魔王様は学校にいきたい!

ゆにこーん / UnicornNovel

第一王女

 突然の爆発音から数分後。
 シャルロットの案内で、四人は爆発の起こったという城門へと向かっていた。

「お姉様が爆発を起こしたなんて、一体どういうことですの!?」

「凄い音でしたから心配です……急ぎましょう!」

「なんじゃろうな……ポリポリ……」

 城門に続く広い廊下を、四人は並んで走っていく。
 ウルリカ様だけは走りながらも、クッキーを頬張り続けている。どんな時でもウルリカ様はクッキーを手放さないのだ。

「ところでロティよ、“お姉様”というのはエリザベスとは別の姉のことかの? ポリポリ……」

「エリザベスお姉様は第二王女ですの、そして爆発を起こしたのは第一王女の──」

 ウルリカ様の質問に答えていたシャルロットは、突然ピタリと口を止める。通路の先から近づいてくる黒い影に気づいたのだ。

 漆のように黒い髪と、陶器のように真っ白な肌。
 ヴィクトリア女王に負けず劣らすな、凹凸のある体つき。
 妖艶な雰囲気とは対照的に、全身を煤だらけにしたボロボロの女性。

「クリスティーナお姉様!」

「ん……シャルロット……?」

「これは一体なんの騒ぎですの? その格好は!?」

 彼女こそシャルロットとエリザベスの姉であり、ロムルス王国の第一王女でもあるクリスティーナ王女だ。
 ボロボロの格好をまったくに気にすることなく、独特の口調でシャルロットの質問に答える。

「ん……ちょっとね……」

「とにかくその格好はマズいですわ!」

「ん……どうして……?」

「『どうして』ではありませんわよ! 色々と見えてしまっていますの!」

 シャルロットの言う通り、破れた服のあちらこちらから白い肌が見えてしまっている。しかしクリスティーナに恥ずかしがる様子は一切ない。

「私は気にしない……服なんてどうでもいい……」

「どうでもよくありませんわよ!」

「虫のせいで時間を無駄にした……早く魔法の研究に戻りたい……」

「虫? お姉様はなにを言っていますの?」 

「ん……虫がいたから退治しようとした……それで爆発魔法を使った……」

「爆発魔法!? やっぱり先程の爆発はお姉様の仕業でしたのね!」

「ん……ちょっと威力が強かったかも……?」

「ちょっとどころではありませんわよ! 虫を相手に爆発魔法なんて使わないでくださいですの!!」

 ちぐはくな会話を続けるシャルロットとクリスティーナ。まったく噛みあわない姉妹に、ウルリカ様は興味津々だ。

「ポリポリ……変わった姉じゃな、面白いのじゃ……ポリポリ……」

「ん……この子達は……?」

「彼女達は下級クラスのお友達ですの」

「友達……?」

 “友達”と聞いたクリスティーナは、不愉快そうにピクリと眉を動かす。先ほどまでのゆるい雰囲気から一転、クリスティーナの周りに漂っているのはピリピリとした鋭い雰囲気だ。

「シャルロット……まだ魔法は“第三階梯”までしか使えなのかしら……?」

「そうですわ……それがどうかしましたの?」

「やっぱり……友達のせいね……」

 クリスティーナはシャルロットへ向けていた瞳を、他の三人の方へと滑らせる。

「下級クラスに入ってしまったのも……魔法の階梯をあげられないのも……友達なんてつくっているからよ。そんな無駄な友達は……さっさと捨ててしまいなさい……」

「なっ!?  ワタクシのお友達を悪く言うのは止めてくださいですの!」

「事実を言ったまで……!」

「「ひぃっ」」

 クリスティーナに睨まれて、オリヴィアとナターシャはすっかり怯えてしまっている。
 一方ウルリカ様だけは、相変わらずポリポリとクッキーを頬張り続けている。誰に威圧されようとも、ウルリカ様には一切関係ない。

「ポリポリ……ロティの姉よ、お主にお友達はおらんのか?」

「いないわ……だったらなに……?」

「それは寂しいのじゃ……そうじゃ! だったら妾とお友達になるのじゃ!!」

 驚くクリスティーナに向かって、ウルリカ様は「お友達の証!」と言ってクッキーを差し出す。しかしクリスティーナはクッキーを受け取ろうとはしない。

「くだらない……私に友達はいらない……私に必要なのは魔法だけ……」

 そう言うとクリスティーナは、クルリと背を向けて去ってしまう。その背中を寂しそうに眺めるシャルロット。

「お姉様……」

 クリスティーナの去った廊下に、シャルロットのか細い声が響くのだった。


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「あらあら?」

 シャルロットとクリスティーナが別れた頃、その様子を一人の女性が見守っていた。通路の影からヒョッコリと顔を覗かせて、ニマニマと怪しく笑っている。

「まったく私の娘達は……そうだわ、いいことを思いついちゃった!」

 そう言って怪しく笑う女性──ヴィクトリア女王は、コソコソとゼノン王の元へと向かうのだった。

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