ニートは死んでも治らないっ!
ゴーストグラデュエーション
まったく……どうしてこんなことになったのだろう。
そもそも他人と一緒に過ごして良かったことなんて数えるほどしかない。なぜ僕はももかの誘いを受けてしまったのだろう。
いつもなら、ミルクセーキを飲みながらマンガっぽい小説を読んでる。
読書の合間に読むミルクセーキは本当に美味しい。しかも牛乳200ccと卵1個と砂糖大さじ一杯だけで作れるのがすごい。
ミルクセーキ誕生はビックバンと並ぶほどの重大な出来事だ。
多めの砂糖は、疲れた頭にとても優しい。
そのあとはお風呂に入りながら漫画を読んで、布団に入って寝る。布団の中でも読みたいが、翌日に目が疲れてしまうのでやらない。
まあ、とにかく一日の大半を一人で過ごすのが好きだ。
それがユキを雇ってから(?)まったく変わってしまった。なにしろ常につきまとうもんだから、一人で過ごす時間なんて0に等しい。さすがに風呂とトイレは一緒じゃないが(むしろしてほしい)。
兄弟姉妹が何人もいる大家族のほうが、僕よか一人の時間を満喫していると思う。
「あ」
ももかがぽつん、と声を出す。
「忘れ物思い出したから、ちょっと取ってくるね」
「一人でも大丈夫?」
言った後、保護者っぽい口調になったことに気づいて恥ずかしくなった。
でも、なんとなく、ももかは放っておけないんだよな。途中で迷いそうだし。
「う……うんっ。大丈夫だから、ここで待っててっ」
しどろもどろに答えると、あたふたと走り去って行く。どうしたんだろう。何か重要な忘れ物なのだろうか。
とはいっても、夜中に取りに行かなくてはならない忘れ物って何だろう。
教科書とノート忘れると予習ができないと言うが、朝早く行ってやればいいじゃないか。とすると、体操服とか弁当箱かな。
「私も念のためついていくわ」
ももかの後を追ってユキも走る。すぐにももかに追いつくと、ももかの背後にぴったりと貼り付いた。
そんなに怖いのなら行かなければいいのに。
……。
……っていうか僕、一人じゃないか。さっきまでは一人がいいと言ってたのに、実際に一人になると落ち着かない。駄々っ子かよ。
ふらっと窓に寄りかかって外を見る。
夜の中庭は、月の光を浴びて淡く輝いている。昼間、弁当を食べる生徒で賑わっているのと比べると、ずいぶん違って見える。
普段は中庭という機能しかないのに、今は中庭っていう場所がある感じがする。
外を眺めながら、これからについて考える。
ももかは幽霊を見つけるまで帰らない気だろう。だったら、ユキに幽霊役をやってもらって、証拠写真をとってもらえばいいのかな。
騙すのはよくないけど、このまま帰りが遅くなるのはもっとよくないだろう。怖い幽霊じゃなく、怖い人間が出るかもしれない。
――なんてことを考えたら寒気がしてきた。そうだ、今のうちにトイレへ行こう。僕はトイレを目指して歩く。
すると、トイレの方から何か音がする。何かと何かが軽くぶつかったような音だ。
「きっと幽霊だ。ももかに知らせて早く終わらせよう」と思い、僕は音を立てない程度に急ぐ。
目指していた音は、何かと何かが擦れるような音に変わっている。中から来る異質な匂いに襲われ、いよいよ何かいる雰囲気が充満し――。
「ちょっとレイくん! 何してるの?!」
聞き慣れた声がし、僕は落胆する。
なんだ、ユキか。新種の幽霊の方が良かったのに。ユキは、さっきまで震えた目を吊り上げて、なんだか不機嫌そうだった。
「まさかレイくん……本当に覗きをするなんて。その一線は越えちゃだめよ。男子はHな方が健全だと思うけど、特殊すぎるのはちょっと……」
「はぁ? 僕は変な音がしたから調べに来ただけだぞ」
すると、トイレの中から水が流れる音が聞こえる。しかも、結構な量の水が断続的に流れる音だ。
間違いない、ユキ以外にも何かいる。僕は正体を確かめるべく、意を決して一歩を踏みだ……そうとしたらユキに掴まれていた。
「ストップストップ。今ももかちゃんが入ってるだけよ」
「なんだ。幽霊とは関係ないのか」
ももかか。そう言えばいなかったよな。全く、トイレならトイレって言ってくれればいいのに。
「まったく……女子トイレに耳を傾けるなんてどういう神経してるの?」
「手前側だから男子トイレだと思ったんだ」
「どこから見て手前側なのよ」
「どこって教室から……あ、そうか」
僕が来たのは教室とは反対だった。ということは僕がさっき見ていたのは紛れもなく女子トイレだった。
これも哲学的問題の一種である。手前側という言葉の定義を間違えると、思いもよらぬ結論が出てしまうのだ。
「お待たせー……って、わぁ!? なんでここにいるの?」
そんなことを考えてると、ももかがトイレから出てくる……と、ずささぁっと後ずさり、またトイレに入っていく。
「一人だと危ないかと思って」
とっさに思いついた言い訳を使うと、ももかは暫く目を泳がせた後「だ、大丈夫だよ。わたし、こういうの慣れてるから」と言った。
ま、そうだよな。怖がりなら夜の学校に行くはずがないし。
……しばらく無言が続く。
どうしてだろう。僕は何か言ってはいけないことを言ってしまったのか。それとも、トイレの音を聞いたのがまずかったのかな。
聞かれるのを恥ずかしがる人もいるみたいだし。
まあ、とりあえず無言のままは気まずいので、何か話をしよう。
今気になってるのは「女性の胸やふとももに興味を持つのは健全だが、排尿への興味は不健全か」だ。けど、女の子を前にそんな話はできない。
無難に幽霊の話がベターだろう。
「ねぇ、この学校ってどうして幽霊が出てくるの?」
「学校に恨みや禍根を持った人がいるからだよ。人の思いが強すぎると、モノに移ることがあるの。その思いが邪心だったりすると、こうやって悪さをするんだよ」
「そうなんだ。で、御札を使うとその霊が成仏するってこと?」
「ん~、成仏っていうのはないかな。けど、鎮魂っていうのはあるの。強すぎる思いを少し抑える感じかな。
例えば、雨が強すぎると災害になるけど、適量なら植物の養分になるでしょ。そういう感じかな」
なるほど。てっきりユキみたいな霊がたくさんいるのかと思ってたけど、そうじゃないみたい。
「でも、これは神道の考えだから。幽霊はでっちあげだって人もいるし、成仏も鎮魂も同じって人もいるよ。
れいくんは、れいくんなりに考えればいいんじゃないかな?」
「え? 勝手に考えてもいいの?」
「いいよ。目指す幸せの形が違うから、たくさんの考えがあるんだよ」
たくさんの考えと言われて、僕は困ってしまう。
ということは、ユキみたいな霊に対する考えも様々あるということだ。
そうなると、そのうちどれが正しいのか見極めないと、僕は永久に霊に取り憑かれたままになってしまうのかもしれない。
「ねぇねぇ、れい君が霊感強いのって、生まれつきなの?」
考え事をしていると、ももかが次の話題を振ってくる。
変なことを聞いてきたな――と思ったけど、さっきユキの失態を誤魔化すためにそういう設定にしてたことを思い出した。
とはいったものの、誤魔化すのは苦手だし、あまり好きなほうではない。
人付き合いをすると、必ず何か嘘を言わなくてはならない。
何かを守るために、別の何かで覆い、またそれを別の何かで覆う。
そして、いつの間にか手段と目的が入れ替わり、最終的に僕は嘘をつくだけの人間になってしまうような気がした。
「いや、さっきのは偶々。普段は感じることはないよ」
「偶々でもすごいよ。わたし、あんなにはっきりと当てたことないもん」
「僕も似たようなもんだよ」
「そんなことないよ。れい君にはこう……霊感ありそうな雰囲気もあるもん」
話がややこしくなってきたな。どうあっても僕に霊感があるようにしたいらしい。
ユキといいももかといい、どうして主張をひっこめるという発想が出てこないんだろうか。
……哲学的問題が生じた。
霊感とは霊的存在を認知する能力だが、霊的存在は霊感がある人間にしか認知できない。つまり同語反復だ。
例えば、温度計が測っているのは本当に温度なのか証明することはできない。なぜなら、温度計で測ったもののことを温度と呼んでいるからだ。
また、不死の存在に死を与える能力をもっていても、不死の存在がいない限り確かめようがない。
これらを一般化すると、原因は結果に独立していなければならないということが言える。
霊感が存在しないことは論理的に明らかなのだが、ももかにはきっと納得してもらえないだろう。そこが難しく、やるせないところだ。
もし世の中が論理的に動いていたら、僕も少しは生きやすくなるだろうと思う。
頭についたおさげをアンテナ代わりにするももかを見ながら、僕はそんな悩みの中を彷徨っていた。
◇◆◇◆
「さてさて、幽霊探し第二部、スタート!」
トイレ休憩を経て、第二部が始まる。
次の心霊スポットへ意気揚々と歩くももかの横で、僕は冷静に帰宅作戦の続きを練る。もう探索は終わらせて、布団に潜りたい。
そもそも、この方法は効率が悪いのではないか? わざわざ夜中に探索しなくても、日中誰かが目撃したところを現行犯で取り押さえればいいのだ。
けど、ももかを見てると中々言い出せない。
おそらく、自分で幽霊を発見したいのだろう。パンツだって、わざと見せられるより偶然見えるほうがいいじゃないか。
「れいくんは、好きな幽霊っている?」
……と思ったが、ももかが話始めたので中断する。ええと、好きな幽霊? どうしよう、考えたこともないぞ。とりあえず背後霊は論外として……。
特に好きな幽霊は思いつかない。
幽霊って大体悪いことをするから、好きになるのは難しよな。
「いないよ。ももかはいるの?」
「うん」
いるんだ。普通の人にはいるのかな?
小学校の時、クラスの女の子たちがプロフィールカードみたいなものを交換してたけど、ひょっとして「好きな幽霊はなんですか」という項目があるのかもしれない。
「わたしは、この子の霊が好きなの」
ももかはそういうと、おさげを結んでいたリボンをほどいて両手に乗せた。
ピンクの縞模様が入った、女の子らしい柄だ。ところどころ解れたり色褪せたりしてるところを見ると、結構古いものなのだろう。
「わたしが昔、一緒に遊んでたぬいぐるみ。どこへ行くときも一緒に連れて行ってたの。けど、誕生日に新しいのをもらって、私はそっちに夢中になった。そしたらいつのまにか、古いほうは捨てられてたの。すごくショックで、わたし何度も泣いたの。それはきっと、捨てられて悲しかったんじゃなくて、わたしがあの子のことを忘れちゃってたことが悲しかったんだと思う。
それから何度もお願いしたの。もう二度とあの子のことを忘れないから、戻ってきてほしいって。お母さんに言うとまた別のを買ってきちゃうかもしれないから、夢の中でね。そうしたら、あの子の声が聞こえたの」
「なんて言ってたの?」
「よくわからなかったけど、何かを伝えようとしてた。わたしにはそれで十分だったよ。言葉って、そういうものでしょ?」
「そうだね。そんなふうにして伝わるものもあるよね」
「幽霊は目に見えないけど、見えないから良いものだってあるんだよ。けど、みんなは幽霊のことを悪く言うでしょ? わたしはそうじゃないよって伝えたいの」
ももかはそう言い終わると、リボンを元通りに結び直した。。
「こういう話で人と繋がれると、運命って感じがしていいと思わない?」
……あれ? 幽霊の話じゃなくなったぞ……。どうしよう。まぁ、ユキが激しくうなずいてるし、同意した方がいいのかな。
「そうだよね、僕も」
「そ、そうなの?」
あ、しまった食いつかれた! こういう話は恥ずかしいんだけどな……。
ももかの頬は、暗がりでもわかるくらいに染まっている。
「れ、れ、れいくんは、どんな人が好き?」
えーと……。僕は今まで読んだ本やゲームのなかから好きな女の子を思い浮かべる。
舟を漕ぎながら観光ガイドをする子や、御札で妖怪退治をする巫女や、着物姿で駅長をしてる子……ってそんなの言えるわけないだろっ!
いきなりディープな嗜好を打ち明けず、現実で考えよう。
困ってユキの方を見ると、目を合わせた瞬間にそっぽをむかれた。自分で答えを考えるしかないらしい。
「うーん……料理が得意な人かな」
僕は料理を作れないから、栄養のあるものを食べるためには必須の条件だ。それに、子供の食事のバランスも大事だと思う。
「え……りょ、料理?」
慌てて答えたのか、少し上ずった声になってる。
「変、かな?」
俗っぽくて夢がない答えだったから、期待ハズレだったのかな?
「ううん。いいと思うよ」
「ももかは?」
「私は……隣に居てくれる人がいいな。嬉しい時も悲しい時も、いつでも側に居てくれる人。二人でいれば、嬉しさ2倍で悲しみ半減って言うもん」
ふーむ。僕は経験したことがないからわからないけど、そういうものなんだろうな。
「それに、辛いことがあっても、何とかなりそうな気がする。たとえ辛いことがあったとしても……好きな人とだったら、頑張れるんだよ」
「好きな人」という言葉に、少しドキッとする。もちろん僕に向けられた言葉じゃないだろうけど、今の僕達のシチュエーションって――ももかの言う状況に結構近い。
もしかして、やたらと張り切っていたのは、僕と一緒だから? なんて想像をついしてしまう。
「夜中に一人じゃないって……いいよね」
ももかが僕を見つめながら言う。さっきまで考えていたことと相俟って、ますますドキドキしてしまう。
「ももかちゃん、かわいいっ!」
「きゃ!!」
ユキがももかに抱きつく……ってえええ!?
「ちょっと、何やってんのさ!」
「え……ああ! 私幽霊だった! ごめん」
両手で拝むような格好をして謝ってるけど、ごめんじゃ済まないって……
急な出来事で驚いたのか、ももかは若干涙目になってる。どうやってごまかそうか。
「わわわっ、玲くん!! 今、なんかいたよっ!!」
スイカ割りの時みたいに、ふらふらしながら辺りを見渡している。あまりに動きすぎて、スカートの中が見えそうになってる。
「頑張ってごまかして!!」
素知らぬ顔で責任をなすりつけてくるユキ。いや、アンタも考えろよ。このまま放っておくわけにもいかないので、僕はなんとか知恵を絞った。
「今のはスカートめくりする幽霊のしわざだね」
無意識かつ最悪な下ネタだった。こういう時って素の自分が出るよね。
「……何その言い訳。苦しすぎ」
かなり呆れ顔のユキがじとーっと睨んでくる。いや、これが限度だって。
話下手な人間にこれ以上期待しないでよ。というか、ユキの方がこういうの得意だろ?ユキがやればいいじゃないか……。
「ねぇ! れいくんには今の見えたの?! どんなだった?!」
そりゃ、夜の廊下にくっきり映る白……ってそうじゃないよな。幽霊のことだろ。
「いや、早すぎて見えなかったよ」
「えぇ~~……。 じゃ、もっかいめくられるから、ちゃんと写真とってね」
それは多分犯罪。
◇◆◇◆
「そろそろ帰らないと……」
一通り学校を廻ったところで、ももかが言った。もう生活音もまばらになっている。時刻を見ると、11時だ。
「うわ、もうこんな時間か」
途中から時間を気にしてなかったとはいえ、光陰矢の如しだな。
「今日は楽しかったよ。……また、誘ってもいいかな?」
「え、えと……」
どうしよう。確かに今日はそこそこ楽しかったけど、やっぱり他人と一緒だと緊張しちゃうし……それなら一人で家にいたほうが……。
僕がそんな風に考えていると、ユキが僕の頭をつかんで、無理矢理前へ傾けた。
「いいの?! ありがと~~」
ももかはそれを了承と受け取ったらしく、上機嫌だ。
僕の生活に拒否権というものはないのかもしれないな。
「うちの部のこと、あんまり良く思ってない人もいるの。だから、味方になってくれる人がいるとすごく心強いよ」
「そうなんだ。どんな人が良く思ってないの?」
「先生とか、生徒会の人たちには、あんまりね。他にも、ひそひそ噂してる人もいるし。
もともと何人かいたんだけど、先週あたりから結構多めになってきてて……」
まぁ、そうだよな。僕は、自分に関係のないことなら別にどうだっていいと思うけど、そうじゃない人もいる。
彼らは気に入らないもの、醜いもの、常識から外れたものを見つけると、陰湿な手段で攻撃してくる。
まるで全ての元凶がそこにあるかのように。
なぜ彼らがそんな行動をとるのか、僕には理解できないけど、脅威は確実に存在している。
「でもわたし、部活やめるつもりはないの。
悩んでる人がこの学校からいなくなるまで。
そしてわたしは、みんなの悩みをなくすような……リーブ21みたいな存在になるの」
心意気は立派なのに、目標は微妙だった。
けど、ももかの姿勢は僕にはショックだった。僕は屋上へ逃げだすくらい噂話が嫌いなのに、ももかは受け止めようとしている。
同じ歳でもこうも違うのかと、自分の怠惰を恨めしく思う。
ももかが噂から逃げないのは、部活が好きだからだろうか。
僕にも心から好きなものがあれば良いのだろうか。好きとはなんだろう。
◇◆◇◆
その夜、僕は夢を見た。
夢の中の僕は、浅い川の中を歩いていた。足首の辺りに抵抗を感じながら、わけもわからず進んでいた。
どこが前で、どっちが後ろかもわからなかった。地平線の彼方まで、時の流れを感じさせない水が漂っていた。
空一面は、薄暗い灰色で覆われていた。
雲のように流れることはなく、ただどんよりと漂っている。まるで、罰を受けて天井に張り付けられているみたいだ。
僕はなぜここにいるんだろう。どうしてこんなことをしているんだろう。
そんな疑問をあっさりと吸い込んでしまうくらい、辺りには何もない。僕は一体何をしているんだ。
「お前が悪い」どこかから声がする。低く、不気味な声だ。そうなのだろうか。
たとえ理由がわからなくても、僕に原因があるのだろうか。悪いというのは、誰が何のために決めた基準なのか。
「レイくん、こっちよ」ユキの声がした。その声は、僕が歩いてきた後ろ側からした。「その世界の出口はここにあるわ」と彼女は続ける。僕はそれを無視して歩き続ける。どこへ向かって行くのか、わからないままだ。
――どれくらい歩いただろう。
ユキの声も不気味な声も届かなくなった頃、人の影のようなものが浮かんだ。ぼくはその影を手に入れようとしたけど、影は川の底へと沈んでいった。
追いかけると、急に足がズブズブと沈むポイントに入り込む。
僕はとっさに足をもどした。僕はその、足をとられて空いてしまった穴を見続けている。
そもそも他人と一緒に過ごして良かったことなんて数えるほどしかない。なぜ僕はももかの誘いを受けてしまったのだろう。
いつもなら、ミルクセーキを飲みながらマンガっぽい小説を読んでる。
読書の合間に読むミルクセーキは本当に美味しい。しかも牛乳200ccと卵1個と砂糖大さじ一杯だけで作れるのがすごい。
ミルクセーキ誕生はビックバンと並ぶほどの重大な出来事だ。
多めの砂糖は、疲れた頭にとても優しい。
そのあとはお風呂に入りながら漫画を読んで、布団に入って寝る。布団の中でも読みたいが、翌日に目が疲れてしまうのでやらない。
まあ、とにかく一日の大半を一人で過ごすのが好きだ。
それがユキを雇ってから(?)まったく変わってしまった。なにしろ常につきまとうもんだから、一人で過ごす時間なんて0に等しい。さすがに風呂とトイレは一緒じゃないが(むしろしてほしい)。
兄弟姉妹が何人もいる大家族のほうが、僕よか一人の時間を満喫していると思う。
「あ」
ももかがぽつん、と声を出す。
「忘れ物思い出したから、ちょっと取ってくるね」
「一人でも大丈夫?」
言った後、保護者っぽい口調になったことに気づいて恥ずかしくなった。
でも、なんとなく、ももかは放っておけないんだよな。途中で迷いそうだし。
「う……うんっ。大丈夫だから、ここで待っててっ」
しどろもどろに答えると、あたふたと走り去って行く。どうしたんだろう。何か重要な忘れ物なのだろうか。
とはいっても、夜中に取りに行かなくてはならない忘れ物って何だろう。
教科書とノート忘れると予習ができないと言うが、朝早く行ってやればいいじゃないか。とすると、体操服とか弁当箱かな。
「私も念のためついていくわ」
ももかの後を追ってユキも走る。すぐにももかに追いつくと、ももかの背後にぴったりと貼り付いた。
そんなに怖いのなら行かなければいいのに。
……。
……っていうか僕、一人じゃないか。さっきまでは一人がいいと言ってたのに、実際に一人になると落ち着かない。駄々っ子かよ。
ふらっと窓に寄りかかって外を見る。
夜の中庭は、月の光を浴びて淡く輝いている。昼間、弁当を食べる生徒で賑わっているのと比べると、ずいぶん違って見える。
普段は中庭という機能しかないのに、今は中庭っていう場所がある感じがする。
外を眺めながら、これからについて考える。
ももかは幽霊を見つけるまで帰らない気だろう。だったら、ユキに幽霊役をやってもらって、証拠写真をとってもらえばいいのかな。
騙すのはよくないけど、このまま帰りが遅くなるのはもっとよくないだろう。怖い幽霊じゃなく、怖い人間が出るかもしれない。
――なんてことを考えたら寒気がしてきた。そうだ、今のうちにトイレへ行こう。僕はトイレを目指して歩く。
すると、トイレの方から何か音がする。何かと何かが軽くぶつかったような音だ。
「きっと幽霊だ。ももかに知らせて早く終わらせよう」と思い、僕は音を立てない程度に急ぐ。
目指していた音は、何かと何かが擦れるような音に変わっている。中から来る異質な匂いに襲われ、いよいよ何かいる雰囲気が充満し――。
「ちょっとレイくん! 何してるの?!」
聞き慣れた声がし、僕は落胆する。
なんだ、ユキか。新種の幽霊の方が良かったのに。ユキは、さっきまで震えた目を吊り上げて、なんだか不機嫌そうだった。
「まさかレイくん……本当に覗きをするなんて。その一線は越えちゃだめよ。男子はHな方が健全だと思うけど、特殊すぎるのはちょっと……」
「はぁ? 僕は変な音がしたから調べに来ただけだぞ」
すると、トイレの中から水が流れる音が聞こえる。しかも、結構な量の水が断続的に流れる音だ。
間違いない、ユキ以外にも何かいる。僕は正体を確かめるべく、意を決して一歩を踏みだ……そうとしたらユキに掴まれていた。
「ストップストップ。今ももかちゃんが入ってるだけよ」
「なんだ。幽霊とは関係ないのか」
ももかか。そう言えばいなかったよな。全く、トイレならトイレって言ってくれればいいのに。
「まったく……女子トイレに耳を傾けるなんてどういう神経してるの?」
「手前側だから男子トイレだと思ったんだ」
「どこから見て手前側なのよ」
「どこって教室から……あ、そうか」
僕が来たのは教室とは反対だった。ということは僕がさっき見ていたのは紛れもなく女子トイレだった。
これも哲学的問題の一種である。手前側という言葉の定義を間違えると、思いもよらぬ結論が出てしまうのだ。
「お待たせー……って、わぁ!? なんでここにいるの?」
そんなことを考えてると、ももかがトイレから出てくる……と、ずささぁっと後ずさり、またトイレに入っていく。
「一人だと危ないかと思って」
とっさに思いついた言い訳を使うと、ももかは暫く目を泳がせた後「だ、大丈夫だよ。わたし、こういうの慣れてるから」と言った。
ま、そうだよな。怖がりなら夜の学校に行くはずがないし。
……しばらく無言が続く。
どうしてだろう。僕は何か言ってはいけないことを言ってしまったのか。それとも、トイレの音を聞いたのがまずかったのかな。
聞かれるのを恥ずかしがる人もいるみたいだし。
まあ、とりあえず無言のままは気まずいので、何か話をしよう。
今気になってるのは「女性の胸やふとももに興味を持つのは健全だが、排尿への興味は不健全か」だ。けど、女の子を前にそんな話はできない。
無難に幽霊の話がベターだろう。
「ねぇ、この学校ってどうして幽霊が出てくるの?」
「学校に恨みや禍根を持った人がいるからだよ。人の思いが強すぎると、モノに移ることがあるの。その思いが邪心だったりすると、こうやって悪さをするんだよ」
「そうなんだ。で、御札を使うとその霊が成仏するってこと?」
「ん~、成仏っていうのはないかな。けど、鎮魂っていうのはあるの。強すぎる思いを少し抑える感じかな。
例えば、雨が強すぎると災害になるけど、適量なら植物の養分になるでしょ。そういう感じかな」
なるほど。てっきりユキみたいな霊がたくさんいるのかと思ってたけど、そうじゃないみたい。
「でも、これは神道の考えだから。幽霊はでっちあげだって人もいるし、成仏も鎮魂も同じって人もいるよ。
れいくんは、れいくんなりに考えればいいんじゃないかな?」
「え? 勝手に考えてもいいの?」
「いいよ。目指す幸せの形が違うから、たくさんの考えがあるんだよ」
たくさんの考えと言われて、僕は困ってしまう。
ということは、ユキみたいな霊に対する考えも様々あるということだ。
そうなると、そのうちどれが正しいのか見極めないと、僕は永久に霊に取り憑かれたままになってしまうのかもしれない。
「ねぇねぇ、れい君が霊感強いのって、生まれつきなの?」
考え事をしていると、ももかが次の話題を振ってくる。
変なことを聞いてきたな――と思ったけど、さっきユキの失態を誤魔化すためにそういう設定にしてたことを思い出した。
とはいったものの、誤魔化すのは苦手だし、あまり好きなほうではない。
人付き合いをすると、必ず何か嘘を言わなくてはならない。
何かを守るために、別の何かで覆い、またそれを別の何かで覆う。
そして、いつの間にか手段と目的が入れ替わり、最終的に僕は嘘をつくだけの人間になってしまうような気がした。
「いや、さっきのは偶々。普段は感じることはないよ」
「偶々でもすごいよ。わたし、あんなにはっきりと当てたことないもん」
「僕も似たようなもんだよ」
「そんなことないよ。れい君にはこう……霊感ありそうな雰囲気もあるもん」
話がややこしくなってきたな。どうあっても僕に霊感があるようにしたいらしい。
ユキといいももかといい、どうして主張をひっこめるという発想が出てこないんだろうか。
……哲学的問題が生じた。
霊感とは霊的存在を認知する能力だが、霊的存在は霊感がある人間にしか認知できない。つまり同語反復だ。
例えば、温度計が測っているのは本当に温度なのか証明することはできない。なぜなら、温度計で測ったもののことを温度と呼んでいるからだ。
また、不死の存在に死を与える能力をもっていても、不死の存在がいない限り確かめようがない。
これらを一般化すると、原因は結果に独立していなければならないということが言える。
霊感が存在しないことは論理的に明らかなのだが、ももかにはきっと納得してもらえないだろう。そこが難しく、やるせないところだ。
もし世の中が論理的に動いていたら、僕も少しは生きやすくなるだろうと思う。
頭についたおさげをアンテナ代わりにするももかを見ながら、僕はそんな悩みの中を彷徨っていた。
◇◆◇◆
「さてさて、幽霊探し第二部、スタート!」
トイレ休憩を経て、第二部が始まる。
次の心霊スポットへ意気揚々と歩くももかの横で、僕は冷静に帰宅作戦の続きを練る。もう探索は終わらせて、布団に潜りたい。
そもそも、この方法は効率が悪いのではないか? わざわざ夜中に探索しなくても、日中誰かが目撃したところを現行犯で取り押さえればいいのだ。
けど、ももかを見てると中々言い出せない。
おそらく、自分で幽霊を発見したいのだろう。パンツだって、わざと見せられるより偶然見えるほうがいいじゃないか。
「れいくんは、好きな幽霊っている?」
……と思ったが、ももかが話始めたので中断する。ええと、好きな幽霊? どうしよう、考えたこともないぞ。とりあえず背後霊は論外として……。
特に好きな幽霊は思いつかない。
幽霊って大体悪いことをするから、好きになるのは難しよな。
「いないよ。ももかはいるの?」
「うん」
いるんだ。普通の人にはいるのかな?
小学校の時、クラスの女の子たちがプロフィールカードみたいなものを交換してたけど、ひょっとして「好きな幽霊はなんですか」という項目があるのかもしれない。
「わたしは、この子の霊が好きなの」
ももかはそういうと、おさげを結んでいたリボンをほどいて両手に乗せた。
ピンクの縞模様が入った、女の子らしい柄だ。ところどころ解れたり色褪せたりしてるところを見ると、結構古いものなのだろう。
「わたしが昔、一緒に遊んでたぬいぐるみ。どこへ行くときも一緒に連れて行ってたの。けど、誕生日に新しいのをもらって、私はそっちに夢中になった。そしたらいつのまにか、古いほうは捨てられてたの。すごくショックで、わたし何度も泣いたの。それはきっと、捨てられて悲しかったんじゃなくて、わたしがあの子のことを忘れちゃってたことが悲しかったんだと思う。
それから何度もお願いしたの。もう二度とあの子のことを忘れないから、戻ってきてほしいって。お母さんに言うとまた別のを買ってきちゃうかもしれないから、夢の中でね。そうしたら、あの子の声が聞こえたの」
「なんて言ってたの?」
「よくわからなかったけど、何かを伝えようとしてた。わたしにはそれで十分だったよ。言葉って、そういうものでしょ?」
「そうだね。そんなふうにして伝わるものもあるよね」
「幽霊は目に見えないけど、見えないから良いものだってあるんだよ。けど、みんなは幽霊のことを悪く言うでしょ? わたしはそうじゃないよって伝えたいの」
ももかはそう言い終わると、リボンを元通りに結び直した。。
「こういう話で人と繋がれると、運命って感じがしていいと思わない?」
……あれ? 幽霊の話じゃなくなったぞ……。どうしよう。まぁ、ユキが激しくうなずいてるし、同意した方がいいのかな。
「そうだよね、僕も」
「そ、そうなの?」
あ、しまった食いつかれた! こういう話は恥ずかしいんだけどな……。
ももかの頬は、暗がりでもわかるくらいに染まっている。
「れ、れ、れいくんは、どんな人が好き?」
えーと……。僕は今まで読んだ本やゲームのなかから好きな女の子を思い浮かべる。
舟を漕ぎながら観光ガイドをする子や、御札で妖怪退治をする巫女や、着物姿で駅長をしてる子……ってそんなの言えるわけないだろっ!
いきなりディープな嗜好を打ち明けず、現実で考えよう。
困ってユキの方を見ると、目を合わせた瞬間にそっぽをむかれた。自分で答えを考えるしかないらしい。
「うーん……料理が得意な人かな」
僕は料理を作れないから、栄養のあるものを食べるためには必須の条件だ。それに、子供の食事のバランスも大事だと思う。
「え……りょ、料理?」
慌てて答えたのか、少し上ずった声になってる。
「変、かな?」
俗っぽくて夢がない答えだったから、期待ハズレだったのかな?
「ううん。いいと思うよ」
「ももかは?」
「私は……隣に居てくれる人がいいな。嬉しい時も悲しい時も、いつでも側に居てくれる人。二人でいれば、嬉しさ2倍で悲しみ半減って言うもん」
ふーむ。僕は経験したことがないからわからないけど、そういうものなんだろうな。
「それに、辛いことがあっても、何とかなりそうな気がする。たとえ辛いことがあったとしても……好きな人とだったら、頑張れるんだよ」
「好きな人」という言葉に、少しドキッとする。もちろん僕に向けられた言葉じゃないだろうけど、今の僕達のシチュエーションって――ももかの言う状況に結構近い。
もしかして、やたらと張り切っていたのは、僕と一緒だから? なんて想像をついしてしまう。
「夜中に一人じゃないって……いいよね」
ももかが僕を見つめながら言う。さっきまで考えていたことと相俟って、ますますドキドキしてしまう。
「ももかちゃん、かわいいっ!」
「きゃ!!」
ユキがももかに抱きつく……ってえええ!?
「ちょっと、何やってんのさ!」
「え……ああ! 私幽霊だった! ごめん」
両手で拝むような格好をして謝ってるけど、ごめんじゃ済まないって……
急な出来事で驚いたのか、ももかは若干涙目になってる。どうやってごまかそうか。
「わわわっ、玲くん!! 今、なんかいたよっ!!」
スイカ割りの時みたいに、ふらふらしながら辺りを見渡している。あまりに動きすぎて、スカートの中が見えそうになってる。
「頑張ってごまかして!!」
素知らぬ顔で責任をなすりつけてくるユキ。いや、アンタも考えろよ。このまま放っておくわけにもいかないので、僕はなんとか知恵を絞った。
「今のはスカートめくりする幽霊のしわざだね」
無意識かつ最悪な下ネタだった。こういう時って素の自分が出るよね。
「……何その言い訳。苦しすぎ」
かなり呆れ顔のユキがじとーっと睨んでくる。いや、これが限度だって。
話下手な人間にこれ以上期待しないでよ。というか、ユキの方がこういうの得意だろ?ユキがやればいいじゃないか……。
「ねぇ! れいくんには今の見えたの?! どんなだった?!」
そりゃ、夜の廊下にくっきり映る白……ってそうじゃないよな。幽霊のことだろ。
「いや、早すぎて見えなかったよ」
「えぇ~~……。 じゃ、もっかいめくられるから、ちゃんと写真とってね」
それは多分犯罪。
◇◆◇◆
「そろそろ帰らないと……」
一通り学校を廻ったところで、ももかが言った。もう生活音もまばらになっている。時刻を見ると、11時だ。
「うわ、もうこんな時間か」
途中から時間を気にしてなかったとはいえ、光陰矢の如しだな。
「今日は楽しかったよ。……また、誘ってもいいかな?」
「え、えと……」
どうしよう。確かに今日はそこそこ楽しかったけど、やっぱり他人と一緒だと緊張しちゃうし……それなら一人で家にいたほうが……。
僕がそんな風に考えていると、ユキが僕の頭をつかんで、無理矢理前へ傾けた。
「いいの?! ありがと~~」
ももかはそれを了承と受け取ったらしく、上機嫌だ。
僕の生活に拒否権というものはないのかもしれないな。
「うちの部のこと、あんまり良く思ってない人もいるの。だから、味方になってくれる人がいるとすごく心強いよ」
「そうなんだ。どんな人が良く思ってないの?」
「先生とか、生徒会の人たちには、あんまりね。他にも、ひそひそ噂してる人もいるし。
もともと何人かいたんだけど、先週あたりから結構多めになってきてて……」
まぁ、そうだよな。僕は、自分に関係のないことなら別にどうだっていいと思うけど、そうじゃない人もいる。
彼らは気に入らないもの、醜いもの、常識から外れたものを見つけると、陰湿な手段で攻撃してくる。
まるで全ての元凶がそこにあるかのように。
なぜ彼らがそんな行動をとるのか、僕には理解できないけど、脅威は確実に存在している。
「でもわたし、部活やめるつもりはないの。
悩んでる人がこの学校からいなくなるまで。
そしてわたしは、みんなの悩みをなくすような……リーブ21みたいな存在になるの」
心意気は立派なのに、目標は微妙だった。
けど、ももかの姿勢は僕にはショックだった。僕は屋上へ逃げだすくらい噂話が嫌いなのに、ももかは受け止めようとしている。
同じ歳でもこうも違うのかと、自分の怠惰を恨めしく思う。
ももかが噂から逃げないのは、部活が好きだからだろうか。
僕にも心から好きなものがあれば良いのだろうか。好きとはなんだろう。
◇◆◇◆
その夜、僕は夢を見た。
夢の中の僕は、浅い川の中を歩いていた。足首の辺りに抵抗を感じながら、わけもわからず進んでいた。
どこが前で、どっちが後ろかもわからなかった。地平線の彼方まで、時の流れを感じさせない水が漂っていた。
空一面は、薄暗い灰色で覆われていた。
雲のように流れることはなく、ただどんよりと漂っている。まるで、罰を受けて天井に張り付けられているみたいだ。
僕はなぜここにいるんだろう。どうしてこんなことをしているんだろう。
そんな疑問をあっさりと吸い込んでしまうくらい、辺りには何もない。僕は一体何をしているんだ。
「お前が悪い」どこかから声がする。低く、不気味な声だ。そうなのだろうか。
たとえ理由がわからなくても、僕に原因があるのだろうか。悪いというのは、誰が何のために決めた基準なのか。
「レイくん、こっちよ」ユキの声がした。その声は、僕が歩いてきた後ろ側からした。「その世界の出口はここにあるわ」と彼女は続ける。僕はそれを無視して歩き続ける。どこへ向かって行くのか、わからないままだ。
――どれくらい歩いただろう。
ユキの声も不気味な声も届かなくなった頃、人の影のようなものが浮かんだ。ぼくはその影を手に入れようとしたけど、影は川の底へと沈んでいった。
追いかけると、急に足がズブズブと沈むポイントに入り込む。
僕はとっさに足をもどした。僕はその、足をとられて空いてしまった穴を見続けている。
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