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音を知らない鈴

布袋アオイ

#60 私は生きる決意をした、なのに死んでいくんだ

 「夜姫さん……私っ………」

 「自分を…捨てようとしたのね…」

 「……はい……、」

 ねぇ、夜姫さん。今心が折れそうな私にとって、あなたはまるで何でも知っているお姉ちゃんのよう。

 とても安心できて、信頼できる。

 「私はあなたを軽蔑しない」

 どうして、そんな言葉を言ってくれるの…

 「なぜなら私は他の誰も知らないあなたの本当の強さを知っているから」

 「クスッ……」

 涙が………………………

 止まらないよっ…………

 「私………変わりたい……ッ……」

 「うん……、変われる…きっと……」

 「どうすればいいの」

 ニコ…

 「え……」

 口角を上げ微笑みを浮かべた。

 その顔を風が髪を煽り隠す。

 細く煌めく髪で夜姫さんの優しい顔は半分しか見えない。

 気のせいだろうか、その隠れた半分の顔がちらりと光った。目の辺りが。

 (なぜ……)

 明るい心、変わりたいという晴れやかな希望に黒点が一つ落ちる。

 これから起こる事は、私にどう影響するのか。

 もう忘れる事は出来ない真実が織成されていく覚悟を、私はこの時出来ていなかったのかもしれない。

 「………」

 夜姫さんの柔らかい手が離れた。

 離れるだけでこんなに不安や寂しさが出てくるなんて。

 この人が……ほんの少し離れただけで私は…怖い。

 

 ジャッジャッジャッ

 
 小さな小屋の方から砂利を踏む音が聞えた。

 「……?」

 ドクン!!!!

 心臓を握り潰されたかのように一瞬息が出来なくなった。

 小屋の裏から出てきた人間にとてつもないオーラを感じる。

 人間……?形がなんとなくはっきりしない、よく見えない。

 でも心をかき混ぜられるような、隠しておきたい何かを呼び覚ますような、闇を蘇らせるような恐ろしい気持ちになる。

 (………誰…………)

 チラッと夜姫さんの方を見ると、顔を下に向け、まるで私から目を逸らすようにしている。

 さっきまで輝いていた髪が、今は顔を覆い暖簾のように重たい様子だ。

 (夜姫さん…?なに……、なに……!)

 何が、何なんだ!!夜姫さんもまるで人が違う!

 ほんの数分前は私を守るなんて、あんなに堂々としていたのに!?

 離れたい!!信じた私が…馬鹿だったんだ!!!

 逃げたい…逃げたい!!

 足を一歩引いたその瞬間だった。

 「はっ………!?」

 これは……花の…香り………

 「ううっ!!!!」

 胸が痛い……!泣きそうだ…!

 絵のない本から悲しみだけが伝わってくるように、得体のしれない感情が今までのスピードをはるかに超えて襲いかかる。

 無理だ…!こんなの!!

 足が、全身が凍りつく程感情の渦にのみ込まれる。

 頭も重く呼吸もままならない。

 「夜姫……さん……」

 手を伸ばしても、夜姫さんは掴んではくれない!

 (どうして……どうして……っ!!)

 「すまない、鈴音」

 (は……?!)

 「すずちゃん…」

 「なっ…………!?」

 髪を払うようにバッと上げた夜姫さんの顔は、涙が束のように流れていた。

 「うっ!!」

 声が……でない………

 お腹が痛い、吐きそうだ。

 喉が締め付けられているよう。

 気を抜くと意識がとんでいってしまいそうで、このまま倒れてしまいそうだ。

 「フゥ、フゥ、フゥ…フゥ、フゥ…」

 お腹を抱え、かろうじて立っていられる。

 片目で近づいてきた人影を見た。

 すると、今は輪郭こそボヤケながらもそこには60代近くの男性がしっかりと立っていた。

 「…………ッ!」

 「お前の覚悟を、見せてくれ」

 「………………」

 「私は、信じている」

 

 チリーーーン



 糸を鋭い刃で切るような音…



 「ウェッッッッッッ!!!!!!」

 苦しい!!!!!気持ち悪い!!!

 音が聞こえたかと思うと空気が変わったかのように息が出来ない……ッ!

 「ウウッッッ!!!!ハァハァハァ…」

 「すずちゃん!!!!!」

 「オゥッッ!!ウェーーッ!!!」

 ダメだ………死んでしまう………!!!

 このまま…死ぬ……!!!!!!

 私の人生なんだったんだ…!希望が見えたかと思ったら、もう死んでいくなんて…!

 私は無能のまま…このまま…このまま…

 

 『すず!!!!』

 お母さん………ごめん………私なにも出来なかったよ………

 龍也……ごめんね……………

 

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