魔王様は学校にいきたい!
特別編 ~魔王と大公達と温泉~
──これはまだウルリカ様が、魔界にいた頃のお話──
ここは魔王城──ではなく魔界北部に広がる山岳地帯。炎帝ミーア・ラグナクロスの支配する、その名も“ラグナクロス領”。猛る火山と極寒の気候は生半可な魔物の生存を許さない、炎と氷の帝国である。
「わーいなのじゃ!」
噴きあがる溶岩と荒れ狂う吹雪の中、元気いっぱい走り回るウルリカ様。過酷な環境もどこ吹く風、グングンと火山を登っていく。
「楽しみなのじゃ! 楽しみなのじゃ!」
なんとこの日のウルリカ様は、浴衣に下駄に簪という風情ある出で立ちだ。飴玉模様の可愛らしい浴衣は、お菓子大好きなウルリカ様によく似合っている。
そんなウルリカ様の後を追う、魔界を統べる六体の大公爵。
「はぁ……はぁ……っ。ウルリカ様の浴衣姿、あれぞ至極の可愛らしさ……っ」
「ちょっとゼーファード、鼻息荒くて気持ち悪いわよぉ」
「シカシ可愛ラシイノハ事実、百年先マデ眺メテイラレル」
「ウルリカ様の可愛らしいお姿を永遠に保存する魔法、なんとしてでも開発しなければ!」
ウルリカ様の浴衣姿にすっかり夢中な大公達。魔界随一の強者なだけあって、溶岩や吹雪をものともしていない。
「しかしまさか、ミーアから温泉に招待されるとは思わなかった」
「火山の活発化で温泉が噴き出したのよ、ドバドバ溢れてくる温泉を放置しておくのは勿体ないでしょ?」
「確かにな、温泉あるなら浸からねば損だ」
どうやら一行はミーアに誘われ、温泉へと向かっているらしい。
「ところでミーア、その温泉って私達全員で入っても平気なのかしらぁ? あっという間に崩壊しないかしらぁ?」
「平気平気! これから向かう温泉はアタイ達専用の特別製、アタイやドラルグが入っても余裕なくらい広いからね!」
「ソレハ助カル、我ノ巨体デ入レル温泉ナド滅多ニナイカラナ」
「しかも人里から離れてる、化け物揃いのアタイ達にはピッタリの温泉ってわけ!」
「間違えて第七階梯魔法をぶっ放しても大丈夫そうですね」
なんとも物騒な会話をしながら火山を登り続ける一行、すると突如として目の前に“それ”は姿を現す。
「じゃーん、温泉に到着!」
それはもはや湖と呼んだ方がしっくりくるほどの巨大な温泉だった。
グツグツと煮え立つ湯、もうもうと立ち込める湯気、そして巨大な炎の壁。まるで地獄の一部を覗き見ているかのような光景だ。
「ナンダコレハ……」
「アタイ特製の温泉だよ」
「これが温泉? 吹きっ晒しのお湯溜まりでは?」
「アタイやドラルグも入る温泉に、壁や天井なんて作れないでしょ。だからアタイの神器で山を穿って、大きな温泉にしちゃったの!」
「あの炎は一体なんだ?」
「あの炎は女風呂と男風呂の区切りだよ、左が女風呂で右が男風呂ね」
確かに巨人であるミーアやドラゴンであるドラルグも入る温泉に、壁や天井を作るのは至難の業だろう。それにしても常識外れな温泉を前に、流石の大公達も開いた口が塞がらない。
とそこへニコニコ笑顔のウルリカ様が、元気いっぱい駆け寄ってくる。
「細かいことは気にしなくてよいのじゃ、とにかく温泉に入るのじゃー!」
こうしてウルリカ様の号令で、大公達は女風呂と男風呂へ別れていくのだった。
「うぅ……ウルリカ様……っ」
こちらは男風呂。
立ち込める湯気の中、ゼーファードは全裸で身悶えしていた。
「ウルリカ様……ウルリカ様……!」
鼻息荒くウルリカ様の名を連呼しグネグネ全身をしならせる姿は、奇怪と表現する他ない。
「この炎の向こうに一糸纏わぬウルリカ様が! ウルリカ様が! ウルリカ様がー!!」
「オイ、アノ変態ヲ誰カ黙ラセテクレ」
「ボクは嫌です、近寄りたくありません」
「俺も御免蒙る、絶対に近寄りたくない」
完全に変態扱いされるも、当のゼーファードは一切気にしていない。燃え盛る炎の壁に向かって延々と身悶え続けている。とその時、炎の壁を超えて可愛らしい声が聞こえてくる。
──むむっ──
「今のはウルリカ様の声? 声というよりは悲鳴に近いような……もしやウルリカ様の御体を覗き見る悪漢が現れたのでは!? なんと許すまじ、こうしてはいられない。今すぐ助けに参ります、待っていてくださいウルリカ様!」
聞えてきたウルリカ様の声に過剰な反応を見せるゼーファード。謎の熱意を全身に纏い、鷹のように両腕を広げ炎の壁へと飛び込んでいく。
「ミーアノ炎ニ全裸デ飛ビ込ンダゾ、正気トハ思エン……」
「世界を焼き尽くす炎帝の炎ですよ、ゼーファードさんは大丈夫なのでしょうか?」
「ゼーファード殿ならば死ぬことはないだろう」
「ところで炎の向こう側にはミーアさんとヴァーミリアもいますよね。そしてここは温泉です、もちろん裸でいますよね……」
「前言撤回だ、どうやらゼーファード殿は死んだな」
「去ラバゼーファード、安ラカニ眠レ」
そして静かに両手をあわせる、エミリオ、ドラルグ、ジュウベエなのであった。
さてゼーファードはというと見事に炎の壁を突破していた。
「ウルリカ様! ゼーファードが参りました!」
全身を焼かれながらも強引に炎を突破する、なんとも凄まじいウルリカ様への愛と執念である。そんな黒焦げ全裸男ゼーファードの目に飛び込んできたのは──。
「むむっ、やりおったな!」
「あらぁ、ウルリカ様こそやったわねぇ」
「よーし、アタイもザパッとやっちゃうんだから!」
──楽しそうにお湯をかけあう、一糸纏わぬ美少女と美女と巨女。
潤い溢れる瑞々しい肌、たゆんと弾む豊満な身体、白く透き通る陶器のような肢体。薄っすらと立ち込める湯気は、まるで三人の女神を包む羽衣のよう。
思わぬ光景に唖然としていたゼーファードは、偶然にもウルリカ様とバッチリ目があってしまう。
「うむ? ゼファなのじゃ?」
「ちょっ、なにやってんのよゼーファード!」
「あらぁ、もしかして覗きかしらぁ?」
「いいえ違います、私はウルリカ様の窮地に駆けつけた正義の──」
「黙りなさいよ変態黒焦げ悪魔!」
「覗きなのねぇ、これは極刑ねぇ」
「覗きではないと言っているでしょう!」
必死に無実を主張するゼーファード、しかし当然ながら信じてもらえない。
ヴァーミリアはどす黒い触手を伸ばし、一瞬にしてゼーファードを磔にする。同時にミーアは炎の壁を展開し、ゼーファードの逃げ場を完全に塞ぐ。
追い詰められたゼーファードに、ウルリカ様から絶望の一言が放たれる。
「ゼファよ、覗きはよくないのじゃ……」
「そんなっ、私はウルリカ様のために──」
「問答無用、くたばれゼーファード!」
「死刑執行よぉ!」
「──信じてください、ウルリカ様ー!!」
数刻後、そこには見るも無残に打ちのめされたゼーファードが、プカプカお湯に浮かんでいたという。
セリフの頭に人物名を入れました。
「誰が喋っているか分からない!」という方は、以下から読んでみてください。
──これはまだウルリカ様が、魔界にいた頃のお話──
ここは魔王城──ではなく魔界北部に広がる山岳地帯。炎帝ミーア・ラグナクロスの支配する、その名も“ラグナクロス領”。猛る火山と極寒の気候は生半可な魔物の生存を許さない、炎と氷の帝国である。
ウルリカ様「わーいなのじゃ!」
噴きあがる溶岩と荒れ狂う吹雪の中、元気いっぱい走り回るウルリカ様。過酷な環境もどこ吹く風、グングンと火山を登っていく。
ウルリカ様「楽しみなのじゃ! 楽しみなのじゃ!」
なんとこの日のウルリカ様は、浴衣に下駄に簪という風情ある出で立ちだ。飴玉模様の可愛らしい浴衣は、お菓子大好きなウルリカ様によく似合っている。
そんなウルリカ様の後を追う、魔界を統べる六体の大公爵。
ゼーファード「はぁ……はぁ……っ。ウルリカ様の浴衣姿、あれぞ至極の可愛らしさ……っ」
ヴァーミリア「ちょっとゼーファード、鼻息荒くて気持ち悪いわよぉ」
ドラルグ「シカシ可愛ラシイノハ事実、百年先マデ眺メテイラレル」
エミリオ「ウルリカ様の可愛らしいお姿を永遠に保存する魔法、なんとしてでも開発しなければ!」
ウルリカ様の浴衣姿にすっかり夢中な大公達。魔界随一の強者なだけあって、溶岩や吹雪をものともしていない。
ジュウベエ「しかしまさか、ミーアから温泉に招待されるとは思わなかった」
ミーア「火山の活発化で温泉が噴き出したのよ、ドバドバ溢れてくる温泉を放置しておくのは勿体ないでしょ?」
ジュウベエ「確かにな、温泉あるなら浸からねば損だ」
どうやら一行はミーアに誘われ、温泉へと向かっているらしい。
ヴァーミリア「ところでミーア、その温泉って私達全員で入っても平気なのかしらぁ? あっという間に崩壊しないかしらぁ?」
ミーア「平気平気! これから向かう温泉はアタイ達専用の特別製、アタイやドラルグが入っても余裕なくらい広いからね!」
ドラルグ「ソレハ助カル、我ノ巨体デ入レル温泉ナド滅多ニナイカラナ」
ミーア「しかも人里から離れてる、化け物揃いのアタイ達にはピッタリの温泉ってわけ!」
エミリオ「間違えて第七階梯魔法をぶっ放しても大丈夫そうですね」
なんとも物騒な会話をしながら火山を登り続ける一行、すると突如として目の前に“それ”は姿を現す。
ミーア「じゃーん、温泉に到着!」
それはもはや湖と呼んだ方がしっくりくるほどの巨大な温泉だった。
グツグツと煮え立つ湯、もうもうと立ち込める湯気、そして巨大な炎の壁。まるで地獄の一部を覗き見ているかのような光景だ。
ドラルグ「ナンダコレハ……」
ミーア「アタイ特製の温泉だよ」
エミリオ「これが温泉? 吹きっ晒しのお湯溜まりでは?」
ミーア「アタイやドラルグも入る温泉に、壁や天井なんて作れないでしょ。だからアタイの神器で山を穿って、大きな温泉にしちゃったの!」
ジュウベエ「あの炎は一体なんだ?」
ミーア「あの炎は女風呂と男風呂の区切りだよ、左が女風呂で右が男風呂ね」
確かに巨人であるミーアやドラゴンであるドラルグも入る温泉に、壁や天井を作るのは至難の業だろう。それにしても常識外れな温泉を前に、流石の大公達も開いた口が塞がらない。
とそこへニコニコ笑顔のウルリカ様が、元気いっぱい駆け寄ってくる。
ウルリカ様「細かいことは気にしなくてよいのじゃ、とにかく温泉に入るのじゃー!」
こうしてウルリカ様の号令で、大公達は女風呂と男風呂へ別れていくのだった。
ゼーファード「うぅ……ウルリカ様……っ」
こちらは男風呂。
立ち込める湯気の中、ゼーファードは全裸で身悶えしていた。
ゼーファード「ウルリカ様……ウルリカ様……!」
鼻息荒くウルリカ様の名を連呼しグネグネ全身をしならせる姿は、奇怪と表現する他ない。
ゼーファード「この炎の向こうに一糸纏わぬウルリカ様が! ウルリカ様が! ウルリカ様がー!!」
ドラルグ「オイ、アノ変態ヲ誰カ黙ラセテクレ」
エミリオ「ボクは嫌です、近寄りたくありません」
ジュウベエ「俺も御免蒙る、絶対に近寄りたくない」
完全に変態扱いされるも、当のゼーファードは一切気にしていない。燃え盛る炎の壁に向かって延々と身悶え続けている。とその時、炎の壁を超えて可愛らしい声が聞こえてくる。
──むむっ──
ゼーファード「今のはウルリカ様の声? 声というよりは悲鳴に近いような……もしやウルリカ様の御体を覗き見る悪漢が現れたのでは!? なんと許すまじ、こうしてはいられない。今すぐ助けに参ります、待っていてくださいウルリカ様!」
聞えてきたウルリカ様の声に過剰な反応を見せるゼーファード。謎の熱意を全身に纏い、鷹のように両腕を広げ炎の壁へと飛び込んでいく。
ドラルグ「ミーアノ炎ニ全裸デ飛ビ込ンダゾ、正気トハ思エン……」
エミリオ「世界を焼き尽くす炎帝の炎ですよ、ゼーファードさんは大丈夫なのでしょうか?」
ジュウベエ「ゼーファード殿ならば死ぬことはないだろう」
エミリオ「ところで炎の向こう側にはミーアさんとヴァーミリアもいますよね。そしてここは温泉です、もちろん裸でいますよね……」
ジュウベエ「前言撤回だ、どうやらゼーファード殿は死んだな」
ドラルグ「去ラバゼーファード、安ラカニ眠レ」
そして静かに両手をあわせる、エミリオ、ドラルグ、ジュウベエなのであった。
さてゼーファードはというと見事に炎の壁を突破していた。
ゼーファード「ウルリカ様! ゼーファードが参りました!」
全身を焼かれながらも強引に炎を突破する、なんとも凄まじいウルリカ様への愛と執念である。そんな黒焦げ全裸男ゼーファードの目に飛び込んできたのは──。
ウルリカ様「むむっ、やりおったな!」
ヴァーミリア「あらぁ、ウルリカ様こそやったわねぇ」
ミーア「よーし、アタイもザパッとやっちゃうんだから!」
──楽しそうにお湯をかけあう、一糸纏わぬ美少女と美女と巨女。
潤い溢れる瑞々しい肌、たゆんと弾む豊満な身体、白く透き通る陶器のような肢体。薄っすらと立ち込める湯気は、まるで三人の女神を包む羽衣のよう。
思わぬ光景に唖然としていたゼーファードは、偶然にもウルリカ様とバッチリ目があってしまう。
ウルリカ様「うむ? ゼファなのじゃ?」
ミーア「ちょっ、なにやってんのよゼーファード!」
ヴァーミリア「あらぁ、もしかして覗きかしらぁ?」
ゼーファード「いいえ違います、私はウルリカ様の窮地に駆けつけた正義の──」
ミーア「黙りなさいよ変態黒焦げ悪魔!」
ヴァーミリア「覗きなのねぇ、これは極刑ねぇ」
ゼーファード「覗きではないと言っているでしょう!」
必死に無実を主張するゼーファード、しかし当然ながら信じてもらえない。
ヴァーミリアはどす黒い触手を伸ばし、一瞬にしてゼーファードを磔にする。同時にミーアは炎の壁を展開し、ゼーファードの逃げ場を完全に塞ぐ。
追い詰められたゼーファードに、ウルリカ様から絶望の一言が放たれる。
ウルリカ様「ゼファよ、覗きはよくないのじゃ……」
ゼーファード「そんなっ、私はウルリカ様のために──」
ミーア「問答無用、くたばれゼーファード!」
ヴァーミリア「死刑執行よぉ!」
ゼーファード「──信じてください、ウルリカ様ー!!」
数刻後、そこには見るも無残に打ちのめされたゼーファードが、プカプカお湯に浮かんでいたという。
ここは魔王城──ではなく魔界北部に広がる山岳地帯。炎帝ミーア・ラグナクロスの支配する、その名も“ラグナクロス領”。猛る火山と極寒の気候は生半可な魔物の生存を許さない、炎と氷の帝国である。
「わーいなのじゃ!」
噴きあがる溶岩と荒れ狂う吹雪の中、元気いっぱい走り回るウルリカ様。過酷な環境もどこ吹く風、グングンと火山を登っていく。
「楽しみなのじゃ! 楽しみなのじゃ!」
なんとこの日のウルリカ様は、浴衣に下駄に簪という風情ある出で立ちだ。飴玉模様の可愛らしい浴衣は、お菓子大好きなウルリカ様によく似合っている。
そんなウルリカ様の後を追う、魔界を統べる六体の大公爵。
「はぁ……はぁ……っ。ウルリカ様の浴衣姿、あれぞ至極の可愛らしさ……っ」
「ちょっとゼーファード、鼻息荒くて気持ち悪いわよぉ」
「シカシ可愛ラシイノハ事実、百年先マデ眺メテイラレル」
「ウルリカ様の可愛らしいお姿を永遠に保存する魔法、なんとしてでも開発しなければ!」
ウルリカ様の浴衣姿にすっかり夢中な大公達。魔界随一の強者なだけあって、溶岩や吹雪をものともしていない。
「しかしまさか、ミーアから温泉に招待されるとは思わなかった」
「火山の活発化で温泉が噴き出したのよ、ドバドバ溢れてくる温泉を放置しておくのは勿体ないでしょ?」
「確かにな、温泉あるなら浸からねば損だ」
どうやら一行はミーアに誘われ、温泉へと向かっているらしい。
「ところでミーア、その温泉って私達全員で入っても平気なのかしらぁ? あっという間に崩壊しないかしらぁ?」
「平気平気! これから向かう温泉はアタイ達専用の特別製、アタイやドラルグが入っても余裕なくらい広いからね!」
「ソレハ助カル、我ノ巨体デ入レル温泉ナド滅多ニナイカラナ」
「しかも人里から離れてる、化け物揃いのアタイ達にはピッタリの温泉ってわけ!」
「間違えて第七階梯魔法をぶっ放しても大丈夫そうですね」
なんとも物騒な会話をしながら火山を登り続ける一行、すると突如として目の前に“それ”は姿を現す。
「じゃーん、温泉に到着!」
それはもはや湖と呼んだ方がしっくりくるほどの巨大な温泉だった。
グツグツと煮え立つ湯、もうもうと立ち込める湯気、そして巨大な炎の壁。まるで地獄の一部を覗き見ているかのような光景だ。
「ナンダコレハ……」
「アタイ特製の温泉だよ」
「これが温泉? 吹きっ晒しのお湯溜まりでは?」
「アタイやドラルグも入る温泉に、壁や天井なんて作れないでしょ。だからアタイの神器で山を穿って、大きな温泉にしちゃったの!」
「あの炎は一体なんだ?」
「あの炎は女風呂と男風呂の区切りだよ、左が女風呂で右が男風呂ね」
確かに巨人であるミーアやドラゴンであるドラルグも入る温泉に、壁や天井を作るのは至難の業だろう。それにしても常識外れな温泉を前に、流石の大公達も開いた口が塞がらない。
とそこへニコニコ笑顔のウルリカ様が、元気いっぱい駆け寄ってくる。
「細かいことは気にしなくてよいのじゃ、とにかく温泉に入るのじゃー!」
こうしてウルリカ様の号令で、大公達は女風呂と男風呂へ別れていくのだった。
「うぅ……ウルリカ様……っ」
こちらは男風呂。
立ち込める湯気の中、ゼーファードは全裸で身悶えしていた。
「ウルリカ様……ウルリカ様……!」
鼻息荒くウルリカ様の名を連呼しグネグネ全身をしならせる姿は、奇怪と表現する他ない。
「この炎の向こうに一糸纏わぬウルリカ様が! ウルリカ様が! ウルリカ様がー!!」
「オイ、アノ変態ヲ誰カ黙ラセテクレ」
「ボクは嫌です、近寄りたくありません」
「俺も御免蒙る、絶対に近寄りたくない」
完全に変態扱いされるも、当のゼーファードは一切気にしていない。燃え盛る炎の壁に向かって延々と身悶え続けている。とその時、炎の壁を超えて可愛らしい声が聞こえてくる。
──むむっ──
「今のはウルリカ様の声? 声というよりは悲鳴に近いような……もしやウルリカ様の御体を覗き見る悪漢が現れたのでは!? なんと許すまじ、こうしてはいられない。今すぐ助けに参ります、待っていてくださいウルリカ様!」
聞えてきたウルリカ様の声に過剰な反応を見せるゼーファード。謎の熱意を全身に纏い、鷹のように両腕を広げ炎の壁へと飛び込んでいく。
「ミーアノ炎ニ全裸デ飛ビ込ンダゾ、正気トハ思エン……」
「世界を焼き尽くす炎帝の炎ですよ、ゼーファードさんは大丈夫なのでしょうか?」
「ゼーファード殿ならば死ぬことはないだろう」
「ところで炎の向こう側にはミーアさんとヴァーミリアもいますよね。そしてここは温泉です、もちろん裸でいますよね……」
「前言撤回だ、どうやらゼーファード殿は死んだな」
「去ラバゼーファード、安ラカニ眠レ」
そして静かに両手をあわせる、エミリオ、ドラルグ、ジュウベエなのであった。
さてゼーファードはというと見事に炎の壁を突破していた。
「ウルリカ様! ゼーファードが参りました!」
全身を焼かれながらも強引に炎を突破する、なんとも凄まじいウルリカ様への愛と執念である。そんな黒焦げ全裸男ゼーファードの目に飛び込んできたのは──。
「むむっ、やりおったな!」
「あらぁ、ウルリカ様こそやったわねぇ」
「よーし、アタイもザパッとやっちゃうんだから!」
──楽しそうにお湯をかけあう、一糸纏わぬ美少女と美女と巨女。
潤い溢れる瑞々しい肌、たゆんと弾む豊満な身体、白く透き通る陶器のような肢体。薄っすらと立ち込める湯気は、まるで三人の女神を包む羽衣のよう。
思わぬ光景に唖然としていたゼーファードは、偶然にもウルリカ様とバッチリ目があってしまう。
「うむ? ゼファなのじゃ?」
「ちょっ、なにやってんのよゼーファード!」
「あらぁ、もしかして覗きかしらぁ?」
「いいえ違います、私はウルリカ様の窮地に駆けつけた正義の──」
「黙りなさいよ変態黒焦げ悪魔!」
「覗きなのねぇ、これは極刑ねぇ」
「覗きではないと言っているでしょう!」
必死に無実を主張するゼーファード、しかし当然ながら信じてもらえない。
ヴァーミリアはどす黒い触手を伸ばし、一瞬にしてゼーファードを磔にする。同時にミーアは炎の壁を展開し、ゼーファードの逃げ場を完全に塞ぐ。
追い詰められたゼーファードに、ウルリカ様から絶望の一言が放たれる。
「ゼファよ、覗きはよくないのじゃ……」
「そんなっ、私はウルリカ様のために──」
「問答無用、くたばれゼーファード!」
「死刑執行よぉ!」
「──信じてください、ウルリカ様ー!!」
数刻後、そこには見るも無残に打ちのめされたゼーファードが、プカプカお湯に浮かんでいたという。
セリフの頭に人物名を入れました。
「誰が喋っているか分からない!」という方は、以下から読んでみてください。
──これはまだウルリカ様が、魔界にいた頃のお話──
ここは魔王城──ではなく魔界北部に広がる山岳地帯。炎帝ミーア・ラグナクロスの支配する、その名も“ラグナクロス領”。猛る火山と極寒の気候は生半可な魔物の生存を許さない、炎と氷の帝国である。
ウルリカ様「わーいなのじゃ!」
噴きあがる溶岩と荒れ狂う吹雪の中、元気いっぱい走り回るウルリカ様。過酷な環境もどこ吹く風、グングンと火山を登っていく。
ウルリカ様「楽しみなのじゃ! 楽しみなのじゃ!」
なんとこの日のウルリカ様は、浴衣に下駄に簪という風情ある出で立ちだ。飴玉模様の可愛らしい浴衣は、お菓子大好きなウルリカ様によく似合っている。
そんなウルリカ様の後を追う、魔界を統べる六体の大公爵。
ゼーファード「はぁ……はぁ……っ。ウルリカ様の浴衣姿、あれぞ至極の可愛らしさ……っ」
ヴァーミリア「ちょっとゼーファード、鼻息荒くて気持ち悪いわよぉ」
ドラルグ「シカシ可愛ラシイノハ事実、百年先マデ眺メテイラレル」
エミリオ「ウルリカ様の可愛らしいお姿を永遠に保存する魔法、なんとしてでも開発しなければ!」
ウルリカ様の浴衣姿にすっかり夢中な大公達。魔界随一の強者なだけあって、溶岩や吹雪をものともしていない。
ジュウベエ「しかしまさか、ミーアから温泉に招待されるとは思わなかった」
ミーア「火山の活発化で温泉が噴き出したのよ、ドバドバ溢れてくる温泉を放置しておくのは勿体ないでしょ?」
ジュウベエ「確かにな、温泉あるなら浸からねば損だ」
どうやら一行はミーアに誘われ、温泉へと向かっているらしい。
ヴァーミリア「ところでミーア、その温泉って私達全員で入っても平気なのかしらぁ? あっという間に崩壊しないかしらぁ?」
ミーア「平気平気! これから向かう温泉はアタイ達専用の特別製、アタイやドラルグが入っても余裕なくらい広いからね!」
ドラルグ「ソレハ助カル、我ノ巨体デ入レル温泉ナド滅多ニナイカラナ」
ミーア「しかも人里から離れてる、化け物揃いのアタイ達にはピッタリの温泉ってわけ!」
エミリオ「間違えて第七階梯魔法をぶっ放しても大丈夫そうですね」
なんとも物騒な会話をしながら火山を登り続ける一行、すると突如として目の前に“それ”は姿を現す。
ミーア「じゃーん、温泉に到着!」
それはもはや湖と呼んだ方がしっくりくるほどの巨大な温泉だった。
グツグツと煮え立つ湯、もうもうと立ち込める湯気、そして巨大な炎の壁。まるで地獄の一部を覗き見ているかのような光景だ。
ドラルグ「ナンダコレハ……」
ミーア「アタイ特製の温泉だよ」
エミリオ「これが温泉? 吹きっ晒しのお湯溜まりでは?」
ミーア「アタイやドラルグも入る温泉に、壁や天井なんて作れないでしょ。だからアタイの神器で山を穿って、大きな温泉にしちゃったの!」
ジュウベエ「あの炎は一体なんだ?」
ミーア「あの炎は女風呂と男風呂の区切りだよ、左が女風呂で右が男風呂ね」
確かに巨人であるミーアやドラゴンであるドラルグも入る温泉に、壁や天井を作るのは至難の業だろう。それにしても常識外れな温泉を前に、流石の大公達も開いた口が塞がらない。
とそこへニコニコ笑顔のウルリカ様が、元気いっぱい駆け寄ってくる。
ウルリカ様「細かいことは気にしなくてよいのじゃ、とにかく温泉に入るのじゃー!」
こうしてウルリカ様の号令で、大公達は女風呂と男風呂へ別れていくのだった。
ゼーファード「うぅ……ウルリカ様……っ」
こちらは男風呂。
立ち込める湯気の中、ゼーファードは全裸で身悶えしていた。
ゼーファード「ウルリカ様……ウルリカ様……!」
鼻息荒くウルリカ様の名を連呼しグネグネ全身をしならせる姿は、奇怪と表現する他ない。
ゼーファード「この炎の向こうに一糸纏わぬウルリカ様が! ウルリカ様が! ウルリカ様がー!!」
ドラルグ「オイ、アノ変態ヲ誰カ黙ラセテクレ」
エミリオ「ボクは嫌です、近寄りたくありません」
ジュウベエ「俺も御免蒙る、絶対に近寄りたくない」
完全に変態扱いされるも、当のゼーファードは一切気にしていない。燃え盛る炎の壁に向かって延々と身悶え続けている。とその時、炎の壁を超えて可愛らしい声が聞こえてくる。
──むむっ──
ゼーファード「今のはウルリカ様の声? 声というよりは悲鳴に近いような……もしやウルリカ様の御体を覗き見る悪漢が現れたのでは!? なんと許すまじ、こうしてはいられない。今すぐ助けに参ります、待っていてくださいウルリカ様!」
聞えてきたウルリカ様の声に過剰な反応を見せるゼーファード。謎の熱意を全身に纏い、鷹のように両腕を広げ炎の壁へと飛び込んでいく。
ドラルグ「ミーアノ炎ニ全裸デ飛ビ込ンダゾ、正気トハ思エン……」
エミリオ「世界を焼き尽くす炎帝の炎ですよ、ゼーファードさんは大丈夫なのでしょうか?」
ジュウベエ「ゼーファード殿ならば死ぬことはないだろう」
エミリオ「ところで炎の向こう側にはミーアさんとヴァーミリアもいますよね。そしてここは温泉です、もちろん裸でいますよね……」
ジュウベエ「前言撤回だ、どうやらゼーファード殿は死んだな」
ドラルグ「去ラバゼーファード、安ラカニ眠レ」
そして静かに両手をあわせる、エミリオ、ドラルグ、ジュウベエなのであった。
さてゼーファードはというと見事に炎の壁を突破していた。
ゼーファード「ウルリカ様! ゼーファードが参りました!」
全身を焼かれながらも強引に炎を突破する、なんとも凄まじいウルリカ様への愛と執念である。そんな黒焦げ全裸男ゼーファードの目に飛び込んできたのは──。
ウルリカ様「むむっ、やりおったな!」
ヴァーミリア「あらぁ、ウルリカ様こそやったわねぇ」
ミーア「よーし、アタイもザパッとやっちゃうんだから!」
──楽しそうにお湯をかけあう、一糸纏わぬ美少女と美女と巨女。
潤い溢れる瑞々しい肌、たゆんと弾む豊満な身体、白く透き通る陶器のような肢体。薄っすらと立ち込める湯気は、まるで三人の女神を包む羽衣のよう。
思わぬ光景に唖然としていたゼーファードは、偶然にもウルリカ様とバッチリ目があってしまう。
ウルリカ様「うむ? ゼファなのじゃ?」
ミーア「ちょっ、なにやってんのよゼーファード!」
ヴァーミリア「あらぁ、もしかして覗きかしらぁ?」
ゼーファード「いいえ違います、私はウルリカ様の窮地に駆けつけた正義の──」
ミーア「黙りなさいよ変態黒焦げ悪魔!」
ヴァーミリア「覗きなのねぇ、これは極刑ねぇ」
ゼーファード「覗きではないと言っているでしょう!」
必死に無実を主張するゼーファード、しかし当然ながら信じてもらえない。
ヴァーミリアはどす黒い触手を伸ばし、一瞬にしてゼーファードを磔にする。同時にミーアは炎の壁を展開し、ゼーファードの逃げ場を完全に塞ぐ。
追い詰められたゼーファードに、ウルリカ様から絶望の一言が放たれる。
ウルリカ様「ゼファよ、覗きはよくないのじゃ……」
ゼーファード「そんなっ、私はウルリカ様のために──」
ミーア「問答無用、くたばれゼーファード!」
ヴァーミリア「死刑執行よぉ!」
ゼーファード「──信じてください、ウルリカ様ー!!」
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