アイドルとマネージャー

伊達\\u3000虎浩

第2章 家なき子はるか

 
 人生、甘くはない。


 トントン拍子に話しが進んだという言葉があるが、そんな言葉は世界には無いと言っていい。いや、無くした方がいいと言い直そうか。


 そんな上手い話しの裏には、必ず落とし穴的なヤツが待っていると断言してもいい。


 例えば、仕事がしたいと思って仕事を探したとしよう。


 仕事の面接を受けて、その場で合格を貰ったとした場合、それは、トントン拍子ってヤツなのだろうか?


 それは、違うと断言していい。


 何故なら、仕事を募集する側にも、仕事を探す側にも、ある程度のドラマがあるからだ。


 ドラマ…いや、物語と言った方がいいか?


 仕事を募集する側、仕事を探す側にも、当然発生するものがある。


 お金や時間、労力ってヤツだ。


 それは、とても大切なもので、かけがえのないもので、お金では買えないものである。


 そんな大切なものをだ。


 トントン拍子にだなんて簡単な言葉で、片付けていいのだろうか。


 仮にそうだとしてもだ。


 大抵は、初日から大忙し。


 もしくは、忙しいから見て覚えろか、もしくは放置プレイか…だろうな。


 ん?話しがズレているか。


 雪が死んで、立ち直って、新たに遥を迎えて、新しい俺の人生がスタートする。


 さて、トントン拍子ってヤツだろうか?


 ていうか、そもそもトントン拍子って何?


 まぁとにかくだ。


 仮にこれを、トントン拍子だとした場合の話しだ。


 問題が発生しました。


 担当する事になった彼女。


 お家がないそうです。


「……き、聞いてますか!修二さん」


 現実逃避していると、肩を揺さぶられながら、声をかけられる修二。


「…聞いてるよ。家がないんだろ?どうすんだよ」


「…ホームレスタレントってヤツですかね」


「はぁ…ホームレス中学生みたいに言うな。そもそも、ホームレスのタレント何て…昔いたな」


「ほ、ホントですか!!じゃ、じゃぁ、別に可笑しくないですよね?ね?」


「いやいや。可笑しいから。笑えないから。特に俺が、な」


 自分はスヤスヤ眠り、担当する娘が野宿している…眠れるかっての。


「あのなぁ…いいか?仕事をする上で最も大切なのは、家だ。家がないと何も出来ん」


「で、でも。ネット難民とか珍しくないって、ニュースでやっていましたし」


 アハハ。と笑う遥。


「…お前さ」


「はい?」


「そうなりたいわけ?お前がそれでいいなら止めないけど」


 本来ならば、怒るところなのだろうが、あえて突き放す言い方をした。


 これから芸能界に飛び込もうってヤツが、毎日ネットカッフェとかに行く。


 そもそも差別とかではなく、お前は女の子なんだから身の危険だとか…いや、そもそも芸能人なんだから、お客さんとかにバレたら色々と面倒になるだろ?俺がな。


 ため息を吐きながら問いかけると、遥は即答する。


「いえ。全く」


 右手を左右に振りながら、何言ってんの?的な態度…イラッとするからやめてほしい。


「こ、これから探すっていうのはどうでしょうか?」


「いや、そんな"ナイスアイデア"みたいな顔されてもだな…まぁ、それが無難ではあるが…で、この荷物はどうすんだよ」


「移動はタクシーですか?」


「そんなわけねぇだろ」


「え?で、でもでも、芸能人ってタクシーとか使いません?」


「売れっ子はそうだろうな。第一に、お前はまだ芸能人ではない」


「そ、そうなんですか!?」


 事務所や人の考え方にもよるが、合格をもらった瞬間から、そうなるわけではない。


 人によっては経験があるかもしれないが、学校の入試を受けて、受かった瞬間からその学校の生徒になるか?答えはノーだ。


 卒業して、入学して、初めて、そこの学校の生徒だと名乗れるわけである。


 ウチの事務所も同じである。


 事務所に所属して、契約を済ませただけでは芸能人とは呼ばない。


 事務所のホームページに登録されてから、初めて、芸能人へとなるのである。


「まぁ、その話しは後でするとして…で?実家に送り返すか?」


「だ、ダメです!そ、それだけは…それだけはやめて下さい」


 両膝をつき、ガバッと、俺の足にしがみつき、ロックする遥。


「待て待て。周りから何か、何か冷たい視線を感じるから…お願いだからやめて」


 こういう時の女の子の意思疎通力。Wi-Fiかっての。こえぇよ!


 捨てないでとすがりつくような構図は、5分ぐらい続くのであった。


 ーーーーーーーー


 バスに乗り、電車で移動する俺たち。


「ス、スカイツリーですよね?ね?」


「はぁ…いいか。荷物だけだからな」


「分かってますよ。ちゃんと部屋を探します」


 可愛いく敬礼ポーズを取る遥。


 それを見て、ため息を吐く修二。


 結局、空港で一悶着の末、荷物は修二の家に送る事になった。


『次は〜りの帝国。次は〜りの帝国…』


「次の秋葉原駅で降りるぞ」


「はぁ〜い」


 本当に大丈夫か?と、不安になる修二であった。


 ーーーーーーーー


 秋葉原。


 駅を降りると、アニメやアイドルのポスターなどが出迎えてくれる、いわいる聖地ってヤツである。


「あ!この神曲!知ってます。知ってます!」


「恋するだろ?ほら、行くぞ」


「いやいや。修二さん、略し方間違ってますよ?恋チュって、ちょっと待って下さいよ!!」


 そんな他愛の無い話しをしながら、二人は事務所へと、歩き出した。


「うわぁ〜秋葉原ですね」


「…秋葉原だな」


 外国人観光客。オタクと呼ばれる人。メイド服を着た女の子達。執事服を着たイケメン達。コスプレをした女の子。コスプレをした男の子。


 色々な人達が集まるこの場所こそが、世界に認められる証拠ではないだろうか。


「しゅしゅ、修二さん。しゃ、写真。写真撮って下さい」


「あ?今度にしろよ」


「写真ぐらい、いいじゃないですか!」


「はぁ…分かった。分かった」


「ちゃんと、桐乃ちゃんと瑠璃ちゃんも写して下さいよ」


「……黒猫だろ」


 ビルにでっかく描かれているアニメキャラ。


 これを見る為だけに、秋葉原に来る人も珍しくはない。


 歩くたびに立ち止まる遥を、何とか引っ張って行き、事務所に何とか辿りついた。


 エレベーターに乗って、事務所のロックを解除する。


「霧島修二。ただいま戻りました」


「…み、水嶋遥。今日からお世話になります」


 軽い挨拶を済ませると、千尋が声をかけてきた。


「シュウ君、おかえり。遥ちゃん。帰ってきた時は、ただいまだよ」


「ただ…いま、ですか?」


 不思議そうに聞きなおす遥。


「うん。だってここは、遥ちゃんのお家なんだから」


 ニッコリ微笑む千尋。


「しゅしゅ、修二さん…」


「ん?どうした?」


 ふるふる震える遥は、バッ!と顔をあげ、こう言うのだ。


 お家が見つかりました!と。


 さて、どこから説明したものか…はぁ。と、深いため息を吐くのであった。

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