魔王様は学校にいきたい!
後夜祭!
楽しかった学園祭は大盛りあがりで幕を閉じた、しかしロームルス学園はまだまだ活気に満ちている。ここからは自由参加の後夜祭だ、人々は軽食を片手にワイワイと楽しんでいた。
そんな人々の輪から外れて、ナターシャ、シャルル、ヘンリーの三人は校庭の隅にポツンと座っていた。
「はぁ……私の出し物には誰もきてくれませんでした……」
どうやらナターシャの出し物“世界の珍味食堂”はずっと閑古鳥が鳴いていたようだ。すっかり落ち込んでしまったナターシャを、シャルルとヘンリーは二人がかりで慰めている。
「そう落ち込まないでください、場所が悪かっただけかもしれません」
「ヘンリーの言う通りだな、出し物が悪かったわけではない!」
「あんなに可愛い珍味達なのに……もしかして人気ないのでしょうか……」
「「可愛い珍味達……」」
「そうです……可愛いですよね……?」
「あ、ああ! 珍味は可愛いよな!」
「ええ、とっても可愛いですね!」
猛烈に頷くシャルルとヘンリー、しかし本当に可愛いと思っているかは怪しいところだ。
「珍味……私の可愛い珍味……」
ナターシャの落ち込みっぷりにシャルルとヘンリーは困り果ててしまう、とそこへ慌てた様子のシャルロットが走ってくる。
「大変ですわ! 一大事ですわよ!」
「シャルロット様、なにかありましたか?」
「実はオリヴィアとベッポが……」
「オリヴィア嬢とベッポが……?」
「オリヴィアとベッポがいい雰囲気なのですわ!」
「「「いい雰囲気!?」」」
「きゃあっ! それは一大事です!」
次の瞬間ナターシャは元気いっぱいにビョンッと立ちあがる、やはり女子にとって色恋沙汰は大好物なのだろう。それにしても数秒前までの落ち込みはどこへやら。
「落ち込んでいる場合ではありませんでした!」
「その通りですわ! 早く様子を見にいきますわよ!」
「はうぅ、ドキドキしますー!」
シャルロットとナターシャは興奮した様子で走り去ってしまう、取り残されたシャルルとヘンリーはポカーンだ。
「あー……どうやらナターシャさんは心配の必要なさそうですね」
「そうだな、とにかく元気になってくれてよかった」
「ところでベッポとオリヴィアさんがいい雰囲気だそうですね」
「喜ばしいことだな、しかしベッポはうまくやれているだろうか?」
「非常に心配ですね、友として様子を見にいった方がいいかもしれません」
「奇遇だなヘンリー、自分もそう思っていたところだ!」
「だったらやることは一つですね」
「ああ、その通りだな!」
二人は大きく頷くと、ナターシャに負けず劣らずの勢いで立ちあがる。どうやら男子にとっても友達の色恋沙汰は大好物のようである。
「「ベッポを応援に行こう!」」
そしてシャルルとヘンリーもまた、興奮した様子で走り去るのだった。
一方そのころオリヴィアとベッポは、二人きりで小さな長椅子に腰かけていた。
「ふぅ、今日は疲れたな」
「とても疲れました、でも凄く楽しかったです。今回は誘っていただきありがとうございました」
「お礼を言いたいのは俺の方だ、オリヴィアのおかげで第一位だぜ」
「ところで表彰式の時はごめんなさい、興奮して抱きついてしまいました」
「あれは別に……とにかく大丈夫、謝らなくていいよ」
大きな焚き火の明かりに照らされながら、二人はゆったりとした時間を楽しんでいる。
「「あの──」」
「あ……どうした?」
「いえ、ベッポ様からどうぞ」
「いやいやオリヴィアから」
「いえいえ、ベッポ様からどうぞ」
焚き火の熱によるものだろうか、心なしか二人の顔色はほんのり赤らんで見える。
「その……オリヴィアのおかげで最高に楽しかった、また一緒にお菓子屋さんをやろうな!」
「また一緒に……嬉しいですっ」
オリヴィアは満面の笑顔を浮かべる、ベッポの言葉を心から嬉しく思っているようだ。
「それで? オリヴィアはなんて言おうとしたんだ?」
「あのですね、これをベッポ様にお渡ししたくて……」
それは小さな包みだった。
「これは?」
「クッキーです、私にはこれくらいしか渡せるものがなくて」
「もしかして俺のために作ってくれたのか?」
「はい、今日のお礼にどうぞ」
「俺のために……ありがとう、大切に食べるよ!」
オリヴィアはモジモジとしながら包みを渡し、ベッポもモジモジとしながら包みを受け取る。
そんな初々しい二人のやり取りを遠巻きに観察する者達がいた。シャルロット、ナターシャ、シャルル、ヘンリーの野次馬四人組である。
「きゃっ、クッキーを渡しましたわ!」
「二人とも真っ赤です! 照れまくってます! 可愛いです!!」
「おいおいベッポよ、もっと男らしい態度をとれ!」
「あれではオリヴィアさんをドキドキさせられませんね」
生垣の陰でワイワイと騒ぐ四人組、周囲の白い目もまったく気にしていない。
「今ですわオリヴィア! 思い切って手を繋ぐのですわ!」
「結果発表の時みたいに抱きつくのです! ギュッと! ギュッと!」
「男ならガシッと、グイっと、情熱的な態度をとるのだ!」
「ベッポは消極的すぎますね、これは男としての教育が必要かもしれませんね」
それからしばらく、奇妙な野次馬四人組はワイワイ騒ぎ続けたという。
オリヴィアとベッポが初々しいやり取りを重ねていたころ、ノイマン学長とアルフレッドは校舎裏の暗がりで膝を抱えていた。
「ウルリカ様の舞台劇……最後まで観たかったですな……」
「愛しき少女……舞台劇……見逃した……絶望……この世の終わり……」
よっぽど舞台劇の最後を観たかったのだろう、楽しい後夜祭の時間であるにもかかわらず二人の周囲は深い暗黒に包まれている。
そんな二人の背中を白い指がツンツンと突っつく。振り返るとそこには、舞台劇の衣装に身を包んだウルリカ様とアンナマリアが立っていた。
「ウルリカ様! アンナマリア様!」
「愛しき少女よ、どうしてここに!?」
興奮して立ちあがる二人に、ウルリカ様はニッコリと微笑みかける。
「お主等にお礼を言いにきたのじゃ」
「「お礼?」」
「二人とも学園祭を守るために戦ってくれたっすよね?」
「学園祭を無事に終えられたのは、お主等のおかげなのじゃ!」
どうやらウルリカ様とアンナマリアは、魔人の襲撃やパラテノ森林での戦いに気づいていたらしい。
「なんと、お二方とも気づいておったのですかな!?」
「ボロボロになるまで戦ってくれたっすね、よく頑張ってくれたっす!」
「うむ、学園祭を守ってくれてありがとうなのじゃ!」
思いもよらぬ感謝の言葉に、ノイマン学長とアルフレッドは涙を流して大喜びだ。
「お主等のおかげで舞台は大成功じゃ、お礼をしたいのじゃ」
そう言うとウルリカ様は両腕から金色の腕輪を外し、それぞれ二人へと差し出す。
「これは舞台の衣装として使った腕輪なのじゃ、お主等に一つずつあげるのじゃ。妾の魔法をかけた特別製の腕輪なのじゃ」
あまりにも喜ばしい贈り物に、ノイマン学長とアルフレッドは口を開けたまま固まってしまう。
「それじゃあ私からもお礼っす、いくっすよ」
アンナマリアはそれぞれの腕輪に手をかざす、すると腕輪の表面に白銀の文様が浮かびあがる。
「時空の力を付与したっす、いつか二人のことを助けてくれるはずっす」
ノイマン学長とアルフレッドは放心状態で腕輪を受け取る、一方ウルリカ様とアンナマリアはお礼を言ってさっさと立ち去ってしまう。
「それではの、ありがとうなのじゃ」
「ありがとうっすー」
取り残された二人は数分経ってようやく我を取り戻す、そしてゆっくりと腕輪を身につけ──。
「「うおおぉーっ!!」」
──涙を流し、喜びの絶叫をあげたのであった。
そんな人々の輪から外れて、ナターシャ、シャルル、ヘンリーの三人は校庭の隅にポツンと座っていた。
「はぁ……私の出し物には誰もきてくれませんでした……」
どうやらナターシャの出し物“世界の珍味食堂”はずっと閑古鳥が鳴いていたようだ。すっかり落ち込んでしまったナターシャを、シャルルとヘンリーは二人がかりで慰めている。
「そう落ち込まないでください、場所が悪かっただけかもしれません」
「ヘンリーの言う通りだな、出し物が悪かったわけではない!」
「あんなに可愛い珍味達なのに……もしかして人気ないのでしょうか……」
「「可愛い珍味達……」」
「そうです……可愛いですよね……?」
「あ、ああ! 珍味は可愛いよな!」
「ええ、とっても可愛いですね!」
猛烈に頷くシャルルとヘンリー、しかし本当に可愛いと思っているかは怪しいところだ。
「珍味……私の可愛い珍味……」
ナターシャの落ち込みっぷりにシャルルとヘンリーは困り果ててしまう、とそこへ慌てた様子のシャルロットが走ってくる。
「大変ですわ! 一大事ですわよ!」
「シャルロット様、なにかありましたか?」
「実はオリヴィアとベッポが……」
「オリヴィア嬢とベッポが……?」
「オリヴィアとベッポがいい雰囲気なのですわ!」
「「「いい雰囲気!?」」」
「きゃあっ! それは一大事です!」
次の瞬間ナターシャは元気いっぱいにビョンッと立ちあがる、やはり女子にとって色恋沙汰は大好物なのだろう。それにしても数秒前までの落ち込みはどこへやら。
「落ち込んでいる場合ではありませんでした!」
「その通りですわ! 早く様子を見にいきますわよ!」
「はうぅ、ドキドキしますー!」
シャルロットとナターシャは興奮した様子で走り去ってしまう、取り残されたシャルルとヘンリーはポカーンだ。
「あー……どうやらナターシャさんは心配の必要なさそうですね」
「そうだな、とにかく元気になってくれてよかった」
「ところでベッポとオリヴィアさんがいい雰囲気だそうですね」
「喜ばしいことだな、しかしベッポはうまくやれているだろうか?」
「非常に心配ですね、友として様子を見にいった方がいいかもしれません」
「奇遇だなヘンリー、自分もそう思っていたところだ!」
「だったらやることは一つですね」
「ああ、その通りだな!」
二人は大きく頷くと、ナターシャに負けず劣らずの勢いで立ちあがる。どうやら男子にとっても友達の色恋沙汰は大好物のようである。
「「ベッポを応援に行こう!」」
そしてシャルルとヘンリーもまた、興奮した様子で走り去るのだった。
一方そのころオリヴィアとベッポは、二人きりで小さな長椅子に腰かけていた。
「ふぅ、今日は疲れたな」
「とても疲れました、でも凄く楽しかったです。今回は誘っていただきありがとうございました」
「お礼を言いたいのは俺の方だ、オリヴィアのおかげで第一位だぜ」
「ところで表彰式の時はごめんなさい、興奮して抱きついてしまいました」
「あれは別に……とにかく大丈夫、謝らなくていいよ」
大きな焚き火の明かりに照らされながら、二人はゆったりとした時間を楽しんでいる。
「「あの──」」
「あ……どうした?」
「いえ、ベッポ様からどうぞ」
「いやいやオリヴィアから」
「いえいえ、ベッポ様からどうぞ」
焚き火の熱によるものだろうか、心なしか二人の顔色はほんのり赤らんで見える。
「その……オリヴィアのおかげで最高に楽しかった、また一緒にお菓子屋さんをやろうな!」
「また一緒に……嬉しいですっ」
オリヴィアは満面の笑顔を浮かべる、ベッポの言葉を心から嬉しく思っているようだ。
「それで? オリヴィアはなんて言おうとしたんだ?」
「あのですね、これをベッポ様にお渡ししたくて……」
それは小さな包みだった。
「これは?」
「クッキーです、私にはこれくらいしか渡せるものがなくて」
「もしかして俺のために作ってくれたのか?」
「はい、今日のお礼にどうぞ」
「俺のために……ありがとう、大切に食べるよ!」
オリヴィアはモジモジとしながら包みを渡し、ベッポもモジモジとしながら包みを受け取る。
そんな初々しい二人のやり取りを遠巻きに観察する者達がいた。シャルロット、ナターシャ、シャルル、ヘンリーの野次馬四人組である。
「きゃっ、クッキーを渡しましたわ!」
「二人とも真っ赤です! 照れまくってます! 可愛いです!!」
「おいおいベッポよ、もっと男らしい態度をとれ!」
「あれではオリヴィアさんをドキドキさせられませんね」
生垣の陰でワイワイと騒ぐ四人組、周囲の白い目もまったく気にしていない。
「今ですわオリヴィア! 思い切って手を繋ぐのですわ!」
「結果発表の時みたいに抱きつくのです! ギュッと! ギュッと!」
「男ならガシッと、グイっと、情熱的な態度をとるのだ!」
「ベッポは消極的すぎますね、これは男としての教育が必要かもしれませんね」
それからしばらく、奇妙な野次馬四人組はワイワイ騒ぎ続けたという。
オリヴィアとベッポが初々しいやり取りを重ねていたころ、ノイマン学長とアルフレッドは校舎裏の暗がりで膝を抱えていた。
「ウルリカ様の舞台劇……最後まで観たかったですな……」
「愛しき少女……舞台劇……見逃した……絶望……この世の終わり……」
よっぽど舞台劇の最後を観たかったのだろう、楽しい後夜祭の時間であるにもかかわらず二人の周囲は深い暗黒に包まれている。
そんな二人の背中を白い指がツンツンと突っつく。振り返るとそこには、舞台劇の衣装に身を包んだウルリカ様とアンナマリアが立っていた。
「ウルリカ様! アンナマリア様!」
「愛しき少女よ、どうしてここに!?」
興奮して立ちあがる二人に、ウルリカ様はニッコリと微笑みかける。
「お主等にお礼を言いにきたのじゃ」
「「お礼?」」
「二人とも学園祭を守るために戦ってくれたっすよね?」
「学園祭を無事に終えられたのは、お主等のおかげなのじゃ!」
どうやらウルリカ様とアンナマリアは、魔人の襲撃やパラテノ森林での戦いに気づいていたらしい。
「なんと、お二方とも気づいておったのですかな!?」
「ボロボロになるまで戦ってくれたっすね、よく頑張ってくれたっす!」
「うむ、学園祭を守ってくれてありがとうなのじゃ!」
思いもよらぬ感謝の言葉に、ノイマン学長とアルフレッドは涙を流して大喜びだ。
「お主等のおかげで舞台は大成功じゃ、お礼をしたいのじゃ」
そう言うとウルリカ様は両腕から金色の腕輪を外し、それぞれ二人へと差し出す。
「これは舞台の衣装として使った腕輪なのじゃ、お主等に一つずつあげるのじゃ。妾の魔法をかけた特別製の腕輪なのじゃ」
あまりにも喜ばしい贈り物に、ノイマン学長とアルフレッドは口を開けたまま固まってしまう。
「それじゃあ私からもお礼っす、いくっすよ」
アンナマリアはそれぞれの腕輪に手をかざす、すると腕輪の表面に白銀の文様が浮かびあがる。
「時空の力を付与したっす、いつか二人のことを助けてくれるはずっす」
ノイマン学長とアルフレッドは放心状態で腕輪を受け取る、一方ウルリカ様とアンナマリアはお礼を言ってさっさと立ち去ってしまう。
「それではの、ありがとうなのじゃ」
「ありがとうっすー」
取り残された二人は数分経ってようやく我を取り戻す、そしてゆっくりと腕輪を身につけ──。
「「うおおぉーっ!!」」
──涙を流し、喜びの絶叫をあげたのであった。
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