音を知らない鈴
#45 夜姫の由来
「片岡さん、言ってもいいんですか…」
「もちろん」
一旦落ち着こうと浅めの深呼吸をした。
「私に名前を付けてくれた人、両親じゃないんです」
一番と言っていい程の悩みの元凶を言葉にしてしまったことで、私の思いは溢れんばかりにあれもこれもと流れていった。
名前の由来を知らない事、祖父からの知り合いに引き取られそうになった事、私を無能だと言い続けてきた父親が今更私の為だと言ってきた事、それから思い出せない記憶がある事。
他の誰にも言えない過去を、片岡さんは嫌な顔ひとつせずずっと聞いてくれた。
だが流石に自分の霊力の事は言えなかった。
「そっかぁ…色々知っちゃって辛かったんだね」
「すいません、いっぱい話しちゃって」
「ううん!私が聞きたかったんだもん!いいんだよ。それに」
片岡さんは私から今日初めて目線を逸した。
「すずちゃんは言葉にしないとダメなの…」
「え…?」
「すずちゃんの事ばっかり聞いちゃったね!何か私に聞きたい事とか無い?」
「聞きたい事……」
そういえば…
「片岡さんの名前、変わってますよね」
「あぁそうなのよねー…」
「夜姫?さんでしたっけ」
「そうそう!覚えててくれたんだ」
「変わってるなと思って」
「そうだよね、私もこの名前の人会ったことないな」
「どんな由来なんですか?」
「えっとね、この名前は私の祖父が付けてくれたの」
「おじいさん…」
「そう、私の祖父は古典学者で、中でも竹取物語が好きだったの」
「竹取物語…かぐや姫…?」
「うん、本当はかぐやってつけたかったらしくて、それはあまりにも変だって母がね」
かぐやかぁ…
「でもどうしてもかぐやって付けたかった祖父はかぐやのやと姫で夜姫って名前にしたの」
「へぇー……」
凄い名前だなと思った。
「姫とか本当に嫌だったなぁ。なんとなくプレッシャーっていうか…」
その気持ち、分かるかもしれない。
「夜の姫って何だよって小さい時はいじめられたな〜。もう昔の話だけど」
いじめられていた?
こんなに素敵な人を。
「だからすずちゃんの気持ち、少しは分かる気がするな。お互い名前にコンプレックスがあるのね」
ニコッと私を見てまた暫く片岡さんは遠くに目をやった。
どこか切なそうな目だった。
その目をした片岡さんを見逃せない自分がいた。
干渉するのもされるのも嫌で、波風たてずに広がっていた湖に空から一粒の雫が落ちた。
この時の私はどこかで気付いてしまったのだろう。
この人が心で泣いている事に。
そしてそれを放っておくべきでは無いという事に。
「もちろん」
一旦落ち着こうと浅めの深呼吸をした。
「私に名前を付けてくれた人、両親じゃないんです」
一番と言っていい程の悩みの元凶を言葉にしてしまったことで、私の思いは溢れんばかりにあれもこれもと流れていった。
名前の由来を知らない事、祖父からの知り合いに引き取られそうになった事、私を無能だと言い続けてきた父親が今更私の為だと言ってきた事、それから思い出せない記憶がある事。
他の誰にも言えない過去を、片岡さんは嫌な顔ひとつせずずっと聞いてくれた。
だが流石に自分の霊力の事は言えなかった。
「そっかぁ…色々知っちゃって辛かったんだね」
「すいません、いっぱい話しちゃって」
「ううん!私が聞きたかったんだもん!いいんだよ。それに」
片岡さんは私から今日初めて目線を逸した。
「すずちゃんは言葉にしないとダメなの…」
「え…?」
「すずちゃんの事ばっかり聞いちゃったね!何か私に聞きたい事とか無い?」
「聞きたい事……」
そういえば…
「片岡さんの名前、変わってますよね」
「あぁそうなのよねー…」
「夜姫?さんでしたっけ」
「そうそう!覚えててくれたんだ」
「変わってるなと思って」
「そうだよね、私もこの名前の人会ったことないな」
「どんな由来なんですか?」
「えっとね、この名前は私の祖父が付けてくれたの」
「おじいさん…」
「そう、私の祖父は古典学者で、中でも竹取物語が好きだったの」
「竹取物語…かぐや姫…?」
「うん、本当はかぐやってつけたかったらしくて、それはあまりにも変だって母がね」
かぐやかぁ…
「でもどうしてもかぐやって付けたかった祖父はかぐやのやと姫で夜姫って名前にしたの」
「へぇー……」
凄い名前だなと思った。
「姫とか本当に嫌だったなぁ。なんとなくプレッシャーっていうか…」
その気持ち、分かるかもしれない。
「夜の姫って何だよって小さい時はいじめられたな〜。もう昔の話だけど」
いじめられていた?
こんなに素敵な人を。
「だからすずちゃんの気持ち、少しは分かる気がするな。お互い名前にコンプレックスがあるのね」
ニコッと私を見てまた暫く片岡さんは遠くに目をやった。
どこか切なそうな目だった。
その目をした片岡さんを見逃せない自分がいた。
干渉するのもされるのも嫌で、波風たてずに広がっていた湖に空から一粒の雫が落ちた。
この時の私はどこかで気付いてしまったのだろう。
この人が心で泣いている事に。
そしてそれを放っておくべきでは無いという事に。
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