音を知らない鈴
#36 紅茶の香り
ガチャ
「ただいまー」
「おかえり、すず」
「ただいま、お母さん」
「お姉ちゃん」
「どうしたの?二人とも。わざわざ玄関まで…」
「あ、いや、今日ね、お父さんが帰ってからご飯にしようと思って」
「そうなんだ、どうして?」
「お父さんが今日は早く帰れそうだからご飯一緒に食べたいって」
「ふーん」
「少し遅くなるけどいい?」
「うん、私は全然」
「じゃあ、ご飯までお茶しない?」
「お茶?」
「最近してなかったから」
考えてみればお母さんとお茶するのは久し振りだ。
そして私はお茶の時間が大好きだ。
懐かしい喜びが湧き上がってきて、小さい頃に戻ったような気分になった。
「うん、そうしよ」
「じゃ、着替えておいで」
「はーい」
今日は何だか良い日だ。
朝の怪我以外、良い事しか起こってない気がした。
「…そういえば」
お母さんは私の足の怪我を見ても何も言わなかった。
大した怪我ではないが傷より大きなガーゼをしている。
「スカートで見えなかったのかな…」
鏡に映る制服を着た私を見た。
確かに少し隠れている。
なるほどと納得をした。
膝をゆっくり曲げてズボンを履いた。
完全に隠れた。
母には気付かれたくなかった。
流石にひかれそうになったとは言えない。
話が大きくなると後々面倒だ。
現に今生きている。
それでいい。
それに今日はここ最近の中でかなり良い日だ。
このまま眠りたい。
いつもより軽い肩を一周回してリビングに向かった。
「皆紅茶でいい?」
「うん!」
「うん」
「お姉ちゃん、座ってていいよ」
「え?いいよ、運ぶ」
「いいから、運ぶの僕一人で出来る」
「フフ、ありがとう」
「うん!」
「はい!お茶ターイム」
「よいしょ」
思わず言ってしまった。
その後ゴソゴソと僅かに動き、足の違和感を誤魔化した。
「はいどうぞ」
「ありがとう」
私の前にマグカップを置いてくれた龍也はそのまま私の斜め前に座った。
いつもは私の隣に座るのに…
そして母はナチュラルによいしょと言って
私の向かいに腰掛けた。
三人揃ったところで初夏にも関わらず
温かい紅茶を飲んだ。
冷えていたのか温かさが染み渡る。
「ホォー」
これがリラックスしている状態なのだろう。
どこか朝から緊張状態だった私。
今家に居る現実を噛み締めていた。
「美味しいね」
二人の顔を見て呟いた。
「うん」
「美味しい」
「……」
気のせいだろうか。
二人とも紅茶を飲んで顔が暗くなっている。
私の顔は見えないが、きっと正反対の顔色だろう。
「二人とも、どうかしたの?」
「え……」
「何でも無いよ」
「そう?」
「うん」
私の思い過ごしだろうか。
二口目の紅茶を飲み、ゆらゆら揺れる水面をぼんやりと眺めていた。
紅茶の香りに癒やされる。
何だか………
何だか、心が…………
痛い………
紅茶を飲む手が止まるほど今は心が動いている。
「お母さん……」
「…?」
「私って、お母さんの子供だよね…」
「す……ず……」
「!?!?」
ハッとした!
今私なんて言った!?
紅茶の香りに頭がぼんやりして…
何も考えずポロッと出た言葉がお母さんの子供だよね…!?
何を言ってるんだ!
慌てて顔を上げ母を見た。
「おかっ…」
母の目には薄く涙が浮かんでいた。
驚き、悲しみ、思考停止
私はそう読み取れた。
隣の龍也はマグカップを見たまま動かない。
つまり、思考停止。
この空間は一時停止。
「ただいまー」
「おかえり、すず」
「ただいま、お母さん」
「お姉ちゃん」
「どうしたの?二人とも。わざわざ玄関まで…」
「あ、いや、今日ね、お父さんが帰ってからご飯にしようと思って」
「そうなんだ、どうして?」
「お父さんが今日は早く帰れそうだからご飯一緒に食べたいって」
「ふーん」
「少し遅くなるけどいい?」
「うん、私は全然」
「じゃあ、ご飯までお茶しない?」
「お茶?」
「最近してなかったから」
考えてみればお母さんとお茶するのは久し振りだ。
そして私はお茶の時間が大好きだ。
懐かしい喜びが湧き上がってきて、小さい頃に戻ったような気分になった。
「うん、そうしよ」
「じゃ、着替えておいで」
「はーい」
今日は何だか良い日だ。
朝の怪我以外、良い事しか起こってない気がした。
「…そういえば」
お母さんは私の足の怪我を見ても何も言わなかった。
大した怪我ではないが傷より大きなガーゼをしている。
「スカートで見えなかったのかな…」
鏡に映る制服を着た私を見た。
確かに少し隠れている。
なるほどと納得をした。
膝をゆっくり曲げてズボンを履いた。
完全に隠れた。
母には気付かれたくなかった。
流石にひかれそうになったとは言えない。
話が大きくなると後々面倒だ。
現に今生きている。
それでいい。
それに今日はここ最近の中でかなり良い日だ。
このまま眠りたい。
いつもより軽い肩を一周回してリビングに向かった。
「皆紅茶でいい?」
「うん!」
「うん」
「お姉ちゃん、座ってていいよ」
「え?いいよ、運ぶ」
「いいから、運ぶの僕一人で出来る」
「フフ、ありがとう」
「うん!」
「はい!お茶ターイム」
「よいしょ」
思わず言ってしまった。
その後ゴソゴソと僅かに動き、足の違和感を誤魔化した。
「はいどうぞ」
「ありがとう」
私の前にマグカップを置いてくれた龍也はそのまま私の斜め前に座った。
いつもは私の隣に座るのに…
そして母はナチュラルによいしょと言って
私の向かいに腰掛けた。
三人揃ったところで初夏にも関わらず
温かい紅茶を飲んだ。
冷えていたのか温かさが染み渡る。
「ホォー」
これがリラックスしている状態なのだろう。
どこか朝から緊張状態だった私。
今家に居る現実を噛み締めていた。
「美味しいね」
二人の顔を見て呟いた。
「うん」
「美味しい」
「……」
気のせいだろうか。
二人とも紅茶を飲んで顔が暗くなっている。
私の顔は見えないが、きっと正反対の顔色だろう。
「二人とも、どうかしたの?」
「え……」
「何でも無いよ」
「そう?」
「うん」
私の思い過ごしだろうか。
二口目の紅茶を飲み、ゆらゆら揺れる水面をぼんやりと眺めていた。
紅茶の香りに癒やされる。
何だか………
何だか、心が…………
痛い………
紅茶を飲む手が止まるほど今は心が動いている。
「お母さん……」
「…?」
「私って、お母さんの子供だよね…」
「す……ず……」
「!?!?」
ハッとした!
今私なんて言った!?
紅茶の香りに頭がぼんやりして…
何も考えずポロッと出た言葉がお母さんの子供だよね…!?
何を言ってるんだ!
慌てて顔を上げ母を見た。
「おかっ…」
母の目には薄く涙が浮かんでいた。
驚き、悲しみ、思考停止
私はそう読み取れた。
隣の龍也はマグカップを見たまま動かない。
つまり、思考停止。
この空間は一時停止。
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