魔王様は学校にいきたい!

ゆにこーん / UnicornNovel

登場

「フシャアァッ!」

 アンナマリアの放つ強烈な威圧感を受けて、本能的に反応してしまったカーミラ。目にも止まらぬ速度で飛び出すと、一直線にアンナマリアへと襲いかかる。

「カーミラちゃん!」

 あまりにも突然の事態に、オリヴィアは声をあげることしか出来ない。
 その間にもカーミラは、ヒュンと風を切りアンナマリアの元へと迫る。一瞬にしてアンナマリアの背後へと回り込むと、鋭い爪をキラリと光らせ、そして──。

「おっと、可愛い猫ちゃんっすね!」

「フニャッ!?」

 カーミラの爪が突き立てられようとしたまさにその時、アンナマリアは一瞬にしてその場から姿を消してしまう。かと思いきや次の瞬間にはカーミラの背後に現れ、ヨグソードの先端でカーミラのお尻ツンッと突く。

「大人しくするっす、ほいっ」

「フニャ──」

 ヨグソードで突かれた瞬間、カーミラはその場でピタリと動きを止めてしまう。爪を立てて襲いかかろうとしていた姿勢のまま、空中で制止しているのである。まるで時が止まってしまったかのように、ピクリとも動かない。

「そんなっ、カーミラちゃん!?」

「えっ……どうしてカーミラは空中に浮かんでいますの……?」

「あれは一体なんだ……教主様はなにをしたのだ!?」

「ふふんっ、教主は強くないと務まらないっすからね!」

 そう言うとアンナマリアは、自信満々な態度で小さな胸を張って見せる。クルクルとヨグソードを片手で回し、まさに余裕綽々といった様子だ。

「さて、シャルロットちゃん達はこれからどうするっすか?」

「えっ……あ……ワタクシ達は……」

「ナターシャちゃんを連れて帰るだけなら、私はなにもしないっす。ヨグソードまで持って帰ろうとするなら……分かるっすね?」

 アンナマリアの言葉には、有無を言わせない静かな迫力がこもっている。息が詰まりそうなほどの緊張感に包まれる中。

「──シャは──じゃー」

 遠く微かに聞こえてくる、聞き覚えのある可愛らしい声。そしてズシンズシンと響いてくる、不穏な気配の振動音。

「おや? なにやら騒がしいっすね?」

 激しさを増す振動で礼拝堂はミシミシと軋んだ音を立てる。バラ窓には大きなひびが走り、天井からは石灰の欠片がパラパラと落ちてくる。そして──。

「サーシャはどこじゃー!」

 バンッと激しく開かれる扉、勢いよく飛び込んでくる小さな影。全身に魔力を漲らせた、魔王ウルリカ様の登場である。
 大切な友達を誘拐されてウルリカ様は怒り心頭だ。加えて寝起きのウルリカ様はすこぶる機嫌が悪い。

「サーシャはどこじゃ! サーシャを返してもらうのじゃ!!」

 怒りに満ちた視線でアンナマリアを睨みつけるウルリカ様。しかし次の瞬間には、ウルリカ様の表情から怒りの色は消え去ってしまう。

「うむ? もしやお主は……」

 一方のアンナマリアは顔色を真っ青に染めている。ウルリカ様と対峙したまま、ゆっくりと口を開き──。

「げげぇっ! まさかウルリカっすか!?」

 アンナマリアの大絶叫が、礼拝堂に響き渡るのだった。

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