魔王様は学校にいきたい!

ゆにこーん / UnicornNovel

「シャルロット~、来たのじゃ~」

 試験の翌日。
 ウルリカ様とオリヴィアは、シャルロット王女の私室に呼ばれていた。
 扉を開けて、部屋へと入るウルリカ様。

「ようこそ、お待ちしておりましたわ」

 部屋の中では、シャルロット王女とナターシャが待っている。

「ナターシャではないか、元気そうじゃな!」

「はい、昨日はありがとうございました。オリヴィアさんも治療してくれて、感謝しています」

「いえいえ、お礼なんて!」

 ペコリと頭を下げるナターシャ。
 ナターシャよりも深く、頭を下げるオリヴィア。

「いえいえいえ、お礼をさせてください」

「いえいえいえいえ、私はただの侍女ですからっ」

 更に深く、頭を下げるナターシャ。
 更にさらに、深くふか~く、頭を下げるオリヴィア。

「いつまでやっておるのじゃ? 床に埋まってしまうぞ?」

「はっ、そうですね……」

「失礼しました……」

「フフフッ、二人は似た者同士なのね。さぁ、どうぞおかけになって」

 ちょこんと椅子に座るウルリカ様。
 オリヴィアは、ウルリカ様の斜め後ろに立っている。

「ウルリカ、オリヴィア。改めてお礼を言わせてください」

「うむ?」

「昨日は助けていただいて、本当にありがとうございました」

 シャルロット王女は、スッと綺麗な姿勢で頭を下げる。
 突然の出来事に、ナターシャは目を丸くして驚いている。
 オリヴィアにいたっては、驚きで顔色が真っ青だ。

「それと、今までのことを謝らせてください。ウルリカ、オリヴィア、本当にごめんなさい」

 シャルロット王女は、もう一度頭を下げる。
 驚きすぎたオリヴィアの口から、「ひぃっ」と悲鳴があがる。

「ナターシャも、昨日は助けてくれて本当にありがとう。それから、酷い態度をとってしまって、ごめんなさ──」

「大変です! シャルロット様が奇病にかかったかもしれません!」

「待ってください! もしかしたらニセ王女の可能性もあります!!」

 シャルロット王女のおでこに手を当てて、心配で泣き出しそうなナターシャ。
 そして、シャルロット王女のほっぺたを、ムニムニと引っ張るオリヴィア。
 二人とも真剣に心配している様子だ。

「あなた達……流石に傷つくわ……」

「「はっ!」」

 ナターシャとオリヴィアは、慌ててシャルロット王女から離れる。

「申し訳ありません! シャルロット様に異常行動が見られたので、奇病かと思いまして……」

「本物のシャルロット様では考えられない行動だったもので、ニセ王女かと……スミマセン……」

 まったく悪気のない様子の二人。
 シャルロット王女はげんなりしてしまう。

「そ……そうなのね……ワタクシはそんなに酷かったのね……」

「うーむ、シャルロットはまるで別人じゃな、憑きものが落ちたようじゃ…」

「ええ、憑きものが落ちたのだと思いますわ。嫉妬という憑きものが……」

 優しく微笑むシャルロット王女。
 さんざん酷いことを言われているが、怒った様子はまったくない。
 本当に別人のようである。

「ところでウルリカ、昨日のことを説明させてもらえるかしら?」

「説明などせんでよい。ドラゴンに妾を襲わせようとしたのじゃろう?」

「えっ……どうして分かるのかしら?」

「よくあることじゃからな」

「よくあること……?」

 「よくあること」の意味が分からず、シャルロット王女はコクリと首をかしげる。
 しかし、ウルリカ様はさっさと話を進めてしまう。

「それよりも、なぜお主はあんなことをしたのじゃ? それが気になるのじゃ」

「それは……先ほども言った通り、嫉妬ですわね」

 シャルロット王女は話を続ける。

「ワタクシには兄姉がおりますの」

「兄が一人と、姉が二人じゃったかの?」

「その通りです。三人ともそれぞれ、才能に溢れる兄姉ですわ。周囲からも高く評価されていて、国民からも好かれていて……」

「素晴らしい兄姉だと言っておったのう」

「ええ……それに比べて、ワタクシはなんの才能にも恵まれなくて……なにをやっても器用貧乏で……」

 辛そうな表情を浮かべ、それでも話を続けるシャルロット王女。

「王家の血筋を利用して、人を集めていい気になっていましたわ……でも心の奥では、ずっと劣等感を感じていましたの……」

「なるほどのう、それが嫉妬じゃな」

「そうですわね……きっとワタクシは、嫉妬でおかしくなっていたのですわ。自分の思い通りにならないことが許せなくて……自由奔放なウルリカに、無性に腹が立って……それを羨ましくも思えて……」

「血筋や地位など、妾はまったく気にせぬからのう!」

 オリヴィアの口から「少しは気にしてください……」と呟きが聞こえる。

「兄や姉、そしてウルリカに嫉妬したのですわ……本当に愚かな……醜い感情ですわ……」

「事情は分かったのじゃ、それにしてもシャルロットは凄いのう」

「え?」

 ウルリカ様からの思わぬ発言。
 シャルロット王女だけではなく、オリヴィアとナターシャも驚いている。

「自分の弱さと向きあって、正直に話しておったのじゃ。なかなか出来ることではないのじゃ」

 ポンポンと、シャルロット王女の頭をなでるウルリカ様。

「頑張ったのう、偉いのじゃ!」

「う……うぅ……ひっく……本当にごめんなさいぃ……」

 ポロポロと泣き崩れてしまうシャルロット王女。
 ナターシャに抱きかかえられて、なんとか椅子に座りなおす。

「ウルリカ……本当にありがとう……ありがとう……」

 シャルロット王女の目から、涙が溢れ続ける。
 その時、くぅ~と可愛らしい音が鳴る。

「おっと、お腹が空いたのじゃ」

 外はすっかり日が暮れている。
 長い間話し込んで、ウルリカ様はお腹が空いてしまたのだ。

「そろそろ帰る時間かのう?」

「あっ、ちょっとお待ちになって」

「ん? なんじゃ?」

「今日の夜、少しお時間もらえるかしら?」

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