アイドルとマネージャー

伊達\\u3000虎浩

第2章 問題発生

 
 時刻は夕方だ。


 すっかり仲良くなった遥と恵理は、仲良く事務所まで歩いていた。


 遥にとって恵理は、第二のお姉ちゃんみたいな存在であると同時に、こんな大人の女性になりたいと、そう思わせる女性であった。


 初対面で、そこまで思わせてしまう女性。


 それが、北山恵理という女性である。


「そういえば遥君は、あそこで何をしていたんだね?」


 ふと気になった恵理は、遥に尋ねた。


「そ、それがですね、実は…」


 不動産屋さんからもらった資料を恵理に手渡し、昨日修二の家に泊まった経緯や、部屋を探して来いと、修二に言われた事を話した。


「けど、家賃がこんなに高いなんて…」


 貯金は確かにある。


 しかし、現状収入0の遥にとって、これだけの家賃を毎月支払えば、いつかは破綻するだろう。


「そうだなぁ…なぁ遥君」


「はい?」


「君は芸能人だ。肝心なモノが抜けていないかね?」


「肝心なモノ?」


「セキュリティーだよ」


「あっ!?」


 芸能人が、部屋を探す時に欠かせない条件、それがセキュリティーである。


「…で、でも、修二さんはまだ芸能人じゃないって」


「ん?まぁ、有名になってからでもいいが、部屋を借りる場合、通常は契約というものがある」


「…そりゃぁ契約しないと、部屋は借りれないんじゃないですか?」


「はっはは。まぁ、怒るな」


 怒ったつもりはない遥であったが、頭をポン、ポンっとされた事により、思わず口元が緩む。


「初めて部屋を借りるのだから、知らなくても仕方がない事さ…ずばり、部屋を借りる場合、年契約というモノが発生する」


「年…契約?」


「そうだ。分かりやすく説明するなら、携帯と同じさ」


「あっ!もしかして、違約金が発生するって事ですか?!も、もったいない」


「その通りだよ。違約金や引っ越し代もバカにならん」


 良く出来ました!と言わんばかりに、恵理から頭を撫でられた遥は、顔を赤く染めた。


「えへへ…って、だ、駄目じゃないですか!?」


 照れている場合ではない。


 何故なら、遥がもらってきた資料には、セキュリティーが全てついていなかった。


 つまりこの資料は、部屋を探してましたという証拠にはならないという事だ。


「あぁ。修二君には見せない方がいいかもしれないな」


 この資料を修二に見せたら、どんな事を言われるか…し、しかし、見せないという事は、今日の成果が示せない。


「え、恵理ちゃん…ど、どうしよう」


「ふふふ。今日は私に捕まってしまったと言うといいさ」


「え、恵理ちゃん…」


 女神は本当にいたのだ。と、普通の人なら考えただろう。しかし、残念ながら遥は普通ではなかった。


(え、恵理ちゃんって、神ゲーマスターだわ。だって私のフラグ…バッキバキなんだから)


 好きなモノで例えてしまう。


 水嶋遥とは、そういう女性である。


 ーーーーーー


 事務所へとやって来た恵理と遥だったが、部屋に入るなり直ぐに固まってしまう事になった。


「え、恵理さん!?た、助けて下さい」


 部屋に入るなり、縄で縛られている修二の姿が見え、その修二を踏ん付けている結衣の姿が目にとび込んできたのだ。


 固まってしまうのは、無理もない事である。


「…あ、あのぉ」


 重たい空気。


 何とかしなくてはと、遥が動いた。


「…遥ね。ちょっと待ってて」


「イッテテ…ちょ、あ、姐さん?冗談ですよね」


「あ"ん?」


「ひぃっ!?」


 動いた遥であったが、結衣の迫力に負けてしまい、サッと恵理の後ろへと避難する。


「え、恵理ちゃん…」


「やれやれ…何かあったのかい?」


 恵理は遥を背後に従えながら、ツカツカと、ソファーまで移動する。


「この変態が、ゆずを押し倒していたのよ」


「だ、だから、誤解ですって!?な、ゆ、ゆず、何とか言ってくれよ」


 ゆず?と、二人は修二の視線を辿った。


「嘘…か、可愛い♡」


「ん?おぉ!?ゆずちゃんじゃないか」


 ソファーの上で、泣いている幼女を見た二人の感想は違った。


「ひっぐ。私が、私が…ひっぐ」


「よっと。まぁ落ち付きたまえ。ほら、涙を拭いて、話してみろ」


 ソファーに腰掛けた恵理は、泣いているゆずを、優しくなだめた。


 さすが恵理さん。


 頼りになるお方だ…ったく、それにしても結衣のヤツ、見ない間に凶暴になっていないか?全く。


 無罪だって言ってんのに、聞きやしない…とりあえず縄を解いてもらった後で、説教だな。


「私が、これからよろしくねって言ったら、急に押し倒してきたの」


「ちょ、ま、待て!?合ってはいるが、待てって…ふぎゅっ」


「は?これで押し倒していないとか、死ねば?」


 右手を何度も床に叩きつけ、ギブアップの意思表示をする修二。


「まぁまぁ結衣君。修二君の言い分も聞かなくては…な?」


「……恵理さんがそう言うなら」


 恵理に言われては仕方がない。スッと足を退ける結衣。


「はぁ…はぁ…殺す気か!!」


「うん」


「…うんってお前な、そんな可愛い顔して言うんじゃねぇよって、な、何だ!?」


 右手を振り上げる結衣を、恵理がひきとめる。


「まぁまぁ結衣君。落ち付きたまえ…な?」


「……ふ、ふん」


 さ、さすが恵理さん。


 と、とにかく、これで誤解は解けるな。などと、安心していた修二であったが、誤解を解く前に遥が動いていた。


「修二さん!?」


「うわっ!?遥か…んだ?その可哀想な人を見る目は?」


 ガシッと右手を修二の肩に乗せ、遥は告げる。


「私は悲しいです。修二さん」


「は?何でだよ?押し倒してしまったのはだな…足が痺れてしまって…」


「えぇ。分かってます。分かってますとも。足が痺れてしまってゆずちゃんを、押し倒してしまったんですよね」


「そ、そうなんだよ!分かってくれたか?」


「ゲームはゲーム。実際に試しちゃダメじゃないですか!」


「は?」


「え?昨日貸したゲームの真似をしたんですよね?」


「ち、違うわぁぁあ!!」


 この後、結衣と遥を納得させるのに、随分な時間と労力を使う羽目になる修二。


 最も、二人が納得したのは恵理の存在が大きかったという事は、言うまでもない事である。

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