魔王様は学校にいきたい!
恐るべき可愛らしさ
お祭り騒ぎから一夜明け、ロアーナの町は平和な日常を取り戻していた。
所々で酔いつぶれた住人が野ざらしになっているものの、おおむね平和な日常の風景である。
「うっ……うぅ……」
一方こちらは町の西側に位置する王家所有の屋敷、ヴィクトリア女王の寝室である。
キラキラと差し込む朝の日差し、窓から吹き込む澄んだそよ風、そして青白い顔のヴィクトリア女王。
「うっぷ……昨日はお酒を飲みすぎたわ……」
どうやらヴィクトリア女王は二日酔い地獄の真っただ中にいるようだ。というのも昨日は病み上がりにもかかわらず一晩中お酒を飲んでいたのである、当然の結果であろう。
「お母様、今日は無理せず休んでてくださいですの」
「でもせっかくロアーナの町にきているのよ、もっと遊びたい……ではなくて、課外授業をしなくちゃ……」
シャルロットの制止も聞かずに、寝室から出ていこうとするヴィクトリア女王。しかし──。
「お母様は一日療養ですわ! これは娘命令ですわよ!」
「はうぅ……娘に怒られちゃったわ、しくしく……」
「ウソ泣きをしてもダメですわよ!」
残念ながらシャルロットに止められてしまい、掛布団に巻かれてベッドにポイされてしまう。「そんなぁ」と悲鳴をあげるが、シャルロットは耳を塞いで知らんぷり。
グルグル巻きのヴィクトリア女王を放置して屋敷の外へと出ていくシャルロット、するとクラスメイトの男子三人が待っていた。
「お待たせしましたわね、あら? 三人だけですの?」
「ウルリカさん達でしたら、お屋敷のメイドさん達に連れられていきましたね。なんでもウルリカさんに着せたいお洋服があるとのことでしたね」
メイド達の勝手な行動を聞いて「まったくもう」とため息をつくシャルロット。そこへロムルス王国第一王女クリスティーナと、第二王女エリザベスがやってくる。
「おはよう……、お母様の調子は……どう……?」
「おはようですわお姉様。お母様はグルグル巻きにしてベッドに放り込んでおきましたの、今日は一日安静ですわね」
「グルグル巻き……なかなか酷いことをするわね……」
「無理して外へ出ようとするからですの。それよりお二人とも昨日は大変なケガをしたと聞きましたわ、体の調子は大丈夫ですの?」
「私達のことなら心配いらないぞ、オリヴィアに治癒魔法をかけてもらったからな!」
「オリヴィアの治癒魔法は凄いわね……、もしかすると将来は……世界一の治癒魔法使いになるかも……」
あれだけ酷かったにもかかわらず、クリスティーナとエリザベスのケガはキレイさっぱり消え去っている。いつの間にやらオリヴィアはすっかり治癒魔法の達人だ。
姉達の無事な姿にホッと胸を撫でおろすシャルロット。そこへ今度は上空から、銀髪の少年と漆黒の竜が舞い降りてくる。
「あぁ、みなさんお揃いですね」
「グルル……ウルリカ様ハドコダ?」
ウルリカ様に召喚された魔界の大公爵、銀星エミリオと黒竜ドラルグである。
突然の登場に驚きつつも、シャルロットは礼儀正しくペコリとお辞儀をする。
「エミリオ様とドラルグ様でしたわね? 昨日はお姉様達を助けてくれて、本当にありがとうございましたの」
「あぁ、礼には及びませんよ。ボク達はウルリカ様のご命令に従っただけですから」
「いいや、あらためて私からも礼を言わせてくれ! ドラルグ殿に助けられなければ、ロアーナ要塞を放棄せざるを得なかった! もしかすると私も命を落としていたかもしれない!」
「私からもお礼を言わせて……エミリオ様に助けられなければ、私は死んでいたわ……」
三姉妹は感謝を述べながら揃ってペコリとお辞儀をする。人間に感謝をされて、エミリオとドラルグは少し照れくさそうだ。
「いやまあ、ボク達もウルリカ様と会えて嬉しかったですし。それに魔法学大全の読者様とも会えました、これは本当に嬉しかったですよ!」
「グルル、同胞タル竜族達ヲ我自ラ楽ニシテヤレタ。竜ノ王タル我ノ雷デ散ッタノダ、同胞達モ少シハ浮カバレタコトダロウ」
「あぁ、もしやボク達が召喚された理由はそういうことですかね?」
「ウルリカ様ナラバオ一人デ全テヲ解決出来タハズ、シカシアエテ我々ヲ召喚サレタ。ツマリ我々ヤ同胞達ヲ慮ッテノコトデアロウナ」
「やはりウルリカ様はお優しい、最高の魔王様ですね!」
なにやらエミリオとドラルグは自分達だけで納得している様子だ、とその時──。
「おや、エミリオとドラルグなのじゃ!」
屋敷の正面玄関からウルリカ様とオリヴィア、そしてナターシャが表へと出てくる。その姿を見たエミリオとドラルグは、思わず素っとん狂な叫び声をあげてしまう。
「グルルルゥッ!?」
「うふぁあっ!?」
叫び声をあげてしまうのも無理はないだろう、なにしろウルリカ様の姿は普段とはまるで別人だったのである。
クルクルにまとめられた長い黒髪、薄っすらとお化粧ののったお顔。そして驚くことなかれ、白と黒のメイド服に身を包んでいるのである。
「あぁ……ボクはもうダメです……」
なんとも可愛らしすぎるウルリカ様の姿に、エミリオはたまらずバターンと倒れてしまう。顔はリンゴのように真っ赤、鼻血はダラダラと止まらない。
「グオオ……我ニハ刺激ガ強スギル……ッ」
エミリオのあとを追うように、ドラルグは鼻から火を吹きながらドスーンと倒れてしまう。
魔界の大公すら一撃で倒してしまう、魔王様の可愛らしさはかくも凄まじい。
「なにを倒れておるのやら……あっ、ちょっと待つのじゃ!」
倒れたドラルグはゴロゴロと転がり、近くの空き小屋をペシャンと押し潰してしまう。ついでに鼻から漏れた火の粉のせいで、ちょっとしたボヤ騒ぎだ。
「こらーっ、ドラルグー!」
ロアーナの町にこだまするウルリカ様の叫び声。
少しドタバタでおおむね平和な日常の風景なのであった。
所々で酔いつぶれた住人が野ざらしになっているものの、おおむね平和な日常の風景である。
「うっ……うぅ……」
一方こちらは町の西側に位置する王家所有の屋敷、ヴィクトリア女王の寝室である。
キラキラと差し込む朝の日差し、窓から吹き込む澄んだそよ風、そして青白い顔のヴィクトリア女王。
「うっぷ……昨日はお酒を飲みすぎたわ……」
どうやらヴィクトリア女王は二日酔い地獄の真っただ中にいるようだ。というのも昨日は病み上がりにもかかわらず一晩中お酒を飲んでいたのである、当然の結果であろう。
「お母様、今日は無理せず休んでてくださいですの」
「でもせっかくロアーナの町にきているのよ、もっと遊びたい……ではなくて、課外授業をしなくちゃ……」
シャルロットの制止も聞かずに、寝室から出ていこうとするヴィクトリア女王。しかし──。
「お母様は一日療養ですわ! これは娘命令ですわよ!」
「はうぅ……娘に怒られちゃったわ、しくしく……」
「ウソ泣きをしてもダメですわよ!」
残念ながらシャルロットに止められてしまい、掛布団に巻かれてベッドにポイされてしまう。「そんなぁ」と悲鳴をあげるが、シャルロットは耳を塞いで知らんぷり。
グルグル巻きのヴィクトリア女王を放置して屋敷の外へと出ていくシャルロット、するとクラスメイトの男子三人が待っていた。
「お待たせしましたわね、あら? 三人だけですの?」
「ウルリカさん達でしたら、お屋敷のメイドさん達に連れられていきましたね。なんでもウルリカさんに着せたいお洋服があるとのことでしたね」
メイド達の勝手な行動を聞いて「まったくもう」とため息をつくシャルロット。そこへロムルス王国第一王女クリスティーナと、第二王女エリザベスがやってくる。
「おはよう……、お母様の調子は……どう……?」
「おはようですわお姉様。お母様はグルグル巻きにしてベッドに放り込んでおきましたの、今日は一日安静ですわね」
「グルグル巻き……なかなか酷いことをするわね……」
「無理して外へ出ようとするからですの。それよりお二人とも昨日は大変なケガをしたと聞きましたわ、体の調子は大丈夫ですの?」
「私達のことなら心配いらないぞ、オリヴィアに治癒魔法をかけてもらったからな!」
「オリヴィアの治癒魔法は凄いわね……、もしかすると将来は……世界一の治癒魔法使いになるかも……」
あれだけ酷かったにもかかわらず、クリスティーナとエリザベスのケガはキレイさっぱり消え去っている。いつの間にやらオリヴィアはすっかり治癒魔法の達人だ。
姉達の無事な姿にホッと胸を撫でおろすシャルロット。そこへ今度は上空から、銀髪の少年と漆黒の竜が舞い降りてくる。
「あぁ、みなさんお揃いですね」
「グルル……ウルリカ様ハドコダ?」
ウルリカ様に召喚された魔界の大公爵、銀星エミリオと黒竜ドラルグである。
突然の登場に驚きつつも、シャルロットは礼儀正しくペコリとお辞儀をする。
「エミリオ様とドラルグ様でしたわね? 昨日はお姉様達を助けてくれて、本当にありがとうございましたの」
「あぁ、礼には及びませんよ。ボク達はウルリカ様のご命令に従っただけですから」
「いいや、あらためて私からも礼を言わせてくれ! ドラルグ殿に助けられなければ、ロアーナ要塞を放棄せざるを得なかった! もしかすると私も命を落としていたかもしれない!」
「私からもお礼を言わせて……エミリオ様に助けられなければ、私は死んでいたわ……」
三姉妹は感謝を述べながら揃ってペコリとお辞儀をする。人間に感謝をされて、エミリオとドラルグは少し照れくさそうだ。
「いやまあ、ボク達もウルリカ様と会えて嬉しかったですし。それに魔法学大全の読者様とも会えました、これは本当に嬉しかったですよ!」
「グルル、同胞タル竜族達ヲ我自ラ楽ニシテヤレタ。竜ノ王タル我ノ雷デ散ッタノダ、同胞達モ少シハ浮カバレタコトダロウ」
「あぁ、もしやボク達が召喚された理由はそういうことですかね?」
「ウルリカ様ナラバオ一人デ全テヲ解決出来タハズ、シカシアエテ我々ヲ召喚サレタ。ツマリ我々ヤ同胞達ヲ慮ッテノコトデアロウナ」
「やはりウルリカ様はお優しい、最高の魔王様ですね!」
なにやらエミリオとドラルグは自分達だけで納得している様子だ、とその時──。
「おや、エミリオとドラルグなのじゃ!」
屋敷の正面玄関からウルリカ様とオリヴィア、そしてナターシャが表へと出てくる。その姿を見たエミリオとドラルグは、思わず素っとん狂な叫び声をあげてしまう。
「グルルルゥッ!?」
「うふぁあっ!?」
叫び声をあげてしまうのも無理はないだろう、なにしろウルリカ様の姿は普段とはまるで別人だったのである。
クルクルにまとめられた長い黒髪、薄っすらとお化粧ののったお顔。そして驚くことなかれ、白と黒のメイド服に身を包んでいるのである。
「あぁ……ボクはもうダメです……」
なんとも可愛らしすぎるウルリカ様の姿に、エミリオはたまらずバターンと倒れてしまう。顔はリンゴのように真っ赤、鼻血はダラダラと止まらない。
「グオオ……我ニハ刺激ガ強スギル……ッ」
エミリオのあとを追うように、ドラルグは鼻から火を吹きながらドスーンと倒れてしまう。
魔界の大公すら一撃で倒してしまう、魔王様の可愛らしさはかくも凄まじい。
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