アイドルとマネージャー
第3章 雪物語 その壱…①
美術館で出会った二人。
写真家を志し、北海道から上京してきためぐみ。女優を志し、鹿児島から上京してきた雪。
夢は違えども、お互い夢に向かって頑張っている最中である。
だからこそ、惹かれあったのかは今となっても分からない。
しかし、ここから仲良くなったのは、間違いようがない事であった。
「雪って呼んでも?」
「勿論だよ!じゃあ、めぐみって呼ぶね」
同い年であり、同じ異性である二人。
何の違和感もなく、仲良くなる。
ここが、男性と女性の大きな違いなのかもしれない。最も、本人の性格にもよるが…。
「雪は彼氏さんと?」
「…え?」
「え?って、さっきの人と一緒に来たんでしょ?ってことよ。優しそうな人じゃない」
勿論、嘘である。
修二と呼ばれた男に対する印象は、最悪であった。
しかし、初対面の女性であり、仲良くなりかけてる女性に対し、いきなりそんな事が言えるだろうか?
いわいる社交辞令ってヤツである。
「か、彼氏じゃ、な、ないからぁー(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾」
両手を真っ直ぐ突き伸ばしながら、雪はそんな事を言ってくる。しかも、顔を赤くしてだ。
ピーン!と、何かを察するめぐみ。
女性ならではの第六感とヤツである。
「ああ。ごめんなさい。未来の彼氏さん。だったのね」
「そ、それは……絶対ないよ」
寂しげな表情を浮かべながら、雪は告げる。
はて?どういう意味なのだろうか?
まさか、修二が結婚しているのか?
もしくは、兄妹なのか?
今思えば、雪はこの頃から病気と戦っていたのだろう。なぜ、気づいてやれなかったのだろうか。
いや、初対面でこの子は病気と戦っているなどと、分かるはずがないのは分かっている。
しかしだ。
めぐみは、こんな質問をしてしまったのを、今でもずっと後悔している。
ーーーーーーーーーーーー
顔を赤くしながら、雪が話しかけてくる。
勿論、話題逸らしなのは言うまでもない。
「め、めぐみは、そ、その、一人?」
「ええ。何か問題があるかしら?」
「ご、ごめんなさい!!!」
「ふふふ。冗談よ。今日は仕事みたいなものよ」
プク〜っと頬を膨らませる雪を見ながら、クスクス笑うめぐみ。
やはり、美人は何をしても美人なのだと知ったのは、この時であった。
「仕事って、もしかして、画家さん…なの?」
めぐみの格好は、黒のパンツに白のワイシャツに、黒いパンプスに、黒のショルダーバッグにと、ビジネスモードである。
美術館の関係者であれば、胸元にプラカードをぶら下げているはずであるが、めぐみにはそれがない。しかし、めぐみは仕事だと言っている。
その為、めぐみが絵を描いている人か何かなのだろうと、雪は推測した。
「いいえ。私は写真家よ。そういう貴女こそ、ここに何をしに来たのよ?」
雪の格好は、何処かのステージ衣装みたいな格好であった。具体的には、上下が赤と黒のチェック柄のジャケットとスカートを履いていて、頭には、お前はマジシャンか!と、ツッコミたくなるような帽子を被っている。勿論、帽子も赤と黒のチェック柄である。
「しゃ、写真家さん!?あ、あの…初めまして!サクラプロダクション所属。神姫雪と申します!た、大変失礼な態度を取ってしまい、ま、誠に申し訳ありません!です」
「ちょ、ちょっと、雪!?」
ズバッ!と、頭を下げる雪。
45度、いや、65度ぐらい、頭を下げているかもしれない。
「ど、どうか!先ほどのご無礼な態度は、何とぞ、何とぞヒラに!!」
なんだ?なんだ?と、周りがざわざわしだす。
やれやれ。あの男といいこの子といい、美術館のマナーを知らないのだろうか。
頭痛を覚えながら、めぐみは雪の手を取り、美術館の外へと連れ出すのであった。
ーーーーーーーーーーーー
美術館の外。
「あ、あの…や、やっぱり…何らかの処罰が下るんでしょうか?」
ビクビクしながらたずねる雪。
やはり美人だなと胸に抱きながら、めぐみは質問をする。
「あ・の・ね。写真家である私が、どうやったら貴女の会社を潰せるのよ」
「え?違うんですか?」
「い、いや、勿論、美術館で騒いでましたよって、週刊誌に売り込めば、潰せる可能性があるって、こ、こら!?は、離しなさい!!」
「潰せるじゃないですかぁぁぁあ」
「嘘よ。嘘。いや、嘘ではないけどって、ああ!もお!!雪!!」
「は、はい!!」
「なんで敬礼するのよ…私は教官か何かか(汗)とりあえず、敬語とか使わないでくれる?後、私は写真家だけど、まだまだ駆け出しだから、そんなに偉い人じゃないわよ」
写真家で偉い人なら潰せるのかどうか、週刊誌に売り込めば潰せるのかどうかなど、芸能界の仕組みについてめぐみは知らない。
あくまでも妄想の世界だが、大御所が何処かに一声かければ、小さい事務所、駆け出しのタマゴ達など、一発で消えてしまう。そんなイメージを持っている。
恐らく、雪も同じイメージを持っているのだろう。だからこそ、自分に頭を下げてくるのだから…。
「じゃあ、私と一緒だ!私も、駆け出しみたいなものだから…」
えへへ。と、右手で後頭部をかきながら、雪は笑う。頬を少し赤くしながら笑うその姿は、本当に可愛いとしか言えない。
めぐみ自身、それなりに自信があるといえば、誤解を招くかもしれないが、それなりに可愛い方である。と、思っている。
告白やらナンパやらをされた事もあるし、スカウトをされた事もある。勿論、夢に向かっている最中に、そんな事に時間を費やしている時間などない。その為、全てお断りしてきたのだが…。
しかし、雪を見ていると、自分など霞んで見えてしまう。井の中の蛙…とまではいかないか?
「め、めぐみ。ごめんね」
「ん?ああ、いいのよ。分かってくれたならそれで」
サラっと、髪をかきあげながらめぐみがそう告げると、雪から「おぉ…」と、声が聞こえてくる。
「何…かしら?」
「あ、いや、かっこいいなぁーって思って。やっぱり、東京の人ってかっこいい」
「……そうかしら?」
「うん。クールっていうか、冷たいっていうか」
「ね、ねえ?それって、ディスってるようにしか聞こえないわよ?」
「そ、そんな事!?」
「はいはい。分かった、分かった。分かったけど、東京の人は冷めている。って、言ってるのかしらと、誤解してしまう恐れがあるから、あまり言わないようにした方がいいわよ」
雪は単純に、東京で働く人って凄い。とか、大人だ。とか、クールなイメージを持っているだけである。しかし、一歩間違えれば誤解を招く発言であるのは間違いない。
その為、自分のことを思って注意してくれるめぐみの事が、友達としてどんどん好きになっていくのであった。
友達がいないわけではないが、芸能人となったあの日からの友達は、これで三人目である。
一人は、事務所の元マネージャーであり、一人は同業者だ。
最も、同業者の女の子からは、雪と呼ばれている。恥ずかしいので、やめてほしいところなのだが…あだ名みたいなものだからと、美人なマネージャーさんに説得され、諦めている。
「……で?」
「……え?」
「だ・か・ら。芸能人である雪が、ここに一体なんの用なのかって、聞いてるのよ」
「その事なんだけど、実は…」
と、ことの経緯について、雪が語り出した。
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