魔王様は学校にいきたい!
思いは一つ
時空間魔法発動の衝撃から半時ほど経ったころ、シャルロットはクラスメイト全員を下級クラスの教室塔に呼び集めていた。
「──ガレウス邪教団の仕業であると、アンナマリア様は推測していましたわ。このままでは間違いなく、全面戦争に突入しますの」
「「「「……」」」」
失踪したナターシャ、消息を絶ったヴィクトリア女王、漂うガレウス邪教団の気配、そして間近に迫った戦争。いずれも言葉を失うほどの、実に恐ろしい知らせである。
「皆に話すべきではない、不安にさせるべきではない。そう頭では分かっていますのよ、でも吐き出さずにはいられなくて……本当にごめんなさい」
「謝る必要はありません、よくぞ話してくださった!」
「えっ?」
「ナターシャさんは大切な友達で、ヴィクトリア様は大切な先生です。大切な人達の身に何か起きている、だとしたら知っておきたいです」
「さらに言うとシャルロット様も大切な友人だ、一人で抱え込ませたくないよな!」
「ありがとう……っ」
狼狽えることなく消沈することもなく、落ちついた様子でシャルロットに寄り添う。男子三人の頼もしい態度に、シャルロットは思わず涙する。
「ある程度の事情は分かった、さて自分達はどうするべきだろうか?」
「正直なところ、情報不足につき判断しかねます。二人はガレウス邪教団に捕まっているのか、それすらも確かではありません」
「でも可能性は高いだろ、だったら捕まっていると想定して動こうぜ。もし捕まってなかったら、取り越し苦労だって笑い話にすればいい」
「……そうですね、最悪を想定しておきましょう。しかしそうすると敵はガレウス邪教団、迂闊に手を出せない相手ですよ。何しろボク達は南ディナール王国で、かなり手酷くやられていますからね」
「「……」」
南ディナール王国での課外授業にて、下級クラスは魔人ザナロワとの戦闘を経験している。全員で挑むも勝負にすらならなかった、辛酸をなめさせられた出来事だ。
「私は……私はサーシャを放っておけません、でも……」
「お母様……ナターシャ……ううぅ、ワタクシは……」
葛藤に終わりはなく、いつまでも正しい答えは出せない。ついには誰も口を開かなくなったころ、不意にヘンリーが妙案を繰り出す。
「心情としてはナターシャさんやヴィクトリア様を救出に向かいたい、ですが下手な行動は慎むべきかもしれない。この二択でボクは迷っています、皆さんも同じですよね?」
「ええ、そうですわね……」
「そこで一つ提案です、いっそ全員で決めませんか?」
「「「「全員で決める?」」」」
「今から一枚ずつ紙を配りますので、投票形式で意見を出しましょう。救出に向かうべきだと思う人は丸印を書く、そう思わない人は何も書かない」
「なるほど、つまり多数決か!」
「全員で判断し全員で行動し、全員で責任を背負うってことだな」
「……私は賛成です、多数決の結果に従います」
「分かりましたわ、では紙を配ってくださいですの」
正しい答えを出せずとも、前に進まなくてはならない。現状においてヘンリーの提案は、状況を前に進めるための次善策だといえよう。
全員の意見が出揃ったところで、ヘンリーは代表して結果を確認する。手早く結果を確かめ終えると、同時に声をあげて大笑い。
「ハハハハハッ、いやこれは……はぁ」
「どうしたヘンリー、何を笑っているのだ?」
「失礼しました、どうぞ皆さんも確認してください」
「いきなり笑うなよ、驚くだろ……ってマジか!?」
オリヴィア、シャルロット、ヘンリー、シャルル、ベッポ、五人の意思が示された紙には、全てに大きく丸印が書かれていた。
多数決などするまでもなく、全員の思いは一つだったのである。
「おいおい満場一致かよ、最高だな!」
「なるほど、これは確かに笑ってしまう!」
「ぐすんっ……皆様と友達でいられて、私は心から嬉しく思います」
「ふふっ、下級クラスは最高のクラスですわ……っ」
進むべき道は示された、もはや迷うことは一切ない。大切な友達と先生を救うべく、全員で教室塔を飛び出す──。
「お待ちしておりました、シャルロット様」
「えっ、ゴーヴァン!?」
──飛び出したところで、なんと聖騎士ゴーヴァンに遭遇。教室塔の前で仁王立ちである、どうやら待ち構えていたらしい。
「行方不明のヴィクトリア様と、ナターシャを探しにいくのですね?」
「……さてはお父様の指示で、ワタクシを見張りにきたのですわね?」
「当たらずとも遠からずです」
「止めたって無駄ですわよ、ワタクシはいきますわ!」
シャルロットの気迫は凄まじく、聖騎士を相手にしても怯まない。立ち塞がるゴーヴァンを突破するため、体当たりでも仕掛けそうな勢いだ。
一方のゴーヴァンだが、どうしたことか気迫は皆無。そっと地面に剣を置き、膝をついて首を垂れる。
「聖騎士ゴーヴァン、陛下のご命令によりシャルロット様にお供いたします」
「ワタクシにお供……はっ、はええぇ!?」
皆が皆ギョッと驚く中、ゴーヴァンは顔をあげニッコリと微笑むのであった。
「──ガレウス邪教団の仕業であると、アンナマリア様は推測していましたわ。このままでは間違いなく、全面戦争に突入しますの」
「「「「……」」」」
失踪したナターシャ、消息を絶ったヴィクトリア女王、漂うガレウス邪教団の気配、そして間近に迫った戦争。いずれも言葉を失うほどの、実に恐ろしい知らせである。
「皆に話すべきではない、不安にさせるべきではない。そう頭では分かっていますのよ、でも吐き出さずにはいられなくて……本当にごめんなさい」
「謝る必要はありません、よくぞ話してくださった!」
「えっ?」
「ナターシャさんは大切な友達で、ヴィクトリア様は大切な先生です。大切な人達の身に何か起きている、だとしたら知っておきたいです」
「さらに言うとシャルロット様も大切な友人だ、一人で抱え込ませたくないよな!」
「ありがとう……っ」
狼狽えることなく消沈することもなく、落ちついた様子でシャルロットに寄り添う。男子三人の頼もしい態度に、シャルロットは思わず涙する。
「ある程度の事情は分かった、さて自分達はどうするべきだろうか?」
「正直なところ、情報不足につき判断しかねます。二人はガレウス邪教団に捕まっているのか、それすらも確かではありません」
「でも可能性は高いだろ、だったら捕まっていると想定して動こうぜ。もし捕まってなかったら、取り越し苦労だって笑い話にすればいい」
「……そうですね、最悪を想定しておきましょう。しかしそうすると敵はガレウス邪教団、迂闊に手を出せない相手ですよ。何しろボク達は南ディナール王国で、かなり手酷くやられていますからね」
「「……」」
南ディナール王国での課外授業にて、下級クラスは魔人ザナロワとの戦闘を経験している。全員で挑むも勝負にすらならなかった、辛酸をなめさせられた出来事だ。
「私は……私はサーシャを放っておけません、でも……」
「お母様……ナターシャ……ううぅ、ワタクシは……」
葛藤に終わりはなく、いつまでも正しい答えは出せない。ついには誰も口を開かなくなったころ、不意にヘンリーが妙案を繰り出す。
「心情としてはナターシャさんやヴィクトリア様を救出に向かいたい、ですが下手な行動は慎むべきかもしれない。この二択でボクは迷っています、皆さんも同じですよね?」
「ええ、そうですわね……」
「そこで一つ提案です、いっそ全員で決めませんか?」
「「「「全員で決める?」」」」
「今から一枚ずつ紙を配りますので、投票形式で意見を出しましょう。救出に向かうべきだと思う人は丸印を書く、そう思わない人は何も書かない」
「なるほど、つまり多数決か!」
「全員で判断し全員で行動し、全員で責任を背負うってことだな」
「……私は賛成です、多数決の結果に従います」
「分かりましたわ、では紙を配ってくださいですの」
正しい答えを出せずとも、前に進まなくてはならない。現状においてヘンリーの提案は、状況を前に進めるための次善策だといえよう。
全員の意見が出揃ったところで、ヘンリーは代表して結果を確認する。手早く結果を確かめ終えると、同時に声をあげて大笑い。
「ハハハハハッ、いやこれは……はぁ」
「どうしたヘンリー、何を笑っているのだ?」
「失礼しました、どうぞ皆さんも確認してください」
「いきなり笑うなよ、驚くだろ……ってマジか!?」
オリヴィア、シャルロット、ヘンリー、シャルル、ベッポ、五人の意思が示された紙には、全てに大きく丸印が書かれていた。
多数決などするまでもなく、全員の思いは一つだったのである。
「おいおい満場一致かよ、最高だな!」
「なるほど、これは確かに笑ってしまう!」
「ぐすんっ……皆様と友達でいられて、私は心から嬉しく思います」
「ふふっ、下級クラスは最高のクラスですわ……っ」
進むべき道は示された、もはや迷うことは一切ない。大切な友達と先生を救うべく、全員で教室塔を飛び出す──。
「お待ちしておりました、シャルロット様」
「えっ、ゴーヴァン!?」
──飛び出したところで、なんと聖騎士ゴーヴァンに遭遇。教室塔の前で仁王立ちである、どうやら待ち構えていたらしい。
「行方不明のヴィクトリア様と、ナターシャを探しにいくのですね?」
「……さてはお父様の指示で、ワタクシを見張りにきたのですわね?」
「当たらずとも遠からずです」
「止めたって無駄ですわよ、ワタクシはいきますわ!」
シャルロットの気迫は凄まじく、聖騎士を相手にしても怯まない。立ち塞がるゴーヴァンを突破するため、体当たりでも仕掛けそうな勢いだ。
一方のゴーヴァンだが、どうしたことか気迫は皆無。そっと地面に剣を置き、膝をついて首を垂れる。
「聖騎士ゴーヴァン、陛下のご命令によりシャルロット様にお供いたします」
「ワタクシにお供……はっ、はええぇ!?」
皆が皆ギョッと驚く中、ゴーヴァンは顔をあげニッコリと微笑むのであった。
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