音を知らない鈴

布袋アオイ

#6 可愛い弟

 そうして月日が経ち、名前の事なんて忘れかけていた。

 成長と共に現実が忙しくなってきたからだ。

 お陰でモヤモヤ考える時間は減った。

 今日もいつものようにルーティーンをこなす。

 「おはよう、鈴音」

 「おはよう」

 「お姉ちゃんおはよう!」

 「おはよう、龍也」

 「お姉ちゃん、今日朝練無いの?」

 「無いよ」

 「あら、無いの?」

 母親も今知ったようだ。

 「うん、来週テストだからね」

 「そっかぁ、テスト大変だね」

 「龍也もそろそろテストなんじゃない?」

 「うん、そうだよ。人の事気にしてる場合じゃ無いよね」

 へへへと恥ずかしそうに頭に手をやった。

 こんなに優しげでおっとりした弟が私の自慢だ。

 とても可愛いい。

 本当はすっごく好きだけど、あんまりそれを出さないようにしている。

 弟にデレデレしている姿を見られるのが恥ずかしい。

 年も少し離れているせいか、喧嘩もほとんどした事が無い。

 異性だからとかもあるかもしれないが、それでも仲は良い方だと思う。

 「龍也」

 「ん?」

 「テスト頑張ってね」

 「うん!ありがとう!お姉ちゃんもね」

 「うん…私は頑張っても変わらず馬鹿だけどね」

 「そんなこと無いよ!お姉ちゃんは賢いもん!」

 あらあら、姉にそんな風に励ましてくれるなんて。

 つくづく自分は情けないと思った。

 「私は馬鹿って分かってるから、励ましてくれなくて良いんだよ」

 「違うよ、励ましてるとかじゃなくて本当に馬鹿じゃないって言ってるんだよ?」

 「そっかそっか、ありがとう。頑張るよ」

 ニコッと笑ってお世辞でも嬉しいよと返した。

 弟は私を馬鹿とは言わない。寧ろ否定してくる。

 確かに姉が馬鹿馬鹿言ってるのは弟の立場からしても認めたくは無いだろうな。

 同じ親から生まれているのだから。

 中学生にしては気にするところが大人びているというか。

 普通はきっと馬鹿な姉がいたら僕より馬鹿なんだって煽られそうなもんなのに。

 偏見ではあるが。

 まあそれでも龍也は頭が良かった。

 私に似ず、成績優秀でいつも上位に入っている。

 高校の進路も県内トップクラスの入学も視野に入れれる程。

 だが、弟は小さい時から持病があった。

 生まれつき喘息を持っていて、呼吸器官があまり強くない。

 その為か風邪もひきやすく、体は弱い。

 親も喘息で呼吸が上手くできない弟を心配して、体調を崩したときは付きっきりで看病をしていた。

 本人も大変だろうに、私は何もしてあげられ無かった。

 だから自分の事は自分でするようにした。

 それぐらいしか出来なかった。




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