魔王様は学校にいきたい!
一進一退
「ハァ……ハァ……」
焼け野原と化した戦場で、アブドゥーラは膝を折り燻っていた。夥しい深手、消えかかった炎、まさに満身創痍といった様相である。
「ここまで俺を追い詰めるとは……素晴らしい、大したものだ……!」
対する陸上艦ロイヤルエリッサは、黒煙をあげながら佇んでいる。沈んでこそいないものの、こちらも満身創痍といった様相だ。
荒れ果てた周囲の惨状、そして双方の有様が戦いの激しさを物語っている。
「ハァ……ハァ……、次の一撃で決着か……」
満身創痍にもかかわらず、アブドゥーラは一向に戦意を失わない。気力と炎を振り絞り、やおらに巨体を持ちあげる。
同時にロイヤルエリッサは、軋む砲塔をアブドゥーラへと突きつける。やはり戦意は衰えていないよう、真っ向から迎撃する構えだ。
決着を前に緊張感は最高潮、とその時──。
「オオオッ、これはガレウス様の魔力か!」
邪神ガレウスの放った魔力が、夜を従えて駆け抜けたのである。
その影響は凄まじく、傷ついたアブドゥーラの肉体は瞬時に再生し、消えかけていた炎の鎧は復活する。
「己の力のみで決着をつけたかったが……致し方なし! 覚悟せよ人間、一切合切を消し炭にしてやろう!」
火の魔人は再び燃え盛り、夜の闇を焼き払う。
夜の訪れ、駆け抜ける邪神ガレウスの魔力は、邪教の信奉者を著しく増強する。
悪魔は闇を糧に威勢を増し、吸血鬼は暮れる空を舞い、魔物は暴虐の限りを尽くす、そんな中──。
「あ……あれ……?」
リィアンは大鎌を構えたまま、キョトンと首を傾げていた。
「これってガレウス様の魔力……だけど一体どうして? それにリィは? えっと確か……思い出した、ラドックスだ!」
どうやらガレウスの強大な魔力を取り込んだ衝撃で、ラドックスの精神侵食から逃れた模様。ところが唐突に意識を取り戻したため、まるで状況を飲み込めていないのだ。
「ええっと、何この状況? ああもう意味分かんない、こうなったら……まずはラドックスを懲らしめてやる、リィを操るなんて許せない──」
「下手な演技は止すことだ」
「──うえっ!?」
いつの間にやらリィアンは、ガーランド、パルチヴァール、トーレスに囲まれていた。というのも元々は戦いの只中にあったのである、だが操られていたリィアンはそんなこと知るよしもない。
「あー……久しぶり、元気だった?」
「なるほど、とぼけた演技で我々を惑わす算段ですね?」
「……小賢しい!」
「いやその、リィは……」
リィアンは本気で右往左往しているのだが、当然ながら信じてはもらえない。どうしたものかと困った末に、リィアンの取った行動は──。
「とっ、とりあえず逃げる!」
「「「なっ!?」」」
なんと一目散に逃げ去ったのである。ガレウスの魔力で強化された影響であろうか、とてつもない逃げ足の早さだ。
「待て貴様!」
「急いで追いましょう!」
「……逃がさん!」
こうしてリィアンと聖騎士の戦いは、まさかの追走劇へと転ずるのであった。
一方ロムルス王国、南ディナール王国、アルテミア正教国連合の本営では、ラドックスに操られた兵士達を相手に、クリスティーナが大立ち回りを見せていた。
「解除魔法……リムーブ……、うん……効果は上々……」
「「「「「オオオオォ……ッ!」」」」」
「リムーブ……リムーブ……リムーブ……リムーブ……リムーブ……!」
「「「「「オオォ……ッ!?」」」」」
途切れることのない解除魔法で、クリスティーナは精神侵食を次々と解除する。大勢の兵士を相手にしながら、露ほども疲れた様子を見せない。
「もう……終わり……?」
「「「こうも容易く精神侵食を解かれるとは、しかも王子には逃げられる始末……失態です……」」」
もはや立っている兵士は数名のみ、なんとクリスティーナはたった一人でラドックスの集団を制圧したのである。
「「「しかし妙な解除魔法ですね……」」」
「何が……?」
「「「かなり強固に抵抗しているつもりなのですよ、にもかかわらず一向に抗えない」」」
「そうね……ちょっと特別な……解除魔法だから……」
「「「ほほう、どう特別なのか是非お聞きしたい」」」
「教えるわけ……ない……」
どうやらクリスティーナは何かしら特別な手段で、ラドックスを完全に退けているらしい。その上で当然ながらカラクリを教えることはなく、残る数名に向けて淡々と解除魔法を放つ。
「解除魔法……リムーブ……リムーブ……!」
「「……かっ!?」」
一人また一人と倒れ、残る兵士はついに一人だ。まさに完封、非の打ち所のないクリスティーナの勝利である。
「まぁいいでしょう……どうせ王子は間にあいません、なぜなら既に王都は──」
「解除魔法……リムーブ……!」
「──かっ、はあぁ……」
そして最後の兵士も崩れ落ちる、ひっそりと不穏な言葉を残して。
焼け野原と化した戦場で、アブドゥーラは膝を折り燻っていた。夥しい深手、消えかかった炎、まさに満身創痍といった様相である。
「ここまで俺を追い詰めるとは……素晴らしい、大したものだ……!」
対する陸上艦ロイヤルエリッサは、黒煙をあげながら佇んでいる。沈んでこそいないものの、こちらも満身創痍といった様相だ。
荒れ果てた周囲の惨状、そして双方の有様が戦いの激しさを物語っている。
「ハァ……ハァ……、次の一撃で決着か……」
満身創痍にもかかわらず、アブドゥーラは一向に戦意を失わない。気力と炎を振り絞り、やおらに巨体を持ちあげる。
同時にロイヤルエリッサは、軋む砲塔をアブドゥーラへと突きつける。やはり戦意は衰えていないよう、真っ向から迎撃する構えだ。
決着を前に緊張感は最高潮、とその時──。
「オオオッ、これはガレウス様の魔力か!」
邪神ガレウスの放った魔力が、夜を従えて駆け抜けたのである。
その影響は凄まじく、傷ついたアブドゥーラの肉体は瞬時に再生し、消えかけていた炎の鎧は復活する。
「己の力のみで決着をつけたかったが……致し方なし! 覚悟せよ人間、一切合切を消し炭にしてやろう!」
火の魔人は再び燃え盛り、夜の闇を焼き払う。
夜の訪れ、駆け抜ける邪神ガレウスの魔力は、邪教の信奉者を著しく増強する。
悪魔は闇を糧に威勢を増し、吸血鬼は暮れる空を舞い、魔物は暴虐の限りを尽くす、そんな中──。
「あ……あれ……?」
リィアンは大鎌を構えたまま、キョトンと首を傾げていた。
「これってガレウス様の魔力……だけど一体どうして? それにリィは? えっと確か……思い出した、ラドックスだ!」
どうやらガレウスの強大な魔力を取り込んだ衝撃で、ラドックスの精神侵食から逃れた模様。ところが唐突に意識を取り戻したため、まるで状況を飲み込めていないのだ。
「ええっと、何この状況? ああもう意味分かんない、こうなったら……まずはラドックスを懲らしめてやる、リィを操るなんて許せない──」
「下手な演技は止すことだ」
「──うえっ!?」
いつの間にやらリィアンは、ガーランド、パルチヴァール、トーレスに囲まれていた。というのも元々は戦いの只中にあったのである、だが操られていたリィアンはそんなこと知るよしもない。
「あー……久しぶり、元気だった?」
「なるほど、とぼけた演技で我々を惑わす算段ですね?」
「……小賢しい!」
「いやその、リィは……」
リィアンは本気で右往左往しているのだが、当然ながら信じてはもらえない。どうしたものかと困った末に、リィアンの取った行動は──。
「とっ、とりあえず逃げる!」
「「「なっ!?」」」
なんと一目散に逃げ去ったのである。ガレウスの魔力で強化された影響であろうか、とてつもない逃げ足の早さだ。
「待て貴様!」
「急いで追いましょう!」
「……逃がさん!」
こうしてリィアンと聖騎士の戦いは、まさかの追走劇へと転ずるのであった。
一方ロムルス王国、南ディナール王国、アルテミア正教国連合の本営では、ラドックスに操られた兵士達を相手に、クリスティーナが大立ち回りを見せていた。
「解除魔法……リムーブ……、うん……効果は上々……」
「「「「「オオオオォ……ッ!」」」」」
「リムーブ……リムーブ……リムーブ……リムーブ……リムーブ……!」
「「「「「オオォ……ッ!?」」」」」
途切れることのない解除魔法で、クリスティーナは精神侵食を次々と解除する。大勢の兵士を相手にしながら、露ほども疲れた様子を見せない。
「もう……終わり……?」
「「「こうも容易く精神侵食を解かれるとは、しかも王子には逃げられる始末……失態です……」」」
もはや立っている兵士は数名のみ、なんとクリスティーナはたった一人でラドックスの集団を制圧したのである。
「「「しかし妙な解除魔法ですね……」」」
「何が……?」
「「「かなり強固に抵抗しているつもりなのですよ、にもかかわらず一向に抗えない」」」
「そうね……ちょっと特別な……解除魔法だから……」
「「「ほほう、どう特別なのか是非お聞きしたい」」」
「教えるわけ……ない……」
どうやらクリスティーナは何かしら特別な手段で、ラドックスを完全に退けているらしい。その上で当然ながらカラクリを教えることはなく、残る数名に向けて淡々と解除魔法を放つ。
「解除魔法……リムーブ……リムーブ……!」
「「……かっ!?」」
一人また一人と倒れ、残る兵士はついに一人だ。まさに完封、非の打ち所のないクリスティーナの勝利である。
「まぁいいでしょう……どうせ王子は間にあいません、なぜなら既に王都は──」
「解除魔法……リムーブ……!」
「──かっ、はあぁ……」
そして最後の兵士も崩れ落ちる、ひっそりと不穏な言葉を残して。
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