魔王様は学校にいきたい!

ゆにこーん / UnicornNovel

魔界の大公爵

 ここは魔王城。
 魔界の中心に建つ、巨大な城だ。
 ウルリカ様のいない謁見の間に、強大な魔力が集っていた。

「皆さん、よくぞ集まってくださいました」

 丁寧に一礼をする、魔界の宰相ゼーファード。
 目の前には、五体の魔物が並んでいる。

 ゼーファードを含めた、六体の魔物達。
 彼らこそ、ウルリカ様直属の、魔界の大公爵である。

 宰相、ゼーファード・ヴァン・シュタインクロス。
 銀星、エミリオ・アステルクロス。
 炎帝、ミーア・ラグナクロス。
 黒竜、ドラルグ・ドラニアクロス。
 悪鬼、ジュウベエ・ヤツセ。
 百獣、ヴァーミリア・アニマクロス。

 それぞれが魔王を名乗ってもおかしくない程の、強大な魔物達だ。

「本日は非常に重大な──」

「グルル……」

 ゼーファードの言葉を、低いうなり声が遮る。
 声の主は、漆黒の巨大なドラゴン、黒竜ドラルグである。

「グルルルゥ、前置キハ不要ダ、早クハジメヨ」

 ドラルグに続いて、百獣ヴァーミリアと、銀星エミリオも声をあげる。

「そうねぇ、早く本題に入ってちょうだいよぉ」

「ゼーファードさん、早くしましょうよ!」

「まぁまぁ皆さん、落ちついてください」

「うむ……宰相殿の言う通り、焦っても仕方ない」

 悪鬼ジュウベエは落ち着いた様子を見せる。
 しかし、炎帝ミーアはソワソワと落ち着かないようだ。

「早くしてよっ、アタイもう待ちきれないんだから!!」

 大公達から、じりじりと追い詰められるゼーファード。
 「はぁ」とため息をついて、本題に入る。

「分かりましたよ、はじめましょうか……」

 ゼーファードの一言で、一気にピリピリとした緊張感が流れる。

「これから行う魔法は、非常に高難易度、かつ危険なものです……決して気を抜かないように……いいですね?」

 静かにうなずく大公達。

「それでは……私に魔力を集めてください!」

 合図と同時に、大公達の魔力がゼーファードへと集まっていく。

「くぅっ……いきますよ!!」

 謁見の間は、膨大な魔力と大量の魔法陣で埋め尽くされる。
 衝撃で空気は震え、壁や柱にひびが走る。

「発動せよ! 時空間魔法!!」

 一点に集まる魔力。重なりあう魔法陣。
 そして──。

 ──。

「はぁ……はぁ……どうです? 繋がりましたか?」

 なにもなかった空間に、ぽっかりと穴が開いている。
 時空間魔法によって作られた、次元の穴だ。

「ずいぶん小さいけどぉ、ちょっと待ってねぇ……」

 握りこぶし程の小さな穴を、ヴァーミリアはそっとのぞき込む。
 しばらくすると「あっ」と声をあげる。

「見つけたわぁ! ウルリカ様よぉ!!」

 ワッと盛りあがる大公達。
 一斉に次元の穴へと殺到する。

「邪魔ダ! 我ニモ見セロ!!」

「ボクが先に見るのです! 邪魔をしないでください!!」

「アタイだってウルリカ様を見たいよ!」

「む……俺にも少し見せてくれ……」

 小さな次元の穴を前に、大きな魔力がぶつかりあう。
 大公同士のぶつかりあいは、魔王城全体を大きく揺らす。

「落ちつきなさい!!」

 大声で一括するゼーファード。
 あまりの迫力に、大公達も大人しくなる。

「ウルリカ様を見たい気持ちは分かります! 美しくっ、麗しくっ、可愛らしいっ、そんなウルリカ様を一目見たい気持ちは、痛いほど分かりますとも!!」

 ゼーファードの言葉には、異様な熱がこもっている。
 ウルリカ様に対する愛が、溢れて止まらない様子だ。

「しかしここは順番です! でないとウルリカ様の魔王城が壊れてしまいます!!」

「ム……承知シタ」

「まぁ仕方ないわねぇ」

 ゼーファードの取り仕切りで、穴の前へと並ぶ大公達。
 おもちゃの列に並ぶ、子供のような光景だ。

「ではまずエミリオから、どうぞ」

「えっと……あっ、ウルリカ様だ! 相変わらず可愛らしいですね。お~いっ、ボクの声は聞こえますか~?」

「そこまでです。次、ドラルグの番です」

「オォッ、ウルリカ様! 元気ソウダ……トテモ楽シソウダ……ソシテ可愛ラシイ……」

「はい次、ヴァーミリアです」

「あの可愛らしいお洋服はなにかしらぁ? とっても似合ってるわぁ……あ~んっ、抱っこしたい!」

「次ですよ、ミーアの番です」

「どれどれ~……いた! いつ見ても可愛いね。ウルリカ様、こっち向いてー!!」

「ジュウベエの番ですね、どうぞ」

「ふーむ……ウルリカ様、可愛らしいことこの上ない……」

「さて、私の番ですか……」

 最後はゼーファードの番だ。
 次元の穴をのぞき込んだかと思いきや──。

「うおぉ~っ、ウルリカ様ぁ!! 相変わらずの美しさと麗しさ! そして可愛らしさです!! むむっ!? あの着ている洋服は……とてつもなく似合っていますね! 流石はウルリカ様あぁっ!!」

 ケタケタ笑いながら、ボロボロと涙を流すゼーファード。
 ウルリカ様への愛が爆発したかのようだ。まさしく爆発したのだろう。
 あまりの豹変っぷりに、大公達は呆れ返ってしまう。

「ゼーファード……普段はキリッとしてるのにぃ、ウルリカ様のことになるとねぇ」

「ウルリカ様ヘノ愛ガ深スギルノダ……」

 その時、次元の穴から小さな声が聞こえてくる。

「──お~い──」

 ハッとする大公達。
 ギュウギュウになって、次元の穴をのぞき込む。
 穴の向こうでは、制服姿のウルリカ様が、両手を広げて手を振っていた。

「お~い!!」

「ウルリカ様! ボク達に気づいてくれたんだ!!」

「手を振ってくれるわぁ! 可愛いわねぇ!!」

「オオッ! ナント愛クルシイ……ッ」

 ピョンピョンと飛び跳ねながら、大きく手を振るウルリカ様。

「妾は学校にいってくるのじゃ~!」

 パチリとウィンクをして、講堂に入っていく。
 可愛らしすぎる仕草に、大公達はワッと湧きあがる。

 この日の魔王城は、過去千年で最大の盛りあがりだったという。


 ✡ ✡ ✡ おまけ ✡ ✡ ✡


 妾の可愛い配下を紹介するのじゃ!

 宰相、ゼーファード・ヴァン・シュタインクロス。
 妾の右腕じゃな、種族は悪魔じゃ。
 いつもキチッとタキシードを着ておる、背の高いイケメンじゃ。

 銀星、エミリオ・アステルクロス。
 魔法の天才じゃ、種族は雑種じゃな。
 リヴィと同い年くらいの見た目をした、可愛い男の子じゃ。

 炎帝、ミーア・ラグナクロス。
 元気いっぱいな、巨人の女の子じゃ。
 うっかりさんで、歩いた拍子に魔王城を壊してしまったりするのじゃ。

 黒竜、ドラルグ・ドラニアクロス。
 真っ黒なオスのドラゴンなのじゃ。
 大きくて怖い見た目じゃが、とても人懐っこいのじゃ。

 悪鬼、ジュウベエ・ヤツセ。
 ブシドーな剣士なのじゃ、種族は鬼じゃな。
 寡黙で真面目な男なのじゃ、しかしあまり目立たないやつなのじゃ。

 百獣、ヴァーミリア・アニマクロス。
 背の高いお姉さんなのじゃ、キマイラという種族じゃ。
 妾を見るとすぐに抱っこしてくる、たまにうっとうしいのじゃ。

 みんなとっても可愛いのじゃ、元気そうで安心したのじゃ!!

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