魔王様は学校にいきたい!

ゆにこーん / UnicornNovel

お仕置き

 大通りから遠く離れた建物の屋根、リィアンはヴァーミリアとサンダーバードの戦いを観察していた。

「ヤバいヤバい、何なのよアレ!?」

 見るも恐ろしい巨大な蠕虫、そして無残にも食い尽くされるサンダーバード。ヴァーミリアの異次元な力を目撃し、リィアンは顔面蒼白である。

「あんな怪物どうしろってのよ……ん?」

 オロオロと狼狽えていたリィアンは、ふと違和感に気づく。

「あれ? あの怪物はどこへいったの?」

 数秒目を離した隙に、ヴァーミリアの姿を見失ってしまったのだ。
 怪訝に思い首を傾げるリィアン、次の瞬間──。

「怪物って私のことかしらぁ?」

「ひへっ!?」

 底冷えする静かな声、圧し掛かるような気配。振り返った先で佇むニッコリ笑顔のヴァーミリア。
 そこからのリィアンの行動は早かった。突風でヴァーミリアを牽制しつつ、全速力で逃走を図る。風の魔人を名乗るだけあって、その速度は風のようだ。

「撤退──」

「どこへいくのかしらぁ?」

「──ひやぁ!」

 しかしヴァーミリアの動きはさらに早く、触手に変化させた両腕であっさりとリィアンを捕まえてしまう。

「ぐ……どうして……」

「あら、なにかしらぁ?」

「リィは魔法で姿を消してる、認識阻害の魔法で守られてる。なのにどうしてリィの居場所を……」

「匂いと温度でバレバレよぉ」

「匂いと温度!?」

「姿を消したくらいで、私からは逃れられないわよぉ」

「そんな……」

 あまりにも絶望的な状況に、リィアンは放心状態だ。

「ところで質問よぉ」

「な、なによ」

「一連の大騒ぎ、首謀者はあなたねぇ?」

「……」

「黙ってるつもりかしらぁ、だったらぁ……」

 黙秘を続けるリィアンに向かって、ヴァーミリアは大きく口を開ける。耳まで裂けた口から覗く大小無数の鋭い牙に、リィアンは思わず身を震わせる。

「は、はい私です! 私が首謀者です、謝るから許してください!」

「ふふっ、正直に言えて偉いわねぇ……」

 ヴァーミリアは触手を伸ばし、リィアンの頭を優しくナデナデ。
 この世で最も恐ろしいナデナデだ。

「でもウルリカ様を泣かせたのは許せないわぁ、お仕置きしなくちゃねぇ」

「ひっ、お仕置き!?」

「大丈夫よぉ、命までは奪わないわぁ」

 伸ばされた触手は数を増やし、ニュルニュルとリィアンを飲み込んでいく。
 身動きの取れないリィアンは、弱々しく悲鳴をあげることしか出来ない。

「ひいいぃ……」

 不気味に脈動する触手の繭からは、リィアンのくぐもった悲鳴が聞こえてくる。
 そして数分後──。

「そろそろねぇ……ぺっ」

 触手の繭から吐き出されるリィアン。衣服は溶けてしまっており、白い素肌が丸見えだ。

「生命力と魔力を根こそぎ吸い取ってあげたわぁ、気分はどうかしらぁ?」

「あ……はぁ……」

 満身創痍のリィアンは、立ちあがるどころか指一本すら動かせない。

「あなたは可愛らしいから、これくらいで許してあげるわぁ。でもねぇ……」

「は……はっ……」

「次また悪いことしたらぁ……」

 動けないリィアンの耳元へ、ヴァーミリアはそっと口を近づける。

「その時は骨も残さず食べちゃうからねぇ……」

「ひっ、ひいぃ……」

 恐怖のあまり体を震わせ、ボロボロと涙を流すリィアン。
 そんなリィアンを放置して、ヴァーミリアはその場を去っていくのだった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品