魔王様は学校にいきたい!

ゆにこーん / UnicornNovel

試験終了

 レッサードラゴン。
 討伐難易度Cの、凶暴な魔物である。

 その凶暴な魔物が、仰向けでピクピクと痙攣している。
 放心状態のシャルロット王女に、ウルリカ様が近づいていく。

「うむ、無事のようじゃな」

 ウルリカ様に声をかけられて、ハッと我に返るシャルロット王女。

「ワタクシは無事ですわ、それよりナターシャが!」

「ナターシャなら大丈夫じゃ、ほれ」

 ウルリカ様はシャルロット王女の背後を指差す。

「ふぅ……治療は終わりました……もう大丈夫だと思います……」

 額に汗をかき、ぐったりとするオリヴィア。
 治癒魔法に魔力を使いきり、疲れ果てているのだ。
 そのかわり、ナターシャの傷は綺麗に治療されている。

「ほお! 見事な治癒魔法の腕なのじゃ、リヴィは治癒魔法の才能があるのじゃ!!」

「いえ、私なんてまだまだですよ」

「うぅ……あれ……?」

 眠っていたナターシャは、ゆっくりと意識を取り戻す。
 慌てて駆け寄るシャルロット王女。

「ナターシャ、目が覚めたのね!」

「シャルロット様……ご無事で?」

「ええ、ナターシャも無事でよかったわ!」

 シャルロット王女はナターシャを抱きかかえ、そのままギュっと抱きしめる。
 抱きしめられたナターシャも、それを見ていたオリヴィアも、驚きで目が点だ。

「シャルロット様? 突然どうして……あっ、痛たた……」

「あっ……ごめん……」

「まだ完全には治っていませんから、安静にしてくださいね」

 ナターシャをオリヴィアへと預けて、シャルロット王女はウルリカ様の元へとやってくる。

「あの……」

「ん? なんじゃ?」

「あ、ありがとう……ですわ……助けてくださって……」

 ペコリとお辞儀をするシャルロット王女。
 普段のシャルロット王女では、考えられない態度だ。
 ナターシャとオリヴィアは、ギョッと驚き固まってしまう。

「妾のことはよい、それよりも、お礼を言うべき者がおるじゃろう?」

「お礼を言うべき……?」

「ナターシャは身をていして、お主を助けてくれたのではないか?」

「え、えぇ……そうですわね」

「それと、リヴィにも感謝せねばな」

「オリヴィアにも……」

「リヴィはのう、シャルロットを助けたいと妾に頼んできたのじゃ。だから妾はお主を助けたのじゃ」

「そうだったの……」

 シャルロット王女はくるりと振り返る、そしてペコリと──。

「二人とも、ありが──」

「「そんな! 当然のことをしたまでです!!」」

 素早く起き上がる、ナターシャとオリヴィア。
 二人がかりでシャルロット王女をおさえ込んでしまう。
 怪我のダメージも、治癒魔法の疲れも、消し飛んでしまったようだ。

「でもお礼を……」

「私は無事です、平気です、なので気にしないでください!」

「王族であるシャルロット様が、私のような侍女に頭を下げてはいけません!」

 頭を下げようとするシャルロット王女。
 それを必死に止めようとする、ナターシャとオリヴィア。
 ワタワタとする三人の元へ、ウルリカ様がやってくる。

「シャルロットは幸せ者じゃのう。二人とも本気でお主のことを心配してくれておるぞ」

「で……でもワタクシは……みんなに酷いことを……」

 シャルロット王女は、暗い顔でうつむいてしまう。
 その頭を、ポンポンとなでるウルリカ様。

「シャルロットも頑張ったのう。ちゃんとナターシャを守ろうとして、偉かったのじゃ。民を守るのは王族の務めじゃ」

「えっ」と驚くシャルロット王女。
 真ん丸に見開いた目から、ポロポロと涙がこぼれてくる。

「わた……ワタクシは……あ……あぅ……」

 涙を流し、その場に崩れ落ちるシャルロット王女。

「うぅ……ううぅ~……うぅっ……ぐすっ……」

「落ち着いてください、もう大丈夫ですから」

「泣かないでください、シャルロット様」

「ううぅ……ナターシャ……オリヴィア……」

 二人に抱きしめられて、涙を流し続けるシャルロット王女。
 その時、パラテノ森林に大きな声が響き渡る。

「試験は終了! 受験生は直ちに戻れ!!」

「おや? 試験終了じゃな、結局魔物は倒せんかった……は紙には書いておらんかったしのう……可哀そうじゃし……」

 ションボリなウルリカ様は、レッサードラゴンを見つめる。
 レッサードラゴンは、試験の討伐対象に含まれていなのだ。

「まあよいかの、戻るとするのじゃ!」

 パッと笑顔に戻るウルリカ様。
 実はそんなに落ち込んでいないようだ。

 こうして、ウルリカ様の入学試験は、終わりをむかえるのだった。

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