第26話 二人の思いでの一つ

出雲の姿を見た美桜は、その紅く染まった頬を隠すように両手で顔を覆っていた。出雲は何をしているんだろうと思いつつも、両替したお金を渡すために美桜の名前を何度も呼ぶ。しかし、美桜はその言葉が耳に届いていないのか顔を覆い続けている。

「美桜―？ 美桜さーん？」

出雲が何度も美桜の名前を呼ぶと、美桜はやっと自身の名を呼ぶ出雲がいることに気がついたのか、顔を覆う指の隙間を開けてそこから出雲を見始める。

「な、何しているの？ お金持ってきたよ？」

美桜が顔を覆うことを止めると、強く顔に手を当てていたのか頬が赤くなっていた。出雲は頬が赤いよと言いながら美桜の頬に触れようとすると、一歩美桜が後ろに下がってしまう。

「あ、ごめんね……触られるの嫌だったよね……」

出雲が悲しい顔をしながら言うと、美桜がハッとした顔をして出雲にそんなことないからと慌てながら言い、出雲の持っているお金を優しい手つきで受け取った。

「ごめんね。 ちょっと恥ずかしかっただけだから」

そう言う美桜の言葉の意味が分からない出雲は、そうだったんだと返すしかなかった。そして、お金を受け取った美桜はクレーンゲームのお金の投入口に百円を一枚入れて操作し始める。美桜はクレーンゲームのレバーを操作してフィギュアを取るために真剣な眼差しになる。美桜は二つのレバーを操作し終えると、フィギュアを取るためにアームが動いてフィギュアの箱を掴んだ。しかし、箱が重いのかアームが弱いのか一度箱が浮くとすぐにアームから落ちてしまう。

「ちょっと！ これアームが弱いんじゃないの！」

美桜は歯を喰いしばってもう一回やると叫ぶ。その後二度三度とやり続けていると、次第に取り出し口に近づきつつあった。

「美桜！ もうすぐだよ！ もうすぐゲット出来る！」

出雲が美桜を鼓舞すると、美桜がもうすぐ取れると笑顔で返す。そして、最後の百円を使用して出雲にあげるフィギュアをゲットすることが出来た。

「やったわ！ やっとゲット出来たわ！」

出雲以上に喜びながら出雲に抱き着く美桜。いつも通りに接したはずだが、身体が密着したことで美桜は一瞬のうちに顔を紅くしてしまう。

「あ、ご、ごめんね！ 急に抱き着いちゃって！」

美桜が言葉を噛みながら出雲に言うと、出雲は抱き着かれて嬉しかったと返す。その言葉を聞いた美桜はありがとうと照れながら返答した。

「きょ、今日の私は少しおかしいみたい！ はいこれ！ 出雲にあげるフィギュア！ ちゃんと大切に持っててよね！」

恥ずかしそうに、だけど照れながらも出雲にフィギュアを渡す。フィギュアを受け取った出雲はありがとうと言いながらフィギュアの入っている箱を抱きしめて家宝にすると言った。

「か、家宝って、言いすぎよ」

怒っている口調なのだがその美桜の顔はどこか嬉しそうに出雲には見えた。出雲は美桜に再度ありがとうと言って家に戻ろうと言った。

「そうね。 夕焼け空になってきたしそろそろ帰らないと雫が遅いって発狂するわ」

出雲は雫がそこまで怒るとはと雫は実は怖いのではないかと思っていたが、美桜が雫に電話をし始めていたので黙ることにした。

「あ、雫？ 今秋野原だけど今から帰るわ」

そう電話口で話す美桜を見て、出雲は文化が似ている部分が多いなと再確認する。美桜は雫と話し終えると、出雲に帰りましょうと言う。

「電話終わったんだ。 何て言ってた？」

出雲が聞くと、美桜が気を付けて帰って来てと言っていたと返す。出雲は気を付けて帰ろうと美桜に言うと、そうだねと美桜は笑顔でいた。駅に向かって歩く出雲は、美桜に今日はありがとうと言うと美桜は急にどうしたのと笑っていた。

「俺が緊張しているから今日こうしてこの世界の町に連れて行ってくれたのかなって思ってさ。 美桜はそう言うところに気がつくから」

出雲は美桜を少し理解した気がするも、美桜はそれはどうだろうねと右手の人差し指を自身の口元に当てて小悪魔なような笑顔を浮かべていた。

「いつもの美桜の仕草を見ると安心する」

出雲も笑顔で返すと美桜が緊張は解けていつも通りだねと笑顔になっていた。

「この世界にも少し慣れたみたいだし、朝みたいに緊張する必要はないよ」

美桜が出雲の両肩に手を置いて右肩に顎を乗せる。すると美桜は出雲の右頬を舐めた。

「うひゃ！？ な、なんで舐めるの！？」

出雲が突然舐められたことに驚くと、美桜が昨日夜にテレビで舐められたいなって言ってなかったと言う。出雲は昨日見てたのと驚くと、美桜は話そうと思って扉を開けたらそう呟いていたから身の危険を感じてと舌を出しながら笑顔で言う。