魔王様は学校にいきたい!

ゆにこーん / UnicornNovel

邪悪なる者達

 深夜。
 空には分厚い雲がかかり、輝く満月を覆い隠す。

 ロアーナの町から遥か北東。深い森に覆われたロアーナ山脈に、石造りの古びた建造物が建っていた。“旧ロアーナ要塞”、かつての戦争で使用された古の砦である。
 ずいぶん昔に放棄され、今ではすっかり廃墟と化している。しかしどういうわけか、内部から薄っすらと灯りが漏れている。漏れているのは灯りだけではない、耳を澄ますと怪しげな声が漏れ聞こえてくる。

「ガレウス様のために……ガレウス様のために……」

 灯りと声の出所は砦の中心部だ。
 荒れ果てた外観とは対照的に、砦の内部は綺麗に整備されていた。石造りの広い空間には、怪しげな実験器具が所狭しと並んでいる。
 さらには無数の巨大な檻が、無造作に積みあげられている。檻の中には大型の魔物が、窮屈そうに捕らえられている。

「ガレウス様のために……ガレウス様のために……」

 実験器具の周りには、黒いローブに身を包んだ男達が集まっている。ニヤニヤと不気味に笑いながら、薬品を混ぜ合わせる男達。よく見ると口元からは鋭い牙が覗いている、どうやら男達の正体は吸血鬼のようだ。

「ガレウス様のために……邪神ガレウス様のために……!」

 吸血鬼達の言葉から察するに、旧ロアーナ要塞はガレウス邪教団の秘密基地と化しているようだ。
 要塞内部には吸血鬼達の不気味な声が響き渡る。そこへ突如として、燕尾服に身を包んだ壮年の男性が現れる。

「ふうむ……」

「エゼルレッド様、いつの間にいらしたのですか!?」

「首尾を確認にきた、計画は順調か?」

「もちろん計画通りです、全て順調でございます!」

 エゼルレッドと呼ばれた男は、下級悪魔であるインプを大量に従えている。どうやらエゼルレッドの正体は悪魔のようである。

「ほう? 昼間の戦いでロアーナ軍に破れたことも、計画通りというわけか?」

「いえ、それは……っ」

「クククッ……冗談だ、そう慄くでない。第一王女と第二王女の参戦は想定外、国内屈指の魔法使いと聖騎士筆頭の力は伊達ではない」

 エゼルレッドを前にして、吸血鬼はガタガタと体を震わせている。吸血鬼をも恐れさせるとは、エゼルレッドはかなり高位の悪魔なのであろう。

「それより首尾を教えてくれ、例の薬は完成したか?」

「もちろん完成しております! これより魔物に投与するところです、こちらへどうぞ!」

 そう言うと吸血鬼は、エゼルレッドを連れて檻の方へと向かっていく。檻の中に捕らえられている魔物は、巨大な翼が特徴的な竜の一種“ワイバーン”である。

「これより投薬を開始します!」

 吸血鬼は巨大な注射器を持ち出すと、怪しく光る液体をワイバーンに注入する。
 激しく唸り声をあげるワイバーン。深い緑色だった体は次第に赤黒く変色していく。かと思いきや、赤黒く変色した体がどす黒く染まっていく。

「成功です! 成功いたしました!」

「グォッ! グォッ! グオォォ……!」

 どす黒く変色したワイバーンは、檻を壊さんばかりの勢いで暴れ回る。その様子を見てエゼルレッドは、満足気な表情を浮かべている。

「クククッ、素晴らしいではないか!」

「今回投与した薬は、従来の薬とは別物でございます! この薬を投与された魔物は圧倒的な凶暴性を発揮し、さらに我々の意のままに操ることが出来ます。加えて不死性も向上し──」

「グオォォーッ!」

 吸血鬼は誇らし気に薬の効果を説明する。その間もワイバーンは狂ったように暴れ続けている。もはやワイバーンではなく、別の魔物と錯覚するほどの凶暴さだ。

「この薬によって凶暴化した魔物ならば、ロアーナ軍の兵士など簡単に蹴散らせるだろう」

「ええ! 間違いございません!」

「よし、薬の生産と魔物への投与を急がせろ。ところで“もう一つの計画”はどうなっている?」

「そちらも抜かりございません! ちょうど我々の同士がロアーナ高原に向かっております、今夜中に“仕込み”を完了させる予定でございます!」

「首尾は上々か、素晴らしいことだ」

 報告を聞いたエゼルレッドは、高々と両手を広げる。

「全ては邪神ガレウス様のために! クククッ……ハハハハハッ!」

 邪悪なる者達の巣窟に、エゼルレッドの不気味な笑い声が響き渡る。

 その夜、黒いローブに身を包んだ集団がロアーナ高原を訪れ──。

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