アイドルとマネージャー

伊達\\u3000虎浩

第3章 喫茶店にて

 
 ドッグアイ。


 犬の目という意味なのか、犬の愛という意味なのか、もしくはキャツのパクリなのか…。


 しかし、だとしたら新宿に建てるべ…いや、考えるのはやめよう。


 そもそも、新宿だったかすら分からん。


 伝言掲示板にでも書くか?なんてな。


 書いた所でだ。


 俺ではもっこりさせられないからね(笑)


 そんな事を考えながら、修二は秋葉原にある喫茶店に入った。


 ーーーーーーーー


 店内。


 店内に入ると、観葉植物や、お菓子などがすぐあり、カウンター席、テーブル席などが見える。


 まぁ、喫茶店なんだから、そりゃそうだろ?って感じだ。


「いらっしゃいませ〜♡お一人ですか?」


 キョロキョロしていると、若い女性の店員に声をかけられた修二。


「いえ、もう一人連れが来ますので…あっ、喫煙席でお願いします」


「かしこまりました〜♡どうぞ〜♡」


 キョロキョロしていたのは、喫煙席が何処にあるかの確認をしていたからである。


 また、待ち合わせをしていた為、来ていないかの確認でもあった。


 可愛らしい女性店員に愛想をふりまかれながら、修二は喫煙席へと案内される。


(ふむ。レオタードの似合う三姉妹で例えるなら…三女か?)


 と、わりかし失礼な事を考えながら歩く修二。


「……!?」


「………しゃい」


 店主らしき人と目が合った。


 海坊…いや、ファルコ…いや、マフィア梶…いやいやいやΣ(゜д゜lll)そっち?そっちなの!?


 キャツ風ではなく、ハンター風の喫茶店だったらしい。


 そもそもだ。


 いらっしゃいませ。と、言ったのであれば、しゃい。と、聞こえるハズがない。


 つまり、らっしゃい。と言った可能性が高い。


 客にだぞ!?


 うっ…睨まないでほしい。


 サングラス越しでも分かる殺気…いや、視線。


 しかし、何も言えない修二。


 スッと視線を外し、胸を見ながら三女かも。と、判断した事を後悔する修二。


 修二の心臓が、大きな音を鳴らす。


 そんな修二に声がかけられた。


「あら修二。来たの?」


「…あぁ。ひ、久しぶりだな」


「あれ?お連れの方って…」


「あ、ああ、すいません。ホットコーヒー二つで」


「かしこまりました〜♡」


 どうやら待ち人は先に来ていたらしく、運良く気不味い空気にはならなかった。


「しかし、来たの?は、おかしくないか?」


 待ち合わせをしていて、誘ったのは修二である。


「そうかしら?ごめんなさいね。修二の事だからまた逃げたのかと思って」


 そう言って、コーヒーをクイっと飲む彼女。


「またって何だよ」


「修二。良い事を教えてあげるわ」


「あ?」


「キレイな子    大抵皆んな    人のもの」


 どうやら一部始終を見ていたらしい。


 俳句で例える彼女に対し、修二は反論する。


「つまり今フリーな子は、ブサ…ぅわ!あ、あぶねーだろ!?」


「あらごめんなさい。ワザとよ」


「でしょうね」


 何があったかと言うと、手に持っていたコーヒーを、俺にぶっかけてきたのである。


 しかし、コーヒーは飲み終わっていたらしく、修二に被害はなかった。


「で?久しぶりに元カノを呼び出して、一体何のようなのかしら」


 そう。


 彼女、いや、南めぐみは、修二の元彼女である。


「あ、あぁ。実は頼みがある」


 修二が昨日メールした相手であるめぐみ。


 彼女の職業はライター兼カメラマンである。


 ルポライターと呼ぶべきかは不明だが、写真を撮ったり記事を書いたりしていたのを、修二は知っている。


「…ってわけで、カメラの撮り方を教えてくれ」


 修二は事情を話した。


 今度、アイドルのマネージャーをする事や、宣伝写真を撮るのにお金がなく、修二が撮る事になった事をだ。


「ふむ。教えるのは構わないけど、プロからタダで教わろうなんて、思ってないわよね?」


「勿論だ。ほら、好きなの頼めよ」


 メニュー表を手に取り、めぐみに手渡す修二。


 それを受け取っためぐみは、メニュー表を見始めた。


「コーヒー二つ、お待たせしましたぁ♡」


「すいません」


「はい?」


「ナポリタンと、食後にチョコレートケーキを下さい」


「あ、俺も同じのでお願いします」


 コーヒーを持ってきた店員に、ついでにと注文をするめぐみと修二。


 教わる為にかかる費用が、ナポリタン、コーヒー、ケーキなら安いもんだ。


 修二はそんな事を考えながら、コーヒーを口に運ぶ。


 すると、砂糖とミルクを混ぜ合わせるようにと、スプーンをくるくる回しながら、めぐみが口を開いた。


「デートをしましょう」


「ぶ!っげほっほ」


 その発言に、むせる修二。


「いきなり、おま、げほっげほ」


「何よ?まさか、ナポリタンとコーヒー、ケーキだけで済ませるつもりじゃないでしょうね?」


 ぶっちゃけそのつもりだった修二。


「ま、まさか…ははは。んで?教えるかわりにデートをしろと?」


「何?イヤなの?」


 修二の発言や表情から、あまり乗り気じゃないように感じためぐみ。


 鋭くなる目つき。


「い、いやっていうより、デートって何?って感じなんだが」


「デートはデートじゃない?知らないのかしら?もしかして、した事がありませんなんて、可哀想な事を言わないわよね?」


「知っとるわ!そもそも、その相手はお前だろうが」


 繰り返しになるが、修二は南めぐみと付き合っていた。


 つまり、それなりにデートもしている。


「俺が分からないって言ってんのはだな…その…元カノとデートをする元カレがいるのかって事でだな…」


 分からないよな?


 分かるヤツがいたら是非教えてくれ。


「さて、可哀想な修二の為に、説明をしてあげましょう」


 誰がやねん!と、ツッコミたいところだが、自分はカメラの撮り方などを教わる身である。


 修二はそう考え、グッとこらえた。


「分かり易いように、例え話しをしましょうか」


「…頼む」


「貴方は買い物へと、一人寂しく出かけていました。可哀想に…友達もおらず、彼女すらいない。そんな可哀想な分際で、周りからはナンパでもしに来たのか?と、思われているかもしれないわね」


「……設定が暗い、というより重い話しだな」


 ぼっちでチャラ男。


 待て。チャラ男でぼっちなどいるのか?


「そうね。修二はチャラ男ではないから、ここでは少年Aと呼びましょうか?」


「いやいや。修二で!修二で頼む」


 なんだか更に重い設定になりそうな予感がした修二は、めぐみにそう提案する。


「別にいいけど…。とにかく、一人寂しくクリスマスの日に、ショッピングに来た修二君」


「お、おぃ。クリスマスだとは聞いてないぞ」


 そもそも、クリスマスの日に一人で何をやっているんだ俺は!?


「すると、目の前を歩いている人物に、見覚えがあるではありませんか」


 お、おぉ!頑張れ俺!


「それもそのハズ。目の前から歩いてくる人物は私。修二君がかつてフラれてしまった相手である私でした」


 頑張るな。


 頑張らなくていいぞ俺。


 何ならガンでもとばしてやれ。


「…つか俺って、お前にフラれた事になってんの?」


 アレはそうではない。と、俺は思う。


 お互いが業界に身を置く者同士であり、多忙になればすれ違いも多くなり、さらに雪の死によって修二はめぐみを遠ざけてしまった。


 また彼女は、記者みたいなものなのだから、雪の間近にいたマネージャーである俺に対し、どう接していいのかが分からなかったんだと思う。


 早い話しが、自然消滅ってヤツだろう。


「あら?貴方ごときクズが、私をふってやったと思ってるのかしら?」


「思ってませんです…はい」


 引きこもりを1年間続けた結果、別れ話しすらせずに一方的に拒絶し続けたのは自分である。


 何と言われようともだ。


 悪いのは自分である。


 めぐみは深いため息を吐くと、続けるわよ?と、言って、再び語り出した。


「修二君はスッと視線を斜め右下に傾けながら、気不味い…気不味いぞ…しかし、相変わらず可愛いなぁなどと考えた」


「………」


 まぁ、シチュエーション的に考えたら、そうかもしれないな。


 可愛いぜ!と、思ったかどうかは横に置く。


 てか、クリスマスに女一人でショッピングなんて、気不味いとしか思えない。


 と、世の中の女性を、敵にするかもしれない発想をもつ修二。


「こっちも一人だ。と、修二は仲間意識を盾に、めぐみに話しかける事を決意した」


 う、うむ。確かに、そんなシチュエーションに遭遇した場合、めぐみがリア充達のスキャンダル写真を撮りまくったりしないようにと、見張るかもしれないな。


「再び顔を上げた修二君でしたが、その両方の瞳は"カッ"と、見開かれる事になってしまいます」


 急展開だな。


「修二君は心の中で叫びます。んだ?このバーコード野郎」


「お、思わねぇーよ!てかバーコードっておま、お前なぁ」


「じゃぁハゲで」


「好きにしてくれ…」


 つまりだ。


 クリスマスの日に一人寂しく出かけていた俺は、偶然めぐみに会う事になった。


 しかし、めぐみは男と歩いており、俺は驚きのあまり、目を見開いてしまった。という話しだ。


「さて、修二。このシチュエーションを、どう捉えるかしら?」


「は?待て。今ので終わりか?」


 この話しから何を学べ、いや、答えを出せと?


「つけ加えるならそのバーコーおほん。ハゲは、私の左肩に自分の左手をスッと回しているっていうシチュエーションね」


 つまり、俺が偶然会った元カノ(めぐみ)は、知らない男に肩を抱かれながら歩いていた。


 それではまるで…。


「一応聞いておくが、それは昼間だろ?」


「えぇ。だって貴方、夜はアニメがあるって言って、外に出たがらないじゃない」


「不倫しているようにしか見えねぇよ!」


 昼間から歩いていて、おまけに課長や社長みたいな人と歩いているんだろ?しかもなぜか、肩を抱かれてだ。


 抱かれてなければ、上司と部下の見回りとか、親子とか、そう思うかもしれんがな。


「で?結局、何が言いたいんだよ?」


 ちょっと、いや、何だか無性に腹がたつ話しに、修二はイラついていた。


 元カノが不倫している。


 そんな話し、嘘であっても気持ちの良い話しではない。


「つまりはそういう事よ。ここでのポイントは、昼間、バーコーいえ、ハゲ。肩に手を回している。そして、私だった。その事から、修二は不倫してやがるぜっと、思ったのでしょうね」


 …確かに。


 もしも仮にだ。


 マダムなら、夫婦だと捉えただろう。


 女子高生なら…いや、よそう。


「つまりは、世間体の話しをしてるんだろ?」


「ピンポーン。つまり、私たち二人で遊びに出かけるということは、第三者からしたらデートにしか見えない。という事ね。貴方も私も、ジャージにTシャツなんて格好はまずしない。ていうか、そんな格好で来たら怒るわよ」


 カチャっと、めぐみのコーヒーカップが音をたてた。


「つまり、私たちが友人として遊びに行くなんて関係には、二度となれないって事よ」


 果たしてそうなのだろうか?と、返す言葉を探す修二。


「関係っていうものは消えないものよ。例え、雪さんが亡くなったとしてもね」


「……!?」


 カチャカチャっと、修二のコーヒーカップが音を鳴らす。


 スッと顔を上げると、両目を閉じながら、コーヒーをひと口飲むめぐみの姿が目に映った。


 いたって冷静に、クールに、あゆみとは違う表情を見せるめぐみ。


「貴方はマネージャーとして復帰した。けど、神姫雪のマネージャーだった過去は消えない。私との関係も消えない。全てを理解したうえで、貴方は生きていかないといけないの」


 めぐみが伝えたかった事とは何だったのだろうか?と、修二は考えた。


 過去の関係。


 今の関係。


 第三者からの視線。


「…………」


 つまり、一度関係を持つということは、容易な事ではない。という話しなのではないだろうか?と、修二は考える。


 どんなに頑張ってもだ。


 過去は変えられない。


 無能すぎwwwなどと言われた過去。


 雪を自殺に追いやったマネージャー。


 そのレッテルは消えない。


 だとしたら、頑張る意味などないのだろうか?


 いや、断じて違う。


 過去は変えられないのかもしれない。


 しかし、未来はどうだ?


 そう、未来は変えられるのだ。


「分かっているさ。全てを受け入れる覚悟はできている」


 全てを理解して、と言うめぐみの問いに、修二は全てを受け入れる覚悟はできている。と、返答する。


 これから何があったとしても、アイツらのマネージャーとして頑張って行くという意思表示でもあった。


「…ふふ。では、早速デートをしましょうか」


「い、今からか!?」


「言っとくけど、私だって忙しいのよ」


「な、なぁ?俺たちは友人として遊ぶけど、周りから見たらそれはデートじゃないか?って話しだよな?」


「男と女が二人っきりで遊ぶんだから、それはデートでしょ」


 バカなの?的な視線を送るめぐみ。


「それに……」


「え?」


 スッと立ち上がっためぐみは、ショルダーバッグを肩にかけながら修二に告げる。


「デートの方が、もえるじゃない?」


「お、おい、待て!最後なんつった!?」


 カツカツと歩き出すめぐみの後を追う修二。


 彼女が何て言ったのか、修二には最後まで分からないままであった。

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