魔王様は学校にいきたい!
千年前
アンナマリアの正体は、千年前に存在した勇者アルテミア本人だった。
さらに“邪神”という謎の存在まで明かされたことで、すっかり混乱状態なオリヴィア、シャルロット、そしてシャルルの三人。
「「「……」」」
詳しい話を聞くため、三人は礼拝堂の長椅子に横並びで静かに座っている。独特の緊張感に包まれる礼拝堂、そんな中ウルリカ様は──。
「ポリポリ……おいしいのじゃ!」
ウルリカ様は足をプラプラとさせながら、オリヴィアの手作りクッキーを頬張っている。緊張感などどこ吹く風といった様子だ。
「ウルリカは緊張感ないっすねー……」
「寝起きでお腹ペコペコなのじゃ!」
「はぁ……まあいいっすけど……」
呆れ気味にため息をつくアンナマリア。コホンと咳払いをして気を取り直すと、シャルロット達の方を向く。
「さて、どこから話せばいいっすかね?」
「千年前の出来事から詳しく教えてほしいですわ。アルテミア様とウルリカの関係や、邪神という存在について、ワタクシ達はなにも知りませんの」
「そうっすね、分かったっす」
そしてアンナマリアの口から、ゆっくりと千年前の出来事が語られる。
「まずは千年前の世界情勢を説明しておくっす。千年前の世界は、人間側勢力と魔物側勢力で長く戦争をしていたっす」
「戦争……人と魔物は千年前から敵対していたのですね……」
「私は人間側勢力の勇者だったっす。生まれ持った時空間魔法の才能を活かし、人々を率いて魔物達と戦っていたっす」
「人々を率いて戦う勇者か、アルテミア正教会の伝説通りだ!」
「ということは……魔物側勢力はウルリカが率いていましたの?」
シャルロットの質問に対して、アンナマリアは「違うっす」と首を横に振る。
「魔物側勢力を率いていたのは、“邪神ガレウス”と名乗る魔物っす」
「妾は戦争に興味なかったのじゃ、一人で世界中のおかし屋さんを巡っておったのじゃ。ポリポリ……」
ほっぺたをクッキーでいっぱいにしながら、話に割って入るウルリカ様。どうやらウルリカ様のおかし好きは、千年前から変わっていないようだ。
「人間側勢力と魔物側勢力は毎日のように争っていたっす、私も毎日のように戦場で剣を振るったっす。本当に酷い……苦しい戦争だったっすね……」
よほど凄惨な戦争だったのだろう、話をするアンナマリアの表情はどんよりと暗い。
「そんなある日、戦争の余波でとある町を崩壊させてしまったっす。その町のおかし屋さんは、とても美味しいと評判のおかし屋さんだったっす……」
アンナマリアは横目でチラリとウルリカ様の方を見る。どこか怯えたような、あるいは顔色を伺うような視線だ。
「ウルリカお気に入りのおかし屋さんっすよ……」
「それは……とてつもなくマズいですわね……」
「翌日も人間側勢力と魔物側勢力で大規模な戦争が行われたっす。私と邪神ガレウスも戦場に出る総力戦っす。そこに逆鱗状態のウルリカが現れたっす……」
逆鱗状態のウルリカ様を想像して、オリヴィアは思わず「ひっ」と悲鳴をあげてしまう。
「それからわずか半日……ウルリカの手によって、人間側勢力と魔物側勢力は壊滅状態に追い込まれたっす。私も邪神ガレウスもボロボロにやられてしまったっす……」
「た……たった半日ですの……」
「両軍とも壊滅状態で戦争なんてやっている場合ではなくなったっす。人間側勢力は早々に降伏したっすよ、ちゃんと謝ったらウルリカは許してくれたっす。邪神ガレウスは最後まで抵抗を続けて、ウルリカの終焉魔法に飲み込まれたっす」
「信じられない……ウルリカ嬢は一体どれだけ強いのだ……」
「ウルリカ様は一人で戦争を終わらせてしまったのですね……その後はどうなったのですか?」
「二度と争いが起きないよう……おかし屋さんを壊してしまわないよう、人間側勢力と魔物側勢力で世界を分けることにしたっす」
そう言うとアンナマリアは、線を引くようにピッとヨグソードを振り下ろす。
「私の時空間魔法とウルリカの時空間魔法で次元を切り裂き、世界を二つに分けたっす。片方は人間界、もう片方は魔界っす」
「人間界にいた魔物達は、妾がまとめて魔界に連れていったのじゃ。しかし取りこぼした魔物もおるのじゃ」
「だから今でも人間界に魔物が生息しているわけっす」
「そういうことじゃな! ポリポリ……」
「世界を二つに分けたあと、私は力を使い果たして死んでしまったっす。でも世界が心配で……時空間魔法で転生しながら世界を見守ることにしたっす」
じっとヨグソードを見つめるアルテミア。キラキラと輝く瞳は、まるで宝物を見つめる子供の様だ。
「ヨグソードは当時愛用していた神器っす、時空間魔法の力を高めてくれる魔法剣っすよ。世界を分けた時に行方不明になったっすけど、どうやら魔界に流れてしまっていたようっすね」
「はぁ……凄いお話でしたわ……」
「千年前の戦争に、勇者と邪神の戦いですか……」
「まったく……想像もつかないな……」
アンナマリアから語られた話は、あまりにも現実離れしている。現代に生きるシャルロット達にとって、そう簡単には信じられない話だ。
一方クッキーを食べ終えたウルリカ様は、ピョンと長椅子から立ちあがる。
「ところでアルテミアよ、なぜヨグソードを欲しておったのじゃ? お主の時空間魔法ならば、ヨグソードなしでも転生は出来るはずじゃ」
「ヨグソードを取り戻したかった理由は、邪神ガレウスの復活を止めるために──」
とその時、バンッと音を立てて礼拝堂の扉が開かれる。
「何事っすか!?」
「はぁ……はぁ……ようやく追いついた……!」
そこには全身汗だくのベッポと、扉から強引に首を伸ばすアグニスの姿があった。
さらに“邪神”という謎の存在まで明かされたことで、すっかり混乱状態なオリヴィア、シャルロット、そしてシャルルの三人。
「「「……」」」
詳しい話を聞くため、三人は礼拝堂の長椅子に横並びで静かに座っている。独特の緊張感に包まれる礼拝堂、そんな中ウルリカ様は──。
「ポリポリ……おいしいのじゃ!」
ウルリカ様は足をプラプラとさせながら、オリヴィアの手作りクッキーを頬張っている。緊張感などどこ吹く風といった様子だ。
「ウルリカは緊張感ないっすねー……」
「寝起きでお腹ペコペコなのじゃ!」
「はぁ……まあいいっすけど……」
呆れ気味にため息をつくアンナマリア。コホンと咳払いをして気を取り直すと、シャルロット達の方を向く。
「さて、どこから話せばいいっすかね?」
「千年前の出来事から詳しく教えてほしいですわ。アルテミア様とウルリカの関係や、邪神という存在について、ワタクシ達はなにも知りませんの」
「そうっすね、分かったっす」
そしてアンナマリアの口から、ゆっくりと千年前の出来事が語られる。
「まずは千年前の世界情勢を説明しておくっす。千年前の世界は、人間側勢力と魔物側勢力で長く戦争をしていたっす」
「戦争……人と魔物は千年前から敵対していたのですね……」
「私は人間側勢力の勇者だったっす。生まれ持った時空間魔法の才能を活かし、人々を率いて魔物達と戦っていたっす」
「人々を率いて戦う勇者か、アルテミア正教会の伝説通りだ!」
「ということは……魔物側勢力はウルリカが率いていましたの?」
シャルロットの質問に対して、アンナマリアは「違うっす」と首を横に振る。
「魔物側勢力を率いていたのは、“邪神ガレウス”と名乗る魔物っす」
「妾は戦争に興味なかったのじゃ、一人で世界中のおかし屋さんを巡っておったのじゃ。ポリポリ……」
ほっぺたをクッキーでいっぱいにしながら、話に割って入るウルリカ様。どうやらウルリカ様のおかし好きは、千年前から変わっていないようだ。
「人間側勢力と魔物側勢力は毎日のように争っていたっす、私も毎日のように戦場で剣を振るったっす。本当に酷い……苦しい戦争だったっすね……」
よほど凄惨な戦争だったのだろう、話をするアンナマリアの表情はどんよりと暗い。
「そんなある日、戦争の余波でとある町を崩壊させてしまったっす。その町のおかし屋さんは、とても美味しいと評判のおかし屋さんだったっす……」
アンナマリアは横目でチラリとウルリカ様の方を見る。どこか怯えたような、あるいは顔色を伺うような視線だ。
「ウルリカお気に入りのおかし屋さんっすよ……」
「それは……とてつもなくマズいですわね……」
「翌日も人間側勢力と魔物側勢力で大規模な戦争が行われたっす。私と邪神ガレウスも戦場に出る総力戦っす。そこに逆鱗状態のウルリカが現れたっす……」
逆鱗状態のウルリカ様を想像して、オリヴィアは思わず「ひっ」と悲鳴をあげてしまう。
「それからわずか半日……ウルリカの手によって、人間側勢力と魔物側勢力は壊滅状態に追い込まれたっす。私も邪神ガレウスもボロボロにやられてしまったっす……」
「た……たった半日ですの……」
「両軍とも壊滅状態で戦争なんてやっている場合ではなくなったっす。人間側勢力は早々に降伏したっすよ、ちゃんと謝ったらウルリカは許してくれたっす。邪神ガレウスは最後まで抵抗を続けて、ウルリカの終焉魔法に飲み込まれたっす」
「信じられない……ウルリカ嬢は一体どれだけ強いのだ……」
「ウルリカ様は一人で戦争を終わらせてしまったのですね……その後はどうなったのですか?」
「二度と争いが起きないよう……おかし屋さんを壊してしまわないよう、人間側勢力と魔物側勢力で世界を分けることにしたっす」
そう言うとアンナマリアは、線を引くようにピッとヨグソードを振り下ろす。
「私の時空間魔法とウルリカの時空間魔法で次元を切り裂き、世界を二つに分けたっす。片方は人間界、もう片方は魔界っす」
「人間界にいた魔物達は、妾がまとめて魔界に連れていったのじゃ。しかし取りこぼした魔物もおるのじゃ」
「だから今でも人間界に魔物が生息しているわけっす」
「そういうことじゃな! ポリポリ……」
「世界を二つに分けたあと、私は力を使い果たして死んでしまったっす。でも世界が心配で……時空間魔法で転生しながら世界を見守ることにしたっす」
じっとヨグソードを見つめるアルテミア。キラキラと輝く瞳は、まるで宝物を見つめる子供の様だ。
「ヨグソードは当時愛用していた神器っす、時空間魔法の力を高めてくれる魔法剣っすよ。世界を分けた時に行方不明になったっすけど、どうやら魔界に流れてしまっていたようっすね」
「はぁ……凄いお話でしたわ……」
「千年前の戦争に、勇者と邪神の戦いですか……」
「まったく……想像もつかないな……」
アンナマリアから語られた話は、あまりにも現実離れしている。現代に生きるシャルロット達にとって、そう簡単には信じられない話だ。
一方クッキーを食べ終えたウルリカ様は、ピョンと長椅子から立ちあがる。
「ところでアルテミアよ、なぜヨグソードを欲しておったのじゃ? お主の時空間魔法ならば、ヨグソードなしでも転生は出来るはずじゃ」
「ヨグソードを取り戻したかった理由は、邪神ガレウスの復活を止めるために──」
とその時、バンッと音を立てて礼拝堂の扉が開かれる。
「何事っすか!?」
「はぁ……はぁ……ようやく追いついた……!」
そこには全身汗だくのベッポと、扉から強引に首を伸ばすアグニスの姿があった。
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