音を知らない鈴

布袋アオイ

#18 運命の演出

 唐突な言葉に何も言えなかった。

 (死ぬ………)

 そんなの思った事無いとは言えないが、でも今では無い。

 ここに来て死のうなんて。

 癒しの場所に来て、そんな事願っているとでも?

 自分の中で短い間に何度も自問自答をした。

 (私…そんな事思ってた?いや、思っていないはずだ!でももしかしたら無意識に……?)

 何故こんなに問いかけても答えが出ないかというと、目の前の女性の瞳が余りにも澄み切っているからだ。

 そうでしょと言わんばかりの瞳。

 こんな自信に満ち溢れた瞳で見られてはまるでこっちが虚実のようだ。

 「あの…死のうなんて…」

 「あら?本当?」

 「は…はい。」

 「そうかなぁ?」

 「……」

 「じゃあ、あなたは自分の気持ちを知らないのね」

 「は…?」

 「今、心臓がドキッてしなかった?」

 「ッ!?」

 (した!心臓がドキッて…何で…分かるの?)

 「どうして…ですか」

 この不思議な女性にまるで心を読まれたかのような気分になった。

 それも、私の顕在意識では分からないくらいの気持ちを。

 体の芯の暗闇で蹲っている

 私がチラリと見えた。

 そう、彼女のせいで地獄から抜け出せないと絶望しきっていたのに、一筋の光る蜘蛛の糸が見えるようになってしまった。

 そして、もう一人の私が言った。

 かわいそうにと。

 「立ち話も何だから、座って話さない?」

 「…」


 お昼時、太陽が私達の真上で光り輝いていた。

 地球という舞台で彼女と出会えた事を忘れないでとスポットライトが場面を作る。

 夏の風とは思えない程、軽やかで涼しい風が彼女の髪をなびかせた。

 足元の草花は大きく揺れて笑い、木々は葉を鳴らし背中を押す。

 この宇宙規模の演出が、彼女を更に素敵な女性へと化した。

 「おいで」

 にっこり笑う彼女に私の体は付いていっていた。

 運命……

 きっと映画ではこの場面をこう表現するのだろう。









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