音を知らない鈴

布袋アオイ

#34 黄昏前の帰り道

 「帰るよ〜」

 「おう!行くぞ楠」

 「うん」

 「ねぇ、今日どうして怪我したの?」

 「ちょっとボーッとしてたらね」

 「どこで?」

 「あ、ここ」

 「え!こんな所でこけたの!?」

 「よくひかれなかったな」

 「うん」

 「寧ろ擦り傷で済んだのは幸運か…」

 「確かに」

 「楠……」

 「ん?」

 「……」

 「お前、何かあったのか?」

 「何かって?」

 「最近、疲れてそうだなって」

 「すず?」

 「全然!何で?」

 「ボーッとしてるぞ、よく」
 
 「昔からそういうとこあったからなぁ」

 「いや、そうだけど!エスカレートしてるんだって!」

 「何怒ってんの!金木!」

 「怒ってねえよ!!」

 「怒ってる」

 「起こってねぇって言ってんだろ!」

 「これを怒るっていうんだよね?すず?」

 「うん、これを怒るっていう」

 「ちょっ!楠まで!」

 「フフフ」

 「ハハハハハハッ!!」

 「何笑ってんだよ…」

 「何でも無いよ!ハハハ!!」

 「ッたく!!」

 「むきになんなって」

 「はぁ…」

 「ほら!行くよー!!!」

 なつは一目散に坂を下っていった。足を思いっきり広げて楽しそうに下っていく。

 「おい!待てよ!!楠も行くぞ!」

 「うん!!」

 楽しかった。

 二人と帰るだけで生きてて良かったって思えた。

 この場所で死んでいなくて良かった。

 「ヒューーー!!!」

 「うぇーーい!!!」

 楽しそうな二人を見れて幸せだ。

 なつの短い風がなびき金木君のシャツが風を切っていく。

 青春…

 まさにその瞬間だ。

 黄昏前の夕方に血の流れを感じた。

 きっと私は今輝いているのだと思う。









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