音を知らない鈴

布袋アオイ

#33 俺と帰ろう

 「どうしたの!!すず!」

 「え?」

 「膝から血出てるよ!」

 「血……?」

 足元を見ると確かに擦りむいていた。

 「ほんとだ…」

 「大丈夫なの!?痛かったでしょ!」

 「え、あ…うん」

 「泣いてたの?保健室行きな?」

 「……」

 怪我をしたお陰で痛くて泣いてるのだと思われたらしい。

 「楠!!」

 「金木君」

 「どうしたんだよそれ!」

 「こけちゃって」

 「こける??何したらこけるんだ!」

 「…」

 「早く保健室に行っといで!先生には私から言っておくから」

 「うん、ありがとう」

 「俺も行こうか?」

 「いや、いいよ。一人でいける」

 「気を付けるんだよ?」

 「うん、ごめんね」

 私は教室とは反対の保健室まで歩いた。

 (怪我をして良かった…)

 ちょっぴりそう思った。



 「大丈夫だった?」
 
 「うん!ありがとう、なつ」

 「いや、いいよ」

 「お前、何かあったのか?」

 「ん?」

 「最近おかしいぞ」

 「はは、元々だわ」

 「いや、そうじゃなくて」

 「え…?」

 「なんというかその…」

 「……」

 「お前がお前じゃないみたいに見えるんだよ」

 「…どういう事?」

 「……」

 「金木…」

 「あのさ、今日は一緒に帰らねえ?」

 「え?」
 
 「心配だよ、そんな怪我してんだから」
 
 「いいよ、平気だし」
 
 「いや自転車まぁまぁ歪んでたぞ?」

 「ペダルがね、あとは大して壊れてないから」

 「ペダルが歪むことがおかしいんだって!」

 「え?そうなの?」

 「おい……」

 「そうしようよ!」

 「なつ…」

 「私もお供するよ!心配だもん」

 「え…」

 「だってあんなに血垂れ流して来たんだもん。流石にびっくりしたから」

 「あ、あぁ。そうだな」

 「何??嫌なの?」

 「いや、そうじゃねえよ」

 「それじゃあ決まり!テストの一週間前になって流石に部活ないから」

 「じゃあ3人で帰ろう」

 「そんな大袈裟な…」

 「大袈裟ぁ??そんなんだから怪我すんのよ!」

 「は、はい…」

 「じゃっ!そういう事だから」

 嬉しいような、みっともないような…

 でもここは素直に感謝しようと思った。

 「ふたりともありがとう」

 1時限目を告げるチャイムが鳴り、今日も一日が始まった。




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