魔王様は学校にいきたい!
安らぎの魔法
エリッサの乱入により持ち越しとなった、ロムルス王国と南ディナール王国の同盟。
その夜ロームルス城の大食堂では、両国の懇親を目的とした晩餐会が催されていた。食事を囲み親睦を深めるロムルス王国の王族一家と南ディナール王国の元老院、しかしそこにエリッサの姿はない。
「……」
賓客用の豪華な客間で、エリッサは一人静かに夜空を眺めていた。
「エリッサ? 入りますわよ?」
客間の扉から顔を覗かせるシャルロット。どうやら晩餐会を抜け出して、エリッサの様子を見にきたようである。
「なによシャルロット」
「晩餐会へのお誘いですわ、よければエリッサも参加を──」
「うるさいわね、放っておいてよ!」
エリッサは感情のまま傍にあったグラスを叩き割る。シャルロットの気遣いに対して、あまりにも乱暴な対応だ。にも拘らずシャルロットは怒らない、むしろ寂しげな表情を浮かべるばかりである。
「そう……気が向いたら顔を出してね」
「はぁ……はぁ……、ううぅ……」
一人残されたエリッサはガックリとその場に崩れ落ちる。ボロボロと大粒の涙を零し、肩を震わせ嗚咽を漏らす。
エリッサの異変を察知してか、従者であるハミルカルが客間へと駆けつける。
「エリッサ様? どうされましたか?」
「うぅ……私はまたシャルロットに酷いことを……。どうして私はシャルロットに辛くあたってしまったの? どうしてシャルロットに手をあげてしまったの?」
苛烈さは影を潜め、幼い子供のように泣きじゃくるエリッサ。声は震え、呼吸は荒れ、つい先ほどまでのエリッサとは別人のような弱々しさだ。
「……違うわ、私は悪くないのよ! 数年前までのシャルロットは誰彼構わず偉そうに接する子供だったの、なのに今はすっかり大人びて態度も落ちついている。私のことを子供扱いしているみたいなのよ、本当にイライラするわ!」
「落ちついてくださいエリッサ様」
「……そうじゃないのよ、私はただ八つ当たりをしているだけ。シャルロットに置いていかれたような気になって、勝手にイライラしているだけなの。そんなくだらない理由でシャルロットに手をあげて……シャルロットは大切なお友達なのに……」
泣き喚いていたかと思えば、目を尖らせてシャルロットへの不満を口にする。そして数秒後にはシャルロットのことを大切な友達だと言う。
エリッサの言動は明らかに平静を欠いている。
「助けてよハミルカル、胸の奥がザワザワして落ちつかないの」
「かしこまりましたエリッサ様、いつもの魔法をおかけいたしましょう。心に平穏をもたらす“安らぎの魔法”でございます」
ハミルカルは優しい手つきでエリッサの首筋を撫でる。次第にエリッサの全身は、淡く柔らかな光に包まれていく。
「いかがでしょう?」
「……落ちついてきたわ、ありがとうハミルカル」
安らぎの魔法による効果であろうか、すっかり落ちついた様子のエリッサ。眠りに落ちる寸前のような、トロンとした表情を浮かべている。
「慣れない異国の環境に気疲れを起こしているのやもしれません」
「私は王女なのよ、疲れたなんて言ってられないわ……。国のために頑張らなくてはならないのよ……」
「エリッサ様は十分に頑張っておられます、今以上に頑張る必要はございません。国のことは元老院に任せておけばよいのです」
「そう……でもシャルロットには謝りたいわ、シャルロットは大切なお友達なの……」
「確かに友情は大切なものです、しかし今はご自身のことだけをお考えください。今日はお休みになりましょう、後のことは全て私にお任せくだされば大丈夫です」
「……分かったわ、ハミルカルの言う通りにする」
促されるまま床に就くエリッサ、そんなエリッサを優しく見守るハミルカル。
こうして夜は安らかに更けていく。
その夜ロームルス城の大食堂では、両国の懇親を目的とした晩餐会が催されていた。食事を囲み親睦を深めるロムルス王国の王族一家と南ディナール王国の元老院、しかしそこにエリッサの姿はない。
「……」
賓客用の豪華な客間で、エリッサは一人静かに夜空を眺めていた。
「エリッサ? 入りますわよ?」
客間の扉から顔を覗かせるシャルロット。どうやら晩餐会を抜け出して、エリッサの様子を見にきたようである。
「なによシャルロット」
「晩餐会へのお誘いですわ、よければエリッサも参加を──」
「うるさいわね、放っておいてよ!」
エリッサは感情のまま傍にあったグラスを叩き割る。シャルロットの気遣いに対して、あまりにも乱暴な対応だ。にも拘らずシャルロットは怒らない、むしろ寂しげな表情を浮かべるばかりである。
「そう……気が向いたら顔を出してね」
「はぁ……はぁ……、ううぅ……」
一人残されたエリッサはガックリとその場に崩れ落ちる。ボロボロと大粒の涙を零し、肩を震わせ嗚咽を漏らす。
エリッサの異変を察知してか、従者であるハミルカルが客間へと駆けつける。
「エリッサ様? どうされましたか?」
「うぅ……私はまたシャルロットに酷いことを……。どうして私はシャルロットに辛くあたってしまったの? どうしてシャルロットに手をあげてしまったの?」
苛烈さは影を潜め、幼い子供のように泣きじゃくるエリッサ。声は震え、呼吸は荒れ、つい先ほどまでのエリッサとは別人のような弱々しさだ。
「……違うわ、私は悪くないのよ! 数年前までのシャルロットは誰彼構わず偉そうに接する子供だったの、なのに今はすっかり大人びて態度も落ちついている。私のことを子供扱いしているみたいなのよ、本当にイライラするわ!」
「落ちついてくださいエリッサ様」
「……そうじゃないのよ、私はただ八つ当たりをしているだけ。シャルロットに置いていかれたような気になって、勝手にイライラしているだけなの。そんなくだらない理由でシャルロットに手をあげて……シャルロットは大切なお友達なのに……」
泣き喚いていたかと思えば、目を尖らせてシャルロットへの不満を口にする。そして数秒後にはシャルロットのことを大切な友達だと言う。
エリッサの言動は明らかに平静を欠いている。
「助けてよハミルカル、胸の奥がザワザワして落ちつかないの」
「かしこまりましたエリッサ様、いつもの魔法をおかけいたしましょう。心に平穏をもたらす“安らぎの魔法”でございます」
ハミルカルは優しい手つきでエリッサの首筋を撫でる。次第にエリッサの全身は、淡く柔らかな光に包まれていく。
「いかがでしょう?」
「……落ちついてきたわ、ありがとうハミルカル」
安らぎの魔法による効果であろうか、すっかり落ちついた様子のエリッサ。眠りに落ちる寸前のような、トロンとした表情を浮かべている。
「慣れない異国の環境に気疲れを起こしているのやもしれません」
「私は王女なのよ、疲れたなんて言ってられないわ……。国のために頑張らなくてはならないのよ……」
「エリッサ様は十分に頑張っておられます、今以上に頑張る必要はございません。国のことは元老院に任せておけばよいのです」
「そう……でもシャルロットには謝りたいわ、シャルロットは大切なお友達なの……」
「確かに友情は大切なものです、しかし今はご自身のことだけをお考えください。今日はお休みになりましょう、後のことは全て私にお任せくだされば大丈夫です」
「……分かったわ、ハミルカルの言う通りにする」
促されるまま床に就くエリッサ、そんなエリッサを優しく見守るハミルカル。
こうして夜は安らかに更けていく。
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