アイドルとマネージャー
第1章 謝罪
一体、何がどうなっている。
雪の母親が何故、自分を訪ねて来たのか。いや、答えなど決まっているではないか。
母親は、自分を罰しに来たのだろう。娘を死なせてしまった元凶とも呼べる自分を…それだとしたら?
自分はどうすればいいのだろうか。
「霧島さん。いらっしゃるのでしょ?お話しがあります。ここを開けて下さい」
固まっている俺に対し、母親はここを開けるようにと指示をしてきた。
物音を聞かれている為、居留守を使う事は不可能だ。いや、無視をし続けるという選択肢もあるといえばある…か。
だが、母親は自分を罰する権利がある。無視など出来るものか。
それに、自分は誰かに責めて欲しかった。
罵って欲しかったのだ。
「…わざわざすいません。少しお待ちいただげせんか?」
俺は、雪の母親に会う事を決意した。
「何故ですか?」
「少し、散らかっていまして…片付けますので、少々お待ち下さい」
少し所ではない。大分散らかっている。
山のように積みあげられたゴミ袋や段ボール。
足の踏み場もないほどの状態だ。
玄関越しにそう伝えると、母親はそのままで構わないと言ってきた。
「いえ、しかし、それでは…」
「いいんです。霧島さん。私は本当の、今の貴方のありのままの生活を見たいのです。ですから、どうかここを開けて下さい」
そう言われては、断る事など出来ない。
悪いのは全て自分だ。全ての要求を受けなければ駄目だろうと思い、玄関のドアを開ける。
何処となく、雪の面影がそこにはあった。
和服姿の似合う、美人女将。
そんな印象を受ける。
「…大分、自分を責め続けたようですね」
自分に対し、第一印象はどう感じたのだろうか。
「あがっても?」
「…汚い所ですが、どうぞ、こちらに」
床に散らばるゴミを、足ではなく、手で退かしながら、雪の母親をリビングまで案内した。
ーーーーーーーー
リビングに着き、テーブル越しに向かい合っていた。タイミングを見計らっているのか、どちらも無言である。
先に動かなくては!と、口を開いたのは俺からであった。
「こ、この度は、誠に申し訳ありませんでした」
額を床に擦り付け、誠心誠意を込めて、俺は謝罪した。土下座何かで許されるハズがない。
殴られても、刺されても、文句など言えるハズがない。
それでもだ。
謝る事しか、今の俺には出来なかった。
「…顔をおあげ下さい。霧島さん」
「…はい」
ゆっくりと顔をあげた俺だったが、母親の目を見る事が出来なかった。
ここからだ。
ここから俺は、罵声を浴びて、責められるのだ。
しかし、それは仕方がない事だ。
それだけの事を、したのだから…。
ギュッと握り拳を作り、正座している両足へと乗せた。
「ほ、本当に…本当にごめんなさい」
「え?」
思わず、耳を疑ってしまう。
自分の聞き間違いだろうか?
そう思った俺は、母親の方を向くと、母親は深々と腰を折り、土下座の態勢であった。
「本来なら、もっと早く来るべきでした。本当に、本当に…ごめんなさい」
「いえ、本来であれば自分が!自分が伺うべき所です!やめて下さい!」
思わず、そう叫んでいた。
「違うんです。違うんです…霧島さん」
「どう違うって言われるのですか!」
「雪が、いえ、娘が自殺したのは、貴方の所為なんかではありません」
「…ど、どういう事ですか」
「娘は余命宣告を受けていました」
「き、気休めはよして下さい!過酷なスケジュールに耐えかねての自殺だった!ネットやニュースではそう、報じられていた!」
「それについて、証拠はありますか?」
思わず固まってしまう。
「失礼ながら、千尋さん…だったかしら。社長さんにも話しを聞いて参りました。あの日の前日に、娘のためにと会食を断られたと聞いています」
あの日とは、雪が自殺をしてしまった日の事だろう。
確かに俺は、雪の様子がおかしいと感じており、千尋との会食をキャンセルしていた。
「霧島さん。あの日、何があったのかを、教えていただけませんか?」
「…それは」
「第一発見者は貴方だと聞きました。私は知りたいのです。娘の事を。私には、知る権利があるハズです」
話しを聞いた俺は、ごもっともだと思った。
雪の遺体を発見した時の記憶。
何よりも忘れたいと思っている記憶。
向き合う時がきたのだ。
「…少し長くなってしまいますが、宜しいですか?」
「構いません」
俺は、深く深呼吸をする。
忘れたいと願った彼女との記憶。
しかし、話さない訳にはいかない
そう、それは…自分の罪なのだから。
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