アイドルとマネージャー

伊達\\u3000虎浩

第1章 一年後に知った真実

 
 将来の夢は、テレビにたくさん映ること。


 雪の、子供の頃からの夢です。


 母親としては、娘の夢を応援するべきなのでしょう。しかし、芸能人になるという事は、簡単な事ではない。誰もがなれるわけでもないでしょうが…それでもです。


 余命宣告を受けたあの日以来、娘が初めて自分に対して言ったわがままを、聞てやりたいと思わない母親などいないのではないでしょうか?


 オーディションを受ける日々。


 娘の体調と相談しながら私達はようやく、ある芸能プロダクションに受かったのだった。


 サクラプロダクション。


 まだ、若い会社だということや、若い女性が社長をやっている芸能プロダクション。


 不安がなかったと言えば嘘になるが、娘の夢が叶った瞬間だった。


「…ごめんなさいね」


「気にしないで下さい」


 昔を思い出したからか、母親かのじょはハンカチで目元を拭っていた。また、不安があると言った事に対しての謝罪でもあった。


 しかし、そう思うのが普通だろう。


 〇〇芸能や、〇〇プロダクションなど、テレビで聞いた事のある芸能プロダクションならいざ知らず、聞いた事もないプロダクションなのだから、不安になるのが当然だ。と、修二は思った。


「…余命宣告と言っていましたが、何の病気だったのですか?」


「…原因は分からないと言われました」


「そ、そんな事って、あ、あるのですか!?」


 両手でテーブルを叩きつけながら、カッとなってしまった事を恥じた。


「…すいません」


「構いません。私も、全く同じ気持ちでしたから」


「し、しかし、治らない病気って、一体…」


「それがわかれば、治っていたかもしれませんね」


「…すいません」


 病名を言わない母親に対し、病名を教えろなどと言えるハズがない。もしかしたら、未知の病気だったのかもしれない…しかし、しかしだ。


「霧島さん。あの日以降にネットなどを使って、雪の事を検索などはされましたか?」


「…いえ」


「では、神姫雪が死んだ理由で検索してみて下さい」


 言われるがままにパソコンに入力をし、エンターキーを押す。


「…死んだ理由は病気に耐えかねての自殺」


「そうです。だから霧島さん。自分を責め続けるのはやめて下さい」


「いや…ですが」


 それとこれとは別である。


 俺はそう思い、反論しようとしたのだが、再び頭を下げた母親かのじょを見て、声を出す事が出来ずに固まってしまった。


「本当にごめんなさい。こんな事になっているとも知らず、勝手な逆恨みばかりで、私は貴方に対して、許されない事をしてしまいました」


 床に額を擦りつけながら、母親かのじょは続けた。


「…どういう事ですか?」


 話しが全く見えてこなかった。


 逆恨み?一体、何を言っているのか。


「貴方を恨む事では、救われたかったのです」


 誰かを恨んだり、誰かの所為にする事によって、自分は悪くない、間違っていないと思いたかったのだと母親かのじょは言う。


 人間の汚い部分、いや、醜い部分である。


 しかしコレは、誰しもが持ち合わせているものである。


「貴方がここまで娘のことを思い、ここまでの状態(状況)になっているなどとは思いもせず、私は今日までを過ごしてきてしまいました」


 頭をあげる事もなく、母親かのじょは続ける。背中が震えているように見えたのは、気の所為なんかではないはずだ。


「本当に、本当に…ごめんなさい」


 一年後に知った真実。


 ずっと、ずっと、自分の仕事、マネージャーとしてのやり方が、方針が、自分自身きりしましゅうじという生き方が、間違っていると思っていた。


 俺は、戸惑ってしまっていた。


 しかしそれは、当然ではないだろうか。


「…では、なぜ今になって来られたのですか?」


 そう尋ねると、母親かのじょはようやく頭をあげた。


「理由は二つあります。一つは、先ほども言いましたが、貴方がここまで思いつめていたなどと思ってもいなかったものですから、貴方は違う方のマネージャーとして、今も元気に活躍されているものだとばかり思っておりました」


「…もう一つの理由を、お聞きしても?」


 無理もないと思った。


 自分の娘が亡くなってしまったのだ。


 他の人の事など、気にしている余裕があるだろうか?きっとないだろうと思った俺は、もう一つの理由を尋ねた。


「はい。その前にコレを」


 そう言うと、テーブルの上に何かを置いた。


 その何かとは、可愛らしい一冊の日記であった。


「…コレは?」


「はい。今日ここに来たのは、コレを貴方に見せる為です。私は中を拝見しております」


「見てもよろしいですか?」


「勿論です」


 許可が出たところで、テーブルに置かれた日記を開いた。


「…コ、コレは!?」


「はい。娘の…雪の日記です」


 その日記とは、神姫雪の書いた日記であった。


 雪が死んで1年が過ぎ、俺は知る事となる。


 雪の思いを…。

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