈。
 きっとまだ、この世界が異世界だという事を信じていないのだろうと、りのはそう解釈した。
 玲奈と一緒に、魔王を討伐するのは問題ないのだが、異世界だと信じていない玲奈を、連れて行くのは問題である。
 討伐するには、戦闘は避けられない為、まずはそこから理解してもらう必要があり、玲奈の事をもっと知り、説明をする必要があるのだ。


「ね、ねぇアリア。玲奈はアリアが呼んだの?」


「う、うむ。どうやら別の所に仕掛けた部屋に入ったようじゃの」


「・・仕掛けたって、何だか変ないい方ね」


 とりあえず、アリアに確認をとり、自分が最初に受けたチュートリアルを、玲奈にも受けてもらった方が早いだろう。
 りのがそう提案しようとすると、りのの隣に誰かが座った。


「お姉さん。いつものを頼む」


 声からして、女の子だろう。
 いつものという事は、この店の常連さんなのだろうと、りのは背中から聞こえてきた声を聞いて、そんな事を考えていた。


「ニャ?初めて見る顔ニャのだが」


 ミヤの困ったような声を聞いてしまい、りのはいつものと注文した女の子の事が気になり、後ろを振り返った。


 赤いマントを羽織り、怪我をしているのか両手には包帯が巻かれ、手には黒いグローブが装着してある。
 グローブといっても野球のヤツではなく、5本の指がでるヤツであり、座っている為、マントの中の服は見えない。
 横顔しか見えないが、おそらく可愛い。


「くっ。やはり我の記憶違いだというのか」


 そう言いながら、コツっと右手でカウンター席を叩く。


「すまない。いつものとは、魔力回復に万能な飲み物の事だ。ぐわっ!?」


 急に右手を左手で掴み、右足がガタガタと震え出す女の子。
 当然、隣にいるりのは、何事かと見ずにはいられない。
 ぐわぁぁっと右手を抑える女の子と、目があったような気がするりの。
 目があったと思ったら、再び痛がるのであった。


「し、しずまれぇ!くっくそ。ま、まさか・・封印術式が解けかかっているというのか」


 りのは静かに、背中を向けた。
 関わっては、いけない女の子だ。
 そんな事より、私は玲奈と話しをしないといけない。


「り、りニョ!」


 助けてくれと言わんばかりにミヤが、りのに話しかけてきた。
 本当であれば従業員として、ミヤが対処すべき問題であり、りのには関係ないのだが、友達になったばかりのミヤに頼られてしまっては、断りづらい。
 何より、困った顔を見せるミヤが可愛い。
 仕方なくりのは、隣の女の子に声をかけた。


「あ、あのぉ。店員さんが困ってますよ?」


 見た感じ、歳下だろうと話しかけたりのは、違ったらマズイと考えて、敬語で話しかけた。


「ふむ。それはすまない事をしてしまった」


 カウンター席に座っていた女の子は、そう言って立ち上がると、ミヤに頭を下げた。


「我の魔力に驚いてしまったのだな。兄上から、動物は敏感だと聞いていたが、まさか本当だったとは」


「違うから。後、敏感とか言わないで下さい」


「どうしてですか?」「え?」


 何故、敏感と言ってはいけないんですか?とたずねてきたのは、玲奈であった。


「フ、フ、フ。我も教えてほしいのぉ」


「そ、それは・・・その・・」


 玲奈は満面の笑みであり、本当にどういう意味なのかを聞いているのだろうが、右手で右眼を隠すようにし、不敵な笑みを浮かべるこの子は絶対にどういう意味かを理解しているに違いない。


「ほれ?どうした?意味を聞いておるのだぞ?答えてみよ」


「し、知らないわよ!!」


 バン!!っとカウンター席を叩いたりのであったが、後悔する羽目になる。
 厨房から、バーバラが出てきた所に出くわしてしまったのだ。


「・・・ち、違うんです!」


「何が違うんだい?」


 低い声で返事をするバーバラの声を聞いたりのは、心臓を握られているような気分になった。
 サッサッと、左右に首を向けるりの。
 さっきまで喋っていたハズの二人は、メニュー表を眺めていた。


(は、薄情者)


 絶対、注文しないでしょ!とツッコミたいりのであったが、バーバラの視線が痛い。
 何か言わなくてはマズイと、りのは考える。


「む、虫です虫!残念ながら逃しちゃいました。あははは。」


 右手を挙げ、左手は頭の後ろに回してりのはテーブルを叩いた理由を述べた。
 綺麗な手を見せて、潰してないアピールも忘れない。


「ほほぅ。ウチの店は虫が出る店だと言うつもりかい?」


 バーバラの視線が、更にキツイ視線へと変わる。
 どう見ても怒ってらっしゃる。
 心臓はバクバクであった。


「し、失礼しました!」


 りのはこの空気に耐えきれず、深々と頭を下げ、店内を出る事にした。
 何も食べたりしていないのだが、100Gをカウンター席に置いていく。
 お水代だと思えばいいだろう。


「待ちな!」


 りのがカウンター席に背を向けた所で、バーバラから声をかけられてしまった。
 どうする?聞こえなかったフリをして、店を出るか?しかし、そうなるとこのお店に来づらくなってしまう。
 りのは、ビクビクしながらも、ゆっくりと後ろを振り返った。


「100G払ったんだ。コレを持っていきな」


 ドン!と、カウンター席に風呂敷が置かれる。


「あ、でも、そんな・・いただけませんよ」


「気にする事ニャいニャ。こう見えてバーバラは昔冒険者だったのニャ」


(こう見えてって言われても)


 どう見ても、冒険者にしか見えない。
 ミヤの説明を聞くりの。
 バーバラは昔、冒険者をやっていたらしく、冒険者にはとにかく優しいのだという。
 特に、女性のパーティーなら、なおさらなのだとか・・。


「余計な事を喋るんじゃないよ!全く。いいかいアンタ達!」


『イェッサー!』


「・・まだ何も言ってないよあたしゃ」


 いいかい?とそんな声で聞かれたら、はいとしか言えない。
 三人はビシッと、敬礼のポーズで返事をした。


「生きてまた、ここに来な」


『は、はい!』


 そう言い残して、バーバラは厨房へと引っ込んでいった。
 ミヤは楽しそうに笑う。
 久しぶりにバーバラの、楽しそうな顔が見れたと。
 そ、そうなんだ・・とりの達は思ったが、楽しそうに笑うミヤを見て、さっきまでの自分達の行動を思い返してみて、とてもおかしな気持ちになる。


「あ、アナタ達よくも私をはめたわね」


「はめてなどいませんよ?」


「うむ。いきなり虫だとか言いだしたのでな」


「注文しないのに、メニュー表を眺めていたと?」


「しょ、しょうがないじゃないですか」


 そんな事を言いあって、ミヤと一緒に楽しく笑う。


「うるさいよ!とっとと出ていきな!」


「ご、ごめんなさい」


 厨房から聞こえてきた、バーバラの怒声。
 慌てたりのはカウンターの風呂敷を、バッと取って店を出ようとし、二人は後に続く。


「りの!」


 慌てる三人を、店の出入り口でミヤがお見送りをしてくれた。
 右手で自分の尻尾を掴み、クルクル回すミヤを見たりのは、思わず笑みがこぼれてしまう。
 右手を挙げて左右に振りながら、りのはミヤに挨拶をする。


「ミヤ!約束!」


「解っているニャ。約束を守る為にも、必ず触りに来る事ニャ」


 それは、別れの挨拶ではなく再会の挨拶。
 尻尾を触らせてやるという約束を、お互い忘れてはいない。
 それは、約束を果たす為にも、またここに来いという新たな約束である。


 空は快晴、絶好の冒険日和であった。


 ーーーーーーーーーーーー


【6】天龍寺葵は〇〇である


 ミヤと別れたりのは、鼻歌を奏でながら街の外を目指していた。
 お金がない以上、この街にいてもやる事がない。
 訳の解らない所に来てしまい、最悪だと思えば、ミヤとの出会いで、来て良かったかもと思うりの。


「た、楽しそうですね」


「我等が仲間になったのが嬉しいようだな」


 りのの少し後ろで、二人の会話が聞こえてくる。
 りのは慌てて、後ろを振り返った。
 驚いた表情をするりのを見て、不思議そうな顔をする二人。


「何でついて来てるの?」「え?」


「ク、ク、ク。お主はいらないと言っておる」


「そ、そんな・・やっぱりパンティーを」


「いらないわよ。そうじゃなくてあなたよ、あなた」


 玲奈がついてくるのはわかるが、もう一人の女の子がついてくるのは謎であった。


「ク、ク、ク。汝らが、我の力を欲していると聞いたものでな」


「欲してません」


「け、喧嘩はダメですよ!ラブ&ピースです」


 右手を真っ直ぐ伸ばし、左手で右眼を抑える女の子に、りのは両手を腰にあてて返事を返した。
 二人の空気を感じとった玲奈は、二人の間に入って、ニッコリ微笑む。
 喧嘩をしている訳ではないが、喧嘩しないでと言われてしまった以上、これ以上は何も言わない方がいいだろう。
 りのはそう判断して、アリアを呼んだ。
 しかし、寝てしまっているのか、アリアからの返事はなかった。


「と、とにかく、街の外にでましょう」


 街の出口に近いという事もあり、話しはそれからする事にした。


 ーーーーーーーーーー


 街の出口で、看板を目にしたりのは、看板に目を通した。


 "いってらっしゃい!またのお越しをお待ちしてます"


 そんな看板や"ここから先、ダイダス平原"という看板などを目にする。
 辺りをキョロキョロ見渡すりのは、モンスターがいない事を確認する。
 二人は訳も解らず、りのを見ていた。


「大丈夫そうね・・よいしょ」


 りのは安全を確認すると、バーバラからもらった風呂敷を広げ、中身の確認をする。
 りのの予想通り、中身は食べ物であった。
 どう見ても100Gでは買えないだろう。
 バーバラの温かさを噛みしめるりのは、二人に声をかけた。


「とりあえず、コレをつまみながら、少しお話しをしない?」


 一人で食べるには量が多い。
 それに、ジーっと見られながら一人で食べるのは、何だか心苦しい。


「そうじゃぞ。遠慮する必要は・・ない・・肉・・はワシ・・のじゃ」


「アリア起きたのね」


「ワシは最初から・・おき・・て・おったわい」


「食べながら喋らないで」


 ムシャムシャとハムらしき物を食べながら喋る妖精に、軽く注意をしてから二人を手招きする。


「あ、あのぉ。さっきから気になっていたのですが、それはラジコンか何かですか?」


 りのに勧められた二人は、地面に座るのだが、玲奈がアリアを指さして、質問をしてきた。
 おもわず顔を合わせるりのとアリア。
 まずはそこから始める必要があるようだ。


「とりあえず、自己紹介から始めましょう」


 りのは、玲奈の質問には答えずに、お互いの事を知る所から始める事にした。
 約一名、名前も知らない子がいるのも、その理由の一つでもある。


「私は水瀬みなせりの。信じてもらえるか解らないけれど、日本という国で、アイドルをやらせてもらっているわ」


 日本という国と、あえて表現したのは、ここが異世界だからであった。
 何故なら玲奈ではない、もう一人の女の子が異世界の住人かもしれないからだ。
 りのは続ける。


「2月14日の日に、ゲームのアフレコの仕事をする為に秋葉原に来てたんだけど、気付いたらこの世界に来てしまっていたの」


 この世界に来てしまったと、再三ここは異世界だとアピールする。


「そこで知り合ったのがこの子よ。名前はアリア。見ての通り妖精で、アリアが言うには、日本に帰る為には、この世界の魔王を倒す必要があるらしいわ」


 りのに紹介されたアリアは、食べるのに夢中で、特に挨拶はなかった。
 りのの言葉を聞いていた二人は、顔を見合わせた。


「やはり、私の目にくるいはなかったようですね」


「ク、ク、ク。我が同胞よ。何も心配などせんで良い」


 二人はそんな会話をしている。
 ため息をつきたい気分であるが、気持ちは解らなくもない。
 いきなり異世界に来てしまったなどと言われて、そうなんですか!となる方がおかしい。
 若干、嫌、かなり仲間意識を持たれているのは、気のせいであってほしい所である。
 そんなりのに、玲奈が手を挙げて質問してきた。


「りののその格好は何のコスプレですか?」


「・・コスプレって。コレはステージ衣装よ」


 赤いチェック柄、黒いハートが刺繍されており、黒い靴下は膝下まである。
 中は水色のワイシャツで、青いネクタイをしめており、ポニーテールに結んでいるこの姿が、TVなどでの"アイドル水瀬りの"本来の姿である。


「とりあえず、次は玲奈の番ね」


「は、はい。私は神崎玲奈かんざき れなといいます。歳はりのと同じ17歳。私も秋葉原という街で、コスプレイベントに参加していた所、気付いたらここにいました」


「質問いいかしら?アンケートを書いたって言ってたけど、どんなアンケートだったの?」


 りのは手を挙げて、玲奈に質問をする。
 自分はアンケートに答えた後に、この世界にやってきた。
 それならば玲奈もまた、アンケートに答えたらこの世界にやってきてしまった可能性が高い。
 何より、りのは最後の質問にアイドルと答えたら、魔王を倒すのにアイドルで挑むという、訳のわからない事になってしまっている。
 もしも玲奈が、コスプレイヤーと書いていたらと思うと、気になって仕方がない。


「アンケートですか?普通ですよ。住んでる所やスリーサイズとかですけど」


 りのの質問の意味が解らず、首をかしげる玲奈。


「・・職業とか、そう言った事は聞かれなかったの?」


 スリーサイズも気になる所だが、今はそれ所ではない。
 りのの質問に、玲奈は静かに首を振る。
 どうやら、聞かれていないみたいであった。
 そっかと一言伝え、アゴに手をあてて考えるりの。


「フ、フ、フ。真打ち登場ってヤツだな」


 赤いマントをひるがえし、バッ、ババババっと色々なポーズをとる少女は、高らかに名乗りを上げた。


「赤き漆黒。闇の恩恵を授かりし我の真の姿は漆黒の堕天使!操りし魔物は天に龍と書いてドラゴンヘブン!」


「・・・。」


「ク、ク、ク。なんじが我の力を求めるのも無理はないことよ」


「・・・。」


「我が名はユーシスティス。この世界を救う者である」


「・・・で?本名は何?」


 どう見ても日本人だし、日本語ペラペラだし、ユーシスティスなんて偽名としか思えない。
 りのは冷たい眼差しを向ける。


「愚かなり。我はたった今名乗ったばかりだというのに・・やれやれだな」


 イラッとしたりのは、真面目な話しをしているんだからと、注意をしようとしたのだが、ユーシスティスと名乗った少女に、熱い眼差しを向けながら立ち上がった玲奈に、遮られてしまった。


「いい、凄くいいですよ」


「ほほぅ。どうやら汝は見る目があるようだ」


「・・・。」


 ガッシリと握手を交わす二人を、りのは無言で見つめていた。
 コスプレイヤーである玲奈の心に、つきささる何かがあったのだろう。


「その腰ぐらいまでのマントが、萌ますね」


「ふははは。コレは魔力を解放している証。我が魔力を解放している時は、真っ赤にるのだ」


「ふ、封印したら、ど、どうなるのですか!」


「ほしがりちゃんめ。特別に見せてやろう!」


 ニヤリと口元をゆるめ、術式封印!と唱えると、ユーシスティスは、サササとマントを脱ぎ、裏返して着た。
 何回も練習しているのか、手慣れた手つきである。


「我は闇と契約した漆黒の堕天使」


「な、なるほど。だから黒なのですね」


 闇と契約しているからなのか、真っ黒なマントを羽織り、中も全身真っ黒な服であった。
 髪も黒く、一つ結びにしている髪は腰まで長い。
 真っ黒なマントは、術式を解放すると、真っ赤なマントへとかわる。
 ユーシスティスの様子を見ていた玲奈は、納得したようであり、そんな二人のやりとりをりのは、遠い目で見ていた。


 ーーーーーーーーーー


 盛り上がる二人に、頭を抱えるりのは、アリアに助けを求めた。
 魔王を討伐する所ではない。
 まずは、ここが異世界だという事を自覚してもらわなくては話しにならないと、りのはアリアに説明して頭を下げた。
 アリア自身も、魔王を討伐しなくてはマズイ為、大好きな食事を中断してでもと、りのに協力する事を決意する。


「盛り上がってる所、申し訳ないのだけど、ちょっとコッチに来てくれる?」


 りのは二人を手招きして、自分の前に座るようにし、アリアにお願いと伝える。
 アリアはうむと一言いうと、親指と人差し指で丸を作り、その穴から玲奈を除き込んだ。


「神崎玲奈。歳は17」


「は、はい!」


 アリアに名前を呼ばれ、背筋をピンと伸ばして返事をする。


「ふむ。住んでる所は東京都・・。趣味はミシン縫い。特技はき、決めポーズとはなんじゃ?」


「ど、どうして解るのですか!?」


 玲奈は驚いた表情を見せる。
 それは、アンケートに書いた内容と一致していたからであった。


「決めポーズってアレかな?」


「うむ。しかし、恥じる事はない」


 りのの質問に、当然!といいながらユーシスティスが答えた。
 きっとこの子も、決めポーズを練習しているのだろうと解釈した。


「アリア。この子の職業は何?」


 ずっと気になっていた質問を、アリアにぶつける。


「う、うむ。魔法・・「魔法使い!?」


 魔王を討伐するのに、まともな職業の人が仲間になってくれたとなればそれは心強い。


「嫌違う。コヤツは魔法少女じゃ」


「・・・ハイ?」


 チラっと玲奈を見ると、不思議そうな顔をしていた。
 何か問題でも?と言っているように見えた。


「れ、玲奈。と、とりあえず、お、落ちついてコッチにき来て」


「りのが落ちつきなよ」


 とりあえず、玲奈の事は後回しだ。
 りのは自分の隣に玲奈を座らせた。
 自然と玲奈の手を握ってしまったのは、無意識であり、りのの手が震えている事に気づいたのは、玲奈だけであった。


「アリア。この子もお願い」


 ユーシスティスと、名乗る女の子は私達と一緒で、異世界に飛ばされて来たんだと決めつけて、アリアに見てくれるようにお願いするりの。


「うむ。名前は天龍寺葵てんりゅうじ あおい。歳は17じゃな」


「・・ど、どうして知っているの」


「趣味は魔界探索。ちゅ、ちゅうにやまいにかかっておるのか?」


「!?わ、我は闇に生きる漆黒の堕天使。やまいなどにはかからん」


「ちゅうにびょうね。それは大した病気じゃないから気にしないでいいわ」


 りのはアリアに、職業を見てとお願いする。


「ふむ。天龍寺葵の職業は・・。」


 ゴクリと息をのむ。


「正義のヒーローじゃ」


「・・・ハァ」


 深いため息とともに、哀しい瞳で天龍寺葵を見つめるりのであった。


 次回第1章4  天龍寺葵は正義のヒーローであって中二病ではない



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