魔王様は学校にいきたい!

ゆにこーん / UnicornNovel

南の国

 ギラギラと輝く灼熱の太陽、肌を突き刺す鋭い日差し。炎天下に響き渡る、太陽よりも明るいウルリカ様の声。いつにも増して今日は元気いっぱい、その理由はというと──。

「課外授業なのじゃー!」

 ロアーナの町に続く二度目の課外授業に、ウルリカ様は大はしゃぎなのである。パタパタと走り回ってはピョンピョン飛び跳ね大忙しだ。

「わーいなのじゃ、楽しいのじゃー!」

「お待ちくださいウルリカ様、はぁ……はぁ……」

 追いかけるオリヴィアは汗ビッショリ、今にも暑さに倒れてしまいそう。一方のウルリカ様は、いつもと違って夏用の制服を着ている。風通しのいい薄手の半袖シャツで、ずいぶんと涼しそうだ。

「わーいっす、課外授業っすー!」

 ウルリカ様に負けず劣らず、大はしゃぎのアンナマリア。白い肌に白銀の髪、そして真っ白なワンピース姿。眩い日差しを反射して、キラキラと輝いている。

「ちゃんと誘ってくれてありがとうっす、ウルリカ愛してるっすー!」

「アンナはお子様じゃな、はしゃぎすぎなのじゃ」

「むむっ、ウルリカだってはしゃいでるっす!」

 運動会に出られなかったことを、アンナマリアはずいぶんと悔しがっていた。そして次の学校行事に誘うという約束を、ウルリカ様と取りつけていたのである。その約束をウルリカ様はしっかりと守ったよう。
 それにしてもアンナマリアはアルテミア正教会の教主である、気軽に出かけて大丈夫なのだろうか。

「こら……あまり……遠くにいかない……」

「ウルウルの愛らしさは相変わらずだ、しかしアンナマリア様の愛らしさも捨て難い……」

 はしゃぐ二人を遠くから見守る、アルフレッドとクリスティーナ。今回の課外授業、引率はこの二人なのだ。
 アルフレッドにクリスティーナ、そしてアンナマリアと一風変わった面子である。そして今回の課外授業、訪れた先も一風変わっていた。
 真夏よりも暑い海沿いの大都市、ここはロムルス王国ではない。では一体どこかというと──。

「きゃああっ、待ってたわよーっ!」

 遥か遠くから全力疾走で迫りくる、浅黒い肌の王女様。南ディナール王国の王女エリッサである、すなわち今回の課外授業は南ディナール王国を訪れているのだ。

「ウルウルーっ! ティアお姉様ーっ!」

 エリッサは大興奮で、ウルリカ様とクリスティーナへ飛びかかる。順番に抱きついては、頬をスリスリ頭をグリグリ。暑さなどお構いなし、全力の愛情表現である。

「会いたかったわウルウル!」

「むうぅ、暑苦しいのじゃ……」

「ティアお姉様も、会えて嬉しいわ!」

「エリッサ王女……暑苦しい……」

 エリッサの愛は止まらない、嫌がられようと気にしない。追いかけてきたハミルカルは、大慌てでエリッサを引き剥がす。

「ロムルス王国の方々、申し訳ございません! エリッサ様、弁えてください!」

「無理よハミルカル、私の愛は止められないのよ!」

 エリッサはハミルカルに抱えられ、あっさりと自由を奪われてしまう。それでも諦めることなく、ウルリカ様とクリスティーナに抱きつこうと手足をバタバタ。
 あまりのおてんばっぷりを見かねて、アルフレッドは助け船を出す。

「エリッサ王女、そして騎士ハミルカル。お久しぶりです、今回はお招きいただきありがとうございます」

「お久しぶりですアルフレッド王子、お越しいただき感謝します」

 数秒前とは打って変わり、エリッサはしっかりと挨拶を返す。王族らしい立ち振る舞いだが、ブラブラと抱えられていては台無しである。

「ねえハミルカル、そろそろ降ろしてほしいわ」

「……お客様に抱きついてはダメですよ?」

「もう、分かってるわよ!」

 エリッサはようやく解放され自由に、と同時に再び自由を奪われる。こっそり忍び寄ってきたシャルロットに、背後からギュッと抱き締められたのだ。

「久しぶりですわエリッサ、約束通り遊びにきましたわよ!」

「嬉しいわシャルロット、ウルウルとティアお姉様も連れてきてくれたのね!」

「もちろんですわよ!」

 二人は手を取りあいキャッキャと大はしゃぎ。かつてシャルロットとエリッサは、南ディナール王国での再会を約束していた。その約束を果たすため、課外授業として南ディナール王国を訪れたということだ。

「ディナール王の復調を聞いた時は、心から安堵しました。父ゼノンに代わり、心よりお喜び申しあげる」

「ハミルカルも……元気そうで何より……。それと……この子達の……課外授業……、許可してくれて……ありがとう……」

「いえいえ、皆様には返せないほどの恩を受けておりますので」

 今回の課外授業は、体調を崩していたディナール王の快気祝い目的でもあるよう。南ディナール王国との外交はアルフレッドが担当していた、その背景からアルフレッドが引率を担当しているのである。
 つまりディナール王の快気祝い、シャルロットとエリッサの再開、そしてアンナマリアの学校行事参加、これら三つを目的とした課外授業ということである。

「ところで……この後の……予定は……?」

「まずはアルフレッド王子のみ陛下へご挨拶ください。皆様はごゆるりと、南ディナール王国の美しい町並みをご堪能ください」

「子供達への配慮に感謝する、皆のことはクリスティーナに頼んだよ」

「分かった……」

「ではアルフレッド様、陛下の元へご案内いたします」

 アルフレッドはハミルカルに連れられ、遠くに聳える城へと向かっていく。残った一同は自由時間だ、とここでエリッサのおもてなし魂が炸裂。

「案内は私に任せて、見せたい場所がいっぱいあるのよ!」

「うむ、楽しみなのじゃ!」

 こうしてエリッサの案内で町へと繰り出す、楽しい課外授業の幕開けだ。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品