水瀬りのはアイドルであって異世界を救う者ではない
第1章2 神崎玲奈はコスプレイヤーであって魔法少女ではない。
【3】はじまりの街
「無理!魔王討伐なんて絶対無理だから!」
りのは首をブンブン横に振りながら、アリアに無理だと伝える。
りのとアリア目の前には、殿様かえるとの激しい?戦闘の後が広がっていた。
地面はえぐれ、所々に小さな穴があいている。
その光景を目の当たりにしながら、アリアが呟いた。
「ワシの魔力もこの戦闘で、だいぶ減ってしまったわぃ。して、お主は何なのじゃ?」
アリアはりのの肩の上で、グデーっと倒れている。
先ほどの戦闘で、疲れてしまったからであった。
先ほどの戦闘では、アリアの魔法で殿様かえるの動きを止め、りのが一生懸命蹴る。
これを数十回ほど繰り返すと、殿様かえるは身体から、白い煙をあげて薄ーくなって消えていった。
この戦法は、ヒットアンドアウェイという闘い方であり、攻撃したら一度離れ、また攻撃しに行き、また離れる。
これを繰り返すのだが、この戦闘のおかげで、二人とも精神共にクタクタであった。
「はぁー。とりあえず、チュートリアルに戻るとしよう。さっきの続きじゃ・・タップを唱えよ」
「私の話し、聞いてた⁉︎」
「聞いておったわ。それよりもじゃ、死にたくないならきちんと聞いておいた方が身の為じゃぞ」
アリアはりのにそう告げると、りのの右手首付近へと飛んでいく。
死ぬという単語が聞こえ、りのはしぶしぶ「タップ」と、唱えた。
「良し!よいか?ここがお主の経験値というやつであり、またお主のステータスというやつじゃ」
右手首に座っていたアリアは右手を挙げ、りのに色々説明していく。
「ね、ねぇ?力も魔力も少ない気がするけど、レベル1だからなの?」
「・・・解らん。このようなステータス、見たことがないわい」
「・・・いい意味で?」
「んな訳あるか!」
「ですよね・・・。」
りののステータス。
攻撃力・・・10
防御力・・・10
素早さ・・・50
魔   力・・・10
可愛さ・・・25
MC力・・・3
女子力・・・0
「ちょっと待って‼︎この可愛さとか女子力とか何⁇って言うか、MC力って何よ‼︎」
「だから言うておろう。見た事がないと。しかし、女子力0ってなんじゃ」
「し、知らないわよ!」
女子力がないと言われてしまったりのは、顔を赤く染めた。
アリアの視線が痛い。
「まぁ良い。魔法使いでないなら武術家か、賢者か何かじゃろ?どれ、職業を見てやろう」
そういうと、アリアは右手の親指と人差し指で、丸を作り、その穴からりのを除きこんだ。
「どれどれ。職業は・・アイ・・ドル・・何じゃ貴様!」
「何じゃ貴様って何よ!アイドルはアイドル。現役女子高生アイドル水瀬りのよ!」
「して、そのアイドルとやらで、魔王を倒せるのか?」
両腕を組み、ん?っと目で訴えるアリア。
しかし、流石に黙ってはいられないりの。
「ちょっと待って!魔王を討伐してほしいのなら、どうして勇者とか魔法使いとかにしてくれなかったのよ。それは私のせいじゃないわ」
魔王を討伐してほしいのなら、最初からチートスキルの一つや二つ、ポンっと用意しときなさい!っと、りのは心の中で呟いた。
「お主が選んだんじゃろ?」「えっ?」
「ワシはお主を呼ぶ前に、色々と選ばせたはずじゃぞ」
(私が選んだ?一体何を言っているの?)
アリアが言っている言葉の意味が解らず、固まるりの。
「なんじゃ?覚えておらんのか?どれ、確か・・」
アリアはそういうと、右手人差し指でこめかみ部分に指をあて、何やらブツブツ呟いた。
「水瀬りの17歳。東京都に住んでおり、スリーサイズは上から7「ちょっと待って!」
りのはアリアに向かって、右手を真っ直ぐ伸ばし、待ったをかけた。
「どどど、どうしてそれを知ってるの?」
「どうしても何も、お主が教えてくれたではないか」
アリアの言葉に、固まってしまうりの。
何故初めてあうアリアが、この事を知っているのかという疑問に、一つだけ心あたりがあった。
りのが迷った挙句、入ったあの部屋である。
「じゃ、じゃぁ最後の職業を選んで下さいっていう質問は・・。」
「勇者、賢者、魔法使い、僧侶、武術家など、魔王討伐するにあたっての職業じゃ」
「ちょちょ、ちょっと待って。じゃぁ私が選んだアイドルって・・何?」
「だ・か・ら。さっきから言うておろう。アイドルとやらで、魔王討伐なんてできるのか?と」
アリアの言っていることが本当であるならば、アイドルを選んだのはりの自身である。
しかし、最後の質問の意味が、そういう意味だということをりのは知らなかった。
「そ、それなら、ちゃんと書いておくべきじゃない!魔王討伐の事や、職業の意味についても」
可笑しな話しだ。
魔王討伐の事や職業の意味が書かれていたならば、自分はこんな所に絶対来ない。
いきなり訳も解らない所に連れてこられ、挙句には魔王を討伐しないと帰れないなんて、そんなバカな話しがあるか。
りのは力説する。
魔王討伐なんて無理だから、お家に帰りたいという思いとともに。
「・・書いておったハズじゃぞ」
「書いてなかったわよ!」
ここは譲れない。
書いてあったなら、自分はこんな目には合わなかったはずだ。
りのは両手を腰にあて、アリアに向かってそう告げた。
するとアリアは、そ〜っと後ろを向き、ボソボソ呟いた。
「か、書いてなかったかのぉ?」「ない!」
りのの視線が痛い。
じーっと見つめていると、アリアはプルプル震えだした。
くるっとりのの方を向き直し、アリアは涙目になりながら、りのに語りかけた。
「し、仕方がなかったんじゃ。誰にだってミ、ミスはあるものじゃわい」
右手で涙をぬぐいながら、プルプル震えている妖精を目の前にして、りのの頬が赤くなる。
(か、可愛い・・・ダメダメ!それとこれとは別問題よ)
可愛いから許される問題ではない。
自分の人生が、かかっているのだ。
「誰にでも、ミスはあるかもしれないけど、今回のは、ミスしましたで済む問題じゃないわ」
すると、アリアは下を向いた。
りのの右手首に、冷たい雫が落ちてきたのを、りのは感じとった。
「す、すまんかったのぉ」
ポツリと呟かれる、アリアの謝罪の言葉。
思わず抱きしめたくなるりのは、アリアに告げる。
「許す!!」
(か、可愛いすぎなんですけど‼︎後ろから思いっきりハグしたいんですけど)
両手をブンブン縦に振り、ダメダメそんな事できないと、首を横に振るりの。
ギュッなんてしたら、アリアが死んでしまう恐れがある為、我慢、我慢と、りのは悶える。
両目を瞑ってしまった為、アリアの口元がニヤリとしていた事に、りのは気づかなかった。
(か、可愛いは正義‼︎)
(かかったな)
ニッコリ微笑みあう二人の女の子。
しかし、気持ちは全く違っていた。
雑談のおかげで、体力が少し回復したりのとアリアは、これからについて話しあう事にした。
「とりあえず、さっきの戦闘で疲れたから、どっかで休みながら喋りましょう」
(できるならシャワーを浴びたい)
「そうじゃな。さっきの戦闘でお金も入ったし、街に入ろうぞ」
(できるならお肉を食べたい)
やはり、二人の気持ちはバラバラであった。
ーーーーーーーーーー
別名、はじまりの街と呼ばれるこの街の本当の名は、ダイダスと呼ばれる。
しかし、ダイダスという名は、可愛いくないということで、街の人々さえも、はじまりの街と呼ぶようになった街らしい。
街の入り口の門を潜り抜けながら、アリアと雑談するりの。
イタリアにありそうな、オシャレな門であった。
雑談をしていると、あちらこちらに看板があり、看板には、ようこそ!はじまりの街へ!と記されていた。
中にはその下に、旧ダイダス通り!と書かれているものもあった。
「可愛いくないからって、街の名前を呼ばないなんて、ちょっと可哀想じゃない?」
「インパクトの問題じゃろ」
「あっ。なるほど・・」
アリアの返しに、アゴに手をあてながら納得するりの。
ようこそ!ダイダスへ!と、ようこそ!はじまりの街へ!では、確かにインパクトが違う。
深夜の通販番組や、広告などによく使われる殺し文句である。
(噂ではその昔、象が踏んでも壊れない筆箱!という殺し文句がついた筆箱が、あったとかなかったとか)
実際に、象に踏ませて実験をしたのだろうか?
気になったりのは、携帯で調べる事にした。
携帯、携帯、携帯と、りのは胸ポケットから腰ポケットに手をあて、スカートへと手をあてる。
「ね、ねぇアリア?私の携帯知らない?」
「知らん!それよりもりの!アレ食べたい」
チラっとアリアがいる方、りのの左肩の上を飛んでいるアリアに目を向けると、アリアは人差し指をくわえ、目を輝かせながら、ヨダレを垂らしていた。
「し、知らないじゃないわよ!」
これは一大事である。
アイドルである、嫌、芸能人である自分の携帯が
紛失したのだ。
一応、ロックはかけてはいるのだが、携帯がそばにいないと、不安になってしまうし、事務所の先輩方の個人情報も入っている。
お風呂の時もトイレの時も、寝る前でさえ、肌身離さず持ち歩いている携帯が、自分の元にいないのだ。
「け、警察署に行くわよ!」
「警察⁇食べ物か?」
聞きなれない単語ばかりでてくる。
アリアはちょこんと首をかしげながら、りのにたずねた。
「食べ物じゃないわ。まぁ国の治安を維持する人達って所かしら」
正確には、刑事係、地域課、交通課、爆弾処理班などなど、警察と言っても、一言ではいい表せない。
しかし警察官とは、部署や職種が違えど、気持ちや、やる事は同じはずだ。
りのはアリアにざっくり説明し、警察署を探そうと提案する。
「迷子よ迷子!全くもう。何処に行っちゃったのよ」
「生きておるのか?」
「あははは。携帯は機械よ?生きていないわ」
ならば、携帯は何処にも行かないはずだ。
キョロキョロ辺りを見渡すりのに対し、アリアはため息を少し吐き、りのに告げる。
「よく考えてみろ?そんな物はこの国にはないぞ」
「な、ないじゃ済まされないのよ」
アリアに、そう告げられたりのは焦った。
しかし、冷静になって考えてみたら、アンテナがない以上携帯は使えないだろう。
アリアと携帯について、話しあっていると酒場の近くを通りすぎる。
「とりあえずじゃ。ホレ。あそこで何か飲みながら考えればええんじゃないか?」
アリアは酒場を指差しながら、りのに提案をする。
チラっとアリアが指をさす方へ顔を向ける。
通行人に酒場だとわかるように、ビールみたいな絵が描かれた看板がぶら下がり、入り口には映画やアニメなどでよく見かける扉があった。
ドアノブや引き戸はついておらず、くぐり抜けると、両方に木の板が開くタイプの入り口である。
「ゆ、夢のようだわ・・。」
当然、アニメやマンガ好きのりのにとっては、一度でいいから行ってみたい場所にランクインしている場所であり、テンションは上がっていた。
ゆっくり、ゆっくりと、噛みしめるように入り口に近づくりの。
一つの夢が、叶った瞬間であった。
ーーーーーーーーーーーー
【4】神崎玲奈はコスプレイヤーであって魔法少女ではない。
『ガハハハハハ。それ!飲め飲め』
外はまだ、明るいというのに、酒場の中は盛り上がりをみせていた。
アニメやマンガで良く見るシーンであった。
テーブルの上には、見た事がない料理が並べられている。
りのは、目を輝かせ、高鳴る鼓動を感じながら、入り口付近でキョロキョロしていた。
2階建ての建物であるこの酒場は、2階は従業員の寝る場所らしく、階段には立ち入り禁止の紙が貼られ、天井は高く、3個のプロペラみたいなのがクルクル回っていて、とてもお洒落であった。
「いらっしゃいませニャ!一人ニャ?」
そんなりのに、ネコの耳をつけ、メイド服みたいなものを着ている、一人の店員さんが声をかけてきた。
声をかけられたりのは、深々とお辞儀をする。
「す、すいません!初めてなんです」
(うわぁーー。抱きしめたいんですけど)
「ニャ?それニャら、カウンター席で色々教えてやるニャ。着いて来るニャ」
くるっと、りのに背中を向けたお姉さん。
お姉さんの背中を見たりのの目は、輝きを放っていた。
フニャフニャと揺れる尻尾。
まるで、猫じゃらしのような動きを見せるその尻尾に、りのの両手はゆっくりあがり、尻尾が右にいけば右を向き、左にいけば左を向く。
カウンター席までの間に、生まれる葛藤。
(マズイ。マズイ。マズイ。ズイマー)
上半身だけ、右、左、右、左と、動き回っているりのを見て、アリアは後ろの方で、深いため息を吐いた。
「触ったら罰金ニャ」
りのの怪しい?気配を感じとったお姉さんは、りのの方を振り向く事なくそう告げた。
「・・・⁉︎」
ビクッと固まるりのは、少し考えた後、お姉さんに声をかける。
「い、いくらですか?」「オィ‼︎」
ふるふるしながらも、お姉さんに声をかけたりのに対し、アリアはりのの右の頬をペシっと叩いた。
尻尾を触ってお金を払うぐらいなら、お肉を買ってくれという思いとともに。
「じょ、冗談よ」「・・・。」
あはははっと笑うりのに対し、アリアはじーっと見つめる。
そうこうしている内に、カウンター席に着いたらしく、お姉さんがくるっとこっちを向いた。
「ここニャ」
そう言うと、カウンターの中に入って行く。
りのが、座ろうかどうか迷っていると、カウンターから何かを持って戻ってきたお姉さん。
「私はミヤっていうニャ。ニャにかわからニャい事があったニャら、遠慮ニャく言ってくるニャ」
そう言いながら、りのに何かを手渡して来た。
受け取った物を見て、りのは直ぐにどういう事なのか察しがついた。
「す、すいません。ここに働きに来たんじゃないんです」
「ニャ?」
深々とお辞儀をし、受け取った制服を両手で持ちながら、制服をお姉さんに返す。
「初めてって言うのは、ここに来たのが初めてと言う意味でして・・。」
りのはここまでの経緯を、ミヤに話した。
勿論、異世界から来たなどとは信じて貰えないだろうし、異世界とは?と聞かれたら言葉に詰まってしまいそうだった為、異世界の事は伏せる。
「ニャるほどニャ。ニャら、りのは魔王を倒す為に、ここに来たと言う事ニャ?」
「う〜ん・・まぁそんな感じです」
何かちょっと違う気もするが、とりあえずうなずくりの。
「魔王がここにいるとは、驚きニャ」
そう言うと、辺りをキョロキョロ見渡すミヤ。
一卓、一卓ずつ顔を向け、ギロリと睨みつける。
当然、睨みつけられたお客達からしたら、いい気はしない。
「なんだ?何を睨みつけていやがる!」
一人の男が、ジョッキをドンっとテーブルに置き、ミヤに向かって歩きだした。
(アレ?何か・・話しが違うような・・)
「かかったニャ。あの男が魔王ニャ!この店で呑気に酒を呑んでいた事を、後悔させてやるニャ」
爪をたて、カウンター席に向かってくる男を警戒するミヤ。
当然、りのは焦った。
「ま、待って下さい!ミヤさん!」
ミヤの元に駆け寄り、耳元でボソボソと説明するりの。
フニャ?っと言うマヌケな声と共に、若干顔がひきつるミヤ。
男は、もうすぐ目の前まで来ていた。
「さ、さてニャ。ドリンクでも作るとするニャ。りのはアイツを頼むニャ」
「な⁉︎無理ですよ!」
引き止めようと、ミヤの右腕を掴もうとするりのに対し、ミヤはウィンクしながらりのに話しかけた。
「後で、尻尾を触らせてやるニャ」
「ガッテンしょうちのすけ」
「・・・バカじゃ」
お姉さんに向けて親指を立て、グーっとしていたりの。
ハッ⁉︎とりのが我に返った時には、男はりのの目の前まで来ていた。
どうしようかと、アリアを見上げるりのだったが、アリアのお手上げポーズを見て、ですよねーっと悟る。
「す、す、すいませんでした!」
どう考えても、こちらが悪い。
悪いのならば謝るしかない。
子供でも解る事であり、りのが唯一この場でとれる行動でもある。
戦うなんて論外だし、説得なんて言っても、向こうが正しいのでまず無理だ。
ならば謝罪して、許してもらうしかない。
「オィオィねえちゃんが謝る事じゃないだろう?」
ミヤが因縁をつけてきたから、この男はやってきただけであり、りのを責めに来たのではない。
「い、いえ。か、彼女は・・。そ、そう!友達です。友達がしてしまった事を代わりに謝るのは、間違えていないと思います」
そう言って深々と謝るりのを見て、何か戦う気が失せたと言わんばかりに、男は頭をポリポリかきはじめた。
「あ〜もうわかったから、顔をあげろや」
なんだか、弱い者いじめをしているみたいで、後味が悪い。
男は、りのに顔をあげるように言うと、何でこうなったのか、怒らないから話すように言ってきた。
この男の人は、紳士な人だとりのはこの時思った。
(人を見かけだけで判断するような、クソみたいな人間になるなって、お母さんに言われてたっけ)
モヒカンを見ながら、口元のチョビ髭をチラっと見ながら、ゴメンねモヒカンさんと、勝手にアダ名をつけていた。
これは職業病のようなものである。
アイドルである自分に対し、ファンは何とか自分を覚えて貰おうと、りのにリクエストをするのが、アダ名である。
りのはコレが苦手であった。
イジっていいのかの判断が難しいのだ。
気にしてる人も多いだろうから、無難なアダ名をつけるのだが、ここ、ここっと、ハゲアピールをするファンも少なくはない。
コレじゃぁ、バラエティーなんて無理だよと言う迷惑な、否、有り難いアドバイスと共に。
閑話休題、悪気はないりのは、モヒカンさんとは呼ばずに、ことのてんまつを話し始めた。
「ガハハハ。ねえちゃんが魔王を倒すだって⁇冗談だろ⁇」
若干、嫌、かなりイラっとしながらも、りのは悪いんですか?と、聞き直した。
倒さないと、家に帰れないりのにとって、倒す以外の選択肢がまずない。
「悪いも何も、Lv88の勇者だって敵わないヤツだぜ。行くだけ無駄さ」
ガハハと、笑うモヒカンの男。
格好からして戦士だろうと、りのは現実逃避気味に考えていた。
(ど、どうしろって言うのよ)
ギロリとアリアを睨みつけるように見るりのだったが、アリアはプイっと横を向いて、目を合わせないようにしている。
「・・ちょっと。話しが違うんじゃないかしら」
「・・ちょっと。じゃな」
「そのちょっとじゃないわよ!」
両手を腰にあて、りのの肩の上を飛んでいるアリアに文句を言う。
「だ、だから言うたじゃろ?バカな勇者が魔王にちょっかいを出したと」
「魔王を討伐しないと家に帰れないんですけど」
ギャーギャー騒ぐ事なく、ヒソヒソと話していた二人に対し、モヒカンの男は声をかけてきた。
「何なら、ウチらのパーティーに入れてやってもいいぜ。魔王討伐はしないけどな」
ガハハと笑うモヒカンの男。
酔っ払っているのか、紳士かもと思った自分の目を疑うりの。
「俺は戦士だ。他にも魔法使いとかまぁいるが、駆け出し冒険者故に、レベルはまだ10って所だな」
右手をアゴにあて、自慢話しのように語りだすモヒカン男。
「お前さんは、見た所魔法使いか何かか?」
「・・・ア、アイドル・・です」
下を向き、ボソボソっと呟くりの。
今更ながら魔王を倒すのに、アイドルという謎の職業が、恥ずかしくなったのだが、パーティーに入れてくれるというのは重大な事なので、嘘はつけない。
万が一嘘をついて、モンスターと遭遇した場合、死人がでてしまう恐れがあるのだ。
りのは、正直に打ち明けた。
「アイドル?何だそれは。お前さんまさか、本気で魔王を倒す何て事を、考えていないだろうな」
「・・・。」
「ガハハハ。面白れぇネェちゃんじゃねぇか。荷物運びをやるってんなら、連れて行ってやってもいいぜ。ガハハハ」
悔しかった。
アイドルという職業を、馬鹿にされている気分だった。
しかし、言い返す言葉が見つからない。
ここは日本ではない、異世界なのだ。
うつむき、唇を噛み締め、フルフル震えるりの。
震えているのは、泣いているからではない。
悔しかったからだ。
高笑いする男に対し、震えていたりのを救ったのは、よく冷えた水であった。
「つ、冷てぇ‼︎何しやがる」
モヒカン男が、水をかけられた方へと顔を向けた。
りのも、モヒカン男の声につられ顔をあげる。
そこには、鋭い目つきをした、ミヤの姿があった。
「友達を悪く言うニャんて、許せないニャ」
「な、何だと‼︎」
「魔王とか、アイドルとか、そんニャの関係ニャいニャ。お前はミヤの友達を傷付けたニャ。ここから無事に帰れると思わニャい事ニャ」
カウンター席から、りのとモヒカン男の間に割って入るミヤ。
鋭い目つきで相手を睨みつけるミヤに対し、モヒカンの男は両拳を、ゴツンと胸の辺りで鳴らす。
「面白れぇ。覚悟は出来てるんだろうな?」
「当然ニャ。りのに謝るまで、許さニャいニャ」
一触即発の雰囲気である。
りのは、二人をとめるべく、アワアワしながら駆け寄ろうとした、次の瞬間。
「・・グハッ」
何が起こっているのだろうか。
先ほどまで目の前にいたミヤの姿は見当たらず、モヒカンの男の悲鳴だけが聞こえる。
「チッ。オィ、テメェ達!手を貸せ!」
モヒカンの男は、先ほどまで自分が座っていたテーブルへと声をかけ、仲間を呼んだ。
「ったく。しょうがねぇなぁ」
三人の男が、面倒くさそうに席を立った。
だが、仲間が立ち上がったと同時に、ミヤが襲いかかり、立ち上がってすぐ座り直した。
正確には、ミヤによって座り直させられた。
「ま、マジかよ・・。」
流石に、モヒカン男も焦る。
油断していたとはいえ、仲間の三人が一瞬で倒されたのだ。
モヒカン男の頬を伝う汗。
一か八か、突っ込むしかない。
モヒカン男は覚悟を決め、カウンターにあった瓶を手に持った時である。
「こ・の・・・馬鹿たれがぁぁ!!」
モヒカンの頭が床にめり込み、両足が宙を浮く。
店内を、激しい音が響き渡った。
りのは、カウンター席に一番近かった所為もあり、両耳を思いっきり塞ぐ羽目におちいったのだが、あまり効果はなく、耳がキーンっと鳴る。
そんなりのの目の前に、上からミヤが降ってきた。
「ニャァ‼︎‼︎」
「ミ、ミヤさん!大丈夫ですか⁉︎」
大の字でバタンと落ちてきたミヤは、そのまま床に大の字で倒れており、ピクピクと震えていた。
ミヤが心配になり、しゃがみ込むりの。
「おぉう‼︎‼︎ここは何処だい馬鹿タレども」
そう言って、姿を現した人物に、りのだけでなく、その場の全員が震えあがる。
静まり返る店内。
「あぁーーん‼︎‼︎聞こえなかったんかぃ⁇」
ドスの効いた低い声は、迫力があった。
嫌、それ以前に、そこに現れた人物の外見に、迫力があった。
身長は2mを余裕で超えており、高さもそうだが、どっしりと構えた体格は、力士を連想させる。
「さ、酒を飲む所です」
一人のお客が、この空気に耐えられず、質問に答えた。
すると、質問をした人物は、質問を返した人物の方へ体を向け、答えを出す。
「違うわ!!馬鹿タレがぁぁ!!!」
「ひ、ひぃ」
「ここは、皆んなが楽しむ場所だよ。そんな事も解らないなら、出ていきな」
『す、すいませんでしたぁ!!』
その場にいた全員が(りのとミヤ、モヒカン男達を除く)一斉に立ち上がり、深々とお辞儀をする。
その光景に満足したのか、出て来た人物はミヤに話しかけた。
「ミヤ。アンタは一体何をやっているんだい」
「ニャにって、それはニャいニャ。バーバラが大声を出すから・・」
「あぁん!?」「ニャんでもニャいニャ」
「だったら、働きな。アンタの仕事は何だい?」
「お客様を楽しませる事ニャ」
「だったら、遊んでないで仕事しな」
「了解ニャー」
バーバラと呼ばれた人物はそう言い残し、カウンターの奥、厨房へと戻って行く。
残されたミヤは手慣れた手つきで、モヒカン男達を店の外へと放り投げた。
勿論、お金が入っている袋を取ってからである。
ーーーーーーーーーーーーー
モヒカン男が潰された床は、穴があいてしまっている。
これでは危ない為、ミヤは直そうとする。
それを見たりのは、手伝うよとミヤに声をかけたのだが、お客様にそんな事はさせられないと、断られてしまった。
仕方なくりのは、ミヤに案内されたカウンターに座り、メニュー表を眺めていた。
流石に、何も注文しないで出て行けないし、まだお礼を言っていない。
とりあえず、100Gで買える食べ物を頼んで、飲み物はお水で済ませようと、メニュー表と睨めっこしていると、声をかけられている事に気が付いたりの。
メニュー表から、ひょこっと顔をだすと、そこにはフリフリの水色のゴスロリ服を着た、可愛らしい女の子が立っていた。
「あ、あの・・・魔王を・・討伐する旅に出られるの・・ですか?」
ボソボソっと呟かれる言葉。
(・・・可愛い)
髪の毛の色も服に合わせてか、水色であり、ツインテールなのが、最高。
身長は150㎝ないだろう・・胸は・・良し!勝ってる。
りのが、わりかし失礼な事を想像しているなどとは思いもせず、その少女は告げる。
「か、神崎玲奈っといいます。良かったら、私と・・パンティーを組みませんか?」
「・・・・ハイ?」
神崎玲奈という少女との、初めての会話であった。
次回第1章3 中二病は世界を救う
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