魔王様は学校にいきたい!

ゆにこーん / UnicornNovel

パラテノ森林を、うごめく影

 パラテノ森林。
 ロームルス学園に隣接する、広大な大森林である。

 その深い深い森の中を、二人の男が歩いていた。

「へへへっ、こちらですぜ旦那」

 いやらしく笑いながら、先頭を歩く男。
 入学試験の際、ベッポの依頼でレッサードラゴンを手配した、商人のザンガである。

「……」

 もう一人は、全身を真っ黒なローブで覆った長身の男だ。
 深くフードを被っており、顔を覗くことは出来ない。

「さあ、見えてきましたぜ」

 ザンガの案内で、暗い森の奥地へと辿りつく二人。
 暗がりの中に、巨大な檻がずらりと並んでいる。

「ふむ、これか……」

「へい、注文をいただいた強力な魔物達ですぜ」

「よし、内訳を教えてくれ」

「へいへい、では討伐難易度の低い方からいきますぜ」

 そう言ってザンガは、一つ一つの檻を順番に回っていく。

「まずこちらは討伐難易度“D”の魔物、オークですぜ。今回は四体のオークを揃えましたぜ」

 檻の中で唸り声をあげる、四体のオーク。
 灰色の肌に大きな体、猪のような牙を持った魔物だ。

「続いてこちらは、討伐難易度“C”のグリフォンですぜ。数は二体用意しましたぜ」

 静かに目を光らせる、二体のグリフォン。
 鷲の翼と上半身、獅子の下半身を持つ強力な魔物である。

「そしてこちらも討伐難易度“C”、レッサードラゴンですぜ。こいつも二体揃えてますぜ」

 入学試験の最後に、シャルロット達を苦しめたレッサードラゴン。
 そのレッサードラゴンが二体、檻の中で息をひそめている。

「討伐難易度Dを四体、そしてCを四体か」

「へへへっ、まだありますぜ」

 暗がりの奥、布のかかった大きな檻の前に立つザンガ。
 勢いよく布をとり払うと、中から赤い影が姿を現す。
 巨大なトカゲの姿をした、見るからに凶暴な魔物である。

「こいつは上物ですぜ。討伐難易度“B”のサラマンダー、炎を吐く恐ろしい魔物ですぜ」

「ほう、討伐難易度Bまで用意したか、大したものだ」

「そして最後にあちらですぜ」

 ザンガは最後の檻を指差す。
 小さな檻の中にあるのは、濃い赤色の鎧だ。

「……これはなんだ?」

「この鎧は“オニマル”という魔物ですぜ。なんでも着た人間を狂わせて、強力な魔物に変えてしまうそうですぜ」

「とても魔物には見えないな……ただの鎧ではないのか?」

「へへへっ……この魔物は、以前とある国で二つの軍隊を壊滅させたらしいですぜ。正真正銘、討伐難易度“A”の強力な魔物ですぜ」

 討伐難易度Aと聞いて、フードの男は「ほぉ」と息を漏らす。

「評判通りの品ぞろえだな、見事なものだ」

「へへへっ、恐れ入りますぜ」

 いやらしく手を揉みながら、ペコペコと頭を下げるザンガ。

「それでは旦那、支払いの方をお願いしますぜ」

「ん? ああ、そうだったな……ほらっ」

 シュッという短い音。
 それと同時に、ザンガはバッタリと倒れてしまう。

「がぁっ!? なっ……なんだぁ……?」

「静かにしていろ、魔法で全身を麻痺させただけだ」

「ど……どういことですかい?」

「黙って見ていろ……」

 フードの男は、檻に向かってパチンと指を鳴らす。
 すると、魔物達を閉じ込めていた檻は、バラバラと崩れていく。

「なんてこった! 檻が壊れちまった!?」

 這い出してくる魔物に、フードの男は怪しい液体をかけて回る。
 
「グルル……? グルオォッ!?」

 液体を浴びた魔物達は、次第にその姿を変化させていく。
 目は真っ赤に血走り、体中に血管を浮かせ、まるで別の魔物のような姿となってしまう。

「ふむ、素晴らしい効果だ……しかし……」

 ジロリと奥の檻へ目をやるフードの男。
 オニマルと呼ばれた赤い鎧は、なんの変化もないままピクリとも動かないでいる。

「あれだけ動かないな……本当に魔物なのか?」

「こいつは一体……どうなってるんですぜ……」

「……仕方ない、本物の魔物かどうか確かめてみるか……」

 動けないザンガを、フードの男はズルズルと引きずって行く。
 向かう先は、オニマルの入れられた檻だ。

「着た人間を狂わせて強力な魔物に変える、そうだったな?」

「なんだ……まさかオニマルを着させるつもりっ!?」

 サアッと顔を青くするザンガ。

「止めろ! 金はいらねえ、こいつらも好きにしていい! だから止めろぉ!」

「討伐難易度A……その実力、見せてもらおう……!」

 フードの男は、オニマルに向けてザンガを放り投げる。
 同時に、鎧の端々から禍々しい魔力が立ちのぼってくる。

「嫌だぁ! 止めてくれえぇー!!」

 悲鳴をあげるザンガを残し、森の暗闇へと消えていく男。

 パラテノ森林を、邪悪な影がうごめく。

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