音を知らない鈴
#29 知らなかった力
「おいっ……どういうつもりだ…!」
「すまない、直彦。だが私も律子さんに鈴音を育ててもらうのが、いいと思う」
「なんだと!!まだそんな事言ってんのか!!」
「……」
「コノヤロウッ!!!」
ガシッ
直彦さんも完全に頭に血がのぼっていた。
お義父さんの胸倉を容赦なく掴んだ。
「一体どうしてくれるんだよ!!あの女鈴音に呪いをかけたって!!」
「あぁ」
「直彦さん!落ち着いて」
「落ち着ける訳ないだろ!!」
「お義父さんの話を聞きましょ!何が起きているのか全く分からないわ」
「…ッ!」
そうだなと言って直彦さんは、お義父さんの胸倉からゆっくり手を離した。
「俺達に分かるように説明してくれ」
「…」
「お義父さん、お願いします」
どんな言葉を連なられるのか怖くてたまらなかったが、ここはお義父さんの口から真実を聞くしかない。
そう思って、震える体に意識を向けてはいられなかった。
一言一句逃さぬように聞き、その上で責めてやろうと頭で冷静にシミュレーションをした。
込み上げて今にもこぼれそうな怒りを、一番深いところに沈めた。
「律子さんが言っていたように、私と石国さんは古い付き合いなのだ。孫が生まれた事を報告した時、一度会いたいと言われた。だから今日会って、本当に鈴音に律子さん達が
感じとった霊力があるのかを見てもらおうと思った。出来れば、勘違いだったと諦めて欲しかったのだが…」
「……何で言われるがままなんだよ」
「私も…その身だったからだ…幼い頃か周りの大人に、霊力が備わった人間である事を告げられた。そして、それを鍛える修行をした。そのお陰でそんじょそこらの人よりは、霊力があると早い段階で知る事が出来た。だが、それと同時に苦しんだ。それが分かっていたから、直彦、お前の時は自分の力を知らない方が幸せになれると思って、私はお前に一切修行をさせなかった。」
「俺に…力……?」
「あぁ、そうだ。しかし今だから言うが、お前の力はさほど強くはなかった。きっと、自分でも気付くことなくお前は過ごしていくだろうと思っていた。そして、その予感は当たりだ。今の今まで知らなかったのだろ?」
「……ッ!そんなの急に言われたって分かるわけねぇだろうが!何だよ!今になって馬鹿にしてんのかよ…!」
「違う、そうじゃない」
「じゃあどういう事なんだよ!今更そんな事実を受け入れろって言うのか!いい大人になって霊力がどうだって話されて!おまけに自分で気付けなかった愚か者だってか!!」
「黙って聞け!!!」
「!!?」
「それを私の責任だと言っているんだ!」
「はぁ……?」
「例え弱い力であっても、有るのと無いのとではまるで違うのだ!お前も多少の違和感は感じてきたはずだ。だが私はお前を無視して自分自身の経験だけで、修行させない事を判断した。私と同じ思いをさせたくなかったがゆえだ!それが裏目に…。辛い思いをした事もあっただろう。深く反省している。だから、孫にはそんな思いをさせたくないんだ…!分かってくれ」
「……どういうこっだよ……」
「……」
「じゃあ俺はどうしたらいいんよぉ!!」
「すまない」
「謝るんじゃねぇ!!!そんな急にバカバカ過去を言われたって受け入れられるわけないだろうが!何で今まで黙ってたんだよ…何でなんにも教えてくんなかったんだよ!」
「お前を苦しめると思ったからだ…」
「言い訳すんな!!現に今苦しんでんだろうがぁ!」
「直彦さん……」
「あぁ、確かにあったよ。偶に黒い影が見えたり、人に聞こえない音が聞こえたり。親父の言うとおり力が弱い俺はごく稀にな…」
「………」
「今考えてみればおかしな事ばっかだったじゃねぇか…」
「………」
「なるほどな、親父は俺を愚か者扱いしてたのか。ハハ、そりゃ孫に期待したくはなるわな。息子がこんなんだから、血を分けた人間が俺だけで、それが弱者だったらプライドが傷つくよな…?」
「そういう事じゃない!同じ目に鈴音を合わせたくないんだっ!」
「悪いが、そうはさせねぇ」
「おい!直彦!」
「あの女に伝えておけ、鈴音は俺達が育てる!絶対にお前らなんかに渡さねぇってな!」
「馬鹿!待て!」
「悪いが親父ともこれっきりだ。二度と鈴音に会わないでくれ…」
「待て!話を聞け!鈴音の力は強すぎる!お前らでは無理だ!!」
「ッチ!またそうやって俺達をみくびんのかよ、じゃあな」
「おい!!!」
「真那、帰ろう」
「え、ええ…」
「待て!よく聞け!」
バタン
私達を止めようとするお義父さんを直彦さんは跳ね除けて、車を出した。
サイドミラーには立ち尽くすお義父さんの姿が見えた。
絶望感がミラー越しにもうかがえた。
帰り道、車内は沈黙した。
父親にあんな事言われて直彦さんはきっと傷ついてしまった。
必死に感情を抑えているようだが、ふと見た目は真っ赤になっていた。
泣きたいだろう、怒りたいだろう、辛いだろう。
色んな感情と今戦っているんだ。
何も励ます言葉が出なかった。
私もこの子を他人に渡すなんて、最初っからお断りだった。
それをキッパリ言ってくれた事が嬉しかった。
ありがとうって言いたい…
あなたはそれが出来る強い人間だって言いたい…
でも、そんな言葉じゃ励ませれない程、さっきの話は重いものだった。
初めての子育て…私達はとんでもない試練を神様に送られてしまった。
「すまない、直彦。だが私も律子さんに鈴音を育ててもらうのが、いいと思う」
「なんだと!!まだそんな事言ってんのか!!」
「……」
「コノヤロウッ!!!」
ガシッ
直彦さんも完全に頭に血がのぼっていた。
お義父さんの胸倉を容赦なく掴んだ。
「一体どうしてくれるんだよ!!あの女鈴音に呪いをかけたって!!」
「あぁ」
「直彦さん!落ち着いて」
「落ち着ける訳ないだろ!!」
「お義父さんの話を聞きましょ!何が起きているのか全く分からないわ」
「…ッ!」
そうだなと言って直彦さんは、お義父さんの胸倉からゆっくり手を離した。
「俺達に分かるように説明してくれ」
「…」
「お義父さん、お願いします」
どんな言葉を連なられるのか怖くてたまらなかったが、ここはお義父さんの口から真実を聞くしかない。
そう思って、震える体に意識を向けてはいられなかった。
一言一句逃さぬように聞き、その上で責めてやろうと頭で冷静にシミュレーションをした。
込み上げて今にもこぼれそうな怒りを、一番深いところに沈めた。
「律子さんが言っていたように、私と石国さんは古い付き合いなのだ。孫が生まれた事を報告した時、一度会いたいと言われた。だから今日会って、本当に鈴音に律子さん達が
感じとった霊力があるのかを見てもらおうと思った。出来れば、勘違いだったと諦めて欲しかったのだが…」
「……何で言われるがままなんだよ」
「私も…その身だったからだ…幼い頃か周りの大人に、霊力が備わった人間である事を告げられた。そして、それを鍛える修行をした。そのお陰でそんじょそこらの人よりは、霊力があると早い段階で知る事が出来た。だが、それと同時に苦しんだ。それが分かっていたから、直彦、お前の時は自分の力を知らない方が幸せになれると思って、私はお前に一切修行をさせなかった。」
「俺に…力……?」
「あぁ、そうだ。しかし今だから言うが、お前の力はさほど強くはなかった。きっと、自分でも気付くことなくお前は過ごしていくだろうと思っていた。そして、その予感は当たりだ。今の今まで知らなかったのだろ?」
「……ッ!そんなの急に言われたって分かるわけねぇだろうが!何だよ!今になって馬鹿にしてんのかよ…!」
「違う、そうじゃない」
「じゃあどういう事なんだよ!今更そんな事実を受け入れろって言うのか!いい大人になって霊力がどうだって話されて!おまけに自分で気付けなかった愚か者だってか!!」
「黙って聞け!!!」
「!!?」
「それを私の責任だと言っているんだ!」
「はぁ……?」
「例え弱い力であっても、有るのと無いのとではまるで違うのだ!お前も多少の違和感は感じてきたはずだ。だが私はお前を無視して自分自身の経験だけで、修行させない事を判断した。私と同じ思いをさせたくなかったがゆえだ!それが裏目に…。辛い思いをした事もあっただろう。深く反省している。だから、孫にはそんな思いをさせたくないんだ…!分かってくれ」
「……どういうこっだよ……」
「……」
「じゃあ俺はどうしたらいいんよぉ!!」
「すまない」
「謝るんじゃねぇ!!!そんな急にバカバカ過去を言われたって受け入れられるわけないだろうが!何で今まで黙ってたんだよ…何でなんにも教えてくんなかったんだよ!」
「お前を苦しめると思ったからだ…」
「言い訳すんな!!現に今苦しんでんだろうがぁ!」
「直彦さん……」
「あぁ、確かにあったよ。偶に黒い影が見えたり、人に聞こえない音が聞こえたり。親父の言うとおり力が弱い俺はごく稀にな…」
「………」
「今考えてみればおかしな事ばっかだったじゃねぇか…」
「………」
「なるほどな、親父は俺を愚か者扱いしてたのか。ハハ、そりゃ孫に期待したくはなるわな。息子がこんなんだから、血を分けた人間が俺だけで、それが弱者だったらプライドが傷つくよな…?」
「そういう事じゃない!同じ目に鈴音を合わせたくないんだっ!」
「悪いが、そうはさせねぇ」
「おい!直彦!」
「あの女に伝えておけ、鈴音は俺達が育てる!絶対にお前らなんかに渡さねぇってな!」
「馬鹿!待て!」
「悪いが親父ともこれっきりだ。二度と鈴音に会わないでくれ…」
「待て!話を聞け!鈴音の力は強すぎる!お前らでは無理だ!!」
「ッチ!またそうやって俺達をみくびんのかよ、じゃあな」
「おい!!!」
「真那、帰ろう」
「え、ええ…」
「待て!よく聞け!」
バタン
私達を止めようとするお義父さんを直彦さんは跳ね除けて、車を出した。
サイドミラーには立ち尽くすお義父さんの姿が見えた。
絶望感がミラー越しにもうかがえた。
帰り道、車内は沈黙した。
父親にあんな事言われて直彦さんはきっと傷ついてしまった。
必死に感情を抑えているようだが、ふと見た目は真っ赤になっていた。
泣きたいだろう、怒りたいだろう、辛いだろう。
色んな感情と今戦っているんだ。
何も励ます言葉が出なかった。
私もこの子を他人に渡すなんて、最初っからお断りだった。
それをキッパリ言ってくれた事が嬉しかった。
ありがとうって言いたい…
あなたはそれが出来る強い人間だって言いたい…
でも、そんな言葉じゃ励ませれない程、さっきの話は重いものだった。
初めての子育て…私達はとんでもない試練を神様に送られてしまった。
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