魔王様は学校にいきたい!
狡知なる戦略
時空間魔法の発生源を探るべく、ナターシャ、ヴィクトリア女王、ヴィエーラの三人は薄暗い通路を進み続ける。
「──でロアーナ地方へ向かう途中、敵の襲撃を受けて捕まったの。襲撃犯はアルキア王国の鎧を着ていたわ、吸血鬼らしき影も見かけたわね」
「だからヴィクトリア様は、ガレウス邪教団かアルキア王国の仕業だと思ったのですね」
「しっ、お静かに……」
道すがら捕まるまでの経緯を話していたところ、ヴィエーラに割って入られ中断。
前方を見やるとぼんやり明るい、長かった通路の終着点だ。ヴィエーラを先頭に、三人はゆっくりと通路を抜ける。
「ここは……何かの施設でしょうか、それにしても広いですね」
狭く息苦しい通路から一転、そこは果てしなく広い空間だった。中央に位置する巨大円形舞台、複数階層を貫く吹き抜け構造、ズラリと並ぶ無数の祭壇、他に類のない大規模かつ異様な空間である。
幸いなことに三人は、高層階の一角に辿りついていた。吹き抜けから真下を覗き込めば、空間全体を見渡せる位置だ。
「あの剣はヨグソードです、間違いありません」
「集まっているのはガレウス邪教団かしら」
円形舞台の中心で、ヨグソードはフワフワと空中を漂っている。陽炎のような闇に包まれ、白銀の美しさは名残すらない。
その周囲を四人の人影が、さらに周囲を無数の人影が取り囲む。漆黒の衣装に身を包んだ、ガレウス邪教団の構成員らしき集団である。
「見つけました、リィアンさんです」
「マズいわね、あれはアルキア王よ」
「あの男、間違いなくラックですね……」
ナターシャはリィアンを、ヴィクトリア女王はアルキアの国王を発見。ヴィエーラは“ラック”という名の人物を発見したらしい、ナターシャからすると馴染みのない名の人物だ。
「あの、ラックさんというのは……」
「ラックは私の同僚であり、ヴィクトリア様を護衛していた聖騎士です。本来ならば私と二人で、ヴィクトリア様を守るはずだったのですが……」
「何かあったのですか?」
「こともあろうにラックのクソ野郎は、敵の襲撃を手引きしたのです。私は不意を突かれてしまい、ヴィクトリア様を守れませんでした」
「そんな、聖騎士に裏切られるなんて!?」
「卑怯者のクソ野郎め、絶対に許せない。そしてそれ以上に、不覚を取った自分自身を許せない……っ」
今やヴィエーラの声色は、地底を這う岩漿のように煮え滾っている。穏やかな雰囲気は完全消滅、先刻までとは別人のようだ。
敵に見つかりかねないほどの殺気、だがどうやら見つかる心配はなさそう。なぜなら階下の円形舞台は、さらに殺伐としていたからである。
「クフフッ、やはり私の精神侵食は極上の魔法です! 容易くアルキア王国を支配下に置き、ロムルス王国の王族まで捕らえました」
「ふんっ、うるさいわね……」
「そして言わずもがな、念願のヨグソードを手中に収めましたよ!」
「自慢話は聞き飽きたわ、早くリィアンを解放しなさい」
「おやザナロワ、この私に命令ですか?」
声の主はザナロワとラドックスだ、敵意剥き出しで睨みあっている。ヴィエーラの殺気をはるかに上回る、濃く鋭い殺気の応酬だ。
「ヨグソードは手に入ったわ、もうリィアンを操る必要はないでしょう」
「いいえ、残念ながらリィアンを解放するわけにはいきません」
「……」
どうやらリィアンは精神侵食の支配下にある模様、すなわちラドックスに操られているということだ。その証拠にリィアンは、一切の反応を示さず虚ろに佇んでいるのみ。
会話の内容から察するに、ロームルス学園に現れナターシャと接触した時点で、ラドックスに操られていたということだろう。
「リィアンはガレウス邪教団を裏切ろうとしていました、危険分子を野放しには出来ません」
「裏切ろうとしていたなんて、とても信じられないわ。それにもし裏切るつもりだったとしても、この子はガレウス邪教団に仇なすことはない。どこぞの陰湿洗脳野郎と違って、恩義に報いる聡い子だもの」
「クフフフッ、そう睨まないでください」
ザナロワの殺気は凄まじく、辺り一帯を霜つかせるほど。一方のラドックスは怯まない、どころか不敵に不気味に笑顔で応対。
まさに一触即発である、とその時──。
「止さぬか……」
ヨグソードを包む闇の陽炎から、邪神ガレウスの声が響く。なんとも短く単純な命令、だが事態を収める圧を孕んだ命令だ。
「失礼いたしました」
「詫びる必要はない、同胞たるリィアンを慮っての言動だ。しかしラドックスとて同胞である、そののことを忘れるな」
「かしこまりました」
「クフフッ……時にガレウス様、未だ復活を果たされていないご様子。もしやヨグソードの力に、欠陥や不足がございましたでしょうか?」
「ヨグソードは万全だ、これ以上ない力を発揮しておる。よって余の復活は保留とし、脅威の排除を優先した」
「脅威とは一体?」
「言わずもがなウルリカである、奴こそ紛れもなく最大の脅威。故に先の時空間魔法において、人間界と魔界の間に障壁を作った。ウルリカの魔力に反応し弾き返す、人間界と魔界の往来を封じる障壁だ」
なんとガレウスは世界の間に障壁を作り、ウルリカ様を魔界へと幽閉したのだ。実に狡猾、そして厄介な策を打ってきたものである。
「お見事な策でございます、感服いたしました」
「だが悠長にはしておられん、ウルリカならば数日で障壁を強行突破するだろう。その前にヨグソードを再発動し、余は完全復活を果たさねばならん」
闇の陽炎は勢いを弱め、ヨグソードの内部へと吸い込まれていく。その禍々しい様はさながら、聖者を汚す悪の澱だ。
「余は時空間魔法の再発動に備える、お前達は地上を制圧せよ。侵攻開始だ、目標はロムルス王国!」
ヨグソードの収奪に続く、ウルリカ様の封じ込め。ガレウスの狡知な戦略は、確実に人類を追い詰めていた。
そしてついに邪悪なる神は、軍勢を率いて人類へと襲い掛かる。
「──でロアーナ地方へ向かう途中、敵の襲撃を受けて捕まったの。襲撃犯はアルキア王国の鎧を着ていたわ、吸血鬼らしき影も見かけたわね」
「だからヴィクトリア様は、ガレウス邪教団かアルキア王国の仕業だと思ったのですね」
「しっ、お静かに……」
道すがら捕まるまでの経緯を話していたところ、ヴィエーラに割って入られ中断。
前方を見やるとぼんやり明るい、長かった通路の終着点だ。ヴィエーラを先頭に、三人はゆっくりと通路を抜ける。
「ここは……何かの施設でしょうか、それにしても広いですね」
狭く息苦しい通路から一転、そこは果てしなく広い空間だった。中央に位置する巨大円形舞台、複数階層を貫く吹き抜け構造、ズラリと並ぶ無数の祭壇、他に類のない大規模かつ異様な空間である。
幸いなことに三人は、高層階の一角に辿りついていた。吹き抜けから真下を覗き込めば、空間全体を見渡せる位置だ。
「あの剣はヨグソードです、間違いありません」
「集まっているのはガレウス邪教団かしら」
円形舞台の中心で、ヨグソードはフワフワと空中を漂っている。陽炎のような闇に包まれ、白銀の美しさは名残すらない。
その周囲を四人の人影が、さらに周囲を無数の人影が取り囲む。漆黒の衣装に身を包んだ、ガレウス邪教団の構成員らしき集団である。
「見つけました、リィアンさんです」
「マズいわね、あれはアルキア王よ」
「あの男、間違いなくラックですね……」
ナターシャはリィアンを、ヴィクトリア女王はアルキアの国王を発見。ヴィエーラは“ラック”という名の人物を発見したらしい、ナターシャからすると馴染みのない名の人物だ。
「あの、ラックさんというのは……」
「ラックは私の同僚であり、ヴィクトリア様を護衛していた聖騎士です。本来ならば私と二人で、ヴィクトリア様を守るはずだったのですが……」
「何かあったのですか?」
「こともあろうにラックのクソ野郎は、敵の襲撃を手引きしたのです。私は不意を突かれてしまい、ヴィクトリア様を守れませんでした」
「そんな、聖騎士に裏切られるなんて!?」
「卑怯者のクソ野郎め、絶対に許せない。そしてそれ以上に、不覚を取った自分自身を許せない……っ」
今やヴィエーラの声色は、地底を這う岩漿のように煮え滾っている。穏やかな雰囲気は完全消滅、先刻までとは別人のようだ。
敵に見つかりかねないほどの殺気、だがどうやら見つかる心配はなさそう。なぜなら階下の円形舞台は、さらに殺伐としていたからである。
「クフフッ、やはり私の精神侵食は極上の魔法です! 容易くアルキア王国を支配下に置き、ロムルス王国の王族まで捕らえました」
「ふんっ、うるさいわね……」
「そして言わずもがな、念願のヨグソードを手中に収めましたよ!」
「自慢話は聞き飽きたわ、早くリィアンを解放しなさい」
「おやザナロワ、この私に命令ですか?」
声の主はザナロワとラドックスだ、敵意剥き出しで睨みあっている。ヴィエーラの殺気をはるかに上回る、濃く鋭い殺気の応酬だ。
「ヨグソードは手に入ったわ、もうリィアンを操る必要はないでしょう」
「いいえ、残念ながらリィアンを解放するわけにはいきません」
「……」
どうやらリィアンは精神侵食の支配下にある模様、すなわちラドックスに操られているということだ。その証拠にリィアンは、一切の反応を示さず虚ろに佇んでいるのみ。
会話の内容から察するに、ロームルス学園に現れナターシャと接触した時点で、ラドックスに操られていたということだろう。
「リィアンはガレウス邪教団を裏切ろうとしていました、危険分子を野放しには出来ません」
「裏切ろうとしていたなんて、とても信じられないわ。それにもし裏切るつもりだったとしても、この子はガレウス邪教団に仇なすことはない。どこぞの陰湿洗脳野郎と違って、恩義に報いる聡い子だもの」
「クフフフッ、そう睨まないでください」
ザナロワの殺気は凄まじく、辺り一帯を霜つかせるほど。一方のラドックスは怯まない、どころか不敵に不気味に笑顔で応対。
まさに一触即発である、とその時──。
「止さぬか……」
ヨグソードを包む闇の陽炎から、邪神ガレウスの声が響く。なんとも短く単純な命令、だが事態を収める圧を孕んだ命令だ。
「失礼いたしました」
「詫びる必要はない、同胞たるリィアンを慮っての言動だ。しかしラドックスとて同胞である、そののことを忘れるな」
「かしこまりました」
「クフフッ……時にガレウス様、未だ復活を果たされていないご様子。もしやヨグソードの力に、欠陥や不足がございましたでしょうか?」
「ヨグソードは万全だ、これ以上ない力を発揮しておる。よって余の復活は保留とし、脅威の排除を優先した」
「脅威とは一体?」
「言わずもがなウルリカである、奴こそ紛れもなく最大の脅威。故に先の時空間魔法において、人間界と魔界の間に障壁を作った。ウルリカの魔力に反応し弾き返す、人間界と魔界の往来を封じる障壁だ」
なんとガレウスは世界の間に障壁を作り、ウルリカ様を魔界へと幽閉したのだ。実に狡猾、そして厄介な策を打ってきたものである。
「お見事な策でございます、感服いたしました」
「だが悠長にはしておられん、ウルリカならば数日で障壁を強行突破するだろう。その前にヨグソードを再発動し、余は完全復活を果たさねばならん」
闇の陽炎は勢いを弱め、ヨグソードの内部へと吸い込まれていく。その禍々しい様はさながら、聖者を汚す悪の澱だ。
「余は時空間魔法の再発動に備える、お前達は地上を制圧せよ。侵攻開始だ、目標はロムルス王国!」
ヨグソードの収奪に続く、ウルリカ様の封じ込め。ガレウスの狡知な戦略は、確実に人類を追い詰めていた。
そしてついに邪悪なる神は、軍勢を率いて人類へと襲い掛かる。
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