アイドルとマネージャー

伊達\\u3000虎浩

第3章 レイ

 
 突如、角部屋を巡って始まった勝負。


「うむ。では、君達が住む部屋を説明するとしよう」


 どうやら恵理は、それに賛成らしい。


(まぁ、後々騒がれても仕方ないしな)


 恵理の説明はこうだ。


 階段を上がり、正面に見える部屋と、すぐ左にある部屋が、一つの窓しかなく、左奥にある二つの部屋と、右奥にある二つの部屋が角部屋らしい。


 左奥にある二つの部屋の下はリビングで、右奥にある二つの部屋の下は玄関と廊下。


 風呂場の上の部屋と、修二の部屋の上が、一つの窓しかない部屋。


 そして、もう一つある部屋はトイレで、下の部屋はトイレである。


「ほぉ?つまり、敗者は二人ということじゃな」


「そのようね」


「……負けない」


 角部屋であるメリットなど、窓が二つあるかないかだけである。


 しかし、どうせ住むのであれば、窓が二つある部屋がいいと思うのは、当たり前ではないだろうか?


 どうでもいいなぁ…などと、考えていた修二だったが、ある事に気がついた。


(ん?待てよ…俺の上に住む住人によっては、快適ライフに関わるのでは?)


 つまり、修二が快適ライフを過ごす為には、騒がしい住人が上に住むのはダメだという事になる。


(この中で、騒がしくなさそうな住人…結衣とあゆみか?頼む!負けてくれ!)


 修二の部屋は8畳なので、上に住む住人は二人いる。


「じゃぁあん。けぇえん。ぽん」


 祈る修二…だったのだが。


「な、何でよ!!」


「ク、ク、ク。我に敗北はない!」


「………」


「さ、荷物を置きに行きましょう」


「もう1回、もう1回やろ?ね?ね?」


 結果…負けたのは、遥とゆずであった。


 ーーーーーーーー


 1階リビング。


「さて、一通り部屋を見てもらったが、次はリビングだ」


「ちょ、恵理さん!?」


「ん?どうした修二君」


「どうしたも何も、何で俺ん家の冷蔵庫がここに…って、電子レンジまであるじゃないですか!」


 一人暮らしを始めた際に、奮発して買った冷蔵庫に電子レンジが、キッチンに置いてあった。


「すまない修二君。キッチンテーブルやらソファーやらも、貰っている」


「……やらも?」


 嫌な予感がした修二。


 そっと、右を向く。


「だぁぁあああ!!!」


 そこには、62インチあるテレビが置いてある。


「ダメ!絶対ダメ!」


 ガバッと、テレビにしがみつく修二。


(ふ、ふざけんなよ!この大型テレビでアニメを見るのだけが、唯一の楽しみだってのに)


「とは、言ってもだな。皆んなにとって、テレビは必需品だ。あゆみ君やゆず君のは小さいし、ひかりや結衣君、遥君は持っていない」


「だ、だからって、買えばいいじゃないですか!」


 恵理の言う通り、テレビは必需品だ。


 と言うのも、芸能界で働く者にとって、テレビや雑誌、新聞などを、見たり読んだりする事が、何より大切だからである。


 例えばモデルなら、今流行りのファッションを、覚えておかないといけない。


 バラエティー番組に出るのであれば、流行りのギャグや、番組の流れを見て学ぶ。


 同様に、女優ならドラマ、声優ならアニメ、歌手なら音楽番組…などなどを見て学ぶ。


 つまり芸能人にとって、テレビや雑誌を見る事は、勉強をするという事である。


「修二さん!」


「修二!」


「遥、姐さん…」


「私たちがたくさん稼いで、100インチぐらいのテレビを買いますから」


「だいたいアンタ、テレビを見る暇なんてないでしょ?」


「……や、約束だかんな!」


 渋々、テレビを諦める修二であった。


 ーーーーーーーーーー


 一通り部屋を見た俺たちは、リビングに集まり、キッチンテーブルに座っていた。


「い、いいか!ぜぇったい、傷を付けたりするなよ!」


「あぁもぉ!うるさいわよゴン太!」


「テ、テメェ、誰のテーブルだと思ってやがる」


「ク、ク、ク。我のじゃ」


「……私のです」


「皆んなの物でしょ。それより、これからやる事が皆んなあると思うけど、何か質問ある人?」


 結衣からの質問に対し、誰も手を挙げようとしなかった。


「ふふふ。なければ、私は帰るとしよう」


「ま、待って下さい!」


 立ち上がろうとする恵理に対し、修二は声をかけた。


「ん?何かね?」


「芸能人が寮に住むっていうのは、別に珍しい話しではないですが、セキュリティーとか、その、大丈夫なんですか?」


 本来ここは、学生寮である。


 各部屋に鍵は付いているが、敷地内はどうだろうか?と、修二は考えた。


 芸能人のスクープ写真を狙う記者達。


 悪質なファン。


 下着泥棒だって、来るかもしれない。


 つまり、芸能人のプライバシーを、きちんと守る事ができる環境なのか?と、聞いているのだ。


「さすが修二君。説明し忘れるところだったぞ」


 舌をペロっと出し、お茶目っ子さんアピールをする恵理。


 か、可愛いいぃぃ♡と、その仕草を見た全員が思った。


「見ての通り、隣は女子寮だ。反対側は校庭とテニスグラウンド。高い木もあるから、覗かれたりといった心配はいらんさ」


「し、しかし、もしも泥棒とかが、来たらどうするんですか?」


「君がいるじゃないか。勿論、君が不在の時も考えてある」


 そういうと、携帯を取り出し、何か操作をし始める恵理。


 数分後。


 コンコン。と、リビングのドアを叩く音がする。


「入りたまえ」


 入室の許可を出す恵理の声を聞きながら、リビングのドアに目を向ける修二達。


「…失礼致します」


 部屋に入って来たのは、身長160センチあり、青い髪に紫色の瞳をした、可愛い女の子であった。


「メ、メイドさん?!」


 驚く遥。


 遥の言う通り、彼女はメイド服を着ている。


「さて、自己紹介をしたまえ」


 メイド服を着た女の子に、指示を出す恵理。


「はい。レイと言います」


 レイと名乗った女の子は、ぺこりと頭を下げた。


「修二君と一緒に彼女が、この寮を守ってくれる。だから安心したまえ」


(一緒にって、いや、そりゃあ守るけど)


 自分が担当するタレントを守るのも、マネージャーの大切な仕事である。


「大丈夫なの?」


 ゆずが質問をする。


「問題ない。さて、私はこれにて失礼させてもらうよ。ひかり」


「何じゃ?」


「しっかりやりなさい」


「……!?た、たわけ!我を誰だと思っておる」


「はいはい。じゃぁ諸君。また明日」


 恵理はそう告げて、成就荘を後にする。


「さて、私達もとりあえず、荷物を整理しましょう」


「そうね。ゴン太!」


「何だ?」


「ベッドが届いたら運んで頂戴」


「え?」


「あ!修二。私もお願い」


「我もじゃ」


「……私も」


「ちょ、ぎょ、業者に頼めよ」


 ベッドを2階まで運ぶ。しかも、四人分もだ。


「バカね。1時間で2000円も取られるのよ?だったら、荷物だけ降ろしてもらって、アンタにやってもらった方が安いじゃない」


「男の子なんだから、しっかりやりなさいよ」


 男の子なんだから。


 だからなんなのだろうか。


 男の子なんだから泣くな!とか良く言うが、痛い時は泣くし、悲しい時は泣くよ?逆に、泣いちゃダメな理由を是非、教えて欲しいものだ。


 男の子なんだからこれぐらい持てるよね?とか良く言うが、一体何の重さを基準にしているのだろうか?と、現実逃避気味に考える、修二であった。

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