魔王様は学校にいきたい!
涙の夜
夜空に浮かぶ眩い満月、優しく肌を撫でるそよ風。
シャルロットはテラスに佇み、静かな夜の風にあたっていた。
「ワタクシはみんなを危険な目に……、大切な友達を危険な目にあわせておいて……なにも出来なかった……」
涙が零れ落ちないよう、夜空を見上げるシャルロット。しかし頬を伝う涙は一向に止まらない。
震える肩を両手で抱き、必死に涙をこらえていると、ふと背後から声をかけられる。
「ロティー? おるかのー?」
「ウルリカ……?」
フラフラとした足取りで、ウルリカ様がやってきたのである。どうやら眠りから覚めたばかりのようで、目をしぱしぱとさせている。
「もう眠ったかと思っていましたわ……」
「なにやらロティが落ち込んでいると聞いたものでな、様子を見にきたのじゃ」
「そう……」
シャルロットは短く返事をすると、近くの椅子に腰かける。
「みんなの言った通りでしたわね……」
「うむ?」
「昼間の戦いで町に残ったことですわ。みんなの言った通り、早く避難するべきでしたわ……」
「しかし町に残ったおかげで、人々を救うことが出来たのじゃ」
「そうかもしれませんわね……でも……っ」
ギュッと両手を握りしめ、震える声を絞り出すシャルロット。
「でも結局ワタクシは、なにも出来ませんでしたわ……。住人を救ってくれたのは、クラスメイトのみんなですわ……」
「ふむ」
「ワタクシは住人を救いたいと、愛する民を守りたいと思い……その結果みんなを危険な目にあわせただけでしたの……」
「そうかのう?」
「先ほどお母様に叱られましたわ、謝って許されることではないと言われましたわ……」
「ふーむ……」
「お母様の言う通りですわよね……。だってワタクシは大切な友達を、死なせてしまうかもしれなかったのですもの……」
「そうか……」
「民は救えず、友を危険な目にあわせて……ワタクシは王族も友達も失格ですわね……うっ……うぅっ……」
抑えきれなくなった感情は、大粒の涙となってポロポロと零れ落ちる。そんなシャルロットの頭を、ウルリカ様はポンポンと撫でてあげる。
「ロティの言いたいことは分かったのじゃ、しかしロティは幸せ者じゃな」
そう言うとウルリカ様は、遠い昔を思い出しながら満天の星空を見上げる。
「一つ昔話をするのじゃ……かつて魔界では疫病が流行っての、大勢の民が苦しんでおったのじゃ」
「疫病……っ」
「疫病の被害を抑えるために、多くの家臣が知恵と力を貸してくれたのじゃ。しかし妾は家臣の言うことを聞かず、己の力で疫病を抑えようとしたのじゃ」
「それで……疫病はどうなりましたの……?」
「妾の判断は間違っておった、疫病は魔界全土に広まってしまった。妾のせいで愛する民は、たくさん死んでしまったのじゃ……」
「ウルリカ……」
「民からは相当に疎まれたものじゃ、家臣は妾の元から去ってしまった。そして誰も、妾を叱ってはくれんかった……」
しんみりとした雰囲気の中、ウルリカ様はシャルロットに向かってニパッと満面の笑顔を向ける。
「ロティは幸せ者じゃな、ちゃんと失敗を叱ってくれる者がおる。それに──」
ウルリカ様はシャルロットの両頬を、ムギュッと掴んで引っ張りあげる。驚いたシャルロットは思わず顔をあげ──。
「みんなロティのことを心配しておるぞ」
顔をあげたシャルロットの瞳には、クラスメイト達の姿が映っていた。
「ごめんなさいシャルロット様……一人にしてほしいと言われたのですけれど……」
「ナターシャ……みんな……、どうして……」
「大切なクラスメイトが落ち込んでいるのだ、放ってはおけなかった」
「でも……ワタクシはみんなを危険に……」
「確かにそうかもしれません、でもそれがなんだというのでしょうね? 思い返してみてください、ボク達はいつも危険な場所に首を突っ込んでばかりではないですかね?」
「ははっ、ヘンリーの言うとおりだな! 危険も失敗も、俺達にとっては日常茶飯事だよな!」
「失敗は取り返せばいいのです、次は失敗しないように頑張ればいいと思いますよ」
「はっ……あぅ……」
涙でグシャグシャのシャルロットを、ウルリカ様はそっと抱き締める。
「ロティには妾達がついておる、妾達はロティのことが大好きじゃからな!」
「うぅ……ぐすっ……ううぅ……」
こうして、涙の夜は静かに更けていくのだった。
シャルロットはテラスに佇み、静かな夜の風にあたっていた。
「ワタクシはみんなを危険な目に……、大切な友達を危険な目にあわせておいて……なにも出来なかった……」
涙が零れ落ちないよう、夜空を見上げるシャルロット。しかし頬を伝う涙は一向に止まらない。
震える肩を両手で抱き、必死に涙をこらえていると、ふと背後から声をかけられる。
「ロティー? おるかのー?」
「ウルリカ……?」
フラフラとした足取りで、ウルリカ様がやってきたのである。どうやら眠りから覚めたばかりのようで、目をしぱしぱとさせている。
「もう眠ったかと思っていましたわ……」
「なにやらロティが落ち込んでいると聞いたものでな、様子を見にきたのじゃ」
「そう……」
シャルロットは短く返事をすると、近くの椅子に腰かける。
「みんなの言った通りでしたわね……」
「うむ?」
「昼間の戦いで町に残ったことですわ。みんなの言った通り、早く避難するべきでしたわ……」
「しかし町に残ったおかげで、人々を救うことが出来たのじゃ」
「そうかもしれませんわね……でも……っ」
ギュッと両手を握りしめ、震える声を絞り出すシャルロット。
「でも結局ワタクシは、なにも出来ませんでしたわ……。住人を救ってくれたのは、クラスメイトのみんなですわ……」
「ふむ」
「ワタクシは住人を救いたいと、愛する民を守りたいと思い……その結果みんなを危険な目にあわせただけでしたの……」
「そうかのう?」
「先ほどお母様に叱られましたわ、謝って許されることではないと言われましたわ……」
「ふーむ……」
「お母様の言う通りですわよね……。だってワタクシは大切な友達を、死なせてしまうかもしれなかったのですもの……」
「そうか……」
「民は救えず、友を危険な目にあわせて……ワタクシは王族も友達も失格ですわね……うっ……うぅっ……」
抑えきれなくなった感情は、大粒の涙となってポロポロと零れ落ちる。そんなシャルロットの頭を、ウルリカ様はポンポンと撫でてあげる。
「ロティの言いたいことは分かったのじゃ、しかしロティは幸せ者じゃな」
そう言うとウルリカ様は、遠い昔を思い出しながら満天の星空を見上げる。
「一つ昔話をするのじゃ……かつて魔界では疫病が流行っての、大勢の民が苦しんでおったのじゃ」
「疫病……っ」
「疫病の被害を抑えるために、多くの家臣が知恵と力を貸してくれたのじゃ。しかし妾は家臣の言うことを聞かず、己の力で疫病を抑えようとしたのじゃ」
「それで……疫病はどうなりましたの……?」
「妾の判断は間違っておった、疫病は魔界全土に広まってしまった。妾のせいで愛する民は、たくさん死んでしまったのじゃ……」
「ウルリカ……」
「民からは相当に疎まれたものじゃ、家臣は妾の元から去ってしまった。そして誰も、妾を叱ってはくれんかった……」
しんみりとした雰囲気の中、ウルリカ様はシャルロットに向かってニパッと満面の笑顔を向ける。
「ロティは幸せ者じゃな、ちゃんと失敗を叱ってくれる者がおる。それに──」
ウルリカ様はシャルロットの両頬を、ムギュッと掴んで引っ張りあげる。驚いたシャルロットは思わず顔をあげ──。
「みんなロティのことを心配しておるぞ」
顔をあげたシャルロットの瞳には、クラスメイト達の姿が映っていた。
「ごめんなさいシャルロット様……一人にしてほしいと言われたのですけれど……」
「ナターシャ……みんな……、どうして……」
「大切なクラスメイトが落ち込んでいるのだ、放ってはおけなかった」
「でも……ワタクシはみんなを危険に……」
「確かにそうかもしれません、でもそれがなんだというのでしょうね? 思い返してみてください、ボク達はいつも危険な場所に首を突っ込んでばかりではないですかね?」
「ははっ、ヘンリーの言うとおりだな! 危険も失敗も、俺達にとっては日常茶飯事だよな!」
「失敗は取り返せばいいのです、次は失敗しないように頑張ればいいと思いますよ」
「はっ……あぅ……」
涙でグシャグシャのシャルロットを、ウルリカ様はそっと抱き締める。
「ロティには妾達がついておる、妾達はロティのことが大好きじゃからな!」
「うぅ……ぐすっ……ううぅ……」
こうして、涙の夜は静かに更けていくのだった。
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