音を知らない鈴

布袋アオイ

#7 母親との距離感

 「行ってきまーす!」

 「いってらっしゃーい」

 元気な時の龍也は笑顔で学校に出掛ける。

 本人曰く、喘息の発作がでると動けなくなるくらい辛いため、元気な時に思いっきり動いておきたいらしい。

 中学生とは思えないプラス思考にあっぱれと言いたくなる。

 こういうところも弟の長所だ。本当に凄い子だ。

 それに対して私は、

 「行ってきます」

 「はい、いってらっしゃい」

 マイナス思考を全面に出した声で玄関を出る。

 なかなか元気に行ってきますとは言えない。

 たまに母親もそれを察してか玄関まで来てくれる時がある。

 「鈴音、気をつけていってらっしゃい」

 「うん、ありがと」

 「はい」

 「行ってきます」

 母親に心配はかけたくないと思っているのだが、どうしても気付かれてしまう時がある。

 その時は申し訳無くて、顔をちらっと見て
直ぐに家を出る。

 あまり見ていると涙が出そうになる。

 お母さんって甘えてしまいそうになる。

 でももう私も高校生だ。自立しないと。

 自分に喝をいれてグッとその気持ちを我慢する。

 毎度毎度…

 そういえば、母親とは何となく距離を感じていた。

 昔から言いたいことが言えないというか、
間柄としては親というより先生に近い存在だった。

 信じられないかもしれないが、話す時何故か緊張するのだ。

 だからかあまり母親と本音で話した事がない。

 今でもどう接していいか分からない時がある。

 どうしてなんだろう…

 龍也が生まれて、病気の面倒を全部母親が
見ていたからだろうか。

 それで、邪魔しないように離れていたが…

 そのせいで距離を感じるのかな。

 高校までの登校中に色々考えてしまった。

 私の人生に少しずつあやふやになっていた疑問が、ポツポツと蘇ってきていた。


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