音を知らない鈴

布袋アオイ

#32 止まらない涙

 ピピピ

 月曜日、学校の日です。

 「行かないと」

 いつものルーティンを済ませ家を出た。

 ペダルは少しだけいつもより軽いはず。

 ガチャ

 鍵を開けて自転車にまたがった。

 ガッ

 「あれ…重いなっ」

 太ももからしっかり力を入れて、一瞬よろけながらも前に進んだ。

 土曜日に乗ったくらいじゃ変わらないか。

 空は曇天まではいかないが若干暗い。

 というより、土曜日の天気が良すぎたのだ。

 「ふぅー……」

 スピードが出ず、追い風は弱い。

 ハンドルを握る手の力を緩め、ボーッと自転車を漕いだ。

 「夜姫さん……片岡…」

 不思議過ぎるあの日が忘れられない。

 また会えるのかな。

 あれだけ運命を感じた日はない。

 約束にならない約束をしたけど、それでももう一度会えそうな気がした。

 「死のうとしてる?」

 あの言葉が頭に蘇ってきた。

 「死のうと…」

 ガタン!!!ガッ!!!

 「うわぁ!!」

 ボーッとしていたせいで、ガードレールに自転車のペダルが引っかかってしまった。

 バタン!!

 プッーーーー!!!!

 (…………!!!)

 道路に投げ出された私の目の前に車が…!!

 (ひかれるっ!!)





 『生きろっ!!』

 「ハッ!!」




 急いで手をついて立ち上がりガードレールにすがりついた。




 「ハァハァハァハァ」

 「気をつけろ!!」

 「ハァハァハァ…」

 車は勢いよく去っていった。




 自転車を見るとペダルが歪んでしまっていた。

 怖かったというよりも記憶がバッと出てきそうで焦った。

 「一体何を……」

 倒れた自転車を起こし、鞄をカゴに入れて
ぎこちないペダルを踏んだ。

 何故か涙が出てくる。

 「どうして……」

 怖かったのだろうか、死にそうで。

 でも頭の中に車の描写なんて片隅にしかない。

 ひかれる目前のシーンを無理矢理もってきてもそれじゃない!と胸の内の私が言う。

 車でない何かに怖がる自分を違う私が驚いている。
 
 「死んじゃう、死んじゃう……」

 ポロッと口からでた言葉。
  
 もう少しで学校だというのに涙が止まらない。

 泣いているところを見られたくない…

 手で胸を抑え、

 「大丈夫、生きてる…大丈夫!」

 涙がひっこめと心を落ち着かせようとした。

 しだいにバクバクしていた心臓は、正常な心拍数にまで戻ったが、肝心の涙がどうしてもとまらない。

 でも見える…

 心はもう空っぽ。

 中身は黒くて空洞にスッキリする程忘れている。

 夢から目覚めたように…ペダルを踏んでいるのに。

 外側が…人から見える外側が…

 ひとりでに泣いているだけなんだ。




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