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音を知らない鈴

布袋アオイ

#28 あなたに二つ目の名前がついた瞬間

 「真那、親父から電話があって、紫華にもう一度会わせてくれって」

 「あら、そうなの?」

 「あぁ、初孫だからな。会いたいんだろう」

 「そうね、行きましょ。準備してくるね」

 「悪いな、ゆっくりでいいよ」

 「うん!ありがとう」

 流石に私もこの時、お義父さんは初めての孫に会いたくて仕方ないんだろうなって思ってた。

 会いたいと連絡を頂いた時は嬉しかった。

 仕度を済ませ、直彦さんの車で神社に向かった。





 「親父!来たぞぉ〜」

 「直彦」

 「初孫がそんなに嬉しいかね」

 「紫華、降りよっか」

 そう言って私は紫華を抱っこした。

 スヤスヤ眠るあなたを起こさないようにゆっくりと。

 今でも覚えているわ。

 まだ夏の始まり。

 爽やかな細い風があなたと私の間を通り過ぎていったの。

 柔らかい髪が揺れて、風まで子守をしてけれているようだった。

 自然もあなたを見守ってくれてる感じがしたの。

 それなのに………

 「親父…?どちらさん?」

 お義父さんの横に一人の女性が立っていた。

 カチッときめられたスーツ姿。

 40代後半辺りだろうか、自信に満ち溢れたオーラを感じた。

 耳までしかない短髪の髪の毛に勇ましさがあった。

 「用事があったんなら言ってくれよ」

 「…………」
 
 「親父?」

 「直彦、紹介する」

 「え?」

 「私の知り合いの石国律子さんだ」

 「は、はぁ…息子の…」

 「直彦さんですね、そちらは真那さん」

 「え?あ、はい」

 「急にすいません、仁さんにはお世話になってます。石国と申します」

 「こちらこそお世話になってます…」

 「早速ではありますが、仁さんからお話は伺ってますでしょうか?」

 「…え?何のことですか?」

 「やはり、伺っていないようですね」

 その女性はちらっとお義父さんを見た。

 「……直彦、紫華をこの女性に預けてくれないか」

 「!?」

 「はあ!?何言ってんだ?」

 「驚かれるのも無理はありません。仁さん、ちゃんと順を追って説明してください。」

 「………。」

 「ハァ…分かりました。私から説明します。私はこの神社との縁の深い神社で神職をしております。仁さんと私の父親は古くからの友人でした。連絡を取り合う仲で、先日仁さんにお孫さんができたという知らせを受けました。そのお祝いにこちらにお邪魔したんですが、その時私と私の父はとんでもない霊力を感じました。言うなれば、小さな太陽の欠片のようなエネルギーです。私達親子も生まれた時から神に仕える身分で育ってきました。この勘に鈍りかわあるとは思えなかった。そして、仁さんから話を聞いていくうちにそのエネルギーの正体が仁さんのお孫さんである事に気付いた。」

 「……すみません。話が分かりづらいのですが…!」

 「なるほど、単刀直入に申し上げます。あなた方の娘さんを私達に引き取らせて頂きたい」

 「何!?」

 「あなた達は鈴音さんの力をお分かりですか?」

 「力だと!?」

 「その様子だとお分かりでないようですね」

 「……!?」

 「鈴音さんには強い霊力を感じます。しかし、このご時世それに気付かずに育ってしまう子供は何人もいる。鈴音さんをその一人に
したくない!」

 「あなた、何言ってるのか分かっているのか…!」

 「勿論、自分の子供を他人に譲るのは辛い事だと分かっています。ですが、それがこの子を守るためであれば、分かりますよね?」

 「…はぁ!?分かるわけねぇだろ!そんな見ず知らずの人に子供を譲れだと!?ふざけるな!」

 「そうですか…お分かりいただけない…」

 「当たり前です!!あなたも私達の立場なら分かるでしょ!?自分の子供を他人に譲れるはずがないわ!!」

 「さぁそれは分かりかねます。私には愛すべき子がいないので。」

 「なにぃッ!!!親父!!」

 「すまない直彦、ここは言う事を聞くべきだ」

 「…ッ!!」

 「仁さんもそうおっしゃっています」

 「もしかして今日俺たちを呼んだのは、紫華を引き取らせるためか」

「………」

 「お義父さんッ!?」

 「あまりガーガー騒がないで下さい。ここは神聖なる場所、神様に失礼です。」  

 「オギャーオギャー!」

 「しか!」

 「ほら、赤ちゃんが泣いています」

 「律子さん…!!」

 「失礼っ…!」

 彼女はニヤリと笑い、左手を下から上に扇いだ。

 その瞬間、信じられないほど重力を感じた。

 重いというより、周りに空気が無くなってしまったかのようだった。

 「クッ!!どういう事だっ!」

 「動けないっ……!」

 上手く呼吸が出来ず

 手足の感覚が無くなっていく。

 体が自由に動かない…!

 (ダメだっ!!紫華をちゃんと抱きしめて…おかないとっ!!)

 紫華はこの重力を感じていないのか泣き続けている。

「真那さん…」

 彼女は私の前に素早く来て口の前に人差し指を立てた。

 「少し、黙って」

 「……ッ!!」

 喉を絞られているかのように声が出ない!!

 (やめてっ!!紫華に触らないでぇ!!)

 この子を力づくで奪いそうで私は必死にこの子を抱いた。





 スッ……

 彼女は力づくでくるどころか人差し指と中指で紫華のおでこに優しく触れただけだった。

 すると泣きじゃくっていた紫華は少しずつ声が小さくなり、泣き止んだ。

 「いい子ね」

 (この人は何者なの!?)

 怒りと恐怖で瞬きもできなかった。

 「…!?!?」

 (紫華っ!!!)

 心で叫んだ。

 さっきまで大きな声で泣いて熱くなった体が異常なスピードで冷えていく。

 (死んじゃう!!いやっ!!)

 「あなたと私は切っても切れない縁になるわ」

 そう言って、おでこにやった手を自分の口元に持っていき

 「楠 鈴音……ちゃん」

 じっくりとその名を言った。

 その途端、この子の心臓が大きく脈打ったのが分かった。

 そしてまたじわじわと体温が上がっていった。

 「何を……したのっ!」

 絞り出した声に彼女はこう言った。

 「言霊の力を借りたのよ。あなた達に分かるように言ったら」

 彼女は片方の口角だけ上げて、左手を上から下におろした。

 その瞬間、一気に周りに空気が走り体が軽くなった。

 そして鮮明に聞こえた。

 「呪いよ」

 「貴様ぁ!!どういうつもりだ!」

 「おっと、私の力をみくびるな。」

 「何……!?」

 「仁さん、あなたなら分かるでしょ?我が神社に司りし者の力を」

 「直彦、止めておけ」

 「クッ……!!」

 「直彦さん、真那さん、よく聞きなさい。
私がこの霊力を使えるのは私を神の生まれ変わりだと親が早々に気付いたお陰です。そのお陰で私は修行に励み、有力なものとした。
それが、鈴音ちゃんも同じであるという事を自覚するのです。私と父は鈴音ちゃんに私達のような力があると踏んだ。その力をムダにするというのかね?親であるなら尚更この子を私達に譲るべきだ!」

 終始何を言っているのか分からなかった。

 「おや?もしや信じていないようですね。」

 「当たり前だ!そんな事言って信じられる奴があるか!」

 「フンッ!金縛りにあった身でよくそんな事が言える」

 金縛り…!?さっきのは…!

 「最後に忠告する。これはあなた達の我儘を通すべき事柄ではない。冷静かつ利口に判断するのだ。鈴音ちゃんにとって何が先決かをね。判断は早い方がいい。親である事を自覚し、決心がついたとき連絡しなさい。」

 「てめぇ…!!」

 「止めろ!直彦!!!」

 「うぉぉぉぉあーーー!!!」

 「直彦さん!!!」

 直彦さんが彼女に殴りかかろうとした時、彼女は今度は右手を体の後ろから強く振り付けた!

 その瞬間、地面から強い風が吹き上がり辺りは砂埃と青葉で

 何も見えなくなった。

 暴風の中に閉じ込められたかのように、全方位から風が吹き荒れる。





 カチッという音が聞こえたかと思うと風はピタッとおさまった。

 あの女の姿は…

 もう無かった。

 「クソッ!!」

 ふと鈴音を見るとまたスヤスヤ眠っている。

 私達が苦しんでいる時この子は眠る。

 それが不思議だ。







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