魔王様は学校にいきたい!

ゆにこーん / UnicornNovel

真祖の力

「ヴオォォーッ!」

 オークの巨腕がヴィクトリア女王に迫る、次の瞬間──。

「そこまでじゃ!」

「ヴオォッ!?」

 間一髪のところで割って入ったウルリカ様は、オークの巨腕を片手で受け止めてしまう。その瞳には静かな怒りの炎が灯っている、しかしどこか悲し気でもある。

「ヴオォーッ! ヴオォーッ!」

 雄叫びをあげて暴れ狂うオーク、しかしウルリカ様の手から逃れることは出来ない。ウルリカ様は小さな手でオークを掴んだまま、じっと物思いにふけっている。

「ウルリカ! 助かりましたわ!」

「うむ、ロティとヴィクトリア先生が無事でなによりじゃ」

「そんなことよりウルリカちゃん、片手でオークを止めてしまうなんて……ウルリカちゃんの腕は大丈夫なの!?」

「妾は大丈夫じゃ、しかしこ奴等は大丈夫ではなさそうじゃな……」

「「こ奴等?」」

「アンデットと化した魔物達のことじゃ」

 そう言うとウルリカ様は、そこかしこで暴れ回る魔物達を指差す。

「この魔物達は何者かの手によって、無理矢理アンデットに変化させられておるようじゃ」

「無理矢理アンデットに変化ですって!?」

「通常のアンデットとは違う不自然な魔力を感じるのじゃ、それに魔物達から自我のようなものを感じるのじゃ。通常のアンデットは自我などもっておらんからの」

 ウルリカ様は「魔物達はとても苦しんでおるのじゃ」とつけ加える。ウルリカ様が悲しそうにしていた理由は、魔物達の苦しみを感じ取っていたからであろう。

「妾の友達や先生を傷つけようとしたことは許せんのじゃ、しかし……」

 オークを掴むウルリカ様の手に、強大な魔力が集まっていく。ウルリカ様による強力な魔法攻撃が炸裂──かと思いきや、集まった魔力は漆黒の霧へと姿を変え、オークの巨体を包み込んでいくではないか。

「ヴォオォーッ!?」

「これ、もう暴れるでない」

「ヴ……ォ……」

 オークの全身を包むやいなや、漆黒の霧はサアッと音を立てて霧散してしまう。

「えっ!? これは一体どういうことかしら?」

 ヴィクトリア女王が驚くのも無理はない。なぜなら先ほどまで暴れ回っていたオークが、一瞬にして真っ白に萎れた残骸と化したのである。
 白く固まったオークの残骸は、そよ風に吹かれてサラサラと崩れ落ちてしまう。

「ウルリカちゃんは一体なにをしたのかしら? さっきの黒い霧はなに?」

「霧を通じて血と魔力と生命力を根こそぎ吸い取ったのじゃ、あの黒い霧は妾の体じゃ」

「そんなことが出来るなんて……」

「妾ならば出来るのじゃ、なぜなら妾は吸血鬼の真祖じゃからな」

 ニヤリと笑みを浮かべるウルリカ様。その口元から可愛らしく伸びた犬歯が、キラリと顔を覗かせる。

「こ奴等は十分に苦しい思いをしておるようじゃ。故にこれ以上苦しまぬよう、一瞬で葬ってやらねばな」

 次の瞬間ウルリカ様は、全身を漆黒の霧へと変化させる。溢れ出た霧は瞬く間に広がり、魔物達を飲み込んでいく。
 霧に飲み込まれた魔物達は真っ白な残骸と化していく。一方で霧に触れた人間達にも、とある変化が現れる。

「これは……見ろ! 俺の傷が治ってるぞ!」

「こっちもだ! 酷い切り傷だったのに、すっかり治っちまった!」

「私も……あんなに酷いケガだったのに治ってしまったわ!」

「吸い取った生命力を分け与えておるのじゃ、よほど酷い傷でない限り治ってしまうはずなのじゃ」

「ウルリカちゃん……凄すぎるわ……!」

「さて、妾はこのまま町中の魔物を葬ってくるのじゃ。しばし待っておるのじゃ」

 その後の展開は早かった。ものの数分もしない間に、ウルリカ様は全ての魔物を飲み込んでしまったのだ。
 魔物は一匹残らず消え去り、傷ついた人間は癒され、建物には一切の被害なし。まさに完璧といえる掃討劇であった。

「魔物が消えた! ロアーナの町は守られたんだ!」

「俺達が……俺達がロアーナの町を守ったんだぞ! 俺達の町を守ったんだぞ!」

「「「「「うおぉぉーっ!」」」」」

 紛れもない大勝利に、兵士達は歓喜の雄叫びをあげる。ヴィクトリア女王とスカーレットも抱き締めあって勝利を喜んでいる。
 その様子を見て下級クラスの生徒達もホッと胸を撫でおろす。こうしてロアーナの町は、一先ずの危機を退けた。

 しかしそんな中、シャルロットだけはどこか暗い表情を浮かべていたのであった……。

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