魔王様は学校にいきたい!

ゆにこーん / UnicornNovel

年の功

 運動会の翌々日、太陽が真上を通る時刻。ゼノン王の執務室は、何やらワイワイと賑わっていた。

「むむむっ、とてもおいしいのじゃ!」

「アルテミア正教国で大人気のお土産、その名も“勇者の導きビスケット”っすよ!」

「素晴らしいビスケットなのじゃ、勇者の導きに感謝なのじゃ……」

 騒いでいるのはウルリカ様とアンナマリアだ、二人は仲よくビスケットを頬張っていた。口元や手は砂糖でベタベタ、だがそんなことはお構いなし。
 それにしても他ならぬ魔王が、勇者の導きに感謝とはこれ如何に。

「やっぱりロムルス王国は天国っす、アルテミア正教国は堅苦しくて地獄っすよ!」

 ロームルス学園の長期休み中、アンナマリアはアルテミア正教国の巡礼に出向いていた。しかしアンナマリアの我儘で巡礼は大幅に遅延、ようやくロムルス王国に戻ってきたらしい。それにしても他ならぬ教主が、自国を地獄呼ばわりとはこれ如何に。

「あー……こほんっ。今日はウルリカだけを呼んだのだが、アンナマリアは俺に何か用事でもあるのか?」

「ゼノン君へのお土産を届けにきたっす!」

「……お土産のためだけか?」

「ちょっとゼノン君、その言い方は酷いっすよ。ゼノン君のために買ってきたお土産っす、もっと喜んでほしいっす!」

「これゼノンよ、せっかくのお菓子を無下にしてはいかんのじゃ」

「あぁ、そうだな……」

 どうやらこの日、ゼノン王はウルリカ様を執務室に招いていた模様。そこへ偶然にもアンナマリアが、お土産を持って訪れたようだ。
 アンナマリアは次々と、お土産の箱をゼノン王に手渡す。どの箱も砂糖でベタベタ、受け取ったゼノン王の手もベタベタだ。

「あぁ、後で大切に食べるとしよう……。ところで今日はウルリカと二人で話したかったのだ、悪いがアンナマリアは席を外してもらえないだろうか?」

「えーっ、私だけ除け者は嫌っすよ!」

「これゼノンよ、意地悪はよくないのじゃ」

「いや意地悪ではなく……はぁ、まあいい分かった」

 魔王と勇者を相手にしては、ゼノン王といえども完全にお手上げである。諦めたように溜息をつき、ウルリカ様へと視線を向ける。

「要件は他でもない、ロームルス学園に現れたリィアンと名乗る魔人のことだ」

「ふむ、何かと思えばリィアンのことじゃったか」

「ウルリカよ、お前はリィアンを逃がしたそうだな?」

「うむ、逃がしてあげたのじゃ」

「なぜ敵である魔人を逃がした?」

「友達だからじゃ」

 なんとも単純明快な答え、ウルリカ様の考えには一切のブレがない。とはいえリィアンはガレウス邪教団の魔人、友達だからという理由でゼノン王は納得しない。

「相手は魔人だ、野放しにして危険ではないのか?」

「リィアンならば大丈夫なのじゃ」

「なぜ大丈夫だと言える? 何か信用に値する根拠でもあるのか?」

「根拠はないのじゃ」

 ウルリカ様に危機感は皆無、ゼノン王はどうしたものかと困ってしまう。そんなゼノン王に対して、今度は逆にウルリカ様から問いかける。

「妾と出会ってすぐ、ゼノンは妾の言うことを信じてくれたのじゃ。しかもその場で妾と友達になってくれたのじゃ」

「そうだったな」

「しかし妾とゼノンは初対面だったのじゃ、信用に値する根拠など皆無だったのじゃ。しかも妾は魔王なのじゃ、普通は友達になろうと思わはないはずじゃ」

「確かにそうかもな」

「それでも友達になってくれたのじゃ、そこに何か根拠はあったのかの?」

「……特に理由はない、直感だ」

「そうじゃ、根拠はなくとも直感で判断すればよいのじゃ。信用出来ると思ったら信用してよい、友達になれると思ったら友達になってよいのじゃ」

 ゼノン王はしばらく黙考、次いでチラリとアンナマリアの方を伺う。

「アンナマリアはどう思う?」

「ウルリカが信じると言うなら、私も信じるっすよ」

「なぜだ?」

「ウルリカは私の友達っす、友達が信じると言うなら私も信じるっす。信じられないなら、それはもう友達とは呼べないっす」

 アンナマリアの言葉からも、ブレない芯のようなもの感じる。妙な説得力の前に、ゼノン王は折れざるを得ない。

「分かった、お前達の意見を信じよう。これも年の功だろうか、年長者には敵わんな」

「ちょっとゼノン君、それは女性に対して失礼っすよ!」

「おっとすまん……」

 ようやく話は一段落、とここでウルリカ様のビスケットは底をついてしまう。

「これアンナよ、もっとビスケットを食べたいのじゃ」

「ふーん……ところでっす」

 アンナマリアはビスケットの箱をチラつかせながら、キッとウルリカ様を睨みつける。

「私も運動会に出たかったっす!」

「なんじゃ、アンナは不在にしておったではないか!」

「呼び戻してほしかったっす! 次に何かやる時は、絶対に私も誘うっす。じゃないと追加のビスケットは、絶対にあげないっすよ!」

「分かったから、早くビスケットを食べたいのじゃ!」

「年長者と言ったのは間違いだったな、どう見ても子供だ……」

 ワイワイ賑やかな魔王と勇者の姿を見ながら、ゼノン王は大きく溜息するのだった。

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