アイドルとマネージャー

伊達\\u3000虎浩

第3章 雪物語その壱…⑥

 話しは現在に戻る。


 長々と雪の話しを聞いていためぐみは、はぁ…っと、小さいため息を吐いた。


 つまり雪達は、ファンクラブのイベントが今日あるらしいのだが、どうやらイベント会場を間違えてしまった。という話しである。


 いや、正確には、間違えた住所を教えられてしまった為、間違えさせられたが正しいのかもしれない。


 たったそれだけの話しだというのに、信号待ちの時に手を振ったら無視されただの、パンケーキだのと、まるで恋人がいる友人の愚痴のような内容であった。


 恋人がいないめぐみ。


 だから、イライラしてしまったかどうかは定かではない。


「早い話し、会場を間違えたんでしょ?」


「ま、間違えたと言うか、何というか…」


「何というかも何も、実際、間違えてるじゃない」


 いい訳をするなと、ピシャリと告げるめぐみ。


「う!?そ、そうなんだけど…ごめんなさい」


 ナビをしたのは雪である。教わった通りの場所をナビしただけであり、間違えたのは自分の所為ではないのでは?と、雪は思っていた。


 しかし、めぐみの発するオーラというか空気というか雰囲気を察した雪は、謝罪する事にした。


「…まあ、いいわ。で?間に合うの?」


 納得せずに謝まられても…と、思っためぐみだが、ここで口論しても仕方がないだろう。


 それに、時間もないだろうし。と考え、めぐみは我慢する事にした。


 本来であればここで別れても良かったのだが、このまま別れた場合、間に合ったかな?などと気になってしまうし、それに何だか後味が悪い。


 乗りかかった船だ。


 最後まで見届けてから帰るとしよう。


 そう考えた。


「じ、時間…」


 あわあわわと、携帯で時間を確認する雪。


 そんな時であった。


「ヒュ〜。YOー姉ちゃんだちぃ。もしかしてヒマ?」


「俺らと遊ぼうぜ」


 ガラの悪い二人組みの不良に絡まれてしまう。


 姉ちゃん?は?だちぃって何だよ(笑)死ね。


 と、めぐみは心の中で呟いた。


 ナンパしてる暇があれば、まずはその髪と口元のピアスを何とかしてきなさい。と、心の中で呟くめぐみは、プイッと相手に背中を見せる。


 ナンパされた場合の対処法はいくつかあり、最も適切な対処方法は無視する事だろう。と、めぐみは考えていた。


 急いでいるんで。と、答えた場合。


「じやぁ、車で送ってってやるから乗りなよ」


 と、返される可能性がある。


 やんわり断ってるって、気づきません?笑


 彼氏がいるんで。と、答えた場合。


「へぇ〜。まぁ、いいっしょ」


 と、返される可能性がある。


 よかねぇよ!!馬鹿なんですか?笑


 つまりこういった場合は、何か答えると駄目だという事だと、めぐみは考えている。


「チッ…無視かよ」


 は?舌打ち?死ね。


 と、内心思いながらも、めぐみは無言を貫いた。


 男達に背を向けながらそっと目を開けると、ブルブル震えている雪の姿が目に入ってくる。


(はぁ…。ホント、男ってバカばっかり)


 好きな女の子をいじめたりだとか、スカートめくりだとか、アレは子供だから許される行為であって、大人がやれば、どれも犯罪行為である。


 女の子の気をひきたいのであれば、もうちょっと考えた行動をすれば良い。


 スカートがめくりたいなら、スカートを買って、自分の部屋で密かに…って、キモチ悪いか 笑。


 さて、どうやら雪はこの手の対処方法を知らないか、もしくは、芸能人だと気づかれる恐れや、芸能人としてモメごとは避けたいと考えているのかもしれない。


「ほら、あっち行こ」


 ならばここは私が、何とかしてあげなくてはと、めぐみは雪の右手を掴んで、その場を離れようとした。


 しかし…。


「おっと。待ちなよ」


 両手を広げ、前方に回り込む男A。


 後ろを振り向けば、口元を緩める男B。


「別に何かしようってぇ〜わけじゃないんだぜ?」


 ヒヒヒ。と、笑うその声が、心底キモチ悪い。


 誰か!!と、周りを見渡すも、通行人のほとんどは、顔を合わせようとはしなかった。


 しかし、その行為をめぐみは非難できずにいる。


 困っている人に手を差し伸べるだけの優しさが、勇気が、果たして貴方じぶんにはあるだろうか。


 世の中の人間全てが、そんな行動がとれるのだとしたら、この世界から犯罪は無くなるのではないだろうか。


 実際問題、悲しい事に、犯罪は起きてしまっている。


 つまり、それが現実である。


 自分には関係ない。


 きっと、若い男女の遊びのようなものなのだと、いい方へと解釈しているのかもしれない。


 ならば、助けて下さいと、一言そう言えば、助けてくれるのだろうか。


 助けて下さいと、一言そう言えれば、どれだけ楽な事か。


 ソレを口にしてこの男達が、逆上でもしたらどうする?


 そう思うと、口には出来ない事なのである。


 さて、そんな事を考えている場合ではない。


 何とかしなくては、と、めぐみが考えていたその時であった。


「すいません。すいません。おい、駄目だろ?待ち合わせ場所で待ってなきゃ」


 と、声をかけてきたのは、先ほど電話してくると告げた、あの男しゅうじである。


 正直に言うと、がっかりだ。


 だってそうでしょ?


 その言い方だとまるで、絡まれたのは私達が待ち合わせ場所で待っていなかったら。という事になり、私達が悪いみたいではないか。


 ていうか、こういったのって、少女マンガとかでよくある展開でしょ。


 わかるわよね?


 ーーーー絡まれるヒロイン。


「おい!俺の女に何してる…」


 そんな時、こうやって颯爽と現れる主人公。


 俺の…女…。


 ーーーーキュン♡


 みたいな?


 まぁ、私がキュンとするかは置いといて…。


 と、そんな事を考えながらジト目で修二を見つめるめぐみ。


「チッ!んだよ。男いんならそう言えよ」


 は?殺す!


 ギリッと奥歯を噛み締め、めぐみが一歩前に出ようとする。


「すいません。ほら、行くぞ」


 そんな雰囲気を察したのか、修二は早口でそう告げると、めぐみと雪の肩を叩く。


 あの男しゅうじは最後まで、こちらが悪いというスタンスを崩す事は無かった。


 ーーーーーーーーーーーー


 しばらく歩く三人。


 チラッと、あの男しゅうじに目を向けると、クルりとこちらを向く。


「んだよ」


 と、声をかけてくる修二。


 さっきまでの態度が、嘘のようである。


 これではまるで、強い者には媚びを売り、弱い者には強気でいる最低野郎ではないか。と、めぐみは思った。


 この場合、大抵この後はこう言うだろう。


 ま、俺が本気だせばあんなヤツら…みたいな?


 いやいや、初めから出せよ。


 ね?そう思わない?


「いいか?何処の誰かは知らんがな、あんな態度をとったら、そりゃあ絡まれるぞ」


「は?私が悪いって言いたいわけ?」


 あろう事か、こちらが悪いと言い出す修二に対しめぐみは、当然噛み付いた。


「いいか?ナンパとかで絡まれたら、やんわり断るのが一番いいんだよ」


「バカなの?しつこい男は、そんなんじゃひかないわよ」


「いやいや。考えてみろ?無視されるってのはだな、一番辛い事だろ?」


 そう言われ、考えるめぐみ。


 友人でもいい。


 家族でもいい。


 恋人でもいい。


 無視されたら、それだけで嫌な気分になる。


 特に、LINEの既読スルーとか辛い。


「け、けど、ナンパなんてしてくる最低野郎に、何で気を遣わなきゃいけないのよ」


 そう思うわよね?


 世の中の女性に、アンケートをとってほしいぐらいだ。


 最も、100%こちらが勝つでしょうけど。


「最低野郎って、お前な…。いいか?ナンパは最低な行為でも何でもないだろ」


「は?最低ですけど?雪もそう思うわよね?」


「う…うん」


「例えばだ。可愛いとか、カッコいいとか、日常でそう思う事なんて山ほどあるだろ?そんな時にだ。相手の連絡先を知る為には、ナンパしかねえじゃねぇか」


 この男は何を言っている。と、めぐみは思った。


「そんなんで知り合ったって、どうせ上手くはいかないわよ。そんなんより、友人に紹介してもらうとか、職場で知り合うとかの方がよっぽどまっしよ」


「…論点がズレてるな。可愛いとかカッコいいとか思った人の連絡先を知る為には、その方法は使えない。仮にそれをした場合、それはストーカー以外の何者でもないだろ」


「た、確かに…」


 修二の説明に、雪は賛同していく。


「確かに、ナンパの仕方が悪かったのかもしれないがな」


 と、修二はこの話しを終わらせようと動く。


 勿論、そんな事では終わらせない。


「ナンパの仕方って何よ?」


「……え?」


「だ・か・ら。ナンパの仕方って何かって聞いてるんですけど」


 激しく動揺する修二を見ためぐみは、勝機はここにありとふんだ。


 最も、論点はそこではないのだが(ナンパがいいか悪いかが問題なのだから)三人はその事に気付いていなかった。


「え、えぇ…っと」


「ほら?どうしたのよ?言いなさいよ」


 修二は固まってしまう。


 ナンパなどした事がない修二。


 その為、上手いナンパなど当然知らない。


「くっ…ゆ、雪!!何とかしろ」


 修二は雪に助けを求めた。


 先ほどの意見に賛同してくれた同士。いや、仲間というべきか…というより、この女は誰なんだ?


 雪と一緒にいるのだから、雪の知り合いの可能性が高い。ならば、どうにかしてくれという思いを込めて、顔を向けたのだが…。


「うっ…ゆ、雪…さん?」


 ニッコリと微笑む雪。


「ん?何ですか?」


 目は笑っていない。


「あ、いや、だから…ですね」


「ん?何ですか?」


 こえぇよ!後、それ以外の言葉を発して!!


 ひぃ!?っと、雪から視線を逸らす修二。


「ん?どうして目を逸らすんですか?」


 こえぇからだよ!!とは、言えない。


「ほら?聞かせなさいよ。ナンパの正しいやり方をさ。ほら」


 勝機を逃すなと、めぐみも詰め寄った。


 こちらは雪と違い、目が笑っている。


「あ、いや、その」


「ん?どうしたんですか?」


 クソ!なんなんだよ!


 答えるまで逃さない。そんな雰囲気の二人。


 時間がないってのに…と、修二は頭を働かせる。


「た、例えば、ほら、アレだよ。"すいません。今何時ですか?"って、声をかける。みたいな」


 漫画やドラマとかでも良くあるだろ?と、修二は考えついた。


 最も、ここからどうして恋愛に発展するのかが不思議でならないのだが…いや、答えは分かっている。


 カッコいいからだ。


 などと考えていると、めぐみが鼻で笑う。


「は?古っ」


「ぐ…ぐぬぬぬ」


 顔を赤く染める修二。


 そんな修二に対し、雪は笑顔を見せてくる。


 しかし、その笑顔は先ほどとは違い、明らかに嬉しそうな笑顔であった。

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