音を知らない鈴

布袋アオイ

#21 お姉ちゃんは知らないんだよ

 「おかえりー!」

 「ただいま、ラインありがと」

 「いいよ、どこにいたの?返信無かったけど」

 「ごめん、急いで帰ったから。神社にね」

 「神社……何で…」

 「ん?」

 靴を脱いで足元から龍也を見るとまた心配そうな顔をしている。

 「何で?特に意味は無いけど…どうしたの?」

 神社に来なと声がしたから、何て言えるわけがない。

 悪いけど嘘を言うね。龍也。

 「あ、いや!」

 「何?そんなに変?若い子が神社に行くの」

 「え?」

 「いや、今日言われた。女の人に龍也とおんなじ事」

 「そ、そうなんだ…」

 「好きだからしょうがないよね?」

 「う、うん…」

 「おかえり」

 「お母さん、ただいま」

 「ご飯食べちゃお!お父さん今日遅くなるみたいだから」

 「うん、すぐ着替えてくる」

 ちょっぴり神経質な私は家と外では、服を変えないと落ち着かない。

 階段を軽く駆け上がって待たせまいと部屋着に着替えた。

 「あ…」

 脱いだ服を畳んでいると、一枚の葉っぱが床に落ちた。

 (…神社のかな…)

 手に取り、何の葉か見た。

 (んー、多分神社のだよなぁ)

 青い葉っぱを見つめながらさっきまでの出来事を思い出した。

 あの人、不思議だったな…

 見たことなかったけど、ここら辺に住んでるのだろうか。

 華奢で、肌も白くて

 名前の通りお姫様みたいだった。

 だけど、腕を掴まれた時しっかり握力があったのに、離されたときには痛くなかった。

 痛いどころかデトックスみないな…

 リンパが流れていくみたいな…

 (あーー、よく分からないけど蘇ってくみたいに感じて……)

 「お姉ちゃーーん」

 「ハッ!」

 (しまった、また一人で考え事をしていた)

 「ごめーん!今行くー」

 本当に一度自分の世界に入ると、ずっとそこに居てしまう。

 今日の事はすっきり忘れよう。

 窓を開けて葉っぱを外に捨てようとした。

 手を伸ばし、落とそうとした時太い風がズワッと吹いた。

 私の手を離れた葉っぱは、その風に乗って
地面に落ちなかった。

 偶然にも神社の方へと飛んでいく。 

 まるで私に今日という日を忘れないでと告げに来たかのように、役目を終えた葉っぱは神社へと帰っていく。

 苦肉にも忘れようとした私の視線は、神社の方へと運ばれる。

 今日の神社の光景といい、今の葉っぱといい、何か伝えたい事でもあるのだろうか。

 忘れようとするなと釘をうたれているかのようだ。

 でも普通の人は別に葉っぱを見てこうは思わないだろう。

 考え過ぎているようだ。

 どうしたらこんな思考回路になるのだろうか。

 この回路のせいで結構苦労してきた。

 私の人生の中で、この回路を作り上げたのは一体何なんだ。

 そしてこれを誰に相談すればいい……

 夕方の風は心に痛い。

 窓をピシャッと閉めてリビングに降りた。




 「お待たせー」

 「はーい、食べよー」

 「わーー!美味しそう」

 「今日はチキン南蛮でーす」

 「すごーーい!」

 「じゃあ、いただきます」

 「いただきまーす!」

 「いただきます」

 お母さんのご飯、美味しい。
 
 「すず、そういえばどこにいたの?」

 「…」

 「神社だよ?」

 「神社…?どうして?」
 
 「え?何となくだけど…」

 龍也と母が顔を見合わせ深刻な表情をしている。

 何で?どうして皆…

 「私神社に行くの変なの?」

 「え…!?」

 「だって皆私が神社に居たって言ったらえ?みたいな顔するんだもん」

 「………」

 「………」

 二人の箸が止まった。

 「ん?何…」

 「すず、神社好きなの?」

 「好き……だよ」

 「どうして?」

 「どうして??」

 「お姉ちゃんは神社に行くと落ち着くの?」

 「うん…」

 「そう……何かあるの?」

 「何にも無いけど…」

 「じゃあ何で神社なの?」

 「何でって」

 (何か物凄い質問攻めされているのだが)

 「二人共どうしたの?神社嫌いなの?」

 「いや、そんな事は無いんだけど。ほら、何か悩んでるのかなぁって」

 「悩んでないよ」

 「本当に?」

 「うん、悩んでるように見える?」

 「………」

 「ご飯、食べよ?」

 「うん」

 話を強制的に止めさせた。

 さっきの温かい食卓が箸の音しかしなくなった。






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